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半ねりのブログ一覧

2019年06月22日 イイね!

[本の小並感 80]螢川・泥の河

[本の小並感 80]螢川・泥の河80. 螢川・泥の河 3点

私が本を読むようになったのは、大学に入ってからだった。当時はスマホもなく通学電車の暇つぶしに読むようになったのだ。当然好きな作家がいるわけでもなく、有名どころを出版社のオススメするまま何となく読み始めた。宮本輝もそのうちの1人だった。蛍川・泥の河も一回読んだはずだが、川3部作の中では私は道頓堀川が好きで、螢川・泥の河はさほどでもな印象だった。最近道頓堀川を読み直したこともあり、本屋で何となく手に取った。

この人の本を読むと、いわゆる文学でしか表現できないものがあることを思い出す。何とも名状し難い複雑な読後感。どこまで行っても灰色で、どんな線でも捉えられない複雑な「人間」という現象。それを、言葉と物語で浮き彫りにする。なので、ビジネス書などとは根本的に異なり、内容の要約というのが非常に難しい。

「闇の底に母親の顔があった。青い斑状の焔に覆われた人間の背中が、その母親の上で波打っていた。虚ろな対岸の灯りが、光と影の縞模様を部屋中に張り巡らせている。信雄は目を凝らして母親の顔を見つめた。糸のように細い目が信雄の顔を見つめ返していた。」

ここでいう青い焔は、直前に喜一が捕まえた蟹に油を吸わせ火をつけた時の焔である。船で売春する母子家庭は周囲から白い目で見られ蔑まれた。その子供は、姉は心を閉ざし、弟は鳩の雛を握りつぶし、盗みを働き、カニを無邪気に焼き殺す。母親を組み敷く青い焔と同じものを、その子供が作り出してしまうどうしようもない構造。ラスト、去っていく船を巨大な鯉が跡を追う。鯉は川を登り竜になる。それならば、この生活からの救済を示しているのか。それともゴカイ取りの老人を飲み込んだ(と信雄が警察に言ったように)それは死の暗示か。

疲れたので、螢川は簡単に書くが、こちらの方が死の影が色濃い。

「夜も更けて番頭が迎えに来るまで、女は三味線を弾き続けた。いく筋もの汗を顔から首筋へと流して、撥を糸に叩きつけながら、女はかすかに唇を動かしていた。まだまだ、もっともっととつぶやいているように千代には思えた。黄色い電灯の光が三味線と共にじわじわと薄くなっていった。一滴だと透明なのに、むつみあうと鉛色になる。盲目の女の手首の一振り一振りは越前の海の雫に似て、この肌寒い部屋の空気を一層暗い冷たいものに変えていた。」

この三味線と同じように、蛍の大群も当初竜夫が考えていた「絢爛たるおとぎ絵」とは全く異なる「滝壺の底に寂寞と舞う微生物の屍のように、計り知れない沈黙と死臭を孕んで」舞い上がる。生と死、美と醜といった単純な割り切りを許さない。最後の人影は重竜か?
Posted at 2019/06/22 20:27:46 | コメント(0) | トラックバック(0) | 日記
2019年06月18日 イイね!

[本の小並感 79]チーズはどこへ消えたか

[本の小並感 79]チーズはどこへ消えたか79. チーズはどこへ消えたか 1点

平日は本を読まないので、このメモは大体土日に書いているが、今日は19時前に会社を出て近くの喫茶店で読了。有名な本で、誰かが書評していた云々ではなく、存在は昔から知っていた。薄いので読みやすそうなので買ってみた、が、1点付けるなんて久々。一体、この本の何がいいのだろうか。

めっちゃざっくり言えば、変化を肯定的に受け入れることで、自分の求めるものが手に入る、ということだろうか。しかし、そんなメッセージは聞き飽きた。日本語版の初版は2000年だが、当時はこのような内容が刺さったのだろうか。確かに経済が停滞し、日本全体が「どうしていいか分からない」という時期だったのかも知れない。かつての成功体験を否定はできないが、かと言って同じことをしても前に進めない。そんな時代に、変化を前向きに受け入れろというメッセージは希望だったのだろうか。

しかし、当時から20年経過しようとしている現在では、もはやそんなメッセージは巷に溢れている。中学生だって言えるような手垢のついた内容で、問題はその内容にどれだけ説得力を持たせ、読者の心を動かすかだ。何を書くか、どう書くかは、手段でしかない。最終的に読者の心に残り、行動を促す。そう言ったものでなければ価値がない。

この本は、童話の形をとっているが、なんの面白みもない。昨日読んだ『苦しかった時の話をしようか』の、血尿を出した北米での実体験が強烈だっただけに、この本の内容が余計に薄く感じられる。苦しかった...では、P&Gに主力ブランドだったパンテーンの北米ブランドマネージャという花形の重要ポストに、極東の一マーケットに過ぎない日本から著者が赴任する。周りからのいじめに近いような嫌がらせ、面従腹背の同僚、お前には価値がないと真正面から宣言する上司。文字通り血のションベン出し尽くしたこの経験があの本に説得力を持たせている。

そこいくとこの本は...メモを書く気も萎える。
Posted at 2019/06/18 01:07:40 | コメント(0) | トラックバック(0) | 日記
2019年06月16日 イイね!

[本の小並感 78]苦しかったときの話をしようか

[本の小並感 78]苦しかったときの話をしようか78. 苦しかったときの話をしようか 3点

著者はUSJを再建した有名人。確率論に基づくマーケティングの本を出していて、それを田端さんが激賞していて一時は品薄になったとか。これはその人の最新刊で本屋に、結構なスペースで平積みになっていた。ベースは就活に悩む自身の娘に向けて書いたキャリア形成のノート。

「仕事」の在り方を最初に世に問うたのは村上龍の『13歳のハローワーク』だったと思う。2003年に発売されたこの本は「よい大学を出て、大企業に入る」というそれまで日本人が無意識に受け入れてきた仕事観を真っ向から否定し130万部を売り上げた。そしてこの本で彼が提示した仕事を選ぶ軸が、自分自身の「好き」だった。努力を努力と思わないような興味に対象に出会うこと。それは、バブルが弾けて10年以上経つにも関わらず一向に出口が見えない当時に日本人の親たちが我が子に示した道しるべだった。

それ以来16年、最近でもホリエモンは好きなことだけで仕事を選ぶべきだという主張はもやは珍しくなくなってきた(最近は、好きなことが見つからない=自分探しの弊害を指摘し、とにかくキャリアを積め、好きと得意とマーケットニーズを見極めろという最もな意見もある。)。この本も基本的にその路線に沿っている。その意味では全く新しいコンセプトの本というものではない。しかし、この本がユニークな点は二つある気がする。一つは、自分が情熱を持って取り組めるものは何かを見つけるための、具体的なステップがあること。もう一つは、経営者としてのマーケターとしての著者自身の濃厚な経験が前面に出てきている。私は、後者のパートが面白かった。それは、この本の署名にもなっている。著者がアメリカに赴任した時の経験だ。

人はどういう時に最も苦しいのか。それは死ぬほど忙しい時でも、周囲の評価が低い時でもない。自分自身で自分の存在価値を疑う状況に追い込まれた時だ。私にとってそれは就活だったが、著者にとっては北米におけるパンテーンのブランドマネージャーとしてP&Gの本社があるシンシナティに赴任した時だった。最大の顧客であるウォルマートとの交渉の翌日、上司から「You mean nothing, You are our liability!」と叱責される。この著者ですら、毛布をかぶって仕事に行きたくないと呟き続けたという。

その他にも、組織の全員が自分より優秀で自分に自信が持てなくなってしまったこと、失敗が目に見えており、自分自身で価値を信じられないプロジェクトの責任者を任せられたことなど、著者自身の経験がある意味15年以上前からの古びたメッセージ、「努力できる好きなことを見つけろ」というこの本の内容に説得力を与えている。この辺の著者の経験だけでも読む価値がある。
Posted at 2019/06/16 22:12:56 | コメント(0) | トラックバック(0) | 日記
2019年06月03日 イイね!

[本の小並感 77]武士の家計簿 3点

[本の小並感 77]武士の家計簿	3点77. 武士の家計簿 3点

昔かなり話題になったので存在は知っていたが、何となく手には取らなかった。少し前に(というかこれも結構前)に、この著者の磯田さんが情熱大陸か何かで取り上げられていて、超マニアックであることを思い知った。古文書を求めて旧家か何かを渡り歩くような内容で、見つけた資料は私には何が書いてあるのかさっぱり分からない、日本語かも怪しいミミズがのたくったような文章を、スラスラと嬉々として読み解いていた。

内容に入る前に、まず古文書が市場で取引されることにより、廃棄処分を免れ、このような研究者の目にとまることもあるという点を「市場」の機能として評価したい。美術品や文化財のコレクターは、人類の財産を未来に継承するための責務を負っている、そのために一時的に預かっているに過ぎないと自覚する人がいる。そのものの価値を本当に理解し、正当に評価する人の手に届ける。「市場」にはそんな機能がある。

旧士族にインタビューすると、石高は正確に答えられるが、領地がどこにあるのかは分からない。徴税システムが機能していたので、自分の領地として統治する必要がない。この意味で、いわゆる欧州の封建制とは異なる。こういうポイントも、机上の研究では分からない。
借金が年収の2倍という家計は珍しくない。借金苦が普通で、その返済のために家財道具を売り払っている。財産には茶器があり、へうげものの世界。その際「4割をこの場で返済するから、残りは無利子にして欲しい」と交渉して成功している。明治維新は、身分的特権による利益より、身分的義務による支出が大きくなり、そこから武士を解放する意味を持っていた。このため、世界史上稀に見るスムーズさで権力の移譲が進んだとか。実際、明治維新を革命と称するのは正確ではなく、維新であるとしている。
そのほか、貴重品だった砂糖の袋に文書が入っていたり、祝いのための鯛を購入できないため、絵に描いた鯛を準備したりと、一次資料ならではの生きた情報が詰まっている。そして、それを分かりやすく一般人に伝えることもできる。

終わりにで筆者は、特定の組織に縛られないスキルの重要性を強調している。この本の主人公である猪山家も、会計という当初は蔑まれていた特殊技能のおかげで、海軍の経理を担当することになり、明治維新後にかなりの要職について余裕のある生活を送っている。

現在の日本は、どの程度の煮詰まり具合なのだろうか。あと十年はこのまま続くのか、それとも明日にでも引っくり返ってしまうのか。それは分からないが、そのいかんに関わらず、生きていく上でのスキルは重要で、そのほうが実際楽しいだろう。そして、それは好きでなければならない。この著者も、好きで好きでしょうがない感じが、この本から伝わってくる。
Posted at 2019/06/03 01:04:40 | コメント(0) | トラックバック(0) | 日記

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「ビート、手放しました。13年ありがとう! http://cvw.jp/b/410066/45136597/
何シテル?   05/23 22:55
「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」
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