〝ホルヘ・ロレンツォ〟
最高峰クラス6年目のヴェテラン。すでにこのクラスで2度のチャンピオンシップ制覇を果たしており、名実共にこのクラス、いやこのスポーツを代表するライダーとなった。連覇を狙った今季、そのミッションは第7戦ダッチTTまでは非常に巧く、手堅く遂行していた印象だった。しかしFPでの転倒はこの計画のバランスを崩すのに余りある代償を彼に与えた。木曜に転倒負傷。金曜に手術。土曜決勝5位入賞と、目まぐるしい週末を過ごした王者はチャンピオンシップへの執着を我々に印象付けた。しかし次戦ドイツGPで再び転倒。このミステイクが今季のリザルトを結果として決定した。しかしやはりディフェンディングチャンピオン、そう簡単には諦めないものだ。最終戦までに7勝を挙げる意地を見せ、ポイントスタンディングでもトップに肉薄した。悪く言えば、結果として余裕がある時は慢心の戦いをし、追い詰められると非常に高い集中力を魅せてくれた。軽量級を戦っていた時に比べると成熟した印象があったが、彼にはまだ伸び代があるということだ。
〝マルク・マルケス〟
最年少の最高峰クラスチャンピオン。やはり今季はこの若きスパニッシュライダーの活躍でチャンピオンシップは面白くなった。そのアグレッシヴなライデイングからか、転倒も多かったものの、全18戦中決勝での転倒はムジェロだけだった。チャンピオンシップをリードしてからも、その戦術は至ってシンプルで、攻め、ただ攻め抜くだけだった。オーストラリアGPでのミスは彼とチームにとって手痛いものとなったものの、それでもそれまで培ったポイントを使い果たすには至らなかった。彼が魅せたレースで唯一彼らしくなかったのが最終戦ヴァレンシアGPでの戦いだったが、この自制でチャンピオンシップが確定したのだから、致し方ないだろう。いずれにしても今季このクラスに初挑戦した彼がこのクラスでのベンチマークになり、常に安定し高いレベルで戦い続けた。時に波風を立てたものの、それだけこのクラスが穏やかだったという証拠だ。本来レースは、レーシングはそういうものだろう。個人的には幼い顔に隠された策士な一面が非常に怖いのだが。
〝ヴァレンティーノ・ロッシ〟
生ける伝説はいよいよキャリア末期に近づいている。それでも今季ダッチTTでは丸2年ぶりの勝利を記録しており、そのスピードが今だ一線級である事を印象付けた。しかしファンや関係者は来季35歳になる彼に更なるスピードと一貫性を望んでおり、今季のランキング4位には決して満足してはいないのだ。もちろん〝ただ〟のライダーではないので、それも納得はできる。しかし天才も歳を取るものだ。今はただピークから下がったパフォーマンスを穏やかにするしかできない。盟友〝ジェリー・バージェス〟と袂を分けたのは衝撃だったが、それだけ彼が本気だって事だろう。2010年はランキングは3位。ポイントは233ptだった。今季はランキング4位で、ポイントは237pt。今季は3年前よりポイントを多く取得しているが、3年前は4回のノーポイントがあったが、今季はムジェロでの1回のみ。リザルトはどんな言葉より雄弁だ。
〝ダニ・ペドロサ〟
今季もまた彼の望みは叶わなかった。彼が悔しく感じる思いは、チャンピオンシップを逃したのもそうだが、それがこのチームに初めてやってきたチームメイトにさらわれた感傷によるものが大きいだろう。最高峰クラス挑戦8年目、それがホンダのワークスチームに所属していてでの無冠記録は普通以上に厳しく評価されるものだ。昨季のインディから最終戦ヴァレンシアまでの8戦中6勝、2リタイアの圧倒的でアグレッシヴな戦績を脅威と感じた者からすると、やはり今季のリザルトは物足りない。
〝マーヴェリック・ヴィニャーレス〟
有限実行。昨季それまで所属していたチームを強引に離脱し物議を呼んだ彼だったが、今季はその雑音を一蹴する結果を残した。マシンはKTMのカスタマー向けの仕様。KTMはトップチームのAjoに供給しているマシンとはパフォーマンスの差は無いと云うだろうが、それではトップサポートのステイタスを持つAjoが黙っていないだろう。いずれにしてもヴィニャーレスはコンスタントにポイントを積み上げ、最後は強さで逆転して魅せた。コメントはストレートで、口数は少ない。取材するプレスはやり難いだろうが、非常にプロフェッショナルな印象の玄人好みのライダーではある。今後も確実にキャリアを上げて行くであろう18歳だ。
〝ポル・エスパルガロ〟
典型的なクラッシックなスパニッシュライダー。ムラッ気があり、速い時は手がつけられない。しかしダメなときは非常に脆く、アッサリと戦線を離脱してしまう。Moto2クラス挑戦3年目での頂冠。今季は6勝を記録していてノーポイントは3回で265pt。昨季は4勝でノーポイントは2回で268pt。チャンピオンを奪取した今季の方が取得ポイントが少ないのに驚きだが、それだけMoto2クラスが激戦だということだろう。来季はヤマハ契約の純然たるワークスライダー。このプレッシャーに打ち勝つメンタルを有するのは、プレミアクラスで活躍するより難しい。
〝トマス・ルティ〟
今季やや苦戦気味のシュッター・ユーザーのトップガン。元GP125チャンピオンではあるが、ステップアップしたGP250時代は大いに苦戦した。シートと長年所属したチームを失いかけたものの、新しいカテゴリー、Moto2で息を吹き返した。昨季はマルケスと対等に渡り合う強さを魅せ、今季の活躍を期待したがオフテストで追突事故に遭い前半戦を欠場。復帰してからもフィジカルに悩まされそのチャンスを失った。それでも後半戦は持ち前の実力を発揮し一貫性を魅せたものの、ポディウムはオーストラリアGPでの1回のみ。4位が5回と、良くも悪くも彼らしい戦績となった。
〝アレックス・リンス〟
19歳になったばかりの青年はまだ世界戦にエントリーして2年目のライダーだ。今季最強マシンであるKTMを駆り、最終戦までに6勝を含め14回のポディウムを獲た。素晴らしい駆け引きによる戦術は、他のトップライダーを凌駕し、一貫したスピードはライヴァルたちを青ざめさせた。ポディウムに上がれなかったのは僅かに3戦。そのヘレスとモテギでの転倒リタイアがタイトルの明暗を分けた。当時まだ18歳だった若者に対し、この悔やんでも悔やみきれない数少ないミスを攻めるのは酷だろう。それまでは他を圧倒するレースを魅せていたのだから。タイトル争いが佳境になったモテギで犯した転倒は、彼が唯一見せた〝若さ〟による経験不足からだった。モンカヨにレプソルとスペインのパトロンと最速マシン。スペイン人なら誰もが羨む体制で戦ったが、タフな経験をし、レプソルに見放されたヴィニャーレスに屈したのがこのスポーツの面白いところだ。
Posted at 2013/12/29 16:54:47 | |
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