NAVI 2 FEB/1993 二玄社
ホンダNSX-R vs オートザムAZ-1
同じように尊重したい
ホンダNSX-Rと、オートザムAZ-1との共通点は、どちらのクルマも、エンジンがドライバーの背後にあることである。
しかし、共通点といえば、それくらいだ。かたや970.7万円、かたや149.8万円。実際に2台を両天秤にかける人など、いるはずもない。
けれど、僕にはもうひとつ、大きな共通点が指摘できる。新車のニュースが低調だった92年、ドライバーズシートに座った私を、いちばんスカッとさせてくれたのが、この2台だったのである。
仮想敵は旧ニュルブルクリンクの"ラップタイム"
『2倍、3倍はアタリマエ!』の硬い足回りを持つNSX-Rのハンドリングは、予想以上にスゴイものだった。なにがスゴイと言って、ノーマルNSXにはみられない体育会的なキャラクターがスゴイ。
トラクションコントロールがないから、280psで地面を蹴る後輪の動きは、ドライバーのアクセルワークに100%任される。ミドシップとしては、基本的にすこぶるセーフでコントローラブルな性格であるのは相変わらずだが、ダウンフォースに頼るウイングカー的に、"平然と早い"ノーマルNSXと比べると、こちらはずっとスパルタンに速い。速いも速いが、大変も大変なのだ。
特にステアリングのキックバックは、いかなる標準をもってしても強烈で、芦ノ湖スカイラインの荒れたコーナーを攻めると、しばしば両腕で荒馬をねじ伏せるような気分が味わえる。間違いなく、国産車のキックバック王。
というわけで、個人的には、乗心地との兼ね合いを考えると、ノーマルNSXの足回りで十分だと思う。それに、この軽量ボディと、少しスパイスのきいたエンジンという組み合わせが理想だと思ったが、しかし、あくまでそれは個人的な意見にしておきたい。
そもそも、なぜにこのクルマが、かくもスパルタンな足回りを持つに至ったかといえば、仮想敵を、世界一過酷なサーキットといわれる旧ニュルブルクリンクの"ラップタイム"に置いたからだ。平たくいうと、ホンダの開発者たちが、ニュルブルクリンクでもっといいタイムを出せるNSXをつくろうとしたら、足回りがこんなになってしまったのである。
つまり、本人がそうしたかったのだから、しかたない。ここは是非ひとつ、若い本人たちの意志を尊重したいと思う。
『国産車で最も低い』と謳うボディ全高
そうやってNSX-Rを尊重した箱根で、こんどはオートザムAZ-1に乗り換えた。スズキとのメーカー協力で、マツダが送り出すミドシップの軽自動車。ビート、カプチーノに続く、軽のお調子モノ第3弾である。
AZ-1に乗るのは初めてではない。以前乗ったときに、これは"子供のオモチャ"のように楽しいクルマだと思った。
しかし、いざ箱根で、本物のスーパーカーの隣に、この『スーパーカー消しゴム』のような軽を並べてみると、2台を比べるのは、はっきりいって暴挙であるような気がしてきた。だいたい、比較テストというのは、ものすごく冷酷で、2台の間に優劣があると、それが単独で乗るとき以上に強調されてしまう。
だが、そんなことは全く杞憂だった。箱根の峠道でのAZ-1は、オモシロサという点で、NSX-Rに遜色なかったのである。
AZ-1の性格をひとことで表すと、ガルウィング・ドアを持つカートである。そして、カート的な性格を決定づけているのは、すこぶるクイックなステアリングと、すこぶる低い視点と、すこぶるピーキーなエンジンの3点セットでもある。
パワーアシストなしのステアリングはロック・トゥ・ロック、わずか2.2回転。欲をいえば、もう少しステアリング系全体に剛性感が欲しいところだが、クイックなことは恐ろしくクイックで、芦ノ湖スカイラインを飛ばしても、ほとんどハンドルを"傾ける"だけでことたりる。
『国産車で最も低い』と謳うボディ全高は、NSX-Rより1cm低い1150mm。隣に普通のセダンが並ぶと、こっちは向こうのドライバーより、少なくとも頭ひとつ分は低い。実際、走っていて、これほど舗装のツブツブがよく見えるクルマはない。おかげで、スピード感の速いことは、NSX-R以上である。
後車軸のほぼ真上に搭載される660ccエンジンは、カプチーノと基本的に同じ64ps/6500rpmの3気筒DOHCターボ。実に9100rpmまで回る12バルブ・ターボ・ユニットは、3500rpm付近からネズミ花火のように回り、せせこましいほどの加速性能を演出する。
スピードリミッターは、無情にも速度計の135km/hあたりで作動してしまうが、そこまでなら、AZ-1はばかばかしいほど速い。メーター上、1速=50km/h、2速=84km/h、3速=124km/hという下3段のギア比の最高速も、ひと昔前の1.6L級スポーツカーのレベルである。
といった具合に、このクルマには、全編『ここまでやる!?』というような突拍子の無さが横溢している。
1000万円も150万円も同じように
そのかわり、欠点も少なくない。というか、いまどき、これほど欠点や不都合があらわなクルマも珍しいだろう。
自慢のガルウィング・ドアの使い勝手は、トヨタ・セラほど親切ではなく、シートに座ったまま車内から閉める際に、けっこうな腕力と腹筋とを要する。
フロアから30cmも立ち上がったサイドシルを持つために、狭く低いコクピットに、一旦、乗り込むと、とくに体の硬い人は降りるのがそうとうホネだ。女性のスカート着用も禁物である。
凝りに凝った劇画調のスタイリングは、その代償として、運転席からの視界グルリに何カ所かの資格をつくり、軽のわりに、狭いところでの取り回しは良くない。
というように、スキありの箇所はいくつもあげられるのだが、しかし、それよりも、さぞかしカンシャク玉のような面白いクルマにしたかったのだろうなあ、というつくり手の意志が感じられる点を僕は評価したい。あっぱれなほどの独善というか。
つまり、AZ-1もまた、つくる本人がそうしたかったのだから、しかたない。ここも是非ひとつ、本人の意志を尊重したいと思う。
そして、尊重したくなる意志の存在を感じさせるクルマは、それゆえに、1000万円だろうが、150万円だろうが、同じように尊重したいものである。
二玄社 NAVI 1993年2月号 p92-96から一部抜粋
1992年。奇しくも同じ年にデビューしたNSX-RとAZ-1。
ミドシップ2シーターのパッケージはもちろん、両車とも運動性能向上の為の軽量化に開発者たちが本気で取り組んだクルマである。
そして2台とも、その開発場所としてドイツのニュルブルクリンク・オールドコースが選ばれたのも必然ではないかと思います。
この2台よりも速いクルマは沢山ありますが、この2台は、私の中で国産車の中での金字塔だと考えています。
本日のブログは、AZ-1とNSXを所有する、違いの分かる漢に捧げたいと思います(*^_^*)