
三菱の電気自動車・
iMiEV(アイミーブ)に乗ってみました。
昨年
iMiEVにはちょっと乗って新車試乗記を書いたんですが、今回は
岡山県が実施している電気自動車体験カーシェアリング事業のお陰で丸一日お借りすることができ、市街地や高速道路、山道、流れの速いバイパス等をたっぷり走行してみました。
前回の試乗記との内容の重複もありますが、今回は使い勝手や電気自動車を使用する上でのインフラストラクチャーについても検証したいと思います。
○だった点
・電気自動車を一般化したこと
ここ最近、環境意識の高まりや原油価格の高騰のため、電気自動車が急速にクローズアップされてきましたが、電気自動車は特にここ最近のものではなく、世界的には100年以上、日本国内でも戦後すぐから販売されてきたという長い歴史があります。
電気自動車は長い間、動力性能がバッテリー容量に左右されていました。蓄電性能が高くない頃には大量の鉛バッテリーを搭載しなければならないため、バッテリーを運搬するために走っているような状態で、鈍重な動力性能と短い航続距離がつきものでした。
ところが近年、携帯電話にも用いられるリチウムイオンバッテリーのおかげで蓄電能力が向上して航続距離が伸びたことにより、電気自動車の普及に弾みが付き、このiMiEVや日産リーフのように一般に広く販売することを想定した電気自動車が登場してきました。
走行時に二酸化炭素を排出せず、また発電から走行までの総過程においても内燃機関自動車の%程度、さらには騒音等の公害の少ない電気自動車が一般ユーザーの選択肢に加わったことは非常に意義深いことだと思います。
・ガソリン車以上の動力性能
iMiEVと
ガソリンi(ターボ)の0→400m加速を比較すると、iMiEV:20.6秒、ガソリンi:20.9秒とiMiEVの方が速いようです。
実際に走らせてみるとその性能差は数値以上で、ゼロ発進から最大トルクを発生する電気モーターの特性を生かして、スタートダッシュは異次元の感覚です。絶対的なモーター出力が限られているので、高速域ではガソリン車の方が有利ですが、ゼロ発進や街中での中間加速においてははるかに格上の車も凌駕する性能です。
また、バッテリーを床下に搭載していることによる低重心化でコーナーリングが安定しており、背の高い軽自動車独特のフラフラ感とは無縁のスポーティーな走りです。
・車内の快適性の高さ
当然ながらエンジンがなく騒音を発生しないため、特に低速時において静かで極めて快適です。また
ガソリンiに比べて遮音対策が優れているのか、ロードノイズや風切り音も少ないです。
さらに重いバッテリーが搭載されていることで車の動きがどっしりと安定したものになっていて、いかにも軽自動車的なヒョコヒョコした感覚は全くない落ち着いた乗り味です。
・回生発電量の改善
昨年iMiEVの先行仕様(電力会社等との走行実験で使われていたモデル)を運転したときに、アクセルオフ時の回生発電がほとんど行われていない事が気になったのですが、今回乗った市販仕様はアクセルオフでの回生発電が明確に行われていて、航続距離の延長に貢献していました。
ちなみにシフトセレクターの「D」よりも「ECO」、「ECO」よりも「B」の方が回生発電される度合が大きく、試乗中はほとんどECOモードで走行していました。
・ベース車であるiの魅力
電気自動車とはいえ車はかっこよくないといけないと思うのですが、iMiEVはベース車iのかっこよさそのままの未来的なスタイルです。
電気自動車はガソリン車のレイアウトの概念から離れて、バッテリーやモーターなどを自由に配置できるはずですが、後発の日産リーフはなんだかガソリン車と変わり映えのしない、正直あんまりかっこよくないスタイルです。一方、iMiEVはベースとなるiがデビューしてからすでに4年以上が経過しているにもかかわらず、未来的で斬新な、いかにも次世代の自動車であると感じるスタイルです。
もう少し頑張ってほしい点
・充電インフラの整備
現時点で電気自動車を使用する最大の問題点はここでしょう。出先でバッテリーの容量が少なくなった場合、30分で充電できる急速充電スポットは、例えば岡山県内には3ヶ所しかありません。
(ちなみに岡山県の3ヶ所というのはまだ多いほうで、岡山よりも人口規模の大きい県でもゼロとか1ヶ所だけというところも多いです。)
日本国内における自動車の一日の走行距離から勘案して、長距離を走行する機会はそう多くなく、毎日自宅や所属事業所で充電すればよいという考え方なのでしょう。しかし、うっかり充電を忘れていたり思わぬ長距離を走ったりすると、たちまち運転を継続することが困難になってしまいます。以下に短距離での使用を前提にしているとはいえ、いつでもどこへでも行くことができるのが自動車の機能であり、それを大幅に制限されるのは厳しいものがあります。
・航続距離の絶対的な短さ
この車の満充電での走行距離はカタログ数値で160kmですが、実質80km程度が相場のようです。これではあまりにも短すぎます。走行中に回生発電をうまく使えば多少走行距離を伸ばすことができますし、走り方によっては電池残量をほとんど減らさないこともできますが、それでも短いことに変わりはありません。ガソリン車でいえば燃料の残量警告灯が点灯した状態のままず~っと走っているようなもので、心臓に悪いです(笑)
・普通充電の時間がかかりすぎ
急速充電は約30分で0から80%の充電量になりますが(バッテリーの保護のため急速充電だと80%でストップする。)、200Vだと満充電まで約7時間、100Vだとなんと約14時間もかかります。家庭に少なくとも200Vの充電設備を新設することが前提になっているのだと思いますが、新たな負担を強いられますね。
・暖房の使用により航続距離が極端に変わること
一般的な自動車はエンジンの冷却水の余熱を利用して暖房を行いますが、電気自動車であるiMiEVは当然冷却水がエンジンの熱で温められないため、電気ヒーターで熱してそれに送風して暖房する仕組みです。ところがその電気ヒーターに大量の電力を必要とするようで、暖房使用時には冷房時よりも燃費の悪化度合いが大きいようです。ガソリン車だと走行性能にほとんど影響がなかったはずの仕組みが、電気自動車になると大問題というのは困りますね。
ちなみにこの車は暖房用にLLCが搭載されていますが、冬場しか使わないものをずっと乗せて走っているのも何か非効率ですね…
・パドルシフトが欲しい
航続距離を伸ばすためにはDレンジに入れっぱなしではなく、減速時はBレンジで回生発電を積極的に行うべきなのですが、シフトゲートがギザギザのスタッガード式のため、減速ですかさずBレンジに入れるというのがやりにくい面があります。パドルシフトが備わっていれば素早いシフト操作が可能なのに…と思います。
・シートの出来が悪い
見た目は大人っぽくセンスの良い黒のファブリックで、サイズも成人男性にも十分なのですが、出来はあまりよくなく、1時間程度の走行でも腰が痛くなってしまいました。車自体が魅力的なのですから、このような運転が苦痛になってしまう点は要改善です。
・ガソリン車がベースなこと
iMiEVのベースとなっているiは2006年の登場から4年以上が経過していて、正直目新しさはありません。そのためか、iMiEVで走っていてもそれほど注目度は高くありません。試乗車はボディサイドに「でんきじどうしゃ」というデカールが貼られていたため、それによって見られることもあるといった程度で、こんなに先進的な車に乗ってるのに・・・と思うと、外観での注目度の低さはちょっと寂しかったです。
・荷室の狭さ
おそらくガソリンiと荷室の大きさは全く同じだと思うのですが、A型ベビーカーが積めず、小さな子供がいる我が家としては不便でした。電気自動車はバッテリーにスペースを食われるため荷室など室内空間が狭くなるイメージがありますが、iMiEVの場合はバッテリーはすべてフロア下に納まっており、ガソリンiならばエンジンがある荷室下にはコンパクトなモーター・トランスミッションとインバーター・DC/DCコンバーターがあるだけで、機器類の容積はiMiEVの方がむしろコンパクトです。iMiEVの車体がEV専用設計ならフロア高を下げて荷室を広げることが出来、「電気自動車なのに荷室が広い!」というインパクトがあったのではないでしょうか。
総評
今回の試乗ではチョイ乗りではわからない電気自動車の良し悪しを体感することができ、非常に有意義でした。
このiMiEVをはじめとして日産リーフやテスラロードスターなど、ここ最近高性能な電気自動車が続々登場していますが、化石燃料を用いる車がすぐになくなってしまうことは恐らくなく、電気自動車が自動車の主流になるのはまだ先の話でしょう。
日本国内での自動車の使用形態は通勤や買い物等近距離が多く、iMiEVの航続距離で十分カバーできます。しかし、一般的なガソリン車の航続距離は満タン一回で400~700Km以上で、一度ガソリンを給油したらしばらくほったらかしにできるのに対し、電気自動車だと毎日帰宅後に充電しなければならない手間があります。
それに400~700km走れる車で例えば50km走ることと、80kmしか走れない車で50km走るのは気持ちの余裕が全く違います。
さらには、充電が残っているのにチマチマ継ぎ足し充電をすると電池の寿命を短くしてしまうという問題があります。
しかし、これらデメリットを差し引いてもiMiEVは非常に魅力的な車でした。電気自動車なので音が静かで乗り心地が良いというメリットはもちろんのこと、「電気自動車」や「エコカー」という言葉のイメージからかけ離れた優れた動力性能は、ガソリン車にはない新たな自動車の魅力・楽しさです。
現代の自動車であるが以上、快適性が高くかつ動力性も優れていないと、いくら環境性能が高くても自己満足に過ぎないと思っていますが、iMiEVはそれを高次元で両立させていて、自動車として・商品として極めて魅力的です。
現状ではまだまだ価格が高く、車両本体価格398万円、補助金適用後でも284万円と軽自動車はおろか普通車と比較しても、価格の高さをランニングコストの低さでカバーするには至りません。しかし、これから一般に広く普及することによって量産効果が高まり、価格が下がっていくことは期待したいです。
私個人としてはiMiEVの現状の性能なら、250万円を切ったら買ってもいいと思っています。まだまだスイフトを乗るつもりですが、次の買い替えでは本当に電気自動車を検討する可能性が高いです。
iMiEVのような高い実力を持った電気自動車が登場して、それが社会に浸透していくという、歴史の転換点を目撃することができたことは、一人の車好きとして嬉しく思います。今後はiMiEVの更なる性能の改良、また他社からも魅力的な電気自動車が登場して市場が活性化することを期待しています。
↓↓フォトギャラリーに写真があります↓↓
iMiEV乗ってみました 外装編①
iMiEV乗ってみました 外装編②
iMiEV乗ってみました 内装編
iMiEV乗ってみました 機構編
iMiEV乗ってみました 使い勝手編
iMiEV乗ってみました ドライブ編
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iMiEV試乗記(チョイ乗り編)
ガソリンi試乗記
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旧型プリウス試乗記
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