「勝てば官軍、負ければ賊軍」という言葉があります。
つまり力やイデオロギーに関わらず、戦いは勝った者が正義であるというように解釈しますが、マーケティングの世界で「売れたもの勝ち」となるのも同義なのでしょう。
もっと言えば私などは昔から日本の敗戦後の東京裁判に関しては、その背景に何があったかは一切関係なく単に勝者が敗者を裁いただけという印象を持っており、何にしても戦う以上は勝たなくては全ての主義主張は封印される好例ではないでしょうか。とは言え、あの戦いであまりにも軍部(主に陸軍)が肥大して間違った方向に向かった日本が負けた事は本当に良かったと思っておりますが。
今の時代ではヒット商品は正義であり、不人気商品には失敗作という烙印が押されて明暗を分けるのは周知の事実であります。が、その中には単なる不人気で片付けられないものがあり、後の歴史で再評価を受けるものも少数ながら存在します。
よくネットの記事で不人気車特集を組むと、必ず登場する車が今日のお題「日産レパードJフェリー」だと思います。何せグーグルでこの車名を検索すると、上位に「ダサい」という尾鰭が付いたものがうじゃうじゃ出て来ます。
しかし私はその昔、その不人気車を新車購入する事を本気で検討した事がありました。

この車、形式がJY32と呼ばれて当時のセドリック/グロリア&シーマのファミリーでありました。シーマの4.1V8、セドリック/グロリアの3LV6が用意され、V8には後輪も操舵するシステムが搭載され、インマニはフェアレディZと今では考えられない程にコストの掛かった内容でありました。
外観もアメリカのデザインスタジオが手掛けたそうで、日本の同価格帯の車には無い独自のスタイルでありました。特に私的に好きなのはお尻が下がったリアスタイルですが、このリアスタイルをして「ダサい」と評される事の多いのを見ると、自分の好みは本当に世間様とは著しく乖離してると実感します。

インパネもスッキリとしており、極めつけは80万円のオプションでイタリアのポルトローナフラウ社製の革シートまで用意されていました。当時の日産はプレジデントにもコノリー社製レザーがオプション設定されていましたが、プレジデントのそれは表皮のみコノリーレザーで中身の餡子はノーマルと同じでした。
しかしこのJフェリーのそれは餡子までポルトローナフラウで仕上げたもので、それまでの日本車では考えられなかった程のコストを掛けた車でありました。
残念ながらこの車は一度も試乗できなかったのですが、聞くところではとにかくソフトでゆったり走る事に関しては実に良く出来た車だったようです。加えてV8などは車重が軽い為にかなり速かったそうです。
その頃日産ではジャガーの足回りをスーパーコンピューターを駆使した解析にご執心だったそうですが、数値に出来ない部分が多過ぎて結論が出なかったようです。そのタネ明かしは足回りだけではなく確信犯的にヤワなボディを与えて車全体が撓る事で猫足を実現していた事が分かって日産の技術陣が呆れ返ったという本当のような嘘のような逸話を聞いた事があります。
そんな訳でその規範はドイツ車ではなくイギリス車というかアメリカ車的な大らかな味付けとなっており、事実アメリカではインフィニティJ30としてそこそこのヒット車であったようです。
で、この車のイメージカラーになったシャンパンゴールドで内装はポルトローナフラウ社製のタンレザーにサンルーフと鍛造ホイール付きの車に心を射止められてしまったのでした。

その当時、兄はセドリックの3000ターボのブロアムVIPエアサス付きに乗っていたのですが、私がレパードを検討している事が分かると「セドリックのほうがいいよ」と勧めてきました。

結果的にセドリックの中間グレードを購入しましたが、やはり若者が背伸びをして買うには価格差あり過ぎたのでした。
そんな経緯もあって、先日街でこのJフェリーを見掛けた際には思わずガン見をした訳ですが、日本人にはこのスタイルが嫌われて不人気車の代表格になってしまいました。丁度同じ時期のブルーバードもこの路線のスタイルでしたが、ブルーバードには日本人向けにARXという4ドアハードトップの保険を掛けた為に惨敗は避けられたのでしょう。
トドメはCMコピーに「美しい妻と一緒です」というアメリカ人と思しき夫婦が乗る写真が使われましたが、日本では結婚指輪をした男性は恐妻家という認識の国であり、こんなコピーが受け入れられるわけが無かったのでしょう。
が、今も昔も思うのは、これほど贅沢な雰囲気を持つ日本車は他に無かったと思うのです。それは家に帰れば年代物の家具に囲まれて、週末にはオペラやバレエに足を運び、お気に入りのレストランが何件もある暮らしを具現化したような車がこのJフェリーだったように思います。この車の贅沢さが分かる人は、ある程度贅沢が身に付いた人でしょう。
対して今の日本で人気車と呼ばれる車を好んで買う層は、車のみが突出して豪華なものを選んでいるフシがあり、少なくとも七色に色が変わる悪趣味な室内のアンビエントライトが贅沢と考える人々はただの庶民なのでしょう。
Jフェリーの名誉の為に色々書きましたが、今になって思えばこの車を買っていたら、自分の車遍歴に華を添える一台になったような気がします。
丁度その頃に聖路加国際病院のある明石町に出来たジャガーのディーラーで、新発売されたX308と呼ばれるジャガーXJのベーシックモデルに試乗して心を奪われたのはまた別のお話。

でも、このセドリックもリアが下がっており、つくづく私はリアが下がってランプの小さい車が好きなんだと思うのです。
Posted at 2023/01/24 22:24:42 | |
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