「銀座」というキーワードから四丁目の交差点にある『和光』の建物を連想される方は決して少なくないと思います。
しかしその和光がどういう所なのかを知っていても、中に入った事のある人や買い物をした事がある人となると一気に少なくなるような気がします。
この和光は百貨店協会には入っていませんが、一応百貨店の部類に入る老舗中の老舗で、中には一足5万円の紳士靴下などが売っていたりします。今の銀座にあって爆買い観光客の入店を拒絶するかのような佇まいからは旧き良き銀座を守る矜持みたいなものすら感じます。
何せこの和光、確か5~6年くらい前まで百貨店でありながら定休日は日曜祭日という普通では有り得ない日であり、駐車場も未だにありません。恐らくは外商が自宅まで来て、たまに来店する時はショーファー付きの車を裏に待機させるのが正しい買い物の仕方なのでしょう。

それと似たような「誰もがみんな知っている」けど実体はあまり知られていない存在がセンチュリーではないかと思われます。実際に乗り始めて日が浅いのですが、そろそろ色々な事が見え始めて来たので中間報告をと思います。
まず「新車購入時には厳しい審査があって誰でも購入出来ない」という事をよく耳にしますが、昔はどうか存じませんが、今は全くの都市伝説だろうと思います。よほど胡散臭くなく、反社チェック(つまりマル暴)に引っかからなければ普通に買えます。そもそも購入時の審査がある車はフェラーリやマクラーレンのスペシャルモデルとブガッティ・ヴェイロンくらいしか聞いた事はありません。
さて、実際に自身でハンドルを握る機会は何年も前にお台場のメガウェブで乗った程度なので、乗ったうちには入らない程度でありました。その当時からセンチュリーという存在には特別な思いがあったので、その程度の乗車体験で車としての良し悪しを口にするのは烏滸がましく感じてここには書きませんでした。恐らくその段階では「静か」「ソフト」「自分で運転する車じゃない」という免許を取って2年目くらいの新米ドライバーでも感じる程度の事しか書けなかったと思うのです。

まずシートに収まってドアを閉めると、ジンと耳に響くような静寂が広がります。が、物理的な静けさでは現行Sクラス等のほうが静かだろうと思いますが、雰囲気的に下界と隔絶された感が味わえるのはこちらかも知れません。それは伊勢神宮を訪れた多くの日本人が感じると思われる気持ちとでも申しましょうか。ただ残念なのは、各部の仕上げは良いのですが質感がプラスチック丸出しの部分を感じる事です。が、17年前に登場した車ですので大目に見てあげましょう。
エンジンを掛けると、かなり甲高い独特なクランキング音で国産最初で最後になると思われるV12は目を覚まします。エアコンから出てくる風もどことなく当たりが柔らかいのは気のせいでしょうか。
シフトをDレンジに落としてそっとアクセルを踏む足に力を入れても、思った程の加速は得られません。ここは少し我慢して長めのクリーピング状態の後で少し強めに踏んで行くと、シルクのような加速が得られます。もし暴漢に襲われそうになった時にはシフトレバー脇のパワーモードスイッチを選択すれば、信号グランプリで勝てる加速が得られる代償として揺れを感じますので要注意です。
ステアリングを切った時の挙動も緩慢ではあるものの、日常で90%以上は「急」の付く動作は御法度な車なので、このユルさは正解だと言えます。ただ30年くらい前の柔らかいだけのクラウンやセドリックと根本的に違うのは、このソフトさで首都高のカーブをそれなりの速度で通過しても恐怖感は少ないことでしょうか。無論皇居の小石を噛まないように専用設計されたヨコハマ製のタイヤはかなり鳴きますが、こういう味付けの車も悪くないと思っています。
ブレーキも現代の車としては多少心許ない気もしますが、あまり制動距離が取れずに「おっとっと」となっても思いのほかノーズダイブが小さいのも後席の住人に優しい作りの表れなのでしょう。
さて、今度は後席に居場所を移動しますが、お世辞にも広々感はありません。前のV8モデルにはロングホイールベースもありましたが、このモデルは何故かありません。恐らくドイツ車的なパッケージングに慣れた方なら、これだけ巨大なボディに対しての室内空間に疑問を持つでしょう。が、この空間に収まると、決して広くないにも関わらず居心地の良さを感じます。それは和の茶室と同義で、ジャージ姿でゴロンではなく茶道でのリラックスの概念に近いのでしょう。都心で乗っている分にはさほど目立ちませんが、東京から100km程度離れた地区に行くと、それは「一体誰が乗っているんだろ」という好奇の視線を浴びます。それはベントレー以上で、車に関心の無さそうな若い人までが振り返ります。
以前、「これは車であって車でない」とここで感想を書いた記憶がありまして、実際に日常的に乗るようになった今もその感想は変わりませんでした。センチュリーを新車でオーダーするくらいなら、オーナードライバー的に魅力のある車は他に山ほど存在しますし、ショーファーカーとして見てもセンチュリーより快適な車も沢山あるでしょう。しかし今この車に1200万円前後を投資するのは日本の自動車文化財としての様式美に共感する事に他なりません。今や少なくなったスクエアで富士山を彷彿させる前後対称のサイドビューは国産車で一番美しいと思っておりますし、利益の出ない手作業を続けている事は称賛に値すると思います。
次期センチュリーはあと2年くらいで登場する噂があります。恐らく次は初代から続く伝統のスタイルは若干変わるのでしょう。V12も廃止されてLS600hと共有するパワーユニットに切り替えられる事はほぼ確定しているようです。ただ以前に出たコンセプトモデルには観音開きのコーチドアが採用されていましたが、これはエントランスからエントランスの移動はともかく街中での乗り降りは不便だと思われます。実を申せばロールスロイスのゴーストもかなり本気で検討しましたが、コーチドアの乗降性の悪さで見送った経緯があります。
また、この車の中古を検討されている方も多いかも知れません。確かにクオリティの良い車なのでかなり使い込んであっても法人名義でお金を掛けたメンテナンスを受けたしっかりとした個体も多いかとおもいます。ただこの車の宿命として待機時のアイドリング時間がものすごく長いものが多く、実際には走行距離×1.5倍くらいに考えたほうが良いと思います。
これは中間報告的な感想ではありますが、長く乗っても飽きない車と言えそうです。今回併せて検討したLS460Lよりも私にはこちらが性に合うような気がしております。もしこの車の持つ独特の世界にご興味のある方は、土日祝日に数時間スポットでハイヤーをチャーターしてホテルオークラかニューオータニにでも食事に行く事をオススメします。メガウェブの試乗体験も結構ですが、そのほうがセンチュリーの世界観を一番分かり易く体験出来ます。
最近忙しくて写真を全く撮っていない事をお詫びします…
Posted at 2015/11/19 07:55:57 | |
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