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イイね!
2023年10月15日

没落貴族の栄枯盛衰

最近は老眼鏡が億劫にならなくなったので、読書欲に満ちています。

そんな訳で久々に小泉八雲著の「怪談」を読んでおりますが、これはいくつかの短編の怪談が出てくるお話で、その一篇の「耳なし芳一の話」に注目しております。

あらすじは阿弥陀寺に居る盲目の琵琶法師である芳一の物語で、琵琶を奏でながら平家物語の語り部である芳一の評判を聞きつけた平家の怨霊の鎧武者が冥界から芳一を迎えにやってきます。

盲目の芳一は迎えの使者を怨霊とは知らずに毎夜外出するのですが、それを妙に思った和尚さんが芳一の後を追うと、常人には見えない怨霊の前で琵琶を弾き、平家物語を語っていたのでした。

怨霊に魅入られた芳一は日に日に冥界に引かれるように衰弱し、和尚さんは怨霊から芳一を守る為に芳一の躰に隈なく般若心経を書きました。

そしてその晩も鎧武者の怨霊が現れたのですが、何と和尚さんは芳一の耳に経文を書かなかった為に耳だけを鎧武者に発見され、鎧武者は耳を引き千切り冥界に戻って行きました。

しかしその晩から鎧武者が現れる事は無くなり、芳一は耳を失ったものの語り部として大成したというお話です。

で、この話が1960年代に映画化されていて、芳一は若き日の中村 嘉葎雄さん、鎧武者は丹波哲郎さん、和尚さんは志村 喬さんという凄い顔ぶれの映画でした。
この映画は以前にBSで観たのですが、全編通して日本語の滑舌が美しくて現代の映画には望めない程に素敵な作品でありました。

この作中、芳一に平家の貴族が平家物語の中でも殊に哀れ深い壇ノ浦の行を所望する場面があるのですが、琵琶の音に涙する堕ちた貴族の描写が実に印象的でした。それは戦に敗れて堕ちても、貴族としての姿を保って琵琶の音に耳を傾ける事で矜持を保っている姿に共感すら覚えるのであります。

同じく誰もが一度は耳にした「荒城の月」という歌曲もまた戦に敗れて荒れた城を前に世の栄枯無常や悲哀を歌っていて、これは源平の頃とは時代が異なるものの近代化によって去り往く徳川の世を偲ぶ歌なのだろうと解釈します。

さて、話は変わりますが私自身が小学一年生の頃に父が事業に失敗しており、自己紹介ではよく自らを「没落貴族」と表現します。それまで住んでいた大きな家や乗っていたセンチュリーが無くなり、人々の手の平返しを見ていて子供ながらにそれが何を意味するかはよく理解しておりました。それでも私自身は何ひとつ不自由した記憶が無く、対外的な矜持を保ち続けた両親の立派さを大人になって感謝するものでありました。

更に話が逸れますが、私の10代から20代くらいまではその時に手の平返しをした人々に一矢報いるくらいの心意気を持っていたのは事実で、それがある程度達成された頃の気持ちは忘れずに居たいと思っております。

その頃に選んだ車が今のジャガーであり、この車を選んだ時に「君らしいね。」という声と同数に「何でベンツにしなかったの?」「マセラティ買えば良かったのに」という疑問の声を貰ったのを覚えています。

今の時代、車というものにステイタス性を求める事自体がナンセンスである事を理解した上で申し上げるなら、確かにその人々が口にしたステイタス性を優先するならばメルセデスやBMW、或いはレクサスあたりのほうが遥かに上だと思います。そもそもジャガーというブランド自体が英国でのアンダーステイトメントを求める層に向けた車であり、今太閤は間違いなく選ばない選択である事は重々承知の上でありました。

つまりそれが好きでなければとても大枚をはたく車ではなく、これを選ぶ人は同様に見栄やステイタス性以外に価値観を見出す人々であると想像します。保険を掛けた訳ではありませんが、同じ時期に乗っていたレクサスLSも良い車ではありましたが、私としては早々に降りたのは自分の求めるものとの相違が存在したからに他なりません。

今現在のジャガーの最新モデルを見ていて思うのは、乗ると間違いなくジャガーの美点を継承していると感じるものの、そのスタイルから嘗ての望ましい品性の高さを全否定した所に失敗の一因があると思わざるを得ません。その点ロールスロイスやベントレーもドイツ資本が入った際に過去を全否定せずに望ましいアイコンを活かして大成功させ、レンジローバーもまた同様であった事を考えると残念でなりません。

しかし、失礼乍ら私的にはこのジャガーの「没落貴族」的な雰囲気は望ましいもので、例えば銀座で信号待ちの停車の際に視線を投げかけて来るのは西洋人が多く、ブランド品で身を固めたアジア人観光客などは見向きもしない面白い現象が見られます。


昨日は車検の時に購入したTシャツをもう一枚買うべくMyディーラーを訪問しました。今やジャガーは休眠中でランドローバー車の専売ディーラーのような雰囲気すら感じますが、車の誘導をしてくれた新顔の営業氏がウチのジャガーの状態を絶賛してくれました。


用件を済ませて車に戻るとショールームの真横に横付けされており、贔屓目ではなく購入後18年目に突入して尚展示車や試乗車以上のコンディションを保つ事は、まさに没落貴族の矜持であると胸を張って言えます(笑)


残念ながらこのTシャツは最後の一枚だったようで、Mサイズは買えませんでした…

このLサイズを大切に着ます…
ブログ一覧 | 日記
Posted at 2023/10/15 17:44:59

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この記事へのコメント

2023年10月15日 18:58
こんばんは。

あれはもう何年前になりますかね?涌井さんの事務所?にお連れいただいたのは。
その時も感心しましたが、画像で見る限り同等がそれ以上の程度を保ってるのでしょうね。

仰る通り350までのジャガーの立ち位置は絶妙だったと思います。アンダーステイトメントなデザインは、今のジャガーに失った最大の魅力ですから。

コメントへの返答
2023年10月15日 19:59
こんばんは。

そう言えばもうかなり前になりますね。本当につい先日のように感じますが、時間の速さには驚くばかりです。

この350のデザイナーさんはこの車を完成させた直後に急逝されて、エクステリアを担当したデザイナーさんは今のカリナンを手掛けました。

結局高い車が売れる主戦場が欧米からアジアに移行して、品性よりも押し出し重視になったのも悪かったのでしょう。

今のBMWが良い見本ですね。
2023年10月15日 19:48
周囲には惑わされず、自分の基準に従うのは反逆者、一匹狼としての矜持といえますし、自分たちのあるべき姿に素直な英国車を選ぶのは自然な成り行きなんでしょうね。

生き残るために周囲を意識して自らの魅力を失い、堕ちてしまうというのは残念な話です。だからこそありのままだった時代のモデルの輝きが増すのでしょうね。
コメントへの返答
2023年10月15日 20:08
例えば今のBMWのデザインがどの市場に向けて迎合したものかを考えると一目瞭然であり、嘗てあんなにスマートだったデザインはどこに行ったの?と言いたくなります。

それは仕方ない事かも知れませんが、各メーカーの建前ではない本音の部分が具現された車を欲すると、必然的に少し前の世代のものに落ち着くのだろうと思います。

だから尚更ジャンクにならないようにメンテナンスに精進したいです。

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