• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+

ワンオフもぇ~♪のブログ一覧

2017年01月02日 イイね!

書籍 ”ミッドシップスポーツカー” (その22)

ミッドシップスポーツカー

館内 端 ・ 折口 透

株式会社グランプリ出版

1984年1月17日 初版発行



◆第1部 ミッドシップの理論的考察

ミッドシップの理論的考察  舘内 端

【第3章 ミッドシップの特性】



5.ミッドシップとタイヤ特性

 乗心地とグリップ力のバランスは、ミッドシップ用のタイヤといえども求められる。
特別なタイヤがミッドシップに必要だということではないが、シャシー特性とのバランスでいえば、より高性能なタイヤの方がミッドシップには適するだろう。
特に過渡応答性に優れたタイヤが求められる。

 ミッドシップに求められるタイヤ特性は、先の①~⑦をタイヤを中心に考えることでその糸口が求められる。
その前に、タイヤの過渡応答性について説明しておこう。

 タイヤは弾性体であるために、スリップアングルが与えられてからコーナリングフォースを発生するまでに、時間的な遅れを持つ。
この遅れが小さいほど過渡応答性が優れていることになる。これをクルマの動きからいえば、ステアリングを切ってからタイヤにコーナリングフォースが発生するまでの状態でありこの状態が短時間で終わるほどクルマはシャープに感じられるわけだ。
先の例でいえば①→③にあたる。

 さて、ドライバーはそれまでの経験から、コーナー半径、車速等に応じてステアリングを切る。
このとき過渡応答性の悪いタイヤであると、ステアリングを切ったにもかかわらずクルマが向きを変えようとする兆候が現われない空白の時間が長い。
するとドライバーの頭の中のフィードバック回路はステアリングの切り角に修正を求める。
ドライバーはこの命令に従って切り角を増す。
そのとき急激にコーナリングフォースが発生したとすると、クルマはいきなりヨーイングを起こす。
それがミッドシップであれば、ヨーイングの角速度は速い。
クルマはコーナーの内側に向かって急速に切り込んでいくことになる。

 ここまでのクルマの動きからいえることは、過渡応答性が悪くコーナリングパワーの大きなフロント・タイヤはミッドシップには不向きだということになる。
慣性モーメントが小さく、重心が後ろ寄りのミッドシップでは、コーナリングパワーが必要以上に大きなフロント・タイヤでは不要であるばかりか、ミッドシップのクセを強めることにもなりかねない。

 ヨーイングが生じると、リア・タイヤにスリップアングルが与えられる。
リア・タイヤは自身の過渡応答性に従いながら、少し遅れてコーナリングフォースを発生する。
この場合、上記の例のようにヨーイングが急激でクルマは激しく内側に切り込んでいったとすると、リア・タイヤがコーナリングフォースを発生する前にスピンに至ることもあり得る。
したがってミッドシップではリア・タイヤにも過渡応答性に優れた特性が求められることになる。



 ところで過渡応答性は、バイアスよりもラジアルの方が、また偏平率が大きなものより小さなものの方が悪いという傾向がある。
60%あるいは50%の偏平率のいわゆる高性能ラジアルタイヤは、ミッドシップの出現によってまた新たな対応が迫られないとはいえないだろう。

 以上は、ミッドシップの慣性モーメントとタイヤ特性との関係である。
次に、重量配分との関係を考えてみよう。

 ミッドシップの重量配分は後ろ寄りであり、これはFFやFRとは全く逆である。
リア・タイヤはフロントに比べて思い車重を支えながら、駆動力も負担しなければならない。

 タイヤのグリップ力には限りがあり、コーナリングフォースとして使えるグリップ力は駆動力の伝達のために使われたグリップ力をトータルのグリップ力から差し引いた残りである。
FFであると、駆動力によるコーナリングフォースの低下と重い前輪荷重のためにアンダーステアな傾向が強まる。
FRでは駆動力はリア・タイヤが負担するので、フロント・タイヤ:思い前輪荷重、リア・タイヤ:駆動力によるコーナリングフォースの低下という組み合わせのため、パワーオンの状態ではニュートラルステアに近くなる。

 一方、ミッドシップでは思い後輪荷重と駆動力の負担の両方によってリア・タイヤの負荷は大きく、コーナリングに対するリア・タイヤのグリップ力は不足気味になる。
したがってステア特性はオーバーステア気味だ。
さらに急激なヨーイングが発生しやすいので、ターンインからミドル・オブ・コーナーそしてアウト・オブ・コーナーまでオーバーステアな状態が続くことになりやすい。

 ところで、重量配分との関係で前提条件としていたことは、前後タイヤが同一サイズ、同一グリップ力ということだった。
これは、FFとFRがほとんどの現在のバリエーション分布を考えると当然のことである。
そしてFF、FRともにフロント・ヘビーであるために前後とも同じタイヤでもアンダーステアな傾向にありクルマのスタビリティは高く、このようなタイヤの組み合わせでも問題はなかった。



 しかし、ミッドシップでは前後同一タイヤであるとオーバーステア傾向となるためクルマのスタビリティ=安定性は損なわれやすい。
したがってミッドシップでは前後で異なるサイズのタイヤを装着する必要性が高い。

 例えばRRで300馬力という高出力なエンジンを搭載するポルシェ930ターボのタイヤは、フロントが205/55VR16、リアが225/50VR16と前後で異なるサイズだ。
一方FRのポルシェ928Sでは300馬力のパワーに対して前後とも225/50VR16で同一サイズである。
RRとFRを重量配分だけで一概に結論づけられないが、このバランスからいえばミッドシップでもフロントに比べてサイズの大きいリア・タイヤを採用するのは、それほど異質なことではない。

 FF車の増加とともに、そのクセを少なくすべくFF車専用タイヤが創られたように、ミッドシップがより大衆的なクルマとなりつつあることを考えると、ミッドシップ専用のタイヤが不必要だとはいえないだろう。
Posted at 2017/01/02 14:29:14 | コメント(0) | トラックバック(0) | 書籍 | 日記
2017年01月02日 イイね!

書籍 ”ミッドシップスポーツカー” (その21)

ミッドシップスポーツカー

館内 端 ・ 折口 透

株式会社グランプリ出版

1984年1月17日 初版発行



◆第1部 ミッドシップの理論的考察

ミッドシップの理論的考察  舘内 端

【第3章 ミッドシップの特性】



4.慣性モーメントとクルマの動き


 慣性モーメントは回転運動の慣性であるわけだから、回転を始めたり止めたりするときに問題になる。
一定回転で運動している場合には問題にならない。

 慣性モーメントの大きな物体、例えば思いフライホイールを回転させようとすると、大きな力が必要だ。
自転車の車輪と自動車の車輪との比較でもいいだろう。
ジャッキアップした自動車の車輪を回転させようとすると、自転車の車輪の場合よりもずっと大きな力を必要とする。
また、回転を止めようとするときにも慣性モーメントの大きな物体の方が大きな力を必要とする。

 一定回転数に達するまでの時間を考えてもいいだろう。
同じ回転力を与えても、慣性モーメントの大きな物体では、回転はなかなか速くならない。
慣性モーメントの小さな物体は短時間で回転が速くなる。
ターボチャージャーのコンプレッサー/タービンを考えてみると分かるだろう。
大型のそれは回転が上昇するのに時間がかかるため、ターボ・ラグが大きい。

 慣性モーメントの大小は、回転を始めたり止めたりする過渡状態で問題になることをもう一度確認しておこう。

 次にクルマが曲がるときのことを考えてみよう。
クルマの動きを論じる場合、一般的にはすでに曲がっていて連続したコーナリング状態にあるときの様子を考えている。
しかし、ヨーイングの慣性モーメントが問題になるのは、直進状態から一定のコーナリングに至るまでの過渡状態においてである。
先の例で言えば、コーナーにアプローチするターンインの状態においてだ。

 過渡状態のクルマの動きを詳しく見てみると、次のようになる。
①ステアリングを切る。
②フロント・タイヤに舵角が与えられる、
③フロント・タイヤにコーナリングフォースが発生する、
④クルマにヨーイングが発生する、
⑤リア・タイヤにスリップアングルがつく、
⑥リア・タイヤがコーナリングフォースを発生する、
⑦リア・タイヤのコーナリングフォースによってヨーイングが収束し始める。
一定のコーナリングでは、フロントとリアのタイヤ両方がコーナリングフォースを発生しているが、過渡状態の初期ではリア・タイヤはコーナリングフォースを発生しておらず、終期においてはじめてコーナリングフォースを発生する点に注意したい。

 ①から⑦までの動きにはすべて時間がかかる。
巨視的には①→⑦は一瞬の出来事であり①と同時に⑦の状態になるように見えるが、微視的には①→②、②→③、③→④……の変化にほんのわずかではあるが時間を必要とする。
①→②にはステアリング系の剛性が関係する。
剛性が低いほどステアリング・ホイールの動きがタイヤに伝わるのに時間がかかる。
②→③ではタイヤ特性が問題になる。
例えばラジアルタイヤはコーナリングフォース、コーナリングパワーともにバイアスタイヤよりも大きいが、舵角が与えられてからコーナリングフォースが発生するまでに必要な時間は長い。

 慣性モーメントが関係するのは③→④である。
慣性モーメントが大きいと、フロント・タイヤにコーナリングフォースが発生してからクルマが一定のヨーイング角速度を持つに至るまでに時間がかかる。
クルマをフライホイール、コーナリングフォースをフライホイールを回そうとする回転力と考えてもいいだろう。

 慣性モーメントの小さいミッドシップは、ステアリングを切ってからクルマの向きが変わるのに短い時間ですむわけであり、これがミッドシップのシャープさにつながる。

 さらにミッドシップで注目しなければならないのは⑥→⑦である。
⑥→⑦は回転しているフライホイールの動きを止めることと似ている。
慣性モーメントが大きいとヨーイングの収束は遅くなる。
あるいは勢いがつくと止められずスピンに至る場合もある。
RRが振り回されるようにしてスピンしてしまうのは、この状態にあたるだろう。ミッドシップでは慣性モーメントが小さいので、ヨーイングの収束も容易でありかつ早い。



 クルマの動きのシャープさというのは、動き出しがシャープなだけでは得られず、動きが止まる際にもシャープである必要がある。
このような場合に初めてカチッとしためりはりのあるフィーリングが得られる。
RRでは、動き出しはシャープだが、その後にドローなフィーリングになってしまう。
 ①→⑦ではタイヤ特性も重要だ。
例えばコーナリングパワーが大きくとも応答性の悪いタイヤは、ミッドシップには向かない。

これについては次に詳しく考えてみよう。
Posted at 2017/01/02 14:21:32 | コメント(0) | トラックバック(0) | 書籍 | 日記
2017年01月02日 イイね!

書籍 ”ミッドシップスポーツカー” (その20)

ミッドシップスポーツカー

館内 端 ・ 折口 透

株式会社グランプリ出版

1984年1月17日 初版発行



◆第1部 ミッドシップの理論的考察

ミッドシップの理論的考察  舘内 端

【第3章 ミッドシップの特性】



3.慣性モーメント

 ミッドシップの操縦安定性を他のクルマと異なるものにしているのは、重量配分と慣性モーメントの違いである。
逆にいえば、このふたつを理想に近づけるためにミッドシップは生まれたことになる。
将来、現在のエンジンよりもずっと軽量でコンパクトなエンジンが出現すると、あるいはミッドシップの存在価値は希薄なものになるかもしれない。
クルマを構成する部品の中で最も重量の重いものはエンジンおよびミッションである。
したがって、これをどこにレイアウトするかということは重量配分と慣性モーメントを大きく支配することになる。

 慣性モーメントは、回転運動に対する物体の慣性を表わす量である。
そこでまず慣性について考えてみよう。



 慣性による力(慣性力、inertia force)を感じるのはこんな場合である。
例えば、転がってくるボーリングの球を受け止めるとする。
すると球が重いほど、転がる速度が速いほど、そして受け止めるときの速度の殺し方が急なほど受け止める力は大きい。
いずれにしてもボーリングの球が力を持っているように感じる。
これが慣性力であり、いわゆる外力とは異なる力であることから「見かけの力」とも呼ばれる。

 この例と同様に、回転する物体を停止させるにも力が必要だ。
回っているコマを指で止めようとすると、コマの大きさによって止めるのに必要な力が違う。
コマが大きいほど止めるのに必要な力も大きい。
慣性モーメントは、このように回転運動をする物体の慣性を表わす量である。
慣性モーメントは、先のボーリングの球の場合と違って「重さ」だけでは決まらないところがむずかしい。またこの点に注目したい。


 そこで簡単な例を上げて慣性モーメントを実感としてとらえてみよう。

まず細長い棒の慣性モーメントIを考えてみる。太さを一様として長さをlとする。

最初は棒の中央部を通りこれに垂直なx軸のまわりの慣性モーメントIxを考える。

棒はx軸を中心にバランスよく回転するわけだ。

Ixは

 Ix = W/g * l~2 /12

となる。

Wは棒の重さ、gは重力加速度である。

次に棒の一端を通りこれに垂直な’ 軸まわりの慣性モーメントIx ’を考える。

棒の端を持って棒を回転させる場合だ。

I’xは、

 I’x = W/g * l~2 /3

となる。

I’xはIxの4倍も大きい。

慣性モーメントは考える軸によって同じ物体でも違うことに注意したい。


 次は円板を考えてみよう。

円板のひとつの直径の軸xまわりの慣性モーメントIxは、

Ix = W/g * d~2 /16

となる。

Dは直径である。

一方、円板の中心を通る軸zまわりの慣性モーメントIzは、

Iz =W/g * d~2 /8

となる。

これも考える軸によって慣性モーメントが異なる例だ。

 円板でz軸まわりの慣性モーメントをもう少し詳しく調べてみよう。

Izは、円板の重量Wに比例し、直径dの2乗に比例する。

同じ重量であれば直径dの小さい円板の方が慣性モーメントは小さい。

しかも直径の2乗で慣性モーメントは影響されるから、慣性モーメントを小さくするには重量の軽減よりも直径を小さくする方がずっと効果的である。

これは重さがその物体の中央に集中している物体の方が同じ重さであっても重いものが周囲に分散しているものより慣性モーメントは小さいという原理を導くことになる。

エンジンのフライホイールにこの原理は使えそうだ。

それには慣性モーメントの定義を理論的に知る必要がある。


 物体の慣性モーメントを求めるには、まず軸をひとつ決める必要がある。

物体の微小部分の質量をdmとして、考えた軸からこの微小部分までの距離をrとすると、慣性モーメントIは

I = 積分S r~2 dm

と定義される。

この式から、考える軸よるも遠い位置に重いものがあるほど慣性モーメントは大きくなることが分かる。

したがって、重量を軽くしつつ同一の慣性モーメントを得ようとすれば、中心部分の肉厚は薄くリングギアの近くでは肉厚の厚いフライホイールにすればよいことになる。

逆に同一重量、同一半径で慣性モーメントの小さなフライホイールを作るには、中心部の肉厚を厚く、外周部を薄くすればよい。


 以上のことから、クルマのヨーイングの慣性モーメントは、重心点から遠いところに重量物があるほど大きくなることが分かる。

重量物として最大のものはエンジン/ミッションであるから、これが重心点から遠く離れているクルマほど慣性モーメントは大きいといえる。

もちろんホイールベースも慣性モーメントに影響するわけであり、ホイールベースが長いほど慣性モーメントは大きい。


 同一ホイールベースとすれば、FFやFRに比べてミッドシップはヨーイングの慣性モーメントが小さいことになる。

またエンジンを横置きにするFFはFRよりも慣性モーメントが大きいことも分かる。



 エンジン/ミッションという重量物がフロント・アクスルの近くにあるFF、FRは、重量配分が前寄りだ。

エンジン/ミッションを少しでも後方にレイアウトすれば、重量配分は50/50に近づく。

そして同時に慣性モーメントも小さくなる。

慣性モーメントは重量配分とも関係があることに注意したい。


 これまで、考えてきた慣性モーメントはヨーイングに関するものであった。

クルマの重心を通る上下の軸をz軸、前後の軸をx軸、左右の軸をy軸とすると、z軸まわりの慣性モーメントを考えてきたことになる。

慣性モーメントはこれだけではなく、x軸まわりのローリングの慣性モーメントやy軸まわりのピッチングの慣性モーメントもある。

操縦安定性では、特にヨーイングの慣性モーメントが大切だ。

しかし、ミッドシップであると、ピッチングの慣性モーメントも小さくなる。

これは、ブレーキや加速度の過渡的なピッチングに影響してくる。


この点も見逃せない。


これについては次に詳しく調べてみよう。
Posted at 2017/01/02 14:14:43 | コメント(0) | トラックバック(0) | 書籍 | 日記
2017年01月02日 イイね!

書籍 ”ミッドシップスポーツカー” (その19)

ミッドシップスポーツカー

館内 端 ・ 折口 透

株式会社グランプリ出版

1984年1月17日 初版発行



◆第1部 ミッドシップの理論的考察

ミッドシップの理論的考察  舘内 端

【第3章 ミッドシップの特性】


2.重量配分による違い

 重量配分は、クルマのステア特性に大きく影響する。
前後のタイヤ性能が同じで等しいスリップアングルであるとすると、コーナリング中のクルマの力のバランスは次のようになる。


①フロント・ヘビーの場合
 ホイールベースの中心よりも重心点が前にある場合では、重心点まわりの力(モーメント)は、クルマをコーナー外側に向けるように働く。
したがってアンダーステアとなる。
ドライバーはこのようなクルマの動きを知ると、ステアリングをさらに切り込むことで一定半径の旋回を保とうとする。
コーナリング限界より手前のコーナリング・スピードであると、フロント・タイヤのスリップアングルが大きくなる。
旋回半径が同一であっても、この状態はアンダーステアだ。
アンダーステアの度合は、重心点が前にあるほど強い。

 重心点が前寄りであると前後の重量配分は前で重くなる。
一般的なFR車ではその割合は前60%、後40%だ。これに対してFF車では前64%、後36%程度である。
FRに比べて重量配分が前寄り、つまりフロント・ヘビーのFFはアンダーステアが強いことになる。
4%の差というとわずかの違いのようであるが、ステア特性に及ぼす重量配分の影響は想像以上に大きく、数%の違いでクルマの性格はがらりと変わる。

 最大スリップアングルが必要なコーナリング、すなわち限界コーナリングでは、さらにスリップアングルを増大することでステア特性を変化させることはできない。
したがってこの場合では、重量配分によってステア特性がほぼ決まってくる。



②前50%、後50%の場合
 重心点がホイールベースの中心にある場合だ。
このときにはクルマを回転(ヨーイング)させようとするモーメントはゼロとなり、ニュートラルステアになる。
最も好ましい重量配分といえよう。
この理想的な重量配分は、ミッドシップよりもFR車の方がむしろ実現の可能性が高い。
例えばロータリー・エンジンのコンパクトさを生かしてエンジンをできるだけ運転席に近づけて搭載したサバンナRX-7や、ミッションをリア・アクスルに置くトランス・アクスルを採用するポルシェ928などが、50/50の重量配分を達成させている。

 先のフロント・ヘビーの場合では、限界コーナリングでクルマのバランスを保とうとすると、リアに比べてグリップ力の大きいタイヤをフロントに装着する必要がある。
駆動によってグリップ力の一部を食われてしまうFF車では、さらにこれが顕著だ。
FFをレース用に仕立てる場合には、タイヤ・サイズはフロントで大きくする必要がある。

 一方、FRは駆動力をリアで負担するために、フロントが重いとはいいつつもフロント・タイヤは駆動力から解放されており、そのために横方向のグリップ力を奪われることがないのでバランスは保ちやすい。
高性能エンジンを搭載したFR車では、駆動力を吸収するためにリア・タイヤのサイズアップが必要になる。
駆動力を考慮すると、50/50の重量配分のクルマであっても、エンジン出力が大きい場合にはリア・タイヤのサイズを大きくする必要がある。



③リア・ヘビーの場合
 ミッドシップやRRの場合がこれに相当する。
力のバランスで、クルマをコーナーの内側に向けようとするモーメントが生まれるためにオーバーステア特性になる。
これをニュートラルステアに近づけるには、リア・タイヤのサイズをフロントよりも大きくする必要がある。
特に高性能エンジンを搭載する場合ではFRに比べてさらに大きなリア・タイヤが必要だ。



 ミッドシップでは、リア・ヘビーになることでリア・タイヤの荷重が大きくトラクションでは有利だが、ステア特性や安定性では不利になりやすい。
FR車におけるフロント・ミッドシップやトランス・アクスルと同様に、ミッドシップでも数%のオーダーの細かな重量配分の是正が必要だろう。
そして、この問題はレイアウト設計に引き継がれるわけであり、レイアウトは操縦安定性とスペース効率の矛盾の谷間でいっそうむずかしくなる。ミッドシップに可能性があるのは、FRやFFのように洗練されればずっと高い性能を持つだろうと充分に推測されるからである。
裏返せば、現代のミッドシップには未完成の部分が多いということだ。

 例えばミッドシップの古典的な例としてフォーミュラカーを考えると、狭いスペースの中に実に効率良く必要なパーツを収納しつつ、そのレイアウトによって細かな重量配分の調整がなされていることがわかる。

 ラジエター、バッテリー、消火器、燃料タンク、シート位置、オイルタンク等のレイアウトを重量配分という視点からながめてみるのはとても興味深い。
また重要な点は、レイアウトの際にはタイヤの特性が十分に考慮されているということであり、逆にそのシーズンに使われるタイヤはマシーンの重量配分を充分に考慮した上で設計されるということだ。

 FFやFRと同様にあるいはそれ以上に、ミッドシップでは重量配分との兼ね合いでタイヤ特性が重要になる。
ミッドシップ専用のタイヤも出現するだろう。

 ミッドシップ用のタイヤが、FFやFR以上にシビアな設計がなされるというのは、重量配分によってオーバーステアな特性を持つからである。
この特性は直進安定性を悪化させやすく、クルマのスタビリティは低下する。
市販乗用車として最も重要な性能であるスタビリティの低下こそ、ミッドシップの大きな欠点だろう。
そして、その基本特性はミッドシップの重量配分によって与えられている点に注意したい。
この点に注目しないと、ミッドシップのサスペンションも空力特性も理解できないことになる。
Posted at 2017/01/02 14:05:47 | コメント(0) | トラックバック(0) | 書籍 | 日記
2017年01月02日 イイね!

書籍 ”ミッドシップスポーツカー” (その18)

ミッドシップスポーツカー

館内 端 ・ 折口 透

株式会社グランプリ出版

1984年1月17日 初版発行



◆第1部 ミッドシップの理論的考察

ミッドシップの理論的考察  舘内 端

【第3章 ミッドシップの特性】


⑥直進安定性
 すべての特性や性能は、最終的には直進状態に反映するといってもいいだろう。
ミッドシップは高い直進安定性のポテンシャルを持っている。
しかし、セッティングに誤りがあれば逆に直進安定性は低下しやすい。
FF、FR、RRに比べると、ミッドシップはセッティングに敏感だということができる。
理想的なセッティングがなされた場合には、FR、RRに対してずっと高い直進安定性を示すだろう。

 直進安定性に最も優れたレイアウトはFFである。
逆にいえば、直進安定性が悪いFFは相当にレベルの低いクルマとなる。
FRはRRよりも優れた直進安定性を示す。



⑦横風安定性
 ミッドシップは、レイアウト上からFFやFRとは異なるスタイルになる。
空力特性もこれらのクルマとは異なるわけだが、特に横風を受けた時の特性が問題になりやすい。
横風の風力中心と重心との前後位置関係がポイントになるわけだが、風力中心が重心よりも後方でその距離が大きいと、横風を受けたときに不安定で収束が悪くなるという説もある。

 横風安定性は直進安定性にダイレクトに影響する。直進安定性の向上をミッドシップで図るには、FFやFR以上に横風安定性に注意しなければならないだろう。
Posted at 2017/01/02 13:58:03 | コメント(0) | トラックバック(0) | 書籍 | 日記

プロフィール

「@てぇかむ#低燃費化 さん 記事の内容だと、今回の極小さな部材追加での燃費に対する効果については触れていなくて、部材取り外して突起構造の空気抵抗等による摩耗とかを確認し、再び単品での効果が持続的であるか?みたいな、材質選定といった初期的な確認なんですね。」
何シテル?   01/25 12:54
メカニズム解説とか、技術的な話題が大好きです。 ホンダ ビート(若葉色メタリック)はボデーがコチンコチンで脚は柔らかめで峠寄りの街乗り仕様です。 ...
みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2025/6 >>

1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     

リンク・クリップ

カウルトップシール代替品交換作業 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2023/07/03 15:14:09
ホンダ純正 ラジエーターキャップカバー 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2023/05/22 20:47:07
トリップメーター修理 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2023/05/19 20:43:27

愛車一覧

ホンダ ビート 若葉メタびぃ (ホンダ ビート)
ボデー色は、ホンダ他車種設定カラーであるリーフグリーンメタリック(GY21M)です。 ...
ホンダ フリード ふりーど (ホンダ フリード)
家族車ですが、納車整備にて フロントロアアームバー  ・CUSCO 386 475 A ...
ビモータ bb1  supermono ビービーワン (ビモータ bb1 supermono)
なぜか、2台目のビモータ BB1 BIPOST(二人乗り)です。 1台目は、納車2週 ...
ホンダ モンキーR フルカウル赤婆茶猿 (ホンダ モンキーR)
壱号機の変身後 (2024/10/28更新) デイトナ製 バーチャル・ステア・モンキー ...

過去のブログ

2025年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2024年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2023年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2022年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2021年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2020年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2019年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2018年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2017年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2016年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2015年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2014年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2013年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2012年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2011年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2010年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
ヘルプ利用規約サイトマップ
© LY Corporation