![[本の小並感 77]武士の家計簿 3点 [本の小並感 77]武士の家計簿 3点](https://cdn.snsimg.carview.co.jp/minkara/blog/000/042/919/037/42919037/p1m.jpg?ct=f813b81a3184)
77. 武士の家計簿 3点
昔かなり話題になったので存在は知っていたが、何となく手には取らなかった。少し前に(というかこれも結構前)に、この著者の磯田さんが情熱大陸か何かで取り上げられていて、超マニアックであることを思い知った。古文書を求めて旧家か何かを渡り歩くような内容で、見つけた資料は私には何が書いてあるのかさっぱり分からない、日本語かも怪しいミミズがのたくったような文章を、スラスラと嬉々として読み解いていた。
内容に入る前に、まず古文書が市場で取引されることにより、廃棄処分を免れ、このような研究者の目にとまることもあるという点を「市場」の機能として評価したい。美術品や文化財のコレクターは、人類の財産を未来に継承するための責務を負っている、そのために一時的に預かっているに過ぎないと自覚する人がいる。そのものの価値を本当に理解し、正当に評価する人の手に届ける。「市場」にはそんな機能がある。
旧士族にインタビューすると、石高は正確に答えられるが、領地がどこにあるのかは分からない。徴税システムが機能していたので、自分の領地として統治する必要がない。この意味で、いわゆる欧州の封建制とは異なる。こういうポイントも、机上の研究では分からない。
借金が年収の2倍という家計は珍しくない。借金苦が普通で、その返済のために家財道具を売り払っている。財産には茶器があり、へうげものの世界。その際「4割をこの場で返済するから、残りは無利子にして欲しい」と交渉して成功している。明治維新は、身分的特権による利益より、身分的義務による支出が大きくなり、そこから武士を解放する意味を持っていた。このため、世界史上稀に見るスムーズさで権力の移譲が進んだとか。実際、明治維新を革命と称するのは正確ではなく、維新であるとしている。
そのほか、貴重品だった砂糖の袋に文書が入っていたり、祝いのための鯛を購入できないため、絵に描いた鯛を準備したりと、一次資料ならではの生きた情報が詰まっている。そして、それを分かりやすく一般人に伝えることもできる。
終わりにで筆者は、特定の組織に縛られないスキルの重要性を強調している。この本の主人公である猪山家も、会計という当初は蔑まれていた特殊技能のおかげで、海軍の経理を担当することになり、明治維新後にかなりの要職について余裕のある生活を送っている。
現在の日本は、どの程度の煮詰まり具合なのだろうか。あと十年はこのまま続くのか、それとも明日にでも引っくり返ってしまうのか。それは分からないが、そのいかんに関わらず、生きていく上でのスキルは重要で、そのほうが実際楽しいだろう。そして、それは好きでなければならない。この著者も、好きで好きでしょうがない感じが、この本から伝わってくる。
Posted at 2019/06/03 01:04:40 | |
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