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2023年12月28日

「TIME KEEPER」ではないけれど 服部時計店 17型商館時計 明治34年頃

今年最後になりそうな更新も時計ネタになりました。
時計修理は駆け出しの趣味ですが、色々な個体を買い集める内に惜しい物もいくつか溜まってきました。

即ち、単品やモグリ級技術での修理は利かずとも、手放すには少々状態が良い…「ここが足りれば」という物達です。
今回もそんな内の一つとなりかけましたが、無事復活できましたのでご紹介しましょう。







相変わらず商館時計ですが、こちらは完全な輸入品ではありません。



裏蓋には三雁印があります。
服部時計店による製品です。
ムーブメントは海外製ながら、ケースは服部時計店による国産品。
その証拠に、ホールマークの類が一切ありません。
商館時計はスイス製が多い為、大抵はCapercaillie(カパーケリー、ヨーロッパオオライチョウ)のマークが入ります(コインシルバーの場合)。
このケースの銀は0.900で、コインシルバーとスターリングシルバーの中間です。
ちょっと良い奴。

サイズは商館時計として見ると小さめの17型で、ケースで測ると直径約46mm。
60mm近い立派な物も魅力的ですが、コンパクトなのも可愛らしくて愛いものです。
商館時計と言えば男のステータスアイテムでしたが、実は女性向けもあったそう。そちらはこれより更に小さかったようですね。

同社初の自社製造品としては「TIME KEEPER」シリーズが有名ですが、それに先んじてはムーブメント(エボ―シュ状態でしょうか)のみ輸入して自社製ケースに入れて販売…という方式を取っていました。
全体を通してのプロセスは外国商館の時計と同じながら、ケース工房と販売を自社で手がけていたという事になります。
但し輸入部品は自社ではなく、アメリカのブルウル兄弟商会やスイスのコロン商会を通していたそうです。

ちなみに…この時計も手掛けたであろう、服部時計店創業者として有名な服部金太郎氏は、代金支払いの期日をきっちり守る方だったと伝わっています。
そのため外国商館からの信頼が厚かったとか。
それまで日本の商習慣では支払い期限は(良く言えば)柔軟だったため、そもそも海外のビジネススタイルとは異なっていたのだそうです。

なお、この個体の三雁印は商標登録第15902号、明治34年3月22日出願・6月7日登録になっています。
よって明治34年頃の時計と言えるでしょう。
初代TIME KEEPERである20型の発売が明治29年、続く18型が明治35年との事ですから、丁度その間くらいの製品となるでしょうか。
この輸入機械タイプとTIME KEEPERシリーズの展開は、確か平行していたとどこかで見ました。

ところで、現在TIME KEEPERはプレミア価格になっていますが、同時に売られていた別シリーズとなるとほぼスルー(他の商館時計と同じ相場)になってしまうのも面白いものです。
数種あるマークすら、しっかり調べないと「これが服部時計店のマーク」とは出てこない点も。
三雁の他には、兜・軍配・月鳥・富士山・牡丹などがありました。
何れも社名の併記はありませんので、そうと知らなければ服部とは分かりません。

さて。
今回は服部時計店、現セイコーの時計となりますから、その点の概要は要らないような気がします。
いや、扱いが雑というよりも…普通に情報がたくさん出てきますので。


ここからは分解に入ります。
最終的な課題は3点…それは何処でしょうか。



まずダイヤルと一緒に機械を取出し。
ダイヤルには「Switzerland」。
商館時計の時代らしくスイス製をアピールしています。
当時の服部時計店 輸入機械仕様には、他にも「Happy Time」等がダイヤルに書かれているものがあったそうです。

この時点で分かっているのは、ダストカバーの風防が欠品しているのと、龍頭巻きに手ごたえが無いのでゼンマイが切れているだろう事。
テンプが無事なのは良いですが…ゼンマイは何とかなるかなぁ。



ともかくダイヤル分離。修理の記録等は特になしでした。
シリアルはケースとかなり離れており、それだけならばリケース品にも思えます。
ですが先述の通り、この個体に関しては服部時計店謹製のケースに輸入機械が入ったもの。
なのでそれぞれのシリアルで管理されていても不思議ではないでしょう。
現に変な加工跡もありません。
同じ服部のケースへ替えられていたところで、実質オリジナルだと言えましょう。



こちらのパーツは小さいながら少ないので、サクッと外して裏面へ。



よくあるフルブリッジスタイルの機械ですが、今回は少々小さいサイズ。
風防が無かったにしては錆も無く奇麗ですが…ゼンマイの状態が気になります。



途中経過。



今回のアンクルはお手本のように大きな爪石が付いていました。



全バラできました。
数えた結果、10石のムーブメントでした。



香箱の中は…真(アーバー)にかなり近い位置でゼンマイが切れていました。
前回のファブルブラントを思い出す錆も。
鍵巻きでもないのに何でよ?
嫌だなぁ…怖いなぁ…
継いでもまた切れそうで。



と言うところでジャンク登場。交換後の写真ですが、これが救世主となるか。
ロスコフウォッチの部品取りから出してきたゼンマイを切り詰めた物です。
良い感じに巾が合い、厚みも変わらない程度。
これがダメならオリジナルを加工しましょう。



ここまで分解して気付きました。
地板にリンゴに矢が刺さったマークが入っています。
これはかの有名な、スイス・フォンテメロン(FHF)社の古いマーク。
ウィリアムテルマークと呼ぶそうです。
これにより、ムーブメントはフォンテメロン製と判明しました。
ダイヤルの「Switzerland」にも偽り無しですね。



洗浄後に組み立てて動作確認。
初回の巻き上げはバツンと行かないかドキドキします。
オリジナルよりやや細いゼンマイになりましたが、テンプが元気に回っています。



こんな風にホコリを避けつつ丸一日放置してみます。
その日の就寝前、とりあえず3時間ほどは問題ない事を確認しました。

からの悲報。2番車以降の動きは快調のようでしたが、ゼンマイはダメでした。
救世主ならず。
24時間以上元気に動いていたので2回目の巻き上げをしたところ、途中で切れました。
切れたのはオリジナルとほぼ同じ、アールのきつくなる香箱真直前の位置。
難しいですね…

で、結局オリジナルの補修を試みる事にしました。
今回のは17型と小さめなので、新品(と言ってもNOSですが)のゼンマイも見つかりました。
それはそれで手配しておき、最後には交換する前提で色々と実験してみます。



結果がこちら。一つの禁じ手を試す事になりました。

それは「ゼンマイのロウ(ハンダ)付け」。
大正期に書かれた修理指南書に、「やってはいけない」と記載があるのです。
それと一緒に、引っ掛けて繋ぐ正しい方法も。

理由を考えてみれば、恐らくは熱の影響とハンダの質の2点でしょう。
ハンダ付けには当然熱をかけますので、最低でも施工部分のゼンマイの特性が変化してしまいます。
引っ掛け加工時の鈍しよりも、範囲や程度が大きいせいでしょう。
当時のコテは電気コテじゃなかったと思いますから、狭いゼンマイの隙間でのピンポイント加熱も難しかったでしょう。
バーナーやトーチの類なら猶の事。鈍しに使うアルコールランプならどうだろう…

質という点では、当時のハンダやロウは現代とはかなり異なります。
電気回路用で見ても、含まれるフラックスからして違いますので…当時は松ヤニ、現代は活性ロジンかな。
当時(真空管時代)は電線や部品の脚をしっかり絡めないと不良を起こしたものですが、今ではちょっと触れ合う程度でハンダを盛ってしまっても問題ありません。
つまり今よりずっと弱かったという事。

では何故自分が引っ掛けにしなかったのかと言えば、それは一重に自分自身の問題。
まず鋼に穴を開ける工具がありません。
ドリルでは難しいですし、ルータを使えば行けそうですが、細いダイヤモンドビットを持っていません。
仕方なく横向きに溝を掘って簡易に引っ掛けましたが、それだと香箱内に干渉してまともに動作しませんでした。
まぁ当然だろうなぁ。というか当時はどうやって加工してたんだろうか。

そんな折、海外の方がハンダペーストで繋いでいる動画を発見。
まぁやってみても良いかなという体で、鈑金ハンダを使って繋いでみた次第です。

その後は…意外にも切れず。
この時点でまだ数度しか巻いていませんが、しっかり巻き上げられて、テンプの動きも戻りました。
鈑金ハンダ強い。

なお、前回のファブルブラントで学んだ(?)事として、「一回切れたゼンマイは全体が脆くなっているかも」と言うのがありました。
そのため仮に正攻法で繋いだとて、またすぐ近くから切れるでしょう。
簡易引っ掛けで繋いでも、初回の巻き上げ中に切れましたから。

なので今回は「どうせダメなら」と「どうなるか見てみよう」が合わさって、予めゼンマイ全体を炙っています。
確実に性能は落ちるはずですが、切れ防止にもなるはず。
それが偶然にしろ効いた可能性もあります。
やはり経験しないと分かりません…実際に動かすとまた問題が起きるかもしれませんし。
例えば不規則に時間がずれるとか。
適当に炙った事で、ゼンマイの特性が均一になっていない可能性が大きいですから。
まぁそれは実際に動かしてみて確認しましょう。



とまぁ、機械はなんとか復活したようですのでケースの再生に入りました。
まずは欠品している背面風防を手配すべく採寸。
撮影の都合上ノギスの当て方が変になっていますが、その点はお気になさらず。
この値にピッタリかやや大きいくらいで、薄め且つフラットに近い物を探します。

ついでに…以前直したオッペネメール商会の背面風防も、削った際についた傷から割れが出てしまいましたのでやり直します。
風防は最後に付けるので、作業はこのまま進めていきます。





そして完成。
正直に言うとスペード針はあまり好きではないのですが、ダイヤルに一言入っているとまた違って見えてきます。
無銘ならブレゲやルイが良いですが、銘入りならスペードもアリだな…と勝手ながら感じます。
ふと思い出せば、アメリカンな雰囲気だからしっくりくるんですね。
WalthamやElginの古い時計に、銘入りダイヤルとスペード針のペアがありました。
裏面も奇麗で、全体的に大きな傷の無い良いコンディションです。



裏蓋内部。
本当はグラスバックとして風防が入りますが、入手した物は惜しくも全高オーバーで蓋が閉まらず。
直径はぴったりだったのに…この個体の場合、ほぼ平面じゃないとダメみたいです。
とはいえ、「蓋を開くと機械が見られる」というのが商館時計の一番の魅力なんじゃないかと思います。
透明プラ板でとりあえず作ろうか。



どの個体もこの面は奇麗。でもちゃんと磨くと一層奇麗になります。
三雁印とシリアルだけのシンプルな裏面。
ガタガタな事が多いシリアルの数字がキッチリと並んでいるのは、服部氏のこだわりポイントでしょうか。



最後に、手持ちの中でも最大サイズのオッペネメール商会と比較。
こんなに違います。
今回の物は後の精工舎 エンパイヤにも近いサイズですので、持ち歩き中の違和感は少ないでしょう。
まぁ大きいのに慣れてしまうと物足りないかもしれませんが…
とりあえずは平たい風防を早く入手したいものです。
ブログ一覧 | 時計他アンティーク系 | 趣味
Posted at 2023/12/28 22:44:00

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