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2024年02月04日

遅れてやって来た定番機・12吋首振型 芝浦製作所 2021型 大正8年

明治の時計を扱い始めてからというもの、大正時代のモノが「あぁ、ちょっと新しいかな」なんて可笑しな感覚に陥る事暫し。
もう一世紀経っているし、何なら昭和ですら近々同じ大台に乗ります。
十分すぎる程には古いです。
まぁ「古物」の中なら新しいのですけれども。

さて、今年の扇風機第2弾はまたまた芝浦となります。
やはり最大手と言いましょうか、当時の機種としては最も多く現存するであろうメーカですから、こうして手元にやって来る個体も多いのでございます。
…多く買ってるだけだろう、とも言えますが。
それだけ選択肢も多いという事よ。



こちら、芝浦製作所の2021型になります。
大正期の雷光ガード(外周シングル)を採用するタイプの中でも、最もポピュラーと思われる機種です。
外周リングが2本のタイプも含めるのならば、その12吋首振り型である7007型の方がより多いでしょう。
御覧の通り、レストア前には亀甲金網の後付けガードが付いていました。

本機は当ブログではお馴染み(なのか?)同社の大正8年版カタログに載っているものですが、今日「古い扇風機」としてオク等に出回る機種は主に下記の4種とその後継機になります。

・12吋の首振り無し(2020型)と有り(2021型)
・16吋の首振り無し(2024型)と有り(2025型)

つまりサイズ別2種の計4種です。
200V用とか直流用もあったようですが、それらはオクを20年弱巡回している限りでは見た事がありません。

どれもしょっちゅう出る物ではないのですが、この中で一番目にする印象のあるのが今回の2021型です。
12吋の手ごろなサイズと便利な首振り付きですので、当時出回った個体数も一番多かったのではないでしょうか。

ですが…なぜか今まで持っていなかったんです。
最初に入手したのは2020型で、2008年9月の事でしたが…
「それなりに出てくるから後で良いか」と他を優先し続けて、気づけば15年以上も経ってしまいました。
他の3種は既に入手とレストアが済んでいますので…これでようやく4兄弟が揃った事になります。

さて、この個体の入手自体は2023年6月中頃。
入手後も半年ほどそのまま佇んでおりましたが、やっと手を付ける事ができました。
手に入れたら入れたで、今度は「手元にあるからあれを先に…」と、また先延ばしになっていたのです。
悪い癖だよなぁしかし。
でも分かっちゃいるけどやめられない。

入手に係るお値段は諭吉さん2人弱と、相場かやや高めといった印象。
ですが実際に届いてみれば、金額以上に良いコンディションを保っている個体でした。
古い扇風機、主に戦前型を買って来ると「大抵ここが無くなっている」というポイントがあります。
それが概ね完品なのです。
具体的な欠品あるあるとしては…

・電源とモートルのコード
 (変えてあるか断線しているのが多い)
・ファンガード固定ナット
・ファンガード固定ナットの変形ワッシャ
 (芝浦雷光ガード、無いか足りない場合が殆ど)
・脚のフェルト(戦後製でも欠品・虫食い多し)
・裏蓋のコーションラベル(消失がデフォルト)

ファンガードの変形ワッシャは無くても機能上問題ない部分で、揃っているのが珍しい部分です。
なので自分自身「揃ってたら嬉しい」程度です。
しかし実際に揃っているとなると結構テンションが上がる箇所です。

特に驚きなのは脚のフェルトとコーションラベルとなります。
フェルトは床に接触していますので、残っていても虫食いが多くあるのが普通といった認識です。
古い物が使われなくなると扱いがぞんざいになりがちですし、こういった古い高級品は蔵などを持つ古い家にあるのがまた多いのです。
なので多少の虫が居る環境に長く置かれるのが当たり前となります。
そんな痛みやすいパーツが残っているのですから凄い。

コーションラベルは紙製で、普段は床面とミリ単位の距離にありますから、100年もの間に無事で居る事自体が奇跡的。
ただでさえ突起に引っ掛かったりして傷みやすい上、水分で破れたり剥がれたり、下地の鉄板の錆に染まったり虫食いに遭ったりと、リスクに晒される環境にあるものです。
なので完璧に残っているというのが、某かの守護を感じてしまうレベル。
写真はレストア作業の一部として、以下に載せていきます。

更には現状で動作可能と言うから驚き。
塗装まで錆と剥げがあまり見られないので、相当良い環境で使われ保存されていたのでしょう。

では、それらポイントと共にレストア工程をご紹介したいと思います。



まず手を付ける前のモートル側。
汚れはあるものの塗装面がかなり奇麗なようです。
この頃の芝浦製は漆塗りらしく、錆が出ている部分以外は無事な事が多いのですが、このようにほぼ錆が見られないのは稀です。



始めに本来の姿へ戻ってもらいました。
後付けガードを取らなければ元の雷光ガードも外せません。





これがガード取り付け部に入る変形ワッシャ。
清掃か何かで紛失されている事が多いパーツですが、この通り4個揃いです。
扱った中では初めてかもしれません。揃っていた記憶がありませんので…



ガードが取れました。
各部のネジもスルリと外れるので、整備もちゃんとされてきた個体と思えます。
とはいえ活躍した印でしょうか、ファンに歪みが見られました。
磨いた後から調整するのも、本体組み立てとのタイミングが分かりませんので、この場で簡単に調整してしまいました。



お馴染みマイクスタンド。
モートル配線が仰角調整ネジの方を通っていますので、やはり過去に分解整備を経験しているようです。
本来は向かって左を通りますし、首振り付き機種で後からこの位置を通すには分解が必須です。



続いて裏蓋です。ビスが1本オリジナルじゃないようです。
コードを外すべくこちらをバラして行きますが、フェルトとコーションラベルがほぼ無事なのがわかります。
フェルトは虫食いが多いながら、きちんと原型を留めており、大きく欠けている箇所はありません。
なお、このコーションラベルは…



電源コード取り付けの注意書き。
大正期の芝浦製は、出荷段階ではコードが付いてきませんでした。
ユーザが取り付けできるように端子直下にスライド窓が付いており、本来はこのような注意書きもあったのです。
これが残っているのが大変珍しい。

なお、この機構は実用新案登録されています。
第42413号「扇風機」で、大正5年12月4日出願、大正6年2月15日登録です。



開けました。
と、裏面にも何か残っていますね。



どうやら製造時かその後の検査時のラベルらしい。
11.7.9は大正11年7月9日でしょうか。
西暦だと明治44年なので、本機の年式としては10年弱早い日付になります。
国産扇風機全体で見ても、川北タイフーン型の先行タイプがドイツから輸入された年です。
まだ国産化に至ったメーカが(ほぼ)存在しない時期となります。
和暦となれば既に7000番台の機種がデビューしていた辺りになるかと思いますので、「コード」の記載もある通り、出荷後に付けられたラベルではないかと考えられます。

しかし「コード」の方はKogure(小暮or木暮?)と読めますが、もう一つは…MigokiかNigokiか。
どちらにしても漢字が思い当たりませぬ。
もしかして人名じゃなくて「二号機」だったりして?
個人での購入が珍しかった当時なら、会社等で複数導入した一台かもしれませんね。
どうなんですか氷室さぁん!? そっちの小暮君じゃないのは確か。
このテンションだと2の方ですね。何が?



碍盤を外しましたが…オリジナル配線でゴム被覆が完璧に残っているのは初めて見ました。
これは地味に凄い。ここまでの分解歴が無いのかも。
各線に糸が1本結わえてありますが、当初は色分けになっていたのでしょうか。
今ではどれも同じ色に見えます…

そして更には、3か所のゴムブッシュが全て健在。
カチカチではあるのですが、欠けたり割れたりしていません。
モートルの引き出し口に至っては何とか柔らかさを保っているレベル…何だろうこのコンディションの良さ。
で、オリジナル被覆は既に硬くなっていますし、そもそも絶縁テープを剥がさないと引き抜けません。
そこに完全な状態のオリジナルブッシュと来ましたから…
今回は例外的に、この状態で整備を進めます。

昭和40年代以降のお座敷扇なら時としてこうなりますので、少々やり辛いですが仕方ありません。
オリジナルを尊重しましょう。



という事でモートルを開けましょう。
ギアボックス分離したところです。
窪み部分は給油不要ですがグリスがベットリ。
やはり手入れされていた様子ですね。少々的外れですが。

…と、給油口に見慣れないビスが入っています。
中央に写っているのがそれ。
「ここって玉ゴンべ式の給油口じゃなかったっけ?」と思い2025型を見てみましたが、そちらは雌ネジが切ってあるだけ。
そこに付くべき部品は失われていました。

そしてこの個体、仰角制限用のビスが欠品だったので、それを転用したのかと思いました。
が、外してみると形状が異なりました。
もしかすると、給油口をビスで塞ぐのが2021型(とその近辺の型)のオリジナルなのかもしれません。
球ゴンべの給油口ならそうそう簡単に失くすものでもないですし。



開けました。埃はこんなもんでしょう。
しかし各部のビスが本当に外しやすく、何なら緩い箇所すらありました。
割と近年にある程度の整備を受けたのかも。



モートルを分離しました。
普段は配線も引き抜いて完全に切り離すのですが、先述の通りオリジナル保存を優先します。
このままの形で続行です。
外装の汚れが幸いにして少ないので、然したる苦労は無いでしょう。



ひとまずバラけているパーツに手を付けましょうか。
モートルを支えるネックピースと首振りアーム。
しかしやっぱり、大正期の機体としては非常に奇麗です。



見てください、この艶。
TVショッピングか。
これが100年前のオリジナル塗装とは誰も思うまいて。





エンドベルです。
これもまた大した汚れ無し。
裏面の埃もささやかな量。



一部磨き出しをしてこの位に。



そしてやって参りましたギアボックス。
芝浦は完全分解できない(あるいはしにくい、しない方が良い)ので、グリスの状態が清掃のしやすさに直結します。



割とすんなり開きました。
グリスは…生チョコ状態。一番落としにくい奴だなこれ。
パーツクリーナで溶けますが、乾くと元通りなので厄介なタイプ。
灯油で洗うのが一番良さそうですが…生憎持ち合わせ無し。









恐らく1時間ほどかけてここまで来ました。
遊星ギアから下は圧入してあるピンを抜かないとバラせないので、出来ない事も無いけれどやりたくない。
変に傷をつけたり変形させたりする原因になるからです。
だったら地道に何度も洗って済ませた方が安全なのです。
折角状態の良い機体だもの。

で、今回初めて気づいたのが2枚目の写真。
2000番台の芝浦首振り型を扱うのが2回目とあって経験値が無かったのですが、つまみは逆ネジで取れるんですね。
この後すぐ、7000番台以降はカシメ留めになっているので、「芝浦製戦前型は首振りつまみを外せない」というイメージで固まっていました。
これではいけませんね。それは面接の話。

そして3・4枚目は遊星ギアですが、芝浦にしては珍しく精度が低い。
1個は穴のセンターが出ていませんし、同じギア同士なのに厚みが明らかに違います。
面取りの具合も違う。

この扇風機自体が非常に奇麗で、よくある摩耗…主軸のスクリューギアなども良好でした。
なので、遊星ギアに交換歴は無いでしょう。そもそも壊れたのを見た事が無い箇所ですし。
つまりは製造時からこのペアだったという可能性が高いです。

まぁそれで問題無く動けば良いのですけれども…
加工精度が発展途上であったと共に、大らかな時代でもあったのだなという事にしましょう。
多少粗い加工の部品でも良いってのが長持ちの秘訣かな。

しかし他の業界を見てみれば、同時期には既に懐中時計の国産化を達成しています。
自社で工作機械から作った話が有名な、精工舎のエンパイヤです。
時計部品ほどの精密加工を自動化・量産化するのが如何に大変だったか、このギアから伝わってくるようです。
…何だか芝浦disになっちゃったかしら。
そんなつもりは毛頭ございませぬ。

まぁその精工舎も(服部か諏訪かは不明ですが)、ウェスティングハウス超リスペクト(コピーとも言う)な扇風機を作っていたんですけれど…
それはまた別の機会にでも。


次行きましょう。
恐らく初となる、戦前型でモートル線を抜かないままの清掃。
断線に気を付ければ大丈夫でしょう。



元のモートルケース側面はこんな感じ。
取っ手を外したビス穴周辺ですが、既にまぁまぁ奇麗。



それがこうなります。
良い艶が出ました。大正期の芝浦はこれが良い。





正面もこの通り。





基台と銘板も奇麗になりました。
銘板は正面に付くタイプなので、当初付いていた亀甲ガードも相まってかガリ傷がありました。
とはいえよくある背景の色落ちが無く、普通に磨いてもこの通りクッキリ。
スイッチ銘板に至ってはほぼ完璧。



本体に目途がついたのでファンへ。
これは手つかずの状態。



酸化膜落としとニス剥がし完了。
どうも過去にペーパーがけされたようですね。
傷の残り具合が気になるところです…

とにかく、先に歪みを修正してから磨きに入ります。
粗方の調整は取外し前にしましたが、机に置いて各羽根を微調します。
本当なら定盤とか使うべきなんだろうな。

で、磨き完了も撮影失念。
本体がかなり奇麗な一方、ファンは意外と傷んでいるようです。
ペーパー跡よりもむしろ凹み曲がりが気になる。
もう1台、修理未定の2020型があるので…それから移植した方が良いかしら。
とりあえずこれで行きます。





仕上げに入ってきました。
こちらはグリースカップとプラグ。
プラグはいつぞやか入手していた、恐らくはアメリカ製の一品。
赤が入った独特の成型色が特徴で、使いどころに迷っていたものです。
今回はちょっと特別な個体なので使いたいと思います。
出荷時に電源コード無しだったというのも理由の一つです。

折角年式の判明している大正期の個体ですから、ちょっと個性的なプラグを使いたいと思っていました。
普段なら型式認定無しのものか陶器製を使うのですが、生憎と手持ちに無かったのです。

そしてこの個体に付属してきたのは普通のナショナルポニーキャップ。
しかも割れていました。
流石にそこまでオリジナルとは行かなかったようですね。



ファンガード。こちらも定番の症状で塗装定着が甘くなっています。
とはいえ…ちょっと面倒なのでこのままエンブレムだけ磨きます。
今更ながら、今回のテーマは「オリジナルの追及」。
後から塗り替えはできますので。



エンブレムは磨きました。



各部を注油しつつ組み立てたら完成。
他の事をやりつつでしたので、少々時間がかかりました。



後ろ姿も奇麗。



そして念願の4台集合。
大正8年の100V卓上型が揃いました。
苦節16年、長かったような短かったような…
それぞれは在っても、揃っては見られない4台なのではと思います。



こちらは首振り無しの2台。
並型とされていました。
それぞれが載ったカタログページと共に。



首振り付きの2台。
カタログも同様。首振型です。
今回仕上がった2021型だけファンの色が違います。
油を塗っても緩やかに酸化するので、次第に黄金色が濃くなります。
くすみが目立ってきたら軽く磨き直します。



最後にカタログ表紙と銘板付近。


という事で、目標の一つだった「雷光ガード芝浦の首振り有無・サイズ違いを4台揃える」を達成できました。
他に何があるのかと問われると…特に何も無いのですが、まぁ欲しい物で買える物をぼちぼち揃えて行ければと思います。
…買い込んだ電子コンパックの群れが待ってますし。
あれ、全部直さなくても良いかしら。
綺麗な奴とか主要な奴だけで良い気がして来たなぁ。
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Posted at 2024/02/04 21:43:31

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