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  • ☆ジェット オン ドリーム ~夢幻飛行~  第2部
    elyming♂ 2006/11/23 22:35:55



        【 ジェット オン ドリーム 】

          ~ 夢幻飛行 第2部 ~  

            <第15幕>



  • elyming♂ 2007/01/03 23:12:10




       ~ 下町 19時35分 ~


    工 員『・・・なんだぁ? ジャンボが堕ちたのか?』


    通常のテレビ番組はキャンセルされ、人の動きも あわただしい報道フロアの異様な空気が
    画面の向こうから伝わっていた。工員は、チャンネルをNHKに換えてみる。


     ●NHK 報道記者
    「え~こちら羽田の空港事務所からお伝えします・・・消息不明の日航機ですが・・この便は
     今日午後6時12分、大阪に向けて羽田を離陸した日航123便のジャンボ機で、この便は
     乗客509名、乗員15名の、あわせて524名が乗っており・・・午後7時頃に、管制の
     レーダーから機影が消えたとのことです。これ以上の詳しい情報まだこちらには入ってきて
     おりません。新しい情報が入りしだいお伝えします。以上、羽田からお伝えしました。」


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:12:48




       ~ 下町 19時40分 ~


    工 員「親方ぁ、親方ぁ、テレビ見たぁ?」

    親 方「あん? 何だい? かわいい娘っこでも映ってんのか?(笑)」

    工 員「そうじゃねってば、日航のジャンボ機がよぉ、行方不明だってよぉ」

    工 員「なんだなんだ、ヒコウキが堕ちたのか?」

    シャワーを浴びていた連中も、途中できりあげて、ドヤドヤとテレビの前に集まってきた。



    親 方「あんだって? JALのジャンボ? バッキャァロォ~
        ジャンボが堕ちるわけねえだろう!・・・んで、そりゃ場所はどこだ?」

    工 員「親方の娘さん、二人ともJALのスッチーだんべよ?」



       JALのスチュワーデスになった娘二人が、いつも話していた。

       ―――― おとうちゃん ジャンボはね 絶対に堕ちない飛行機だよ だから安心して

       親方は台所で忙しく立ち回るおかみさんを呼び出した。




    親 方「おい! アカネ(娘の名前)たちのフライトスケジュール分かるか?」

    おかみ「いきなり どうしたんだい? こっちは忙しいんだよ(笑)」

    親 方「おい、テレビ見てみぃ! 日航のジャンボが堕ちたんだってよ!」

    おかみ「え! お前さん、ほんとぉかい!?」


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:13:57




        1985年8月12日 夜


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:14:48




       ~ ニュース情報 ~


    夜通しのテレビニュースは、日航123便の遭難について、次々と断片的に入ってくる
    情報をもとに、さまざまな憶測が飛び交い始めていた。



     ●アナウンサー
    「今入ってきた情報です。乗員からは客室後方ドアが破損したという連絡があった
     もようです。・・・え~日航機からは操縦不能との連絡のあと消息を絶ちまして
     今夜は番組を一部変更して、この日航機関連のニュースをお伝えしております。」


     ●アナウンサー
    「スタジオには、航空評論家の都来 星一(とらい せいいち)さんに
     お越し頂いております。都来さん、これまでの情報で判ることは?」


     ●都来 星一
    「ジャンボ機をはじめとする最近の航空機は、操縦舵面はすべて油圧で動いておりますが
     この747の場合、油圧系統が4系統もありますんでね・・・いきなり全部ダメになる
     というのは・・・」


     ●アナウンサー
    「油圧系統が4系統あるということは、そう簡単に操縦不能にはならないと見ていいのでしょうか?」


     ●都来 星一
    「いえ、ドア破損と気圧低下という情報があるようですが、それだけで操縦不能というのは考え
     にくいという意味で。ただ、どのような状況なのか今のところ断片的にしか判りませんので。」


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:17:05




       ~ ニュース情報 ~ 


     ●アナウンサー
    「また、新たに入った情報ですが・・・R5付近のドアが壊れたとの連絡があったもよう
     です。これは客室乗務員から操縦室に連絡があったとのことです。え~ ・・目撃情報
     ですね?・・・はい? 群馬、長野、埼玉県境付近ですか? 北相木村の住民が低空で
     飛ぶ旅客機を見たとの情報が入ってきました。え?南相木村? あ、やはり北相木村?」


     ●都来 星一
    「この模型で説明しますと・・R5付近のドアというと、ちょうどこの胴体の右側最後部の
     ドアということになりますねえ。万が一に、これが飛行中に破損したということであれば
     例えば、機体の後ろにある水平尾翼とか垂直尾翼に当たり、何らかの損傷を与えた可能性
     が考えられます。ですが・・それが油圧の4系統すべての破壊につながるとは、いったい
     どのような状況なのか? 今のところ何とも言えませんね。」


     ●アナウンサー
    「え~視聴者からも情報が寄せられています。群馬県南牧村に住む方からの情報です。
     三国岳付近の方角・・これは、埼玉、群馬、長野の県ざかいにあたる山だそうです
     三国岳付近の方角を低空飛行するジェット機の音を聞いたとのことです・・・また
     別な方から頂いた情報では午後7時前後、三国岳の北側、通称ブドウ峠付近の空に
     何か煙のようなものがあがっているとの未確認情報も入っておりますが・・・」


     ●アナウンサー
    「え~、訂正があります。さきほど群馬県南牧村からの目撃情報をお伝えしましたが
     群馬県ではなく・・・・・長野県南牧村の間違いでした。え~いずれにしても・・
     群馬、埼玉、長野の県ざかい付近での目撃情報がですね・・・え~情報が錯綜して
     おります。」


     ●アナウンサー「え~新しい情報? 東京都西多摩郡奥多摩町に住む方から・・・」



    各局テレビのニュース速報は、一部情報が錯綜していた。
    しかし、刻一刻と入ってくる情報は、冷酷にも史上最大の旅客機墜落事故という
    その悲しい事実を伝え始めていたのだった。


    http://www.youtube.com/watch?v=oRC__Cnv8NM




                           <第22幕につづく>


    0

  • 2007/01/03 23:17:37

    <この発言は削除されました>

  • 2007/01/03 23:19:41

    <この発言は削除されました>

  • elyming♂ 2007/01/03 23:20:40











    【 ジェット オン ドリーム 】

      ~ 夢幻飛行 第2部 ~
      
        <第22幕>



    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:21:34











         ~ 遠きにありて ~


     1985年8月12日 18時24分35秒頃 ――――


    日航123便の胴体後部で起きた「バ~~~ン」という何かの破裂は、このジャンボ機にとって
    その後の飛行を左右する深刻な損傷を一気に与えていた。それは胴体圧力隔壁の破裂であった。

    隔壁の破裂に伴う噴出流は、一瞬にして胴体最後部 及び垂直尾翼に大きなダメージを与えた。

    圧力隔壁外側直下の胴体には、この隔壁破裂等を想定した圧力抜きのための弁があった。
    そのプレッシャー・リリーフ・ドアが開放したが、吹き抜けた圧流量は想定以上だった。
    まず最初に、APU(補助動力エンジン)の内側にあるファイヤー・ウォールいわゆる
    防火壁とAPU本体が吹き飛んだと推定される。

    垂直尾翼、その構造を支える「トルク・ボックス」の付け根には整備員が入るための点検穴がある。
    与圧された客室から噴出した圧流は、この穴から垂直尾翼の「トルク・ボックス」内に流れ込んだ。
    この部分(トルク・ボックス)は、尾翼のねじれ剛性を確保するため、四角い先細りのボックス(筒)
    のような構造をしている。ボックス前縁側には10箇所ほどの小さな穴(圧力軽減孔)が空いている。

    コンピューターシミュレーションによれば、想定外の高圧空気が、この垂直尾翼の「トルク・ボックス」
    に流れこむと、その外側が一気に膨張し、やがて外板が剥がされるように裂けて脱落するという結果で
    あった。解析によると、破れた隔壁の開口面積は、およそ2~3平方メートルと推定された。この計算
    では、防火壁やAPUは瞬時に吹き飛び、その0.3秒後には垂直尾翼が破壊された。

    解析によると、垂直尾翼の倒壊が始まった場所は「トルク・ボックス」の前桁付近の中央部やや上であった。
    この垂直尾翼(垂直安定板)前縁の上半分は、その後、海上で発見されており、事故解析の結果とよく符号
    した。(相模湾、伊豆半島周辺に吹き飛んだと推定される垂直尾翼の破片は、捜索回収困難との理由もあり
    その大半は未回収のままである)


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:22:56











       ~ 遠きにありて ~


    日航123便は、垂直尾翼の大半をすでに失っていた。

    この垂直尾翼喪失は、幾つかの深刻な状況を作り出すことになった。

    まず、ヨーモーメント(機首を左右に振る動き)を復元させる飛行安定機能の激減である。
    この飛行上の障害は、垂直尾翼の大半を失ったことによる直接的な結果である。
    しかし、これは、ただちに墜落原因になるものではなかった。

    深刻だったのは、垂直尾翼の破壊によって付随的に発生したものであり、この損傷は
    はるかに致命的なものであった。それは、操縦に必要な「油圧系統の破壊」であった。

    昇降舵、方向舵、バンク旋回用の補助翼、エアブレーキ用スポイラー、高揚力用の補助翼フラップ
    車輪降着装置、着陸後の車輪のブレーキ、前輪のステアリングなど、フライトオペレーションの為
    の重要な作動機構は、すべて油圧で駆動されている。ジャンボ機をはじめとする大型旅客機の機械
    作動部分を直接ケーブルでつないだとしても、もはや人力では動かすことができないほど巨大な力
    が必要だからである。油圧ポンプやアクチュエーター(作動装置)なしでは、もはや操作は困難な
    ほどに旅客機は巨大化している。

    全油圧喪失の為に、バックアップ機能として直接ケーブルで動翼を動かすことが仮にできたとしても
    人間の腕力脚力では到底太刀打ちできないほどに大きなシステムフォースが必要で、実際に役に立つ
    バックアップシステムには成り得ないと言えるかもしれない。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:24:42













        ~ 遠きにありて ~


    事故機であるボーイング747型機は、エンジンの数と同じ4つの油圧系統を持っており
    安全性の高いバックアップシステムとして確立されていた。しかし油圧4系統のすべては
    垂直尾翼の方向舵作動にかかわる油圧回路でつながっていた。

    このため、垂直尾翼喪失に伴って起きたのは油圧配管の破断であった。これにより
    操縦舵面を動かすのに必要な作動油が一気に漏れ、尾翼倒壊からおよそ2分後には
    油圧回路4系統の全機能が失われ、オートパイロットの機体安定制御だけではなく
    パイロット自身による操縦舵面のコントロールも不能に陥ったと推定されている。


    この頃から、123便の飛行にある異常が見られるようになっていた。
    航空機特有の‘悪い飛行特性’が出始めていたのである。




     ●18時31分

     ◆東京コントロール
    「ジャパンエア123 ア~ キャンユー ディセンド?」

    (日航123便へ 降下できますか?)


     ▽JAL123(機長)
    「ア~ ロジャ ナウ ディセンディング」

    (あ~ はい、今降下しています。)



               航空機関士「オキシジェンマスクが ドロップしてます。」

                 (客室では酸素マスクがドロップしています。)



     ◆東京コントロール
    「オールライト セイ アルティチュード ナウ?」

    (東京コントロール了解  日航123便へ 現在の飛行高度は?)


     ▽JAL123(機長)「ツー・フォー・ゼロ」(2万4000フィートです。)


     ◆東京コントロール
    「ライト  ユア ポジション 72マイルズ トゥ ナゴヤ   ア~
     キャニュー ランド トゥ ナゴヤ?」

    (了解 貴機の位置は、名古屋まで72マイルの地点ですが、ア~ 名古屋に降りますか?)


     ▽JAL123(機長)
    「ア~ ネガティブ・・・リクエスト バック トゥ ハネダ」

    (あ~ いいえ、羽田空港に戻りたい。)



     ◆東京コントロール
    「オールライト(了解) あ~ これから日本語で話して頂いて結構ですから。」

     ▽JAL123(機長)「はいはい」


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:26:04




        ~ 遠きにありて ~



    コックピットのインタホンが鳴った。客室乗務員からの業務連絡であった。
    航空機関士が応対する。さっき機内客室後方で起きた何かの爆発後、その
    状況をコックピット乗員に報告しているようである。一通り状況を聞いた
    フライトエンジニアは、その内容を操縦席の二人に説明した。


     ●18時32分

     航空機関士(機内インタホン応対)
    「・・・荷物を収納するところですね?」「一番うしろのほうのですね?」
    「はい、わかりました」

     航空機関士(操縦席の二人に説明)
    「あのですね、荷物入れてある 荷物のですね 一番うしろですね
     荷物の収納スペースが落っこちてますね・・・これは降りたほうがいいと思います。」

     航空機関士(操縦席の二人に説明)
    「マスクは(酸素マスクは)一応みんな吸っておりますから。」




     ◆東京コントロール
    「シックス・スリー・ワン  ザッツ アファーム  アンド トラフィック アドヴァイサリー
     ワンノクロック アンド テンマイルズ フォー ゼア オポサイト ディレクト アンド ア~
     キャリィ ワン・・・リービング ツー・ワン・ゼロ トゥ ワン・ファイブ・ゼロ」

    (・・・631便 了解しました。 1時の方角 10マイルに反対方向から・・・他の航空機が
     近づいており、高度2万1000フィートから1万5000フィートへ降下しています。)

                   
     ▽全日空631便
    「 ア~ロジャ  シックス・スリー・ワン・・・ネガティブ インサイト」     

    (あ~ 全日空631便 了解・・・しかし、まだ見えません)       


     ▽東亜国内航空327便
    「トウキョウ コントロール  トウア・ドメス スリー・ツー・セブン
     スウィッチ トゥ ワン・スリー・スリー ポイント ファイブ」

    (東京コントロールへ こちら東亜国内航空327便 交信周波数チャンネル
     133.5MHZに切り替えます。)


     ◆東京コントロール
    「ア~ トウア・ドメス スリー・ツー・セブン ラジャ」

    (東亜国内航空327便へ 了解しました。)


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:27:00











     その頃、123便客室 ―――――


    「パーン」という破裂音と同時に酸素マスクが落下して、およそ10分が経過した頃であろうか。

    客室後部に座っていた非番の客室乗務員は、酸素マスクを外してみた。
    飛行高度が下がってきたのか、体が慣れてきたのか、息苦しさは感じなくなっていた。
    周りを見ると、ほとんどの乗客は、まだマスクを使っていた。

    その頃、機体は左右に旋回をくり返すような傾きの、そしてゆっくりとした揺れ方が続いていた。

    座席に近い左の窓から、まっ白な雲が見えていた。かなり厚い雲で、地上は見えない。


      乗客「スチュワーデスさん・・・大丈夫かねぇ?・・・」


    酸素マスクを外し、客室乗務員に不安そうに問いかける乗客もいた。
    そのうちに酸素が出なくなっていたが、多くの乗客たちはマスクを使い続けていた。


      客室乗務員「座席下にある救命胴衣を取りだして、つけてください。」



    やがて、客室後部 L5(最後部左側)ドアエリア担当の客室乗務員が通路を移動しながら
    酸素マスクを使い続けている乗客たちに対して、不時着に備えた保安指示を出し始めていた。
    客室乗務員たちはライフベストを着用して各座席をまわり、使用方法を再度確認させるためであった。


    見ると客室前方でも、いっせいにライフベストの着用が始まっている様子が見えた。


      客室乗務員「座席ポケットの中の‘安全のしおり’を見て救命胴衣をつけて下さい。」



      『とにかく、羽田にもどれればいいな・・・』

    非番の客室乗務員は漠然とした希望を持っていたが、機外を見ると、いまだに雲の上を
    飛んでいるのがわかった。彼女も座席下から救命胴衣を引っ張り出して頭からかぶった。
    飛行高度は、まだ相当高そうな印象があった。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:29:53











     ~ 遠きにありて ~



     ●18時40分頃

    東京ACC(東京コントロール)では、米軍横田基地に対し
    日航123便の緊急着陸の準備を要請した。

    また、その日の午後、在日米軍 沖縄嘉手納基地を出発し、横田基地へ向かって飛行中の
    第374空輸航空団 第36空輸飛行隊 C-130輸送機があった。123便に起きた
    緊急事態発生の無線交信を傍受していたが、同機の遭難が濃厚になっていたため、捜索
    支援のための飛行計画変更を検討していた。


    ▽インプスター・トライレッサ 一等大尉(米軍C-130輸送機乗員)
    「OH・・・トラブルシチュエーション・・・イッツコンタクト ヨコタベース
     アンド トウキョウセンター アズスーンナズ フォーザ サーチサポート・・・
     ウィル チャンジァ フライトルート OK?」

    (これは大変な事態だ。至急横田基地、東京ACCに連絡、捜索支援のため
     飛行ルート変更するぞ、いいか。)



    ▽インプスター・トライレッサ 一等大尉(米軍C-130輸送機乗員)
    「トウキョウ センター サム リーパット ワン・セブン・・・・」   

    (東京コントロール、米軍 第36空輸飛行隊 C-130ハーキュリー
     輸送機 リーパット17です・・・)
     

    インプスター・トライレッサ 一等大尉ら米軍機の乗員は、横田基地 および
    東京航空交通管制部を通じ、羽田の運輸省東京航空局へ捜索支援と救出行動
    を申し出たのであった。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:31:58











       ~ 航空機の運動モード ~


    一般的な航空機の場合、大雑把に分類すると、以下のような5種類の運動モードがある。



    ①縦方向(ピッチ)の短周期運動モード 

    機体重心を中心に胴体軸が(機首及び機尾が)上下に振れる運動である。
    水平尾翼の復元モーメントが働くので運動周期は短い。
    すなわち、この運動モードは早く減衰する。



    ②横方向(ロール)の運動モード

    胴体軸を中心にした回転(ロール)運動で、ヨー(左右)運動、ピッチ(上下)運動に比べて
    慣性モーメントが小さいため起こりやすい。しかし、両側にある主翼が回転モーメントを打ち
    消す役目を持っているため、この運動モードも比較的早く減衰する。



    ③旋回(スパイラル)の運動モード

    翼が左右どちらかに傾いた飛行を放置すると、大きな半径の旋回運動に入る。

    機体の特性により、傾きが減少してやがて直線飛行に戻る(運動モードが減衰する)場合と
    さらに機体の横の傾きが増大して螺旋状に旋回経路を降下してゆく場合とがある。
    前者の運動モードは安定化しており、後者の運動モードは不安定化している。



    ④縦方向(飛行高度)の長周期運動モード

    航空機の対気飛行速度(運動エネルギー)と、飛行高度(位置エネルギー)とを交互に
    交換しながら、長い周期で繰り返す運動モードであり、一般的に運動の減衰が悪い。
    また、この運動周期は、40秒、50秒、1分、1分30秒といったぐあいに
    長いのが特徴だ。

    つまり‘高度’と‘速度’を長周期(フゴイド)で振幅させることから「フゴイド運動」
    と呼ばれている。振幅の周期が減衰し、半分になるまでに例えば1分30秒もかかること
    があり、放っておくと、なかなか運動が収まらないのがこの運動モードの悪い特性である。



    ⑤ダッチ・ロール(上下左右の複合的動き)モード

    機首を左右に振る「ヨー運動」と、機体を横に傾ける「ロール運動」が連成して同時に
    起こる運動である。振幅の周期は一般的に5~6秒ほどだが、この運動モードの減衰も
    あまりよくない。

    この運動を起こしている航空機の重心付近から主翼の先端方向を見ると、ダッチ・ロール
    運動特有の動きをしている。翼端が時計周りに、ゆっくりと楕円を描いているはずである。



    例えば、紙飛行機を飛ばすとき、ヘタな人と上手な人とでは、また、うまく作った場合と
    そうでない場合とでは、飛行ぐあいに大きな差があるのは言うまでもない。フワリフワリ
    とピッチを上下に波打つように落ちたり、ヒラヒラと左右に揺れながら飛んだり、グルリ
    と旋回しながら落ちたりするのは、その紙飛行機の運動モードが現れている。仮にスロー
    モーションで見ることができたら、運動モードの発生ぐあいが観察できるだろう。

    上手に飛ばすには、最適な形状と最適な釣り合い状態で飛ばさなければならない。
    飛ばし方の最適な釣り合いの解(初期速度、方向、角度、風成分など)は一つ。
    その解に近い飛ばし方をする人は、紙飛行機の名人ということになる。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:35:38











       ~ 航空機の運動モード ~



    一般に小型機は、風などの擾乱を受けやすく、これらの運動モードが即座に現れやすい。
    しかし、相対的に復元モーメントの効果が大きく、運動モードの減衰が速い。

    一方、大型機の場合には、気流の影響を受けにくい。だが、いったん影響を受けて
    運動モードが現れると、質量慣性が大きい為なかなか減衰しない。また、操縦舵面
    の空力的効果や推力増減などの効果も数秒~数十秒のタイムラグで遅れて発生する。

    また、これらの運動モードは、飛行する高度や速度の要素によって特性が変わってくる。
    空気がきわめて希薄な高高度では空気抵抗が少ない反面、各操縦舵面の効きは良くない。
    旋回などの動きも小回りが効きにくい。したがって、これらの運動モードの減衰も悪い。

    一方、空気密度の高い低高度ほど抵抗が大きい分、操縦舵面の効きがよい。したがって
    低高度ほど(相対的に対気速度も遅くなるため)旋回などの動きでは小回りがも効く。
    したがって、これらの運動モードは、高高度に比べても早く減衰する。




    一般的なジェット旅客機のように後退翼を持った航空機は、機首を左右いずれに
    振られるヨー成分の擾乱を受けた場合、左右の翼が受ける気流の角度と発生する
    抵抗(抗力)浮力(揚力)に差が生まれる為、翼が横に傾き(ロール)機首が縦に
    傾く(ピッチ)モーメントの影響を受ける。

    しかし、左右の(ヨー)運動は垂直尾翼の復元モーメントが。横に傾く(ロール)運動は
    主翼の復元モーメントが。そして上下の(ピッチ)運動は水平尾翼の復元モーメントが
    それぞれに働き、それらの運動モードを減衰させる。また、通常はパイロット(又は
    オートパイロット)の修正操舵、推力調整によって乱れた飛行姿勢をとり戻すことが
    本来の飛行である。

    これらの航空機特有の運動モード(飛行特性、空力的クセ)は、通常のエアライン運航
    においては、ほとんど感じることはない。なぜなら多くの旅客機では「ヨーダンパー」
    といった不要な動きをいち早く打ち消してしまう優秀な制御システムがオートパイロット
    に組み込まれているからであり、たとえ乱気流に遭遇しても、これらの運動モードが発現
    することはほとんどないからである。

    巡航飛行中の客席から主翼後縁を観察していると、気流によって飛行姿勢が乱された時で
    あっても、つばさの内側にある小さな補助翼エルロンが、上に折れたり下に折れたりして
    いるのを見る事がある。気流の擾乱があっても、上記のような運動のモードが発現しない
    ような操縦制御が行われている現場を見ているわけである。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:36:41











        ~ 遠きにありて ~



     そのとき123便客室は ―――――


    ライフベストがある場所や、使用方法のわからない乗客も多かった。
    不安のあまり取り乱している若い女性のたちがいた。

    ベストを着用し終わった非番の客室乗務員 は、席を立って乗客らの手伝いを始めていた。

      乗客「もしかして、非番のスチュワーデスの方ですか。」

      非番の客室乗務員「はい、そうです。」

    近くの窓際の席にいた男性が声をかけてきた。
    彼は、救命胴衣の着用に手間取っている乗客らの手助けをした。不安もある中、とても冷静な対応であった。
    彼は自分のベストをつけ終わると、座席から手を伸ばし、前後席に座っている人の着用を手伝っていた。

    非番の客室乗務員は、L5担当スチュワーデスの受持ちエリアの保安作業を手伝うべく
    通路を移動していたが、機体の揺れは、じっと立っていられないほどになっていた。

    ゆっくりとした左右に傾く揺れではあったが、その角度が大きくなってゆくのを感じていた。
    ときどき座席につかまり、二、三歩 歩いて、まだ救命胴衣を着けていない乗客のもとへ行く。
    座席の下のベストを引っ張り出し、着用を助ける。大きな揺れが続くため、ちょっと座っては
    また二、三歩移動という感じである。まっすぐ歩いて周囲を見て周れる状況ではなかった。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:37:31













        ~ 遠きにありて ~



     そのとき123便客室は ―――――


    救命胴衣は機内で膨らましてはならない。飛行機が不時着水したのち、機外に脱出してから
    膨らますのが基本である。

    機内で膨らませてしまうと、胴衣がジャマになって十分なブレースポジション(※)が
    取れないばかりか、着膨れした状態での機内移動や脱出の際にも支障をきたすことに
    なるからである。


       (※)座席安全姿勢:体を前屈し膝の間に頭部を入れた状態で足首を持つ姿勢。

                 妊婦や肥満体などで前屈困難な人は、背すじを伸ばして
                 脚でしっかり床を踏み、前椅子の背に両手と頭部を当てて
                 上体を保持する。
                 
                 

                 
    中には気が動転してしまい、ベストを膨らませてしまった男性が何人もいた。
    こういう場面になると、女の人のほうが冷静なのかもしれない。


      乗客「スチュワーデスさん!どうすればいいんだ!」

    機内でライフベストを膨らませてしまった若い男性が泣きそうになっていた。

    客室乗務員「お客さま、そのままでかまいません。可能な安全姿勢をとってください。」

    一人が膨らませると、そのとなりも膨らませてしまう光景が多かった。

    あちこちで、客室乗務員の「みなさん!救命胴衣 膨らませないで!」の声が聞こえた。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:38:29











        ~ 遠きにありて ~



    通常、何かのトラブルが起きた場合、着陸可能な最寄の飛行場に降りことが先決となる。
    その際、管制機関との交信(飛行変更の許可)や機体オペレーション、飛行方法などの
    インテンション(意思)を表明しなくてはならない。致命的なトラブルではないかぎり
    その後の‘作戦行動’に揺るぎない余裕ができてはじめて、乗客への事情説明が可能と
    なる。123便の機長も状況が落ち着けば、そうするつもりであったはずだ。

    しかし、今まで訓練でも(世界中のジャンボ機パイロットの誰もが)経験したことのない
    異常事態(全油圧喪失)と機体の飛行特性に翻弄され始めていた。機内減圧と低酸素症状
    そして思うように降下できない機体、しかも、フゴイド周期や ダッチロールが連成した
    不安定な運動モードが、しだいに不安定化して大きくなっていく傾向にあった。

    全くいうことをきかないジャンボの機体をとにかく墜落させないことに専念しなければ
    ならなかった。長いパイロット人生経験から、大きな迎角や失速、機体バンクは致命的
    でコントロール困難かつ急激な落下(例えば、きりもみ落下状態など)に陥る場合がある
    ことを本能的に察知していた。推力調整、代替システムをつかった車輪降着、フラップ
    作動といった貧弱な操縦手段を懸命に使い、機体をコントロールするしか残された道は
    なかった。しかし、そのむずかしい操作さえ一歩間違いを犯せば即墜落に結びつくのだ。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:39:40











        ~ 遠きにありて ~



     そのとき123便客室は ―――――


    機内には、わずかに空席があった。しかし、一人でポツンと座っている乗客にとって
    それは一層の不安に襲われていた。救命胴衣を着用すると、席を詰めて寄り添う光景があった。

    「この飛行機は、どうなるんだ?」「このまま大丈夫なのか?」
    「スチュワーデスさん、ボクらは助かるのか?」

    制服を着ているスチュワーデスらに、男性客たちから質問の声がかかる。
    女性を含めた家族連れの場合も、一緒の男性がいろいろと質問を投げかけている。
    客室乗務員は不安感を与えぬよう冷静に対応している。


      客室乗務員「お客さま、大丈夫です。私たちはそのための訓練を受けています。安心して下さい。」

    大きな揺れは続いていたが、客室内がパニックに陥るようなことはなかった。
    ただ、乗客の笑顔はもうなく、客室乗務員たちの顔も緊張を隠せなかった。

    乳幼児用の小さいライフベストが上の棚にあったが、それを取りだす余裕はなく大人用を使っていたようだ。

           「おかあさーん」

    どこかで、子供の声が聞こえた。短い叫びのような声だった。
    機内の不安と緊張は高まるばかりであった。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:41:28











       ~ 飛行高度と低酸素症 ~


    ライン運航の旅客機では通常、高高度を巡航中であっても、客室の気圧は富士山の
    5合目 標高2500メートル程度の客室高度(客室気圧)に保てれている。

    123便に異常事態が発生し、機内減圧に襲われた高度は、およそ7000メートル。
    ヒマラヤ山脈の標高に近い高度である。

    一般的には高度障害が起きるのは、5000m(約1万6000フィート)以上といわれている。
    この高度でも、気圧は地上のおよそ半分程度しかない。たとえ健康な人であっても体調や体質に
    よっては、富士山頂の高さでも重い‘高山病(高度障害)’にかかる場合もあるが、高度に順応
    する能力や生命力には、かなりの個人差もあるようである。



    航空自衛隊の戦闘機など、機動飛行を行う乗員は飛行中は酸素ボンベを使うが、万が一その装置
    に異常が起き酸素が出なくなったときのために、自覚症状を機敏に感じとるための訓練が定期的
    に行われている。なぜ、そのような訓練が必要かというと、低酸素状態になったときの身体能力
    低下を早期に自覚できないと、飛行が危険な状態に陥る可能性があるからである。





    123便は、異常事態発生した18時25分頃から、およそ20分近い時間、機体のコントロール
    不能により思うように降下できなかった。このために、上昇降下を繰り返しながら危険な気圧高度
    2万5000~1万6000フィートを飛んでいる。この間、乗客は酸素マスクを使い続けている。

    事故報告書によれば、コックピットの運航乗員が酸素マスクを使った形跡はなかった。
    乗員が酸素マスクを使用した場合、キャプテン席、コパイ席、フライトエンジニア席それぞれの
    録音チャンネルに音声が記録されるが、123便ではボイスレコーダーのメインチャンネルのみ
    音声が収録されていたからである。


    18時29分頃~同36分頃 機長と副操縦士に会話が少ないこと。
    18時40分頃~同43分頃 運航乗員間会話が極端に少ないこと。

    18時33分50秒頃 航空機関士の呼びかけ「マスク我々もかけますか」
    「オキシジョンマスク、できたら吸ったほうがいいと思いますけど」に対し
    「はい」と答えただけで、運航乗員は酸素マスクを使用していないこと。 

    また、高度が1万5000フィートを下回り、さらに降下を続けている 18時45分頃
    からコックピット内での会話が増えはじめ、管制からの交信にも応答が増えていること。

     事故調査チームの報告書は、これらのことを指摘した上で次のように述べている。

    『コックピットの乗員は低酸素症にかかり知的作業能力行動能力がある程度低下して
     いたと考えられる。』



    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:42:58











        ~ 遠きにありて ~



     そのとき123便客室は ―――――


    救命胴衣の着用に手間取っている間にも、客室乗務員からの保安アナウンスが流れた。

       客室乗務員「この飛行機は急に着陸することが考えられますので、すぐに安全姿勢を・・・」

       客室乗務員「メガネは外して下さい。ボールペンや万年筆、ヘアピンなど先の尖ったものは
             すべて外してください。安全姿勢をとってください。」

    冷静なスチュワーデスの声とは裏腹に、機体の揺れはいっこうに収まらない。

       客室乗務員「管制塔からの連絡はとれております。」

    アシスタント・パーサーらしき落ちつた声のアナウンスが流れる。
    2階席担当のパーサーは、操縦室に入りコクピット内の状況を把握したのであろう。

    やがて、機体の揺れは、いっそう大きくなっていた。とても立っていることができないほどである。

    乗客の保安業務を手伝っていた非番の客室乗務員は「56C」の席に戻り、いよいよ不時着に備える
    覚悟である。L5ドア担当である客室乗務員も、通路をはさんで、二つ後方の空席に座った。
    乗客同様、彼女らも体を前屈させブレースポジションをとった。

    本来ならば『上着があれば、衝撃の際の保護になるように着用してください』と指示も出せるはずだが
    もはや、そんな時間的精神的余裕はなくなっていた。




    安全姿勢は、頭を深く下げて膝の中に入れ、自分の足首をつかむのである。
    非番の客室乗務員は、後ろに座るスチュワーデスとともに、保安のための大声を何度も叫んだ。

         「足首をつかんで、頭を膝の中に入れる!」「全身緊張!」

    他のエリアでも同様の光景があったはずだが、大きくて長いジャンボ機のキャビンすべての状況を
    今は知るすべもない・・・エンジンの音が変化し、機体が大きく揺れて続けている。

    このような緊急事態のときは「・・・してください」とは言わず命令口調となる。
    日頃の華やかな接客業務をこなす客室乗務員は、すでに乗客の生命を守るための保安要員と化している。




    ブレースポジションをとる直前のことであった ――――
    非番の客室乗務員は、すぐ近くに座る男性と短い会話をかわした。

       非番客室乗務員
      「緊急着陸して私がもし駄目だったら、後のL5ドア開けてお客さまを脱出させて下さい。」

       男性乗客
      「わかりました。スチュワーデスさん、そのときは私に任せておいて下さい。」

    とても冷静な声で彼からの返事を受け取った。彼女と彼が言葉をかわしたのは、これが最後であった。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:45:15











      ~ フゴイド運動とダッチロール運動が連成した123便 ~



    推力一定の航空機の飛行経路角が上昇に転ずれば、対気速度はドンドン落ちてゆく。
    降下に転ずれば、スピードがドンドン速くなるのは言うまでもない。

    例えば、アクセル一定のクルマが、登り坂ではドンドン速度が落ち、下り坂では
    ドンドン速度が上がるのは誰でも理解できることで、航空機の場合も同じである。

    フゴイド運動は、この繰り返しを長い周期で発生している状態である。

    123便のように、不安定な運動モードに陥っている機体の飛行を外から見ると
    いったい、どのような動きにに映るのだろうか?

    例えば、123便に救援機が追いついたとして、真横(この場合、右側とする)から見ると
    翼を左右に揺らしながら、反時計まわりに前進上昇~後退下降~前進上昇~後退下降という
    ぐあいに周期的に大きな楕円を描くような独特の飛行をしているのがわかるはずである。




    巡航中の航空機が速度を上げるためには、経路角を変えず(操縦桿で上昇を抑える)推力を
    上げる方法、もしくは推力を変えなくても降下することで速度を上げることが可能となる。
    速度を落とすには、推力一定で飛行経路角を上昇させる、もしくは経路角は変えず(操縦桿
    で降下を抑える)推力を落とすことで可能となる。またエアブレーキ(スポイラー)を使う
    方法もある。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:47:07











      ~ フゴイド運動とダッチロール運動が連成した123便 ~


    123便のフライトレコーダー解析によると、フゴイド運動に伴うエアスピードの大きな
    増減はあるが、異常事態が発生しコントロール不能に陥ってから、富士山付近を通過する
    までの速度は、300ノットから200ノットの一定範囲内におさまっているのがわかる。

    大月付近を円旋回降下し、奥多摩上空(青梅市の西方)に向かう頃、さらに高度を落として
    いるが、降下しているにもかかわらず、その間の平均速度200ノット前後で推移している
    のがわかる。

    昇降舵の操作を行わない場合(123便の場合‘操作不可能’だった)航空機の特性として
    推力だけを変化させても飛行の経路角(上昇、降下)を変えることはできるが、平均的速度
    を変えることは難しいという傾向がある。操縦舵の効かなくなった123便の場合も、この
    特性を持っていた。

    全体的に見ると、300ノットから平均200ノットに速度が落ちているが、これは高度が
    下がってきて空気抵抗の影響が出てきたためと考えられる。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:48:52










      ~ フゴイド運動とダッチロール運動が連成した123便 ~


    全油圧系統の喪失に伴い、オートパイロット(およびパイロットによる)飛行制御を失った
    123便の場合、長周期のフゴイド運動とダッチロール運動が連成し発生していた。それは
    減衰することなく、しだいに振幅が大きくなる傾向にあり非常に不安定な状態になっていた。


    123便の場合、この速度増加(上昇モードに移行)と速度低下(降下モードに移行)を
    繰り返す悪夢のフゴイド運動を抑えるには、上昇と降下のタイミングを予測してエンジン
    推力を‘左右対照に増減’するしかない。しかし、大型機の場合には、推力増減の効果は
    かなり遅れてやってくるので、そのタイミングを合わせるのは至難の技であろう。しかも
    123便の場合はダッチロールによる左右の揺れも連成していた。ダッチロールを抑える
    には、エンジン推力を‘左右非対称に増減’しなくてはならない。

    ダッチロール運動抑制に専念すれば、フゴイド運動の増幅につながるかもしれない不安定な
    飛行状況であった。フゴイド運動抑制に専念すれば、ダッチロール運動が増幅するかもしれ
    ない。気流による擾乱も加わる。これが123便の悪夢と苦悩である。


    また、大型機の場合、推力増減の効果は、遅れてやってくる。ちょっとしたタイミング
    が狂えば悪い運動モードをさらに増幅させるかもしれない。大きく姿勢が乱れて、いつ
    機体が失速しても、また大きく転覆して制御不能な落下(墜落)になっても、おかしく
    ない状況であった。にもかかわらず、長時間にわたって懸命に迷走飛行を続けなければ
    ならなかったパイロットの苦境は想像を絶するものであろう。




    機 長 「バンク そんなにとんな」「気合を入れろ」
          「あたま、下げろ」「ストール(失速)するぞ」

    副操縦士「はい」

    このような懸命に飛行状態を立て直す言葉が、何度も交わされているのは
    フゴイド運動による姿勢の乱れ、速度の変化に翻弄されて失速による墜落
    を警戒しているためであった。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:50:30













      ~ フゴイド運動とダッチロール運動が連成した123便 ~


    123便のような状況で、不安定に連成した運動モードを推力の撹乱で増幅させないためには
    何もしない方がよいのだろうが、いつまでも空を飛んでいるわけにもいかない。燃料も限りが
    ある。連成した不安定な運動モードを抑え、何とかして機体を安定して降下させる方法を探さ
    なければならなかった。

    機体は、時は上昇姿勢と速度低下で失速寸前となり、時には翼が左右に大きく揺れ続けた。
    もはや、飛行のコントロールは、4本の推力レバーしかなかった。不安定な運動モードを
    かかえているかぎり、地上へ戻ることはおろか、ジャンボ機の巨大な機体が転覆して墜落
    してしまう危機と長時間戦い続けなくてはならなかった。

    123便のコクピットクルーは、車輪を出すことで不安定な上昇降下の運動を打ち消し
    空気抵抗と機首下げモーメントの発生を期待した。油圧の効かない中、非常システムを
    使って車輪を出した18時40分頃から、徐々に飛行高度が落ちていた。機体は富士山
    の北方上空をかすめて、大月市付近にさしかかっていた。

    車輪出しの効果があり、推力を調整しながら飛行高度を落としていったが この頃には
    搭乗者にとって悪夢のような長周囲のフゴイド運動は収まり始めていた。


    なお、非常システムを使って車輪を出した場合、再び車輪を格納することはできない。
    海上着水の場合においては車輪出しによって受ける機体損傷の確率は大きくなるので
    生還確率を下げることになる。この車輪出しは、滑走路や地上への不時着を目指して
    本来使われるものだと言えるが、123便の場合は姿勢の制御と飛行高度を下げると
    いう別の目的で使われたようである。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:51:24











       ~ 遠きにありて ~



      123便客室 ―――――


    安全姿勢をとり続ける非番客室乗務員 赤野 汝央は、一度、上体を上げて窓の外を見やった。
    ふと気が付くと、窓の外のやや下方に富士山が見えていた。
    それは、とても近い距離感であった。

    西日本へのフライトのとき、富士山が最も近く見えるルートがあった。
    それと同じくらいの近さに感じていた。

    夕方の夏富士。その黒い山肌には、夏の入道雲がかかっていた。
    本来の飛行コースならば、富士山の近くを飛ぶはずがなかった。
    この飛行機がどのようなルートで飛んでいるのかは全く見当がつかなかった。

    123便は、駿河湾横断後、静岡県焼津付近から内陸部へ入り、北に進路をとった。
    やがて東に変進。富士山の北方上空をかすめながら、山梨県大月市方向に向かった。
    大月市付近では、機体は円を描くように旋回しながら、徐々に降下していた。

    左の窓の少し前方に見えた富士山は、すうっと後方に移動したように見えた。
    非番客室乗務員 赤野 汝央は、富士山が窓のちょうど真横にきたとき
    再びブレースポジションをとって頭を下げたのだった。





      東京航空交通管制部 ―――――

     ●18時40分55秒

     東京コントロール
    「ジャパンエア123 ジャパンエア123  トウキョーコントロール
     イフ ユー リード ミー   アイデント プリーズ」

    (日航123便へ 東京コントロールです。聞こえましたら、識別強調信号を送って下さい。)

    東京航空交通管制部コントローラーは、多くのトラフィックをさばきながら多忙であったが
    123便の異常事態に対処する為、レーダー上で123便と他機とを識別する必要があった。
    管制機がATCトランスポンダーのアイデント・ボタンを押すことで、識別強調信号が発信
    されるが、123便からの応答はなかった。パイロットは、ノーコントロール状態での運動
    モードと懸命に戦っていて、それどころではなかったのだろう。




     ●18時41分55秒

     東京コントロール
    「オールステーション、オールステーション、 エクセプト ジャパンエア 123 アンド
     コンタクト トウキョーコントロール    コンタクト トウキョーコントロール 
     ワン・スリー・フォー ポイント ゼロ」

    (全航空機に告ぐ。日航123便を除く全航空機は 134.0MHZで東京コントロールと交信。)


    東京コントロールとの交信で使用している周波数を、123便との専用交信チャンネルとして
    使うべく、他の全航空機は違う周波数(134.0MHZ)に切り替えるよう指示が出された。
    しかし、切り替えせずにコンタクトしてくる定期便は多かった。トラフィックの多い時間帯だ。



     ●18時42分38秒

     東京コントロール
    「・・・364  コンタクト134.0  ウィ ハブ エマージェンシー エアクラフト
     134.0 ナウ」

    (・・・364便へ 今は周波数134.0に切り替えて交信ですよ。緊急事態機がいます。)


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:53:32










     ~ 遠きにありて ~



     ●18時47分07秒

     ▽JAL123(機長)
    「ア~ リクエスト レーダーベクター トゥ ハネダ ア~ キサラズ」

    (羽田、あ~木更津へのレーダー誘導をお願いします。)


     ◆横田アプローチ(横田管制区進入管制所)
    「ジャパンネア 123  ジャパンネア 123・・・」

     ◆東京コントロール
    「(日航123便へ)了解しました。(横風用)ランウェイ22なので、ヘディング090を
     キープしてください。」

     ▽JAL123(機長)「ラジャ」


         航空機関士「ハイドロクォンティがオールロスしてきちゃったですからなあ・・・」

               (油圧用の液量が全喪失してきちゃったですからなあ・・・)






     ●18時47分16秒

     ◆横田アプローチ(横田管制区進入管制所)
    「アテンプト コンタクト ヨコタ ワン・ツー・ナイナ ポイント フォー」

    (日航123便へ 横田管制 129.4MHZと交信を試みてください。)


     ◆東京コントロール
    「(日航123便へ)現在コントロールできますか?」


     ▽JAL123(機長)
    「アンコントローラブ(操縦不能)です。」


     ◆東京コントロール「了解」


    その頃、123便は横田基地に最も近い場所、東京都青梅市の西、奥多摩上空を飛行していた。
    横田の進入管制所も、レーダーで日航機の機影を追いつづけている。

     米軍 横田基地の管制官は ―――――
    「YOKOTA APPRORCH on guard, If you hear me, squwak 5423・・・」
    (こちら横田アプローチ 緊急着陸体制をとっています。日航123便 もし聞こえて
     いましたら、レーダー識別符号を5423に・・・)

    といったように、いつでも緊急着陸できるよう基地は万全の体制であることを
    日航機に対して何度も呼びかけを行っていたが、それに応答することはなかった。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:55:49











        ~ 遠きにありて ~



    123便の飛行高度が下がるにつれ、空気密度が増えてきた。
    段階的にフラップを下げ、飛行速度を押さえ、何とか地上に戻る希望が欲しい・・・

    大月市付近で右円旋回をしたのち、さらに東、相模湖方向へと向きを変え
    なおも降下を続けていた。奥多摩上空にかけては最も高度を下げている。

    この低空飛行するジェット機を不審に思った住民によって、地上から123便が
    撮影されていた。写真に写っていたジャンボの機影は、垂直尾翼のほとんどを
    失っていたショッキングなものであった。

    なおも迷走が続き、どこへ飛んでゆくのか予測がつかない機体 ――― 相模湖の
    山間部を過ぎれば、その先は八王子市の近郊である。関東平野の市街地が、もう
    すぐそこまで広がっている。市街地への墜落は最悪のシナリオであろう。



    相模湖付近上空で、航空機関士の「フラップどうしましょうか?」という問いに対して
    機長は「まだ早い」と答えている。

    2万2000フィート付近だった飛行高度は、このとき青梅市の西方で6600フィートまで
    降下していた。エンジンスラストは1.5EPRから1.0EPR前後に絞られ、降下が進むに
    つれて空気密度と抵抗が増えていった。この頃からフゴイド運動は徐々に収まってきていた。

     ●18時45分~48分頃 ――― 奥多摩付近上空を東から北へ変進した頃、その運動
                     モードが一時的に消失している。

    しかし、行く手には、奥多摩や秩父の山なみが迫っていた。
    エンジンEPR は、およそ1.0から最大1.6の間を断続的に変化していた。
    失速させないため、山にぶつからないためのパイロットの懸命な推力操作の表れであろうか。


          機長「これは だめかもわからんね」


    ジャンボ機の特性を熟知したベテランパイロットでさえ、思わず口から漏れた
    無念とあきらめの言葉だったのだろう・・・

    傷ついたジャンボ機123便は車輪を出したまま、夕暮れの秩父山系、その奥深い山なみへと
    飛行方向を変え、なおも迷走飛行を続けてゆく・・・あの日本のエアラインを代表する優雅な
    赤い‘鶴丸’の尾翼を失ったまま・・・







           ――― シアター バックグランド ミュージック ―――

                ♪6番目の駅 (音楽:久石 譲)

          スタジオ・ジブリ「千と千尋の神隠し」サウンドトラックより 


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:56:59











        ~ 遠きにありて ~


    速度は150ノットから280ノットまで加速、上昇に転じた機体は、再び悪い運動モードが
    出始めた。上昇に伴って最低速度108ノット、迎角30.9度となった。急激に高度を落とし
    30秒後には170ノットに増速している。123便は、さらに奥秩父の山深い方向へと迷走
    飛行を続けていった。パイロットが無意識のうちに関東の市街地を避ける為、そのような飛行
    ルートになったのか。機体の飛行特性とただの気流の気まぐれだったのかは分からない。


    ジャンボ機の場合、エンジンまたは油圧の1系統が故障しても、緊急事態にはならない。
    2系統ロスではじめて緊急事態が宣言される。まして、4系統の油圧が全滅することなど
    訓練でも想定されていない。4系統全滅の警報が出た場合、多くのパイロットは警報それ
    自体を疑うという。世界を飛ぶジャンボ機パイロットの誰であろうが今まで経験したこと
    のない異常な飛行は続く。


    奥秩父山系は2000~2500メートル級の山々が連なっている。
    123便は、その主脈の一番深い高みへと向かっていた。


    0

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