【はじめに】
第二章である。疲れたか(藁)?
まだまだ先は長いぞ!?
前章では、グローバリゼーションから再びブロック化へ向かう世界、秩序から混沌への移行について綴った。
諸氏には、我々は現在、このような混沌のとば口に立っていることをご留意いただきつつ、以後のエントリーにお付き合いいただけたら幸いである。
今後の流れであるが、
・本第二章~第四章
→2016年7月29日、すなわち参院選以後のアベノミクスなる経済政策につき、金融政策(=第一の矢)・財政政策(=第二の矢)・成長戦略と構造改革(=第三の矢)を説明、あるいはその可能性について考察する。
・第五章・第六章
→これ等政策の問題点と、(´・ω・`)の未来に与える影響を考察する。
・第7章・第八章
→第6章までを纏め、これからの日本について我々が与えられた命題を示す
というカタチになると思う。
また前章で述べたように、各節には引き続き重要度を★マークで示すことにする。
なお、構成については前章において計四章で行う旨予告していたが、時間的制約と配分を斟酌すると合計八章、書き上げるには8月末までかかると思われる。これだけでなんかもう、一冊の論文になってしまいそうだが、なるたけ〝嫁にも解る〟ように書くつもりなので、ついてこいwww
ちな、前章における嫁の感想は、
「みんカラに書くものではない」
だそうだw
【バーナンキの訓示】
参院選与党大勝の熱も冷めやらぬ7月11日、第14代FRB議長にして超リフレ派(※)経済学者のベン・バーナンキが来日、同日は日銀黒田総裁と、翌日は安倍総理と会談した。
ここで彼が述べたことは、識者の間で色々と推測されているものの、器《Utsuwa》は報道発表含め、以下のようなものであったのではないか、と考えている。
※…金融緩和と通貨供給量の増大により市中にお金をばら撒き、これを使わせることで景気を高揚させ同時に税収増をはかろうとする人たちの集まり。器《Utsuwa》は基本この人たちが好きではない。
1.素早く、かつ大規模なポリシー・ミックス(※1) (重要度★★)
表題につき、メディアや識者の言うとおり、バーナンキはこれを間違いなく提言したと思う。
金融政策(※1)、大規模補正予算を組んでの財政政策(※2)、そして構造改革や成長戦略(※3)を早期に実行すること、それも
アメリカ大統領選に間に合うように。
何故タイミングをアメリカ大統領選に合わせるかというと、理由は二つある。
アメリカとしては、選挙を前にしてテーパリングを加速させるなんてことしてたら、それは景気に水を差すことになり、米民主党は自ら自滅の道を歩むことになる。しかし前章に述べたように、アメリカの財政は現在非常に大きな危険性をはらんでいるから、利上げは急いでやらなきゃいけない。アメリカの利上げタイミングは、選挙が終わってすぐになるだろう。
その前に(´・ω・`)が、具体的なポリシー・ミックスを実行ないし実行可能な状態にしておけば、(´・ω・`)は経済対策として戦術的に、アメリカの利上げと景気の落ち着きという環境を上手く利用することができる。
また、現在安倍政権、いいや安倍晋三首相は、政治家としての悲願たる憲法改正に向け、民意を味方につけておきたいところがあろう。しかし、その民意については未だ〝キュウジョウを守れ!〟とか〝センソウをするクニにするな!〟とか、メディアスクラムに扇動された、わけのわからん護憲意識が蔓延っている。
ここで経済を悪化させ、安倍政権に対して風当たりが強くなると、憲法改正の灯は遠ざかってしまう。それを防ぐためには、GDP成長、株価、個人所得などを悪い方向にだけはもって行きたくない。
参院選大勝の熱気が〝冷めやらぬうち〟に、安倍総理としては何としても経済〝数値〟を鼓舞して起きたいところだろう(※4)。〝冷めやらぬうち〟ってのは、大体選挙後半年以内。支持率ってのは、概して選挙が終わって半年ぐらいの間は高い傾向を保持するし、ミスに対しても民意は寛容な時期なのだ。
そしてこの時期は、米大統領選が終わって新政権ができる頃と合致する。この間に具体的なポリシー・ミックスが成立していれば、経済の側面から支持率は高レベルをキープできるし、それは憲法改正発議への追い風になる。
これが二つ目の理由だ。
※1…GDP成長とか物価とか失業率とか、所謂マクロ経済の指標となる目標数字を達成するために、財政とか金融とか税制とかの各政策をワンセットにした、主に政府主導で中央銀行とか民間が追随するプロジェクトのこと。各政策は本来制度的に機関別に個別に実行されるべきものだが、ここにおいては名目上の共通目標を設定して、夫々の機能が互いに互助的に行動する。いわば挙国一致経済政策である。
※2…
前章 【世界の現在】1.インフレ(金融・為替)政策の説明 を読め
※3…政府が国民に向けてやる事業投資のこと。道路や病院作ったり、研究事業を起こしたり、イベントやったりするやつ。
※4…ま、いろいろとカラクリがあるんだけどね。それにこの時期ってのは、冬のボーナスの時期。ボーナスが上がるなら経済政策に対する評価もよくなるし、それは支持率上昇につながる。
2.メディアが(たぶん)報じていないバーナンキの訓示(★★★)
さて、上記については経済誌やメディアなんかではさんざん書かれてると思うが、以下の点については多分、あまり報じられていないと思う。ソースは秘密。
それは、
①政府と日銀で共通のインフレターゲット(※1)を再度設定し、
②このターゲットが達成できるまで、
日銀は政府に対し、
〝国債を絶対に手放しません〟
と約束しろ、と言ったのではないか?
ご存知のように、そもそも2013年3月に黒田総裁が就任した折、政府と日銀はこのターゲットを〝2年間で2パーセント〟とした。
しかし現実、これは最早破綻している。黒田総裁は既にこの〝2年〟というタイムリミットを3回も延長してるし、当のインフレ率については、2013年は0.36%、2014年は2.75%、2015年は0.79%、IMFは今年度はマイナスとなる予想している。政府や日銀は、大規模緩和(=第一の矢)での効果が消費税でデフレってダメになった、と言ってるが、消費税が上がることはそもそも判ってたし、何よりそれを超える緩和をしていたのだから、お話にならない。
何故こうなったか?については第6章以降でキチンと説明するが、とにかくインフレターゲットは達成できなかった。
で、バーナンキは次の一手として、
政府と日銀で再度インフレターゲットを設定し、これを達成するまで、日銀は政府の発行した国債を手放さない、と約束しろ、とwww
お解りだろうか?
これをやると、政府と日銀にはどんなメリットがあるか?
インフレターゲット達成まで〝異次元の量的緩和〟をやる、ということは、日銀がインフレターゲットを達成するまで、市中の金融機関から国債を買い続ける、ということだ。買ったお金は市中に流れ、マイナス金利(※2)で市場に押し出される。それが円の価値を落とし、インフレ圧力となる。
しかし、だ。日銀にしてみれば、自ら課したマイナス金利と、将来的に目減りするであろう国債の投資価値(※3)を考えたら、国債をいつまでも持っていたらバランスシート(※4)は悪化する。
喩えるなら、貴殿は借金してクルマを買ったが、クルマの価値は本来、借金の残債額面に比例するはずなのに、町の買取屋に持っていって売っ払ったら、もらえたお金はその残債価値の半分にもならなかった、というのと同じだ。
つまり、借金は残ったが、買ったクルマの価値はとてもそれと同等ではない、ということだ。それは貴殿の資産内容を、間違いなく悪化させるであろう?
日銀にとって、日本の国債とはそういうものだ。
そうだということを知ってたら、日銀は国債を〝旬のうち〟に売っ払うのが得策である。
しかし、だ。もし日銀が政府の国債を売っ払うことが起きると、日銀はいいけど、政府にとっては困る。
何故なら、国債とは政府の借金証書みたいなもので、しかも世間の評価は決してよくないときている。それを中央銀行が手放す、となれば、世間つまり市場は、〝日本の政府の将来はアブナイ〟と見る。
そうすると国債の価値は現実的に、一気に暴落する。それは日本はモウダメポ、と言うに等しく、日本の資産は通貨価値を含めて暴落する。国内外含め民間は国債を政府から買うに、日本という国を担保にして買うのだから、日本の価値が落ちれば、国債は誰も買わなくなる。
誰も国債を買ってくれないと、政府は全ての機能を停止する。公務員の給与も出ない。公務員は働かなくなる。これが前章で説明した、アメリカの財政の崖やギリシア債務危機で起きた現象だ。
で、バーナンキの提言。
〝日銀は政府の発行した国債を手放さない、と約束しろ〟
これが実行できれば、政府はこの先もジャンジャン国債を発行できるし、日銀はこれを売らないのだから、バランスシート上での資産価値は落ちない。
これ、
ウルトラCな。
え? インフレターゲット達成したら?
一般論で言えば、そのときは経済も成長して税収増えて、将来の見通しも明るくなるだろうから、国債売っても価値は落ちないんじゃないの?
でも、現実は・・・(お察しください)
※1…金融政策の目標を物価安定に絞り、中長期的な物価上昇率の数値目標を中央銀行と政府で共通のものにして、その目標の近くにインフレ率を誘導するように行う金融政策。
※2…あとで説明する。ここでは市中にお金が流れる、とだけ覚えとけばいい。
※3…これについても第6章以降で説明する。とりあえず日本の国債は、今のままではどう考えても将来的に価値を落とす、と心にしまっておくといい。
※4…貸借対照表のこと。左っ側がその経済主体の資産の(ある程度)具体的な内容。右っ側は、その原資、平たく言うと資金の出所(借金とか自分のお金とか)を指す。
3.日銀の国債買い増し+20兆円、現在とあわせて年間100兆円の緩和拡大(★★)
ま、これについては巷では希望的観測と悲観論が交錯してる。
私は多分、これについては〝
禁じ手使ってやる〟と思ってる。
それについては次章、ヘリコプターマネーのお話で綴る。キーワードは、8月2日の麻生・黒田会談な。
眠いから、ここでは説明しない。次章を待て。
【現在状況】
而して、バーナンキの提言は実行されたか?
7月22日、経済財政諮問会議にて、総額20兆円を超える経済政策を発表。
同26日、安倍総理は財政出動の水増しを発表。
同29日、日銀は金融政策決定会合で、更なる緩和を発表した。
明けて8月2日、安倍総理は『未来への投資』と称して、総額28.1兆円の経済政策を発表した。
タイミングは、セオリー通りほぼ同時。
『今後、政府、日本銀行が一体となって、あらゆる政策を総動員して、全力でデフレ脱却に取り組んでいきます』
『600兆円経済の実現に向けた取組と経済・財政再生計画に基づく歳出改革を加速していかなければなりません。関係大臣には、本日取りまとめていただいた平成29年度予算の全体像を踏まえ、今後取りまとめる経済対策を実施するための補正予算と29年度当初予算を一体として将来につながる切れ目のない対応を進めていただきたいと思います。』
…総理の発言も勇ましかった。
しかし、
市場の反応は冷たかった。
本経済政策は規模こそ大きいものの、単年度ではなく複数年次にわたるものであり、直接の効果はない。
しかも、政府による財政出動、所謂〝真水〟は、〝たったの〟6兆円。
金融サイドにしてみても、期待された国債買い増し20兆円の発動はなく、マイナス金利拡大もなく、GPIF(※1)によるETF買い増し2.7兆円(トータル6兆円)のみ。
結果は・・・
・・・大したことにならなかった。円安どころか、円高に進んだ。
何でこうなった?
その理由は簡単。
今回の経済政策に、
市場が失望したからだ。
為替について言えば、たかだか2.7兆円の緩和効果など、前章で述べたアメリカの原油在庫量や物価指数低下、BrexitによるEU域内総生産の低下の威力の前には、吹き飛んでしまったからだ。
辛うじて株価だけは支えられたが、それは買い増しした2.7兆円が〝支えている〟だけで、円高ドル・ユーロ安のせいでトヨタなんか2350億円の為替損失を出した。トヨタでさえコレだから、輸出関連株は軒並み売られた。
内需にしても、もともと少子高齢化でガタガタ、単年度財政政策は6兆円・・・あまりに弱弱しい下支え。とても輸出関連株をカバーするには至らない。
市場は行き場を失った。株をはじめとするリスク資産は売られ、なんか解らんが安全視されている〝円買い〟が加速した。
ヘッジファンド(※2)のシステムトレード(※3)が、これに輪をかけた。
結果18日、18日のロンドン市場で1ドルは99円台へ、ユーロは112円と、
〝経済政策なんて発表しない方がよかった〟という結果となった。
ま、要約すれば、今回の経済政策は…
「足らんかった」
のだ。
バーナンキの提言で採用されたのは、
タイミングだけだった。
今回の経済政策発表・・・市場にインパクトを与えるには、これは小規模すぎる。
報道では〝近年3番目の規模〟と発表されたが、それはあくまで複数年度の話。
表を見ての通り、単年度予算規模は、驚異的なものではない。
しかし、これは実は序章であろう。
本当の経済政策発動は、9月だ。
正直、それが国益になるかどうか…私、器《Utsuwa》は、日本の経済にとっては△、日本の国にとっては×であると考えている。
ヘリコプターマネーなど、諸氏が気になる話題は多分、次章になる。
つづく
※1…年金積立金管理運用独立行政法人。みんなから徴収した年金を元手に資産運用して膨らまかし、将来の財源不足をカバーするために存在している。日銀が持ってる株は、ここから買っている。
成績は、2015年度で対前年比マイナス5兆3千億円(公式発表:実際は保険機構入れて6兆円)。ここ10年くらいでは40兆円くらい〝勝って〟いるらしい。サヨクのおバカさんたちは、資産運用は単年度で見るものではないことを知らないから、一生懸命安倍おろしのネタに使っている。
※2…市場からではなく個人や企業から直接集めた資金を使って、市場の空気を加速させるために、空売りやデリバティブ取引を行って金融商品の価格を実態以上に吊り上げたり、逆にこき下ろして、その差額で儲ける悪い人たちのこと。
※3…ヘッジファンドの連中が使用する常套技術。ある金融商品の価格が、任意に設定したある程度の金額にきたら、自動的にこれを強烈に、大量に売買するようにコンピューターに仕込んでおく。電話したり打ち合わせするより手っ取り早く利益をモノにできる。前章で情報技術の進化について触れたが、これはその暗黒面。