
思った以上に
コンパクトなボディ
歴代ロードスターに乗るファンにとって、第3世代目になる新型ロードスターの登場が気にならないワケはなく、今年のジュネーブショーで新世代ロードスターがベールを脱いだ時は「待望」と言える待ち遠しい存在でした。
エクステリアデザインは、ドイツのフランクフルト、アメリカのアーバイン、日本の広島と3つの国にあるマツダのデザインスタジオから320枚以上のスケッチが描かれ、そこから7つの1/4スケールモデル、3つのフルスケールモデルを経て、最終的に一番ロードスターらしい、クリーンでコンパクトな表現されていた広島案が最終的に現在の原型となって、スタイルになったとのこと。
この試乗会に参加して、はじめてNC型ロードスターの実車を見て思った第一印象は、公表されたスペックよりも大きさを感じなかったことでした。NAロードスターをモチーフとしたNC型ロードスターは、スペックでいえば、全長と全幅はそれぞれ40mmほど拡大しているけれど、巧みな絞り込みによるデザイン処理によって、ライトウェイトスポーツにふさわしいコンパクトな印象を持ったというワケです。
室内に乗り込んでみてもそれは同じ。初代から大事にされたテイスト「茶室」を思わせる適度なタイトさと緊張感が、このNC型でも受け継がれていることが確認できます。 ただ一つだけ室内で苦言を言わせてもらうと、インパネやセンターコンソールなどが少々プラスチッキーな印象が否めず、これは今後の課題として欲しいと思ったところでした。
とはいえ、そんな細かいところは重箱の隅を突いているだけの話であって、新型ロードスターの価値は走り出してすぐに、これまで以上に分かる心情的スポーツカーへと生まれ変わっていたのでした。
小さなコトから
コツコツと
試乗に用意されたモデルは北米仕様の「MX-5」。当然ステアリングは左となり、これにビルシュタイン製のダンパーと、新開発されたマツダ内製の6MTのトランスミッションを組合わせたスポーツモデルでした。日本仕様のグレードでいったら「RS」にあたるもので、法規上の兼ね合いから細部の違いはあっても、サスペンションなどは世界共通スペックに仕上げられていとのことでした。
とにかく新型ロードスターの走りを一言で表現するならば、歴代ロードスターから綿々と続いてきた軽快で自然な走りが受け継がれていたコトが走りだしてすぐに分かります。
それは、ひっちゃきになって飛ばしたり、額に汗して真剣に走るといった、いわば特別なシチューエションでは決してなく、例えば駐車場を出て一般道に出たり、交差点をひとつを曲がるなどといった、ごくごく日常的なシーンで身近に感じることができるのです。
これは開発陣1人1人に対して「KANSEI(感性)」を徹底的に統一したことが「走りだして5mでわかるここち良さ」に繋がっているワケで、この感覚は初代ロードスターが登場した時に感じた軽快感が、NCロードスターにも受け継がれていると言えます。
その秘訣はルームミラーに至るまで徹底した軽量と、最新の解析技術を駆使したボディ剛性の確保、エンジン搭載位地の後退や燃料タンクの位地の低下による、2%のヨー慣性モーメントの低下と、駆動系の剛性アップなどなど。ひと回り大きくなったボディだけれど、基本性能向上の賜物が、これまで以上に気持ち良い走りに結びついていることが分かりました。
細かい話ですが、NA/NBロードスターでは、ドライブトレーンの剛性が決して十分とはいえず、アクセルを踏んだ時の瞬間的なタイムラグを感じてダイレクト感に若干欠ける部分があったり、渋滞路などのごく低速域でエアコンのコンプレッサーが作動しただけで、駆動系にスナッチが生じて、ボディが大きく揺さぶられたりしたものでした。これがNCロードスターでは、ハワイでの試乗中はほとんどエアコンをオンに入れたまま走っていたのに、NA/NBに見られたこのような兆候は最後までなかったので、そんな小さなところでも、全体の剛性アップを感じるコトができました。
ちなみに、NCロードスターからは電気信号によるスロットル開閉システム「ドライブバイワイヤー」が導入されました。マツダではRX-8を筆頭に、先ごろマイナーチェンジしたデミオとアテンザに続いて採用されているもので、機械的にワイヤーでコントロールする従来のタイプとなんら差は感じず、ごく自然なアクセルワークが可能だったコトを付け加えておきます。
エンジンはアテンザなどで定評のあるMZRが採用され、排気量は今のところ日本および北米仕様では2Lのみが用意されています。今のところ欧州仕様のみ1.8Lが選択できるようになっていますが、将来的にはゼヒ日本にも導入を検討してもらいたいところです。
従来の重く丈夫なB系エンジンに比べて、MZRではアルミブロックが採用されたコトにより19.1kgにもおよぶ大幅な計量化と、69mmも全長がコンパクト化されたところが大きく、実際にその差は走っていても鼻の軽さを十分に体感できます。また、ガサガサと重く回っていた従来のB系エンジンと比べて格段にメカニカルノイズが減ったことと、排気量アップの恩恵もあって、低回転からトルクが発生しているため、シフトチェンジをさぼって多少ズボラな運転にも対応してしまうほど、ゆとりがあるものとなっています。とはいっても、高回転が苦手かというとそんなコトはなく、その気になれば一段ギアを落として、スルスルと静かながら力強く回っていくので、軽快な走りを益々楽しいものへと導いてくれる印象を受けました。
初心者から上級者まで
十分納得がいく足まわり
さて、それではNA、NBロードスター乗りにとってもうひとつ気になる点、基本コンポーネントを共用化するRX-8と走りが同じになってしまったのか? というと、これはハッキリとノーと断言できます。サスペンションレイアウトや、プラットフォームなど基本の成り立ちこそ同じながら、まったくゼロから作り直されたことよって、まったく別物として生まれ変わっているところは大きいところです。
具体的に言えば、RX-8のドシッと安定した重厚なタイプに対して、NCロードスターは走り出してすぐに、ヒラヒラと軽快で自然なテイストを感じることができるほどの差があります。
また、ライトウェイトスポーツとしては、タイヤサイズが17インチという大径タイプだから、ドタバタ感とゴツゴツした乗り心地を先入観として持ってしまうものですが、これも予想を裏切られる形になりました。
タイヤだけが突っ張って地面を捕らえているといった感じではなく、しなやかでよくストロークするサスペンションと相まって、心地よい機敏な動きを示しています。しかも、17インチというコトを忘れてしまうほど、乗り心地は良く、ところどころ荒れた舗装が続いたハワイの路面でも「いなす」ように路面をつかみ、ライトウェイトスポーツカーらしい、心地よい走りに寄与していることがわかりました。
これだけ高次元でバランスがとれている足回りがゆえに、逆にその良さが分かり難いといった皮肉な面があり、なかには物足りないと感じてしまうという人もいるかもしれません。しかし、運転を覚え立ての初心者から、ある程度腕に覚えがあるドライバーまで非常に幅広く受け入れられる仕上がりとなっているので、手を加えることなくストックのまま乗っても十分に楽しめるというコトをお伝えしておきます。
もしそれでも物足りなさを感じたら、5MTのモデル「roadster」をベースとた、ワンメイクレース「パーティレース仕様」のロードスターが来年春頃には登場する予定だから、それまで待ってみるのも一つの手かもしれません。
さらに身近に、さらに快適になった
オープンエアーモータリング
走りの面だけではなく、ロードスターのもうひとつの魅力は、ひっちゃきになって走らないでも、手軽に身近にオープンでの走りを満喫できるところも人気の秘訣だと思います。先代のNBロードスターでは、オープン走行時での後方からの風の侵入を抑制するために、シート後方に「エアロボード」が装備されていました。しかし、完全に遮ることで返って乱気流が発生して風の流速が高まり、髪がクチャクチャになっていたのもまた事実。そんなところに目を向けて、NCロードスターでは完全にシャットアウトする方法を止めて、ボードの位置を高くし、なおかつメッシュの穴からわずかに風を抜けさせるようにするなど、オープン走行中でも自然な風の流れをコントロールすることに成功していました。
スタイルこそあまり変わっていない幌も、大幅に進化を遂げています。従来オープンにするためには、サンバイザーを倒して、左右2カ所のロックを外し、オープンにする多少の手間が必要だったけれども、NCロードスターではセンター1カ所だけでロック/アンロックが容易に出来るようになりました。また。幌を閉める動作についても、従来では室内から操作する場合は、一度シートベルトを外して、男性の力でも気合いを入れて腕力の限り引っぱりあげなくてはいけなかったものが、Z型の収納方式に変更したことで、シートに座ったまま肘だけの動きで閉められるようになり、女性でも容易に開閉できるようになったところは大きな改善だと思います。
いくらオープンといえど、その生活の大半はクローズドで過ごすのが現実です。試しに数十キロ程度幌を閉めた状態で走ってみたら、幌のバタつきや、風きり音、気密性など大幅に向上しているところに気がつきました。また、幌の両サイドには、レインモールが設けられたことで、雨天時のドアや窓の開閉時には、室内に容赦なく流れていた雨水が、これで抑えられるようになったトコロも嬉しい改良点です。ちなみに、新しくなったハードトップについても同様で、左右のルーフ上にレインモールが設けられたコトで、雨天時にはなだれ込んでいた雨水が、抑えられる結果となり、ハードトップ派にとっても嬉しい改良になりました。
シートについては、NCロードスターでようやく合格点があげられるようになりました。私の場合、今まではどうもシートバックが体にフィットしないため、納車とともにシートをバラして体型に合うようにアンコ抜きをさせてフィットさせる一種の「儀式」みたいなことをしていました。ハワイでの試乗会では1日で約160kmにも及ぶ距離を移動したのですが、腰や背中が痛くなることは一度もありませんでした。座面や背もたれはタップリとしたサイズとなり、それでいて体をシッカリとホールドしてくれるようになったので、もし私がNCロードスターを購入したとすると「儀式」から解放されることには間違いないと思えました。
発売されたら、
気持ち良さを体感するべし
絶対的なパフォーマンスやスペックといった部分だけを見ていった場合、ロードスターよりも上のライバル車はいくらでも存在します。しかし、それらは刺激的ではあっても、残念ながらそのどれもが日常的な五感に訴える気持ち良さを併せ持つものは1台としてない…と言いきれます。スポーツカーに求められる定義はさまざまな方向性があるけれど、ロードスターには「ロードスターらしさ」があるからこそ、70万台以上が世界中で受け入れられたゆえんであるし、マツダはそこをよく理解しているからこそ、いたずらにスペックだけを追求するコトなく、まじめに感性向上を真剣に取り組み、具体化したものが新型ロードスターと言えます。
私自身、歴代ロードスターを乗り継いでいて、幸せなことに現在もNA6CEとNB1の2台のロードスターと生活を共にしています。正直、NCロードスターが発表された時、さすがに今度はもういいかな…的なところがありましたが、試乗を終えた今はすっかり新型ロードスターに魅了させられてしまい、真剣にまた買いたいと思っているほどなのです。
新型ロードスターの気持ち良さは、私がココでいくらお話したところで、そのすべてが伝わるものではありません。言葉では説明しきれない「感性」は、発売されたらゼヒとも実際に乗って体感していただき、ロードスターがロードスターらしさく継承しているコトを確かめてみるコトをオススメいたします。