去る7月11日と12日に静岡県の航空自衛隊浜松基地に隣接する浜松広報館にて地対空誘導弾ペトリオットの展示が行われました。
ペトリオットは米陸軍が開発した極めて高度な地対空ミサイルシステムで、我が国では航空自衛隊が導入して全国の高射隊に配備しています。
ズラリとならんだ車両群。
ペトリオットはシステムを車載化することで迅速に展開することができます。
こちらがミサイルの発射機です。
大型のトレーラに発射機が搭載されていますが、右と左で装填されているコンテナが異なるのが判るでしょうか?
ミサイル本体の長さは5mありますので、トヨタのクラウンよりも長いことになります。
それが積まれているわけですからこの車両の巨大さがわかりますね。
今回は通常の対航空機迎撃弾を装填したコンテナ1基と対弾道弾迎撃弾を装填したコンテナを4基搭載しています。
こちらはレーダ装置です。
やはり巨大な車両ですね。
天井のようにみえる巨大な板がフェイズドアレイレーダになります。
展開時にはこれを立てて目標の捜索・射撃指令をおこないます。
発射機を牽引する牽引車。
あの巨大なトレーラをこの特大型トラックにより牽引します。
レーダ装置もほぼ同じ車両で牽引します。
「浜基」とかかれた下のウインカ横に見えるのは灯火管制時に使うライト。
牽引車の運転席です。
運転席そのものは基本的に民間の特大型トラックと大きな違いはないそうで、3席が並列に並んでいます。
後部には鉄帽や小銃などをおくスペースが設置されています。
こちらは電源車。
ミサイルは電子機器の塊ですが、レーダを動かすのも発射機を動かすのも電力が必要です。
電力を安定的に供給させるのが電源車です。
アンテナマストグループ(左)と射撃管制装置(右)
これらの装置によりペトリオットは構成されています。
装置を車載化しているのと同時にこれだけ高度な地対空ミサイルシステムなのにわずかこれだけの車両で完結できてしまうのがペトリオットの特徴です。
実際にはミサイル発射機を複数用意したり予備ミサイルを輸送する車両や人員輸送車両、データ中継車両などが展開するとされています。
こちらは軽装甲機動車です。
ペトリオットシステムのひとつ・・・というわけではないですが、有事の際に展開したとき、周辺の警戒や陣地の警備を行う装甲車両になります。
陸上自衛隊で使用されている者と基本的に同じですが航空自衛隊では基地防衛用として平成16年度から配備されました。
3 1/2トン水タンク車とトレーラ1トン炊事車。
基地の中だけでなく、移動して陣地を作り展開を行う場合もあります。
射撃訓練以外にも有事の際に展開する場合は十分あります。
実際北朝鮮による弾道弾発射事件では航空自衛隊のペトリオット部隊が基地から移動して陣地を構築、迎撃にそなえました。
省力化されたとはいえ、ミサイルシステムを動かすには多くの人員が必要です。
そして人員がいればもちろん「食事」も重要な要素です。
隊員が野営を行うには食事と飲料水は必要不可欠。
調理が野営陣地で行えるように調理器具を装備した炊事車も随伴します。
こちらは待機車1号です。
野外展開時に要員の待機場所や仮眠・休憩をとる車両で移動時は32名の人員を輸送することが出来ますが、車内の折りたたみ式3段ベッドを展開すると合計24名分のベッドになります。
待機車の中に貼られていたプレート。
力強いメッセージが頼もしいですね。
今回展示を行った部隊は高射教導群です。
浜松基地に常駐している部隊で、全国の航空自衛隊の高射部隊の教導を行う部隊です。
ペトリオットの車両には航空戦術教導団のマークが貼られていました。
航空戦術教導団は平成26年に発足したばかりの部隊で、戦術の調査研究や戦闘機、電子作戦、高射、基地防衛などさまざまな機能を組み合わせて全国の自衛隊部隊に訓練を行い、全体のレベルアップをはかる部隊です。
戦闘機は飛行教導群(アグレッサー飛行隊)、高射は今回展示を行った高射教導群といった部隊を隷下にしています。
どんなに高性能な戦闘機やミサイルを装備していても、性能が高くなればなるほどそれを使井こなす能力も求められます。
実戦に即した戦術の元でどのように使うかの研究や教導、重要そうですね。
ではこれより機動展開の展示を行います。
その準備のために一度各車両が展示場所から離れていきます。
機動展開展示の前に・・・・
高射部隊について。
航空自衛隊は敵の航空機や艦艇に対して戦闘機部隊で対処しますが、それだけでなく高射部隊も航空機やミサイルに対して対処をして補完しています。
高射部隊とは高射砲を用いて対空射撃を行う部隊ですが、現在の高射砲といえばもちろん地対空ミサイルを用いています。
航空自衛隊では大都市などの重要地域を守るために高射部隊がペトリオット地対空ミサイルを、敵の攻撃からレーダサイトや基地を守るために基地防衛隊が短距離地対空ミサイルや対空機関砲、携帯地対空ミサイルを装備しています。
高射部隊といえば陸上自衛隊にも高射部隊はあります。
陸上自衛隊では高射特科部隊が師団や旅団を守る近距離地対空ミサイルや短距離地対空ミサイル、それよりも広い範囲を改良ホークや中距離地対空ミサイルが担当しています。
航空自衛隊が使っているペトリオットは米陸軍で開発された防空ミサイルですが、実は米軍ではペトリオットミサイルは空軍ではなく陸軍が運用しています。
空軍は戦闘機などを、陸軍が高射砲をという区分けなんでしょうね。
ナイキ地対空ミサイルを導入する際、やはり長射程の地対空ミサイルはどちらが担当するべきかということになりましたが、結局大都市などを守る長射程地対空ミサイルは航空自衛隊が、陸上部隊や戦域の防空は陸上自衛隊が担当することになりました。
航空自衛隊の高射部隊は全国に6個の高射群があり、1つの高射群には4個の高射隊が置かれています。
航空自衛隊は昭和60年度よりペトリオットの整備に着手し、平成6年度に配備が完了しました。
ではペトリオットの前はどんな防空ミサイルだったかというと・・・・
地対空誘導弾ナイキを運用していました。
航空自衛隊は核兵器を搭載したソ連の戦略爆撃機から守るために高高度まで届く地対空ミサイルが必要でした。
まず昭和37年に米陸軍からナイキアジャックスという地対空ミサイルが移管されて運用をしていましたが、その後継として開発されたナイキハーキュリーズを国産化したナイキJを昭和45年から配備をはじめ、平成6年まで使用していました。
見るからに「ミサイル」という感じですね。
あの「長沼ナイキ事件」(ソ連からの戦略爆撃機を使っての核攻撃が差し迫っていた問題だったときに一部の左翼活動家がナイキ基地建設を妨害しようと裁判を起こした事件)で有名になったミサイルです。
このナイキJですがミサイルの長さは実に12.5メートルという非常に大型で、二段式になっています。
4本のロケットブースターが束ねられた第1段ブースターの上にミサイル本体がセットされていて、上昇高度は45000メートル、射程は130kmという長大な射程をもっていました。
後継のペトリオットの全長は5メートル強ですからずいぶん小型化されたんですね。
写真は浜松広報館の野外展示場に展示されているナイキJです。
誘導は無線指令誘導で、地上からレーダで目標を探知して、無線でミサイルに指令を送り撃墜するシステムです。
こちらはレーダ統制トレーラです。
複数のレーダと接続してレーダの統制を行う装置です。
こちらは捕捉レーダ(ACQ)です。
目標の捜索と捕捉を行い、目標の現在位置を確定するレーダ装置です。
さらに目標を追尾する目標追尾レーダと目標距離レーダに情報を送り、目標の位置情報を把握します。
こちらはミサイル追随レーダ(MTR)です。
ナイキの誘導は無線指令誘導なので、現在のミサイルの飛行位置を確実に抑えることが必要です。
それと同時にミサイルに舵を切る指令や炸薬を作動させるなどの指令を送るレーダです。
このようにレーダといってもミサイル運用のためには目標の捕捉、追尾、距離測定、追随と複数のレーダが必要になってきます。
ペトリオットはこれら複数のレーダはひとつのレーダ装置にまとめることができました。
ミサイル発射機等地上設置型ではありますが車載にもできたようです。
とはいえミサイルシステムが非常に大規模なので移動して展開するには時間がかかりそうですね。
では次はペトリオットの機動展開の様子を。
続く!
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浜松広報館ペトリオット展示その1/その2