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榊 B 亮のブログ一覧

2018年01月23日 イイね!

十六夜月

明日は、雪だろうか。
真っ暗な空をこっそり見上げ思った。
キン、と凍った空気に、吐いた息が白く昇って溶けてゆく。
ちらり見上げた冬空には目が痛むほどの一等星や二等星。
小さな星々は月明かりに消されてしまったから。
「あっという間に真っ暗、だね。最近。」
僕の左手に感じる温もりから小さな呟きが零れた。
「冬だしね。夏ならもっと一緒にいられるんだけど。」
そう言って、僕は繋いだ手の力をほんの少しだけ強くした。
「…寂しい、かな。」
「寂しいな…。」
街路灯を通り過ぎれば僕等二人の影は
流れるような速さで伸びて
また闇の中。
あっという間、に逃げてゆく。
「月、キレイだね。」
「ホント。」
空を見上げた僕に続いて、彼女が空を見上げた。
「でも、眩しィ…」
目を細めて見上げる彼女の顔には、月が落とした光と影。
「…星、小さいのが見えないや。」
薄く、微笑んだのは何故?
でも、泣きそうだ、と
感じたのは僕の気のせいだろうか。

彼女に出逢ったのは、僕らが共に中学の時だ。
彼女とは取り立てて仲が良かったワケではない。
同じ中学の同じクラス。
ただ、それだけだった。
それからお互い、それぞれの進路を歩んでいった。
彼女が何処の高校に行ったのかは
ソコを卒業し、付き合いだしてから知った。
所詮、僕と彼女の繋がりはその程度のコトだったのだろう。
ソレに関しては別段、嘆いたことはない。
もし、嘆くことがあるとするなら
その僕と彼女との空白の時間
彼女の傍に居られなかったことだろうか。

中学を卒業後、彼女との接点はまるで無く、
彼女を再び見かけたのは、高校を卒業する年、晩冬の
それはそれは寒い夜だった。
氷のように冷たく透き通った夜空には
目が眩むほど明るい、十六夜の月。
なかなか寝付けず、こっそり家から抜け出してきた僕の目に
夜の公園に一人佇む彼女の姿が映った。
ブランコを取り囲むポールに浅く腰掛けた彼女は
記憶に残る彼女より、思っていた以上に
大人っぽくなっていたと思う。
彼女を照らすハズの外灯は、既に電球が切れているらしく
一人空を見上げる彼女を照らし出すのは
南中した目映い月だけ。
特に何をするでもなく、夜空を見上げる彼女。
まるで太陽に照らされたかのよう
彼女の足元から、遊ばれすぎてすり減った
ブランコの下の土のところまで
真っ黒な影が張り付いていた。
不意に持ち上げられる彼女の両手。
忘れたのか、それともワザとなのか
手袋をしていないその両の手は
氷の月の光を反射し、白く浮き上がっている。
両腕を限界まで伸ばし、彼女は手をしっかり広げた。
何かに似ている。
そう思った。
あぁ、そうだ。
救いを求める姿勢?
ココまで考えて思わず口元を歪めた。
何に救いを求めるだって?
彼女の前に広がるのは、夜空だけじゃないか。
敢えて在ると言うのなら
ソレは彼女を突き刺す月ぐらい。
けれど ―
明らかに、彼女は何かを見つめていたのだ。
月?
いや、それより遙か向こうの何か…―
―或いは『誰か』だったのか―
「助けて」とも「連れて行って」とも願うよう
ただ一心に両腕を空へと伸ばす彼女の存在が
とにかく稀薄に見えて。
月に、『ソイツ』に
連れ去られてしまうのかと
情けないけれど、怖くなった。
糸の切れた繰り人形(マリオネット)のように
ぱたり、彼女は両手を下ろした。
両手と同時に下を俯く横顔。
いくら明るいと言っても、所詮は月明かりだ。
俯いてしまった彼女の表情は伺えない。
でも不思議と、口元だけは ―
微かに微笑みを浮かべる口元の様だけは
僕にはハッキリと感じられていた。
天に両の手を伸ばした、泣き出しそうな彼女。
重力に身を委ね、薄く微笑んだ彼女。
彼女の真意を見たのは
真ん丸のようだけど
でも何処か欠けてしまった
十六夜の月だけだった。

「じゃあね。」
「うん。」
静かな二人の時間は過ぎ、今は彼女の門前。
門の上に取り付けられた丸い電灯に照らされ
月光も相まって、僕等の影は真っ黒だ。
じゃあね、の言葉と共に、僕の頬には柔らかな熱。
一緒に僕も彼女の頬にそっと口付けを落とす。
僕等のささやかな儀式。
僕と彼女の挨拶に『またね』というモノは存在しない。
付き合いだしてすぐ、その言の葉を口にした僕に
彼女は形の良い眉を小さく歪め、「ソレ、嫌い。」と
例えどんなに手軽な言葉であっても
不確かな未来を約束する言葉が嫌いなのだと
泣きそうな顔で呟いた。
「………約束したのに…。」
聞き漏らしてしまいそうな程小さな呟きが
僕の胸に、確かに刺さっていた。

「初めて会った、ってワケじゃないんだけど、
 キミに、一目惚れしたんだ。」
そんな訳の分からない告白をしたのは
彼女との一方的な再会のすぐあとにあった同窓会の時だ。
彼女は比較的人気者だったから
彼女の周りには自然、同窓生が輪を作っていた。
そんな彼女が空気のようにその輪を離れ
会場の外のベランダで一人佇んでいたときに
僕は、何故だかわからないけど
ごく自然に彼女にそう告白していた。
大した関わりの無かった僕に想いを告げられた彼女は
一瞬目を微かに見開いて、それから薄く微笑んだ。
―それとも、泣きそうな顔だっただろうか。
「…私のコト、スキ?」
『あの時』の微笑みに酷く似ていた。

「………ねェ…」
「ん?」
それからずっと。
「私のコト…スキ?」
彼女は別れ際にこの科白を必ず僕に投げかけるのだ。
「私のコト、まだ、スキでいてくれてる?」
必ず。
「大好きだよ?」
僕は決まって当たり前のようにそう答える。
「……………アリガト。」
僕がいつものようにスキだと言えば
彼女はいつもそう言って微笑むのだ。
照れたように。
嬉しそうに。
泣きそうな微笑みを浮かべるのだ。
「私のコト好き?」なんて
三流恋愛小説の一コマの科白でしかあり得なくて
なんとも女々しい科白だろうと
嘲笑っていた時が過去にあった。
けれど彼女に、その瞳に訊かれた僕は
過去の僕を忘却の彼方へと押しやり、「好きだよ」と返す。
馬鹿げた行動だと、思う人がいるかもしれない。
でも、そうせずにはいられなかった。
僕は『あの夜』の彼女に囚われてしまったのだから。

今夜も、月が僕等を見下ろし、わらう。


今回は救いようのない恋愛話。ある意味救われてるのか?
「彼女」はとても大事だった誰かを失っているんです。
死亡なのか、ただ行方をくらましただけなのかは皆様のご自由に。
当たり前のように言う「またね」。「彼女」とその人はそう言って別れたんです。
でも「また」が来なかったんです。「彼女」とその人との間には。
それが「僕」と「彼女」との空白の時間に起きたコト。
「彼女」は「僕」に対してスキと言ってないんです。
ただ自分のことが好きであるかをとにかく確認しているだけ。
『いなくならない誰か』が「彼女」は欲しかったんですよ。
「僕」はそれに気付いているんだけど、そんな関係でも良いと思ってるんです。
それだけ「十六夜の時の彼女」に囚われてしまっているのです。
…とまぁ、長いですけど補足です。

人との関わりが怖くなった人は、とにかく『好きな人』より『好きでいてくれる人』を求めると思う。
『愛されるより愛したい』じゃなくて『愛するより愛されたい』とでも言うんでしょうか?(笑)
Posted at 2018/01/23 21:11:36 | コメント(0) | トラックバック(0) | | 趣味

プロフィール

「十六夜月 http://cvw.jp/b/670635/41018086/
何シテル?   01/23 21:11
榊 B 亮です。よろしくお願いします。 ひょんなことから以前のみんカラ登録を失い(悪事じゃないですよ。犯人は眠気です) また一から出直しです。 徐々に以前...
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