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106. 10万円でシルクロード10日間 2点
内容はよく分からないけど、この人の本だから。そういう「名前で買う」人は少ない。下川裕治は、そんなうちの1人である。彼のことは、多分処女作である「12万円で世界を歩く」で知った。真っ黒な表紙で、幾多の引越しの整理を乗り越え、まだ私の本棚に眠っている(と思ったら無かった。売ってしまったか。後悔)。当時から12万円という金額縛りで旅を続けており、貧乏旅行の下川さんでしょ?みたいな有名人だった。
この「12万円で世界を歩く」は、とにかく貧乏ドタバタ旅行記で、ある意味悲惨な体験を笑いにしてヒットしたのだと思う。ヒマラヤのトレッキングでは、一日中ヒルの出る森を歩き、疲れ切ってやっとたどり着いた宿の主人が一生懸命作ってくれた夕飯は涙が出るほど不味かった。牛の飯かと見紛う夕飯を死んだ目でモソモソを咀嚼し、倒れ込んだベッドはダニとノミの巣になっていた。みたいな感じだ。何せ航空機代を入れて12万円なのだから仕方がない。
もう一つは、彼が「好きを仕事に」した人だということだ。これについて彼は別の本で、好きを仕事にしてしまったことで「自分の旅」を失くしてしまった。と書いている。そして、いつか僕の本が全く売れなくなった時、自分の旅を取り戻せるだろうか?と、旅に捧げた人生を振り返っていた。
日本における仕事観は、次のような変遷を辿ってきたと思う。
1. 仕事はつらいもの(みんな好きな仕事は競争が激しい、80年・90年代)
2. 好きを仕事にした方が良い(13歳のハローワーク、2000年代)
3. 好きを仕事にしないと稼げない(ホリエモンとか田端さん、2010年代)
そんな中で、彼の「好きを仕事にしたことで、自分の旅を失ってしまった」という言葉はずっと心に刺さったトゲのようなものだった。
はっきり言ってこの本はイマイチだった。写真はキレイでパッと見楽しそうだが、本文は歴史紹介が多く、自分が旅をしているような気分にさせる旅行記という感じではない。かと言って実際にシルクロードを旅したい人向けの実務本というほど専門的でもなく、やや中途半端な印象を受けた。しかし、この退屈さが、下川さんが「自分の旅」を取り戻したことを示すものなら嬉しい。その辺に転がっている石一つから当時の交易と砂に埋もれた歴史に思いを馳せる。そんな彼の旅を。
Posted at 2020/02/24 20:08:00 | |
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