ちょうどローバーミニが,キャブレターからインジェクションに切替わろうとしていた時代…
ジョン・クーパーのサインを,ボンネットのストライプにあしらった,限定モデルがリリースされていた。
同じころ,墨田区八広のスペシャルショップであるミニマルヤマへ行くと,展示車両のボンネットにもサインがあった。
しかし,どう見てもマジックで書き殴った粗雑な筆記体。
店員に真似しようとして失敗しましたねー!と冷やかしたら,なんとジョン・クーパー本人の直筆サインとのこと。
よくよく聞くと,実はミニマルヤマは,ジョン・クーパー・ガレージから直接チューン車両を輸入販売しているショップだったのだ。
国内でジョン・クーパーの手掛けた本家本元の新車が手に入るのは,唯一ミニマルヤマだけ。
このショップで注文すれば,お好みの場所に直筆サインを入れてもらえる特典もあった。
最後となるキャブ車には真剣に悩んだ。
しかもローバー純正ミニクーパーは60馬力なのに対し,ジョン・クーパー・ガレージの手の入ったメイフェアは80馬力もあり,純正ミニクーパーとの混同を避けるためにクーパーミニと呼ばれていた。
だから,現在でも当時を知る者は,ミニJCWと言わずに,敬意を払ってJCWミニと呼ぶのだ。
ミニクーパーのナンバーは3298が多いが,もし9832を見掛けたらスペシャルマシンだと思って間違いない。
店には何回も通い,むかし乗っていたミニをチョップドルーフにしたかったと漏らすと,遠慮なく相談してくださいと言われた。
荒川沿いを試乗する右足には自然と力が入り,必要以上にシフトチェンジを繰り返した。
一時はローン地獄も覚悟したが,けっきょく購入には至らず仕舞いだった。
そんな思入れを持つ私が30年の時を経て,BMWミニクーペにチョップドルーフの幻影を見た。
若いころの熱い思いが沸き上がりつつある。
JCWクーペを手に入れるべきか?また悩み出しそうだ。
(参考)
クーパーは,お馴染みのルーフキャリアで,モンテカルロ・ラリーを1964年,1965年,1967年と3回制す。
しかし,それ以前の1959年,1960年にはF1コンストラクターズ・チャンピオンにも輝いている。
あまりにもミニ(FF)での活躍が有名なのでイメージしづらいが,ミッドシップを考案したのもクーパーが最初。
余談だが,スポーツカーにストライプを入れる由来も,クーパーが行ったある事が起源とされている。
ある事とは,当時レースで定められていたナショナルカラーだけでは,同じ国の他のチームとの見分けが付かない。
そこで一目瞭然となるように,白いラインを入れたのが事の起こりである。
クルマは速い乗り物だ。だからスピードを追求すると,おのずとスポーツカーにたどり着く。
しかしスポーツカーの定義はスピードだけなのか?と問われれば,そればかりとは限らない。
スピードだけに特化したレーシングカーと明らかに一線を画すのは,スポーツドライビングを楽しめるか?否か?であろう。
仮に曲がる・止まるに難があっても,加速力だけで酔い痴れたり…
その逆で最高速は伸びずとも,強い横Gを受けるコーナーリング中でも意のままに操れるクルマは刺激的なはずだ。
また空力を考慮したスタイリングやクルマの奏でるサウンドで観る者の心を奪えば,れっきとしたスポーツカーなのだ。
そんな中で,2シーターオープンカーという括(くく)りがある。
もうこの響きだけで紛れもなくスポーツカーだ。
言うまでもなくクルマは軽いほうが,ほぼ全ての走行性能に於いて有利に働く。
後部座席がない分だけ軽いのは勿論のこと,空いたスペースにエンジンをMRに配置することもできるし,ホイールベースを詰めることも可能だ。
ルーフの有無も車重に大きく関わってくる。
ちなみに一見軽量に思えるオープンカーが同一モデルのクーペより重い場合がある。
それはモノコック構造が一般的になり,ルーフがないと強度不足に陥るため,それを補強することで重量増に繋がるからだ。
したがって,初めからオープンモデルで設計されたボディーならば,あとからルーフを足したボディーよりも当然軽い。
そして何よりもオープンカーの醍醐味はそのドライブフィールにある。
視界を遮るものもなく,肌で風を受けて走るオープンモデルはクローズドモデルよりも車速を感じるのだ。
実速は体感スピードよりも遅いので操作に余裕が生まれ,ドラテクがスキルアップしたかのように思える。
そして最後には決ってこう雄叫びを上げるのだ。
「うおぉぉぉ!気分はもうジャッキー・スチュワートだぜ!」(名前は世代によって人それぞれだが,どちらにしても外人)
明確な定義のないスポーツカーにあって,それを唯一断言できるのが2シーターオープンカーなのだ。
そこで独断と偏見を交え,カーセンサーの絞込検索の如く拾い出してみた。
1953-1961[英]トライアンフ・TR2/TR3
1954-1955[独]ポルシェ・550
1954-1962[米]シボレー・コルベット(C1)
1957-1973[英]ロータス・セブン
1958-1960[英]オースチンヒーレー・スプライトMarkⅠ
1959-1968[英]サンビーム・アルパイン(2代目)/タイガー
1961-1968[英]トライアンフ・TR4/TR5
1961-1969[英]ジネッタ・G4
1961-1975[英]ジャガー・Eタイプ
1961-1979[英]オースチンヒーレー・スプライトMarkⅡ~Ⅳ/MG・ミジェット(スプリジェット)
1962-1967[英/米]AC・コブラ
1962-1975[英]ロータス・エラン(初代)
1962-1980[英]トライアンフ・スピットファイア
1962-1980[英]MG・MGB
1963-1971[独]メルセデスベンツ・SL(W113)
1964-1966[伊]フェラーリ・275GTS
1965-1973[伊]フィアット・850スパイダー
1966-1968[伊]フェラーリ・330GTS
1966-1985[伊]フィアット・124スポルト・スパイダー/ピニンファリーナ・2000スパイダー
1966-1993[伊]アルファロメオ・スパイダー(初代)
1969-1976[英]トライアンフ・TR6
1986-1992[英]TVR・S
1989-1991[独]BMW・Z1
1990-1995[英]ロータス・エラン(2代目)
1992-2003[英]TVR・キミーラ
1995-2005[英]MG・MGF/TF
1995-2005[伊]フィアット・バルケッタ
1996-1999[仏]ルノースポール・スパイダー
1996-2002[独]BMW・Z3
1996- 現行[独]ポルシェ・ボクスター/スパイダー
2000-2003[独]BMW・Z8
2001-2006[英]TVR・タモーラ
2003-2008[独]BMW・Z4(E85)
2013- 現行[英]ジャガー・Fタイプ
2016-2020[伊]アバルト・124スパイダー
羅列した車種は,2シーターオープンカーの量産車。
タルガトップのようなAピラー以外が残るセミオープン型は除外した。
クーペの派生でルーフを切り取ったオープン版や開閉式ハードトップを備えたモデルも同様。
すなわち屋根を開けられるクルマではなく,屋根を閉められるクルマを基準に選出した。
(余談だが,車検証の車体の形式には開閉式ならば例えハードトップでも「幌型」と記載される)
こうして並べて気づかされるのは,特に60年代はライトウエイトの本場,英国車が半数以上を占めるのが見て取れる。
また,その頃をピークに純粋なオープンカーは年々減少している。
この傾向は選出方法にも起因する。
それは先述したとおり,クーペ派生のオープン版を除外したのが大きな要因だ。
70年代以降,モノコック構造も熟成を重ね安全性の向上が図られた。
エンジンやサスペンションの性能も上がり,より速く,より安全にを求めると,次の二者択一を迫られる。
快適なクーペの屋根が開けられるモデルを選ぶか?雨露だけ凌げる屋根が閉められるモデルにするか?
答えは火を見るより明らかだ。エアコンの効いた家で暮らす人類は,もう洞穴には戻れないのだ。
メーカーもキャンプ好きな猿のためにコストが掛かる異なる別々のボディーの設計はしない。
こうして一部のモデルを除き,専用設計を持つ純粋なオープンカーは姿を消していった。
私は健康に配慮した牛肉そっくりの大豆ハンバーグより,血が滴るような黒毛和牛ハンバーグのほうが好きだ。
それは単に本物の肉を舌が覚えており,疑似肉には違和感を感じるからだ。
近年電子デバイスに制御されたクルマは我々に様々な恩恵を与えてくれた。
そして今,EV化と共に目前まで迫った自動運転システムは,未来そのものを変えるだろう。
だからこそ温故知新。今一度あえて五感を駆使して,自らの手でマシンを動かすことを味わっておきたいのだ。
規制や利潤に縛られなかった古き良き2シーターオープンカーが一般道を走れるうちに…
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