
せっかく作りこんで書いたのでホームページだけにしまっておくのはもったいないなと思って。
今日の話は長いですが、実用的で為になるはずですのでぜひ勉強してってください。
エンジンオイルとエンジン保護の本質として、低粘度という物理性は基本的に不利であることを認識する必要があります。
今日はそんな「低粘度オイルが不利な理由(とその中でも良いオイルの見つけ方)」について語ろうと思います。
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目次
1.各潤滑領域の説明
2.各潤滑領域でオイルに求められる役割
3.低粘度オイルだと何が根本的に不利なのか
4.さらに追い打ちをかける低粘度オイル故の不利性
5.低粘度でも良い(強い)オイルは無いものか…
6.HTHS(高温高せん断強度)の罠
1.各潤滑領域の説明
まずは本題に入る前に最も基礎的な知識として、潤滑の状態を覚えなければなりません。
とは言え大きく分けて2つ知っておけば十分です。
・一つは、液体の中を滑る「流体潤滑」
・一つは、物体同士が擦れあう「境界潤滑」
(なお、この二つが両方発生する領域は「混合潤滑」と言います)
※実際には潤滑領域の種類は油膜の厚さに応じて5つに分類されています。
エンジンに絞って考えた場合、各潤滑領域はそれぞれ以下のような場所で考慮されます。
《流体潤滑が支配的な部位》
コンロッドメタル,クランクメタル,カムメタル,ピストンスカート部,ピストンリング(オイルリング)等
《境界潤滑が支配的な部位》
カムスプロケット,タイミングチェーン,ピストンリング(トップリング,セカンドリング),ピストンスカート部(上下死点付近),カムとリフターの接触部,コールドスタート(エンジン始動)時の全箇所(←!)
2.各潤滑領域でオイルに求められる役割
《流体潤滑領域》
この領域ではオイルの上に物体が乗っかって滑っている状態。
ここではオイルがクッションのように働くので、なによりも「固さ」がものを言います。
また、荷重がかかって油膜が潰されたときに、簡単に切れないような「粘り強さ」も重要なポイントです。
ここは主にベースオイルが担当する領域です。
《境界潤滑領域》
この領域では物体同士がこすれている状態。
金属同士が擦れると当然削れてしまうので、それを防ぐために擦れあう金属同士の表面に分子レベルでの「膜」を作ってあげる必要があります。
ここは主に添加剤が担当する領域です。
3.低粘度オイルだと何が根本的に不利なのか
さてようやく本題に入ってきました。(前知識が長い)
まず前提として『低粘度オイル=0W-20以下』としています。
低粘度なオイルは柔らかい。つまり油膜が「つぶれやすい」と言えます。
一例としてクランクメタル(回転軸受け部)は、オイルが常に供給されていて基本的にはオイルの上に浮いた状態で回転しています。
しかしエンジンの爆発(膨張)エネルギーを受け止める際、下死点に向かってコンロッドに引っ張られる形で軸受け部に圧力がかかります。
この時、オイルがあまり柔らかいと、押しつぶされる形で部分的に油膜が切れる可能性が高まります。
油膜の厚さ順に、流体潤滑がだめなら次は混合潤滑→その次は境界潤滑と、フェーズが移行していきます。
前段で書いたように、境界潤滑領域は添加剤の守備範囲。
ZnDTPやMoDTCの出番となるわけですが、これら添加剤はベースオイルと違って消耗品。
膜を作っては剥がれ、を繰り返し、成分が徐々に失われていくため、オイルの性能寿命は縮まっていきます。
一般的にエンジンオイルの成分の70%~85%はベースオイルですので、たっぷりあるベースオイルの油膜(流体潤滑領域)で働いてもらって、添加剤はできるだけ消耗しない方が長持ちするのは当然です。
本来は流体潤滑でまかなえる場所なのに、そこに境界潤滑を発生させてしまうってのは、
なおクランク軸を例に見ると、境界潤滑が進んで添加剤効果も使い切ると当然メタルが擦り減ってきます。
すると軸のガタが大きくなり、クランクシールに隙間をもたらし、最終的にはケースからのオイル漏れを発生させるようになります。
4.さらに追い打ちをかける低粘度オイル故の不利性
低粘度オイルの作り方は各社様々だと思いますが、よく市販されている「化学合成油」と銘打っている0W-20は大概グループIIIという鉱物油(VHVI)がベースです。
グループIIIベースオイルとして有名なYUBASEの資料を見つけましたのでこれを参考にしましょう。

出典:スタンダード石油 グループIII
https://www.ssoh.jp/mobil/baseoil/group3/
そしてSAE粘度表。
YUBASEの中ではじめから20番相当の100℃動粘度を持つものはありますが、0Wの流動点(-40℃)に届きません。
一方で流動点の低いものをブレンドした場合、今度は100℃動粘度が届きません。
なので、それぞれを補完するために
・流動点降下剤
・粘度指数向上剤
を使うことになります。
(使われる材料はどちらも広義のPMAですが中身は違う)
さて粘度指数向上剤にも様々ありますが、耐久性も様々。
・OCP(オレフィンコポリマー)は増粘しやすいけど剪断安定性は弱い。(分子が長いから)
・PMA(ポリメタクリレート)は中間。
・スターポリマーは増粘しにくいけどせん断安定性は最強。(分子が短いから)
高級オイル以外にはOCPかPMAが使われます。
ただ、いずれを使っても粘度指数向上剤はせん断された後はゴミになるし、熱で酸化して煤になるしで、オイルの製品寿命を考えた場合はあまり多く入れるべきではない代物です。
(以前書いたブログ→
※粘度指数の捉え方(参考))
粘度指数向上剤が劣化して損失していくとオイルの粘度は元の柔らかい状態へ戻っていきます。
てことは元々柔らかいオイルがさらに柔らかくなっていきますので、流体潤滑が成立しなくなる可能性がさらに高まっていきます。
…なんともならんクソゲーやないかい
5.低粘度でも良い(強い)オイルは無いものか…
こんなにデメリットばかり言われると不安になってきませんか。
「そうは言ってももう10年以上前からメーカーは低粘度で純正指定しているし、こんなどこの馬の骨とも知れない輩が垂れ流してる妄言よりも、メーカーの方がよっぽど信用に足るわい。」
その通りです!メーカーを信じましょう!
↓
信じるって何を?
↓
メーカーアプルーバル(認証)をです。
ヨーロッパの自動車メーカーは共通規格であるACEAとは別に、自社の耐久テストを課した独自の認証規格制度を設けています。

各社メーカーアプルーバル(認証)とACEA規格の位置付け
基本的に3万kmの持久性をテストした上で一定以上の性能を担保しているので、これの認証というお墨付きを得たオイルは間違いなく高性能とみていいでしょう。(特にVWの認証は厳格だそうですね。)
ただし!
ここで気を付けるのが『認証』と『適合』という文言の使い分けです。
オイルのパッケージやホームページ上の説明には、上の二つが使い分けてあるはずです。
『認証』は、そのメーカーに依頼して試験をした結果合格した商品。
『適合』は、その認証規格の合格を目指して作成した商品。メーカーの試験は受けていません。
外国製品でしたら『認証=Approved』、『適合=Meets』といった感じの表現になっていると思いますのでよーくチェックしてください。
もちろん、一概に『適合』だから性能が満たないとは言いません。(認証コストめっちゃかかるからね)
が、『認証』との間には信用性の意味で埋めがたい深い溝があるということだけは覚えておいてください。
ちなみに、このような非常に厳しいメーカー認証をパスするには、先ほど説明した流体潤滑領域での油膜保持性が強く求められます。
しかも3万kmを耐久するだけの。
ここではHTHS(高温高せん断)粘度が大事な要素になってきます。
単に粘度指数向上剤で新油の数値上だけクリアしたようなヘボいオイルでは絶対に認証は通りません。
6.HTHS(高温高せん断)粘度の罠
HTHSは特にヨーロッパメーカーが重要視する項目で、日本でも一部メーカーはこれを表示して優位性をアピールしています。
しかしこのHTHSという数値、試験自体は数秒で評価します。
あくまで試験開始後すぐに測定された初期性能値であって、オイルの劣化やせん断分解による粘度低下はこの試験では評価されません。
つまり一瞬の数値だけとれればいいので、簡単に言ってしまえば粘度指数向上剤で上げる(ごまかす)ことができちゃいそうです。
「HTHSが高いこのオイルはエンジン保護性能が高いです!」
っては言うけど、「それってどれくらい続くの?」は答えない。
だって中身教えてくれんもん。
なので結局信用できるのは耐久テストを行うメーカーアプルーバル認証だという話に戻ってしまうのです。
おしまい