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  • ☆ジェット オン ドリーム ~夢幻飛行~  第2部
    elyming♂ 2006/11/23 22:35:55



        【 ジェット オン ドリーム 】

          ~ 夢幻飛行 第2部 ~  

            <第15幕>



  • elyming♂ 2007/01/04 21:49:51



    【 ジェット オン ドリーム 】

      ~ 夢幻飛行 第2部 ~
      
        <第24幕>


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  • elyming♂ 2007/01/04 21:50:39



       1985年8月12日 夜

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  • elyming♂ 2007/01/04 21:57:08




    夜の9時すぎ、日航は123便の搭乗者名簿を発表。
    羽田東急ホテルには乗客の家族らも ぞくぞくと集まっていた。
    5名の医師、看護婦を含む85名の日航派遣団が結成され、現地への出発準備に入った。

    羽田東急ホテルでは、乗客の家族や親類らが日航職員に問い詰める光景もあった。

    「ほんとに堕ちたのか?」「救援体勢はどうなっているんだ?」
    「パイロットのミスじゃないのか?」

    非番の職員も駆けつけ対応に追われたが、十分な情報が入ってこない。
    満足な説明はできないまま沈痛な時間だけが流れてゆく。



    そんな中にあって、まだ幼い女の子を抱きかかえ、目を真っ赤に泣き腫らした
    若い母親のすがたがあった。母親は子供を床に降ろし、搭乗者名簿の中に夫の
    名があったことで、気が遠くなっていくのを感じていた。

    幼女「マンマ マンマ だっこ  おとうたん おとうたん どこ?」

    母親「・・・みっこ・・・はい、だっこするね、大丈夫だからね・・・」

    まだ何も事情を知らない幼いわが子。そのまん丸で つぶらな瞳が、涙をこらえた
    若い母の顔を不思議そうに見つめていた子供・・・それが幼少の富士峰子だった。

    そんな光景に、日航職員も言葉を失うしかなかった。 


    日航の現地派遣団は、長野県 南牧村 北相木村方面に向けて、羽田をバスで出発する。
    しかし、お盆期間中のため帰省ラッシュの渋滞に巻き込まれ到着は遅れた。


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 21:58:30




    夜の9時半を過ぎて、ようやく・・・
    陸上自衛隊に災害派遣出動要請が出され、第12師団偵察隊、13連隊情報小隊が出動。
    また、航空自衛隊では、熊谷基地から地上先遣部隊10名が出発した。



     ●21時50分

    朝日新聞社の報道ヘリ、地元の住民らは、正確な墜落現場の位置をつかみ始めていた。

    一方で、NHKテレビは、地元住人の目撃証言として、日航機123便は長野県北相木村の
    御座山(2112m) に墜落したもようと報道する。長野県警、埼玉県警のパトカーなどが集めた
    目撃情報では、事故機の墜落地点は、すでに群馬側と判断していた頃である。

    墜落地点の情報が混乱する中、不正確な位置の測定や、テレビ局の未確認情報
    ――墜落現場は長野県の御座山――に左右された捜索隊はそれに従うこととなる。

    自衛隊航空幕僚本部は、千葉県嶺岡山のレーダーサイトが確認した 日航機の機影がレーダー
    から消えた位置の緯度経度は「北緯36度2分 東経138度41分」であるとする情報を
    運輸省運用課に連絡した。

    墜落現場の位置は長野県北相木村の御座山(2112m) 北斜面に確定したという情報が、警察庁、
    長野県警、自衛隊、日航に通知され、墜落現地付近で捜索を続けていた警察官らは長野県側
    御座山へ移動する。

    しかし、実際の墜落地点は、御座山(2112m) の東南東およそ8キロの長野県境から群馬県側
    に入った‘御巣鷹山付近’であった。




     ●23時30分

    情報が二転三転する中、長野県警は墜落地点の公式見解を正式発表した。

      「 現場は群馬県内、と判断している 」

    この発表を受けて、群馬県警機動隊は、上野村 御巣鷹山方面に向かって捜索活動を開始する。


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  • elyming♂ 2007/01/04 21:59:27



       1985年8月13日 夜明け前


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  • elyming♂ 2007/01/04 22:02:22










     ●午前0時

     ピ ピ ピ ポ~ン(時報)

    NHK第一放送「午前0時になりました。ひきつづき日航機墜落関連のニュースをお伝えします。」

    日航機123便が墜落して、およそ5時間が経過していた。日付は変わり、8月13日となった。

    その頃、警視庁機動隊員200名、埼玉県警機動隊員222名が群馬県警に到着した。
    また、防衛庁では対策会議が始まっていた。

    航空自衛隊 MU-2救難機 V-107ヘリが再度、墜落現場に向けて出動する。
    夜間出動の隊員らの顔にも、しだいに疲労の色が濃くなってゆく。





     ●午前1時~2時

    群馬県警、上野村役場に現地対策本部を設置。出動人員は他県からの応援を含んで
    1000名以上の警察関係者が現地に集まっていた。




    一方、その頃、入間基地を離陸したV-107ヘリは、墜落現場上空に到着した。
    場所を計測し位置情報を防衛庁空幕に送信。

     ▽V-107ヘリ
    「航空幕僚本部 こちらヴァイタル27 確認地点を報告。入間から291度、距離36.3マイル。」

    その後、V-107ヘリは、着陸灯を点灯し、地上にいる車両を現場方面に誘導しようとするが失敗。
    また、群馬県側 上野村にいた車両のヘッドライトを見て、県境‘ぶどう峠にいる車両’であるもの
    と位置を誤認し、間違った位置情報を航空自衛隊幕僚本部に通報した。

    夜間の暗闇は、パイロットの地表認識、空間認識をいとも簡単に狂わせてしまうのだった。




    陸上自衛隊 第13連隊情報小隊 及び 第12偵察隊、第13連隊の本隊が、長野県北相木村に到着。
    各部隊は、メディアのニュースや目撃情報をもとに、長野側にある御座山北斜面の捜索を始めていた。
    また、陸上自衛隊では、この部隊とは別に、第12戦車大隊、第12施設大隊などが現地に向かって
    いるところであった。しかし、各部隊とも目的地は、墜落現場ではない長野県の北相木村であった。

    また、これに前後する8月13日深夜、日航派遣団の第1陣が、ようやく長野県側の南牧村に入った。


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  • elyming♂ 2007/01/04 22:04:11




       東京 市ヶ谷 防衛庁幕僚本部 事故対策会議室 ―――――


     陸海空の幕僚幹部が集まり、今後の対策について深夜の会議が行われていた。

    「日航123便の医療用ラジオアイソトープ搭載の件だが、同位元素の種類や放射能の
     強度や拡散状況は今のところ不明である。協会には再度詳しい情報を求めている。」

    「空自、陸自とも、すでに運輸省からの要請を受けて現地に向かっているわけだが・・・」

    「大宮の化学学校に災害派遣準備命令を出す予定だ。場合によっては、一時部隊の撤退や
     周辺住民の避難も考えねばならん。」

    「出動している各部隊のすべてに情報は流れているのか?」

    「県警では、この情報を受けて、地元消防団への出動要請をためらっているようだが。」

    「現在、科学技術庁でも情報精査をしているところだ。結果が判るまでは現地も身動きが取れんだろ。」


     会議室の壁には、現場一帯の大きな地形図が掲げられ
     各部隊の動きなどが逐一報告される。


    「ヘリ部隊には、ラベリングは行わないようにと指示を出してある。隊員らの被爆は
     何としても避けねばならない。」


     時計の針は午前2時を回ろうとしていた。東京市ヶ谷 防衛庁 東部方面総監部は、陸上自衛隊
     大宮駐屯地 化学学校に対して災害派遣準備命令を発動する。


         日航123便に医療用ラジオアイソトープが積載
         種類、放射能の強度は不明。人員、装備を準備し
         出動体勢を整えよ。


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 22:05:55











     ●午前2時半

    羽田空港事務所 捜索救難調整部(RCC)から海上保安庁運用司令室に対してある情報が伝えられた。

    『客室のドアが外れた場合、乗客が機外に吸い出される可能性がある。』というものであった。

    その通報は、管轄する第3管区海上保安部に伝えられ、駿河湾で行動中だった巡視船「おきつ」
    下田港に停泊中の「まつうら」 清水港に停泊中の「しずかぜ」にも伝えられ、深夜未明の伊豆半島
    周辺沖にそれぞれが展開し、日航123便の遭難者捜索行動を開始した。漆黒色をした夜の相模湾や
    駿河湾が不気味にひろがっていた・・・


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  • elyming♂ 2007/01/04 22:08:48











     ●午前3時頃

    群馬県警の機動隊は、群馬側林道終点(船坂山南・中ノ沢林道行き止まり地点)から、さらに奥地
    長野県境側の尾根に向けて現場捜索を開始する。



     ●午前4時頃

       バタバタバタバタバタバタバタバタバタ・・・

    東の空が、うっすらと明るくなり始める頃、入間基地をV-107ヘリが離陸した。
    やがて空が明るくなれば、地表の確認と位置関係は、より正確に把握できるはずである。

     ▽V-107ヘリ
    「司令へ  ビタル33 ナウ エアボーン ヘッディング280 墜落現場に向かう。」

     ◆基地司令
    「了解。バックアップ周波数は、国内共通122.60MHZとする。他の航空機に注意せよ。
     墜落現場の詳細が判明したら報告せよ。放射能大気サンプルは、広範囲に収集されたし。」

     ▽V-107ヘリ
    「オペル(司令へ) ビタル33了解。」


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 22:10:21











     ●午前4時半

    北相木村役場付近に集結していた自衛隊約700人が‘ぶどう峠’から東へ移動する。
    県警の指示の遅さにしびれを切らした地元消防団の一部は墜落現場に移動し始めていた。

       ――――― 後に、この消防団員達が生存者を発見することになる。

    現場付近の山や谷は、渓流釣りや山仕事、熊などの有害駆除で入る猟友会関係者以外は
    ほとんど人間が入り込むことがない山奥であった。事故現場の尾根に人跡はほんどなく
    木々が鬱蒼と茂るけわしい山の尾根が続いていた。




    航空自衛隊 入間基地を午前4時頃に出発したV-107ヘリは、およそ40分程で
    墜落現場上空に到着した。うっすらと明るくなりつつある秩父山系の緑に覆われた
    山肌の中腹に、日航123便のものと思われる機体の残骸を発見した。
    やはり墜落の事実は確定的であった。

     ▽V-107ヘリ
    「ビタル33から作戦司令へ。 墜落現場を確認した。位置は三国山の西3㎞、扇平山の北約1㎞
     と思われる。どうぞ。大気サンプルを収集して帰還する。」」

     ◆基地司令
    「ビタル33 位置は、三国山の西3㎞、扇平山の北1㎞ 了解した。」



       科学技術庁が、日航機に搭載されていた医療用のラジオ
       アイソトープは人体に支障なしとの見解を発表したのは
       午前5時前のことだった。


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  • elyming♂ 2007/01/04 22:11:59











    陸上自衛隊 松本連隊情報小隊14名は墜落現場を目前にしていた。

    しかし、東部方面総幹部から発令された医療用ラジオアイソトープの安全情報が上官に
    伝わっていなかったため、墜落現場の手前で足止めされていた。


     赤野 丈夫(せきの たけお)二等陸尉
    「このまま、行くべきであります。救出を待っている生存者を見殺しにするわけには。」

     御前 地治(ごぜん ちはる)一等陸尉 部隊指揮官
    「気持ちは判るが、おまえらの命は誰が守るのだ? 無防備な部隊を被爆させるわけにはいかん。」

     赤野 丈夫(せきの たけお)二等陸尉
    「しかし上官、われわれの任務は、国民の命を・・・」

     御前 地治(ごぜん ちはる)一等陸尉 部隊指揮官
    「ばかもん! そんなこたあ分かっておる!」


    隊員らの顔にも疲労の色は隠せなかった。
    ヘルメットに付けたヘッドランプバッテリーが減り、その光も心もとない。
    しかし、すでに東の空は明るく、夜が明ける頃であった。


        「こちら松本連隊情報小隊、本部応答願います。」

        「・・・・・ガガ(雑音)・・・・・」

        「こちら松本連隊情報小隊、本部応答願います。」

        「山の尾根が通信を遮っているものと思われます。」


     御前 治(ごぜん おさむ)一等陸尉 部隊指揮官
    「よし、場所を移動する。また上へ上がるぞ。転落に気をつけろ。」


    深夜、重い装備を背負いながら、長野県北相木村から捜索活動を開始。
    道なき尾根を暗中模索で進んできた。山の中の暗闇で見えない足元。
    木々が茂るヤブの斜面、時には、冷たい沢の水に浸りながらの前進。
    勿論、休憩地などない。思わぬ崖、苔で濡れた岩、木の根、崩壊地
    前をゆく隊員が押しのける木の枝が顔面を直撃する痛さ・・・


    サバイバル訓練の経験は十分積んでいたが、それでも夜の山を移動する隊員らの精神的
    プレッシャーは相当である。バリバリと木々のヤブを押しのけた体はアザだらけである。


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  • elyming♂ 2007/01/04 22:13:59











    123便の客室後部に座っていた非番の客室乗務員は、墜落の衝撃で重症を
    負いながらも、その命のともしびは失ってはいなかった。

    気がつくと、あたりは明るくなっていた。うっすらと夜が明けていたのだ。
    物音は何も聞こえず、周囲は全く静かになっているのを感じた。


    『生きているのは私だけかな』と思ったが、声を出してみる。

    『がんばりましょう』という言葉が自然と出た。しかし、周囲から返事は返ってこなかった。


    昨夜、たしかに聞こえていた「 はぁはぁ 」という荒い息遣いは、もう聞こえなかった。
    あとで、自分と3人の母子少女が助かったこをと聞いた。助かった彼女らも、すぐ近く
    に寄り添うようにいたのだが、このときには、その気配を全く感じなかったのだった。
    彼女は、再び、ウトウトと眠りに陥っていた。


       実際には、4人以外にも生存者がいたことが証言されているが、夜が明け
       翌日から始まった救出活動前に息絶えてしまったことが悔やまれた。


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  • elyming♂ 2007/01/04 22:14:56




       1985年8月13日 夜明けとともに



     

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  • elyming♂ 2007/01/04 22:17:05











      8月13日 午前5時 ――― 関東地方の日の出時刻を迎えていた。


    航空自衛隊 入間基地ヘリの現場確認のあと、今度は陸上自衛隊のヘリ OH-6ヘリが
    墜落現場付近上空に到達した。

     ▽OH-6ヘリ
    「オスカー27から司令へ 墜落地点を報告する。御座山の東5㎞付近と思われる。どうぞ。」




    午前5時半過ぎ、深夜の闇も遠ざかり、秩父山系一帯に夜明けの明るさが訪れていた。
    山々の尾根は、光と影が分裂し、その地形もハッキリと視認できるようになっていた。
    その頃、北アルプスなどの山岳遭難で活躍する長野県警のヘリ「やまびこ」が日航機
    墜落現場を確認し、県警本部に一報を入れる。


    操縦桿を握るのは、この道15年の鉄野 霧蔵(てつの きりぞう)機長であった。
    長野県警ベテランレスキュー隊員、御山 参二(みやま さんじ) 綿利 登理雄(わたり とりお)も
    同乗している。事故現場の惨劇に胸を痛ませつつも、山岳遭難救助の経験から養ってきた山岳地形
    の的確な把握と、気流の読み、そして これからの救助活動の全体像をイメージしようとしていた。    


     ▽長野県警ヘリ
    「え~ やまびこ から本部へ。え~墜落地点をほぼ特定しました。え~場所は・・・
     御巣鷹山の南南東約2㎞、県境から東方に700m。現場は明らかに群馬県側です。」

     ◆長野県警本部
    「本部了解。位置は、御巣鷹山の南南東2㎞、県境から東に700メートルで、群馬県側。」



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 22:20:31










     ●午前5時半

    アイソトープの安全情報を受けて、群馬県上野村に集まっていた消防団員に
    現地出動命令が流された。夜が明けるとともに、現場の位置がしだいに判明
    してきていた。

    陸上自衛隊 第12師団は、すでに1000名あまりの捜索人員を出動させていた。

    陸自第12師団の発表では ――― 御座山東7㎞、南4㎞の地点に白い尾翼を発見。
                          さらに500メートル離れたところに黒こげ物体発見。

    長野県県警本部の発表では ――― 御巣鷹山南南東2㎞、県境の東700mのところに墜落物体発見。
     



     ●午前6時半

    現場上空を飛ぶヘリコプターから、陸上自衛隊東部方面総幹本部に現地画像が届く。
    緑をたたえた秩父山系の山なみは朝の光を受け、現場の地形や位置関係が明らかになってきた。

    画像を分析した東部方面総幹本部では、ヘリコプター部隊からラペリング(※)に
    よって墜落現場に部隊を下ろすことを提言。これを受けて、千葉県の習志野駐屯地
    第1空挺団の部隊編成が開始された。

             (※)懸垂降下:地面に垂直ロープを垂らし人員を降ろす



    午前7時前、日航本社対策本部には『遺体は群馬県側に下ろした方が得策ある』とする
    日航現地派遣団からの連絡が入る。




     ●午前7時頃

    群馬県警 機動隊40名は、群馬県上野村地方猟友会会長の案内によって本谷林道から
    現場へと向かった。これと平行して、上野村消防団の全分団も、中ノ沢と本谷の2つ
    の林道に分かれて現場に向かった。またこれとは別に 陸上自衛隊 松本連隊情報小隊
    14名が長野県側から県境越えで現場付近の山に向かっていた。




     ●午前7時半

     日本航空本社事故対策本部に警察庁から連絡が入った。

          遺体は群馬県側に下ろす。
          検死は上野村小学校で行う。
          遺体の安置場所は藤岡市民体育館。
          遺族休憩所は安置所付近に設置予定。



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  • elyming♂ 2007/01/04 22:23:45











     ●午前8時前

    陸上自衛隊 第1空挺団のヘリが習志野駐屯地を離陸する。
    この部隊には73名の隊員が乗っていた。




    一方、墜落現場への隊員降下を検討していた長野県警ヘリ「やまびこ」は、墜落地点である
    尾根周辺の地形その他を総合的に判断しながら、レスキュー隊の垂直降下地点を探していた。

           ブルルルルルルルルルルルルルルルルル

    ヘリ機体のローターが回転する音と振動は、いつものことだ。
    コックピットの丸いグラスエリアには、奥秩父山系の緑深い山なみが拡がる。
    眼下は長野・群馬・埼玉県境の三国山。その北方に見える墜落地点は、山肌がV字上に剥げて
    いまだに煙が立ち昇っている。南側には2500m級の山々が連なる奥秩父山系の主脈があり
    目を東の方角、埼玉県側に転ずれば、ゴツゴツした異様な岩尾根を持つ‘両神山’が見える。


           ブルルルルルルルルルルルルルルルルル


    ヘッドフォンマイクを通じ、パイロットとレスキューとの間で、降下地点を検討する会話が飛び交う。



     綿利 登理雄 レスキュー隊員
    「機体の残骸付近は、まだ煙上がっているしね。再炎上の危険性あるんじゃないかね。」

     御山 参二 レスキュー隊 隊長
    「機体の残骸付近を避けて、墜落現場から下流側にある谷から上をせめてみるか?」


           ブルルルルルルルルルルルルルルルルル


     鉄野 霧蔵 機長
    「今のところ、気流は安定してるよ。午後は上昇気流や雲出るな。午前中が勝負じゃないか?」

     綿利 登理雄 レスキュー隊 隊長
    「御山隊長の言う通り、あの尾根から東側に下った谷ぞいに接近しましょうか?」

     御山 参二 レスキュー隊 隊長
    「鉄野キャプテン どうだろう? あのあたりで・・・」

     鉄野 霧蔵 機長
    「OK やってみよう。ウィンチ準備いいね。よし、いくぞ!」



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 22:28:06











    鉄野機長は、墜落地点の東側に落ち込む谷沿いに向かって慎重に高度を下げてゆく。
    さらに高度を落とし、煙をあげている墜落地点の尾根が左後方に遠ざかる。



     鉄野 霧蔵 機長
    「よし、ラペリングポイントだ。二人とも慎重に頼むぞ。」


         バタバタバタバタバタバタバタバタバタ


    機体は、空中でホバリングし、まず綿利レスキュー隊員が必要装備を背負い懸垂ロープを
    伝わって降下した。ついで御山レスキュー隊長が懸垂降下した。周囲に茂る雑木の枝々が
    ヘリの回転ローターの風圧を受けて激しく揺れる。

    沢沿い近くの地面に降り立った2名の隊員は、親指を出した片腕を大きく上に振り上げ
    降下完了と懸垂ロープの引き上げサインを出す。ウィンチを操作する隊員もOKサイン
    で応え懸下ロープを引き上げてゆく。



     ▲御山 参二 レスキュー隊 隊長
    「え~ こちら長野レスキュー やまびこ レシーバーの受信感度いかがですか?」

     ▽長野県警ヘリ「やまびこ」
    「長野レスキュー 感度良好です。尾根の影に入ると、おそらく受信できないので
     ヘリが見える位置で上空待機する。どうぞ。」

     ▲御山 参二 レスキュー隊 隊長
    「レスキューから やまびこ へ  了解。 生存者の発見など、現況に変化あるまで
     送信を停止する。そちらは、受信待ち待機のままで お願いします。」

     ▽長野県警ヘリ「やまびこ」
    「御山隊長、了解。健闘を祈る。」


    2名のレスキュー隊員は、沢沿いにそって上流に移動していった。
    谷ぞいの鬱蒼と茂る木々の木立ち越しに、煙を上げる墜落地点の山尾根が右奥に見え隠れする。





     ●午前9時前

    陸上自衛隊 習志野の第1空挺団のヘリ部隊は、墜落現場上空に到着した。事故現場の尾根上に
    直接ラペリング降下を開始する。隊員73名全員の地上降下が完了したのは、降下を開始して
    からおよそ1時間後のことであった。

    隊員の降下と平行して、現場付近の生存者捜索が開始されたが、機体残骸の損傷は激しく
    生存者の痕跡は、とても見当たらなかった。

    第1空挺団から陸上自衛隊幕僚本部に「降下地点、目下生存者なし。」と報告が入る。



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 22:32:10











     ●午前9時20分

    陸上自衛隊 松本連隊 情報小隊14名が墜落現場直前に到着した。
    部隊は、アイソトープ放射能情報により本隊300人と合流するまでの間、待機していた。
    現場を目前にして動きがとれなかったのである。この間、東部方面総幹部からは、医療用
    ラジオアイソトープの無害情報が発令されていたが、情報がただちに現場の指揮官に伝達
    されなかったためであった。




     ●午前9時25分

    長野県警レスキュー隊 御山隊長と綿利隊員は、山の斜面に機体の一部が落下しているのを見つける。

     長野県警レスキュー 御山隊長「これは、ジャンボの尾翼だな。どうして、こんな所にあるんだ?」

     長野県警レスキュー 綿利隊員「形からして水平尾翼でしょう。ヘリに連絡入れましょう。」


    長野県警レスキュー隊の2名は、JAL123便の水平尾翼の落下地点を発見する。
    場所は機体本体が墜落した地点から東に500メートル程離れた谷底に近い尾根の斜面だった。

    のちに、この水平尾翼は墜落直前の地表との接触で、胴体部分とは違った方向に飛ばされた
    ものであることが判明した。この水平尾翼は最終激突墜落地点の1キロ以上手前の斜面から
    機体主要部の飛行方向とは別方向(右斜め前方)に900メートル程飛んだのち、この谷底
    付近の斜面に落ちたものと推定された。




    午前9時半、群馬県上野村の消防団第5分団は、ふもとの谷を辿りながら徒歩で墜落現場に到着した。
    すでに多くの自衛隊員らが集まっていた。

    第5消防分団長 肩菜 重市(かたな しげいち)、消防副分団長 埼玉 浜男(さきたま はまお)
    本願 多力(もとねがい たりき)らは、現場の惨状に驚きつつも一行の消防団員らに生存者の捜索
    を指揮する。尾根上に激突した機体は 逆デルタ状に左右に拡がっているようである。尾根の右斜面
    下方にも、数百メートルにわたって機体の残骸が飛散していた。


      肩菜 重市 第5消防分団長 「下の方にも捜索範囲を広げる。いいか、あきらめるなよ。」

      埼玉 浜男 第5消防副分団長「よ~し、右手の斜面を降りるぞ。」

      本願 多力 第5消防団員  「お~い、誰か~声出してくれ~! 手振ってくれ~!」


      ハッピ姿の消防団員らは、懸命に声を上げながら足場の悪い斜面をズルズルと下ってゆく。
      午前10時すぎには、群馬県警 機動隊も墜落現場に到着する。





     ●午前10時40頃

    長野県警レスキュー隊の2名は、墜落現場近くに到着した。彼らは沢に降りる途中で
    上野村消防団と合流。足場の悪い中、ひきつづき生存者の捜索を続ける。

    一方、陸上自衛隊 第12師団第3次偵察部隊の2名、第1次隊の2名も墜落現場に到着した。
    その後も現場には、時間を追うごとに捜索人員や報道関係者などが入り始め、本格的な捜索と救助活動の
    下地が整ってゆく。こうして空から地上から、さまざまな組織の人間が墜落現場に多数集まりつつあった。



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 22:33:33




       奇  跡



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 22:37:08









     ●午前10時54分

     御山 参二 レスキュー隊 隊長
    「お! そこで誰か手上げているぞ! 生存者だ! 生存者がいるぞ!」


    確かに小さな声の反応もある。にわかには信じがたいことだったが
    それは長野県警のレスキュー隊が、生存者1名を始めて発見した瞬間であった。
    山の斜面を削るように散乱する機体残骸の破片になかば埋もれたような状態である。




     長野県警レスキュー隊員(綿利 登理雄 )
    「わかった、わかった、いま、いくから。よく がんばったね。いいから、そのまま安静にしていて。」

     ▲長野県警レスキュー隊長(御山 参二 )
    「え~こちら長野レスキュー 午前10時54分 生存者1名発見。場所は激突地点の北東側下方斜面。
     意識はハッキリしているが、応急処置が必要。至急、医師団の派遣を要請する。やまびこ、どうぞ。」

     ▽長野県警ヘリ「やまびこ」機長(鉄野 霧蔵)
    「やまびこ から長野レスキューへ  生存者1名発見了解! 本部に医師の派遣要請を連絡する。」



     ▲綿利 登理雄 隊員
    「え~、やまびこ、また自衛隊には、こちらからも生存者の搬送要請を行う予定。」

     ▽長野県警ヘリ「やまびこ」機長(鉄野 霧蔵 )
    「やまびこ、了解。医師団は、ヘリで輸送することになると思う。」

     上野村消防団長(肩菜 重市)
    「お~い! こっちに生存者が見つかったぞ! こっちだ、こっち!」

     陸上自衛隊 第12師団偵察部隊
    「おい!生存者見つかったぞ! 至急、上の空挺に連絡しろ! 担架の搬送準備もだ!」




     ●午前11時00分 ――――― 上野村消防団は、陸上自衛隊 第12師団偵察部隊と合流。
                          自衛隊部隊は尾根の上にいるヘリ空挺団に生存者発見を連絡する。

     ●午前11時03分 ――――― 長野県警レスキュー隊員は、ほぼ同じ場所で さらに2名の
                          生存者を発見する。

     ●午前11時05分 ――――― 長野県警レスキュー隊、上野村消防団は、ほぼ同じ場所で
                          さらに1名の生存者を発見する。



    これで、生存者の数は、計4名になった。少女2名、そのうちの母親1名、非番の日航客室乗務員1名。
    いずれも、すべて女性であった。惨状を呈した墜落現場で一命をとり止めたことは、誰もが奇跡に思えた。
    4人の生存者は、いずれも胴体後部客室に座っていた。



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 22:43:44











    半ば逆立ちしたような飛行姿勢で尾根上の山肌に激突した123便であったが、激しく破壊した
    機体中央部とは別に、胴体後部は墜落の衝撃でちぎれ、さらに尾根を数百メートル飛び越えて山
    の斜面をえぐるように尾根右奥の沢底付近まで滑り落ちていた。この破壊形態が致命的な衝撃G
    を緩和し、炎上の範囲も逃れられたのであろうか。生存者は、ほぼ同じ場所で発見されている。
    座席に固定されたまま、破壊された機体の残骸とともに落葉や地肌の堆積物に埋もれていた。



     ●午後12時30分 

    日赤の医師1人、看護婦3人がヘリコプターで墜落現場の尾根に到着。
    生存者4名の応急処置を始める。


    これに先立つこと、午前10時前には藤岡公民館に日航機事故対策本部が設置され
    正午前には現地からのテレビ局生中継が可能となっていた。



     ●午後1時半

    現場で応急処置を受けた生存者4名のヘリコプターつり上げ収容搬送作業が
    始まった。自衛隊ヘリ、東京消防庁ヘリに収容される救出シーンは、テレビ
    でも生々しく放映された。





           バタバタバタバタバタバタバタバタバタ


    自衛隊ヘリのローターが巻き起こす風の下で、まず、4人の中では負傷の程度が比較的軽かった
    少女が自衛隊ヘリで吊り上げられた。

    機体を安定してホバリングさせるパイロットも、日頃の訓練以上に慎重な操縦であろう。
    救助用具と自衛隊員の両手両足によって、しっかり体をサポートされた少女の体。
    それがゆっくりと吊り上げられて無事ヘリの中に収容される。

    現場にいる人間はみな息を呑みながら、それを見守った。

    つづいて、もうひとりの少女とその母親、そして非番客室乗務員の残る3名もヘリに収容された。
    最初の少女よりも重症と判断され担架が使用された。ヘリに吊り上げられる担架が回転しながら
    ゆっくりと上昇する。それを下から見守る自衛隊員、県警隊員、レスキュー隊員、地元消防団員
    医師団、報道陣など。これで墜落現場から4つの命の救出と救急搬送がほぼ成功したことになる。
    何という奇跡であろうか。

    緑おおう木々をなぎ倒し、焦土と化したジャンボ機の墜落現場という惨劇の中にあって
    それは一抹の光を感じる光景でもあった。しかし、多くの尊い命を失ったということは
    現場の惨状を知った人にとって厳然として動かぬ事実であった。




    運輸省 航空事故調査委員会は、この日(8月13日)のうちには、事故調査を始めないことを
    決定した。夕方 ―――― 長い一日が暮れようとしていた。群馬県警機動隊は、現場での作業を
    終了させた。その間、自衛隊部隊は、墜落現場での生存者救出と遺体搬送のためのヘリポートの
    建設など、ひき続き徹夜で作業を続行した。

    そして、御巣鷹山の尾根 墜落現場に ヘリポートが完成したのは
    事故から二日目の8月14日早朝であった。



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 22:52:11











     8月13日 夕刻 伊豆半島周辺海域 ―――――


     ●午後6時時10分

     海上保安庁東京湾海上交通センターに一報が入る。
     相模湾で試運転中だった自衛艦「まつゆき」からの連絡であった。

    「え~、こちら‘まつゆき’・・・相模港の居島灯標から方位246度、8.1海里の地点で
     航空機の破片らしいものを発見しました。ひきつづき、捜索活動を行います。」



    この時発見されたのは垂直安定板(尾翼の一部)で、この後、下部方向舵の一部と
    APU(補助動力装置)のエアダクトが発見された。

    この他に巡視船「おきつ」「まつうら」「しずかぜ」が相模湾で捜索活動をしていた。



     ●午後6時時55分

    自衛艦「まつゆき」から海上保安庁東京湾海上交通センターに再び連絡が入る。

    「破片を回収しました。え~、垂直尾翼の一部だと思われます。日航機のものと思われる
     赤い鶴のマークが一部確認できます。厚さは、およそ65センチくらいで、リベットが
     打ってあります。」といった内容の詳細報告が入った。



     ●午後9時頃

    館山湾にて ―― 浦賀水道航路を哨戒中だった巡視艇「あきづき」は、「まつゆき」から
    回収された破片を受け取った。


     ●午後10時時40分

    巡視艇「あきづき」は、発見された尾翼の一部とともに横浜港に入港。

    その後、事故調査委員会の検分によって、回収された尾翼の破片は、製造番号から事故機の
    垂直安定板の一部ということが判明する。



                                  <第25幕につづく>



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 22:52:54




    【 ジェット オン ドリーム 】

      ~ 夢幻飛行 第2部 ~
      
        <第25幕>



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 22:55:02











     事故から数日後、群馬県藤岡市 現地対策本部 ―――――


    遺体安置所となった第1小学校体育館と市民体育館には、身元不明の遺体が次々に運ばれていた。
    時間を追うにつれ、安置所に運ばれてくる遺体の多くは、離断体になっていた。検死に立ち会う
    法医学の権威、帝國院大学医学部教授、司路 哉義三(つかさじ やぎぞう)医師は、それまで彼が
    行ってきた数々の司法解剖や検死経験とは違った異様さを目の当たりにしていた。

    時間を追うごとに、日を追うごとに収容される遺体の‘かけら’は断片ばかりになっていった。
    歯型などの特徴がないかぎり、遺体特定の困難度は大きくなるばかりであった。

    鉄道遺体の検死経験では、どんなにバラバラになった遺体でも集めれば一つの体になった。
    だが、今回の場合は違っていた。どう集めても、一つの体にならない。しかも検体の数は
    半端ではない。

    棺にはドライアイスが入れられても真夏の環境下では、線香の匂いでは消せないほどの
    異臭がした。時には、おえつのような声、時には、すすり泣く声、あちらこちらで上る。
    身に着けていた身分証明で、かろうじて身元が判明した遺族は、棺を直視することさえ
    できずに、その場で泣き崩れる。そんな光景ばかりを目にする司路医師は胸を痛めた。
    もう、この場を立ち去りたい衝動にかられるほどだ。しかし検死の作業は続く・・・


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 23:05:44





        ~ 新聞記者 ~




    一方、その頃、毎朝新聞 専属記者である武藤 襟好(むとう えりよし)は 事故調査団
    側近に接触をはじめていた。何か事故原因のヒントの一つでもいいから新聞記事になる
    情報を集めていた。そんな矢先、ある重要な話を耳にしていた。

       『これは、スクープになるかもしれない・・・』

    今までの記者生活の中でも、こんな興奮は始めてである。彼は、さっそく毎朝新聞編集局に
    電話を入れようとしたが、村の公衆電話を探すのに苦労である。一軒の雑貨屋に入り、電話
    を貸してくれと頼み込むことにした。

      武藤 襟好 記者「すいませ~ん。どなたか いますか~? すいませ~ん。」

      雑貨屋の主人 「あいよ~。今日は店休みだぁ~。タバコなら表の販売機でのぉ。」

    雑貨屋の主人が奥から出てきて声をかける。麦わら帽の下に日焼けした顔をのぞかせた。
    この店の若息子は、日航機墜落に関係した消防団の召集に駆り出されて不在のようである。
    店の裏手の納屋には、古びた農具があった。

      雑貨屋の若嫁 「じっちゃん 畑さ出かけてくるっから、ほれ、孫ほったらかしにすんな。」

      雑貨屋の主人 「はぁっ もう行くんさね? 気つけてな。」


      武藤 襟好 記者「あ、どうも。東京の新聞社のものですが、ちょっと電話を借りたいもので。」

      雑貨屋の主人 「また記者さんかい? さっきも読経新聞の人がきなさったがのぉ。」

      武藤 襟好 記者「畑じゃ、どんなもん獲れるんですかね? あれは養蚕の道具で?」

      雑貨屋の主人 「カイコ(養蚕)はのぉ はぁもう先代のじさまで止めた。」

      武藤 襟好 記者「やっぱり、野菜なんか?」

      雑貨屋の主人 「ネギに、コンニャクに、キャベツに、ま、いろいろだ。」

      武藤 襟好 記者「あ、なるほどね・・・電話借りていいですかねえ? お礼はこれで・・・」

      雑貨屋の主人 「ああ、遠慮せんで・・・おたくも はぁ、いろいろ大変だいのぉ。」


    奥の居間にあるテレビから、墜落に関連したニュースの音声が聞こえてくる。
    見れば墜落現場での生存者救出の録画シーンを流していた。

    武藤 襟好 記者は、さっそく毎朝新聞 編集局チーフ 間山 羽一(まやま はねかず)の
    専用デスクに一報の電話を入れる。



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 23:14:19



        ~ 新聞記者 ~



      毎朝新聞 編集局チーフデスク ―――――

     ・武藤 記者
    「あ、もしもし、間山チーフ? スクープですよ、スクープ。」

    武藤記者は、事故調査チームの側近から漏れてきた ある内容のメモを見ながら話を進める。
    それは、以前 事故機はしりもち事故を起こしており、圧力隔壁の修理を行っていたことや
    飛行中にこの隔壁が破壊された可能性があるとの情報をつかんでいたのだった。



     ●間山 編集局チーフ
    「ホントか? ウラ(情報の信憑性)取れてるんだろな?」

     ・武藤 記者
    「事故調メンバーの側近から漏れていた情報なんで、まず間違いないね。」

     ●間山 編集局チーフ
    「で、ヨソ(他の新聞社)の動きはどうなんだ?」

     ・武藤 記者
    「たぶん、ウチが最初じゃないかな。」

     ●間山 編集局チーフ
    「よ~し、今夜じゅうに(事故調査委員に)直接ウラとれ。タイムリミットは・・・
     午前0時だ。ナカズリ(印刷)とハンバイ(販売)にはオレから話をつけておく。
     いいな、午前0時だぞ。タイムオーバーなら、差し替えなしでボツだぞ。いいな。」

     ・武藤 襟好 記者
    「なんとか、やってみますよ。こうみえてもオレ、工学出身ですから・・・
     オレの記事で一面トップ・・・お願いしますよ。」


     ●間山 編集局チーフ
    「バカ、声がでかいぞ。周りに聞こえる・・・」

     ・武藤 記者
    「(小さい声で)チーフ、だいじょうぶ。民家の電話からかけてますんで。」

     ●間山 編集局チーフ
    「甘いぞ。壁に耳あり、障子に目ありだからな。」

     ・武藤 記者
    「はいはい、わかってますって。」

     ●間山 編集局チーフ
    「一応、期待してるから、頼むぞ・・・今度、夕飯ご馳走するよ。」

     ・武藤 記者 
    「じゃ、さっそく動きますんで、また・・・」



    毎朝新聞の記者は、現地にほど近い万場町に宿を確保した。といっても、現地周辺の旅館は
    どこも事故関係者で埋まり、ようやく見つけた宿であった。事故調査団も、ここからさほど
    遠くない場所に宿泊していた。万場から西へ、長野県境方向の山奥へ国道を進めば、墜落の
    現場となった上野村がある。



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 23:16:54










        ~ 新聞記者 ~



    万場の町と言えば、かつて西上州の山々を愛した登山家たちにとっても、なじみ深い宿場の
    町であった。南には、二子山、叶山、父不見、両神山。北には、西御荷鉾山、赤久縄山など
    その名もあまり知られていない低山がある。今では山頂付近を林道が貫いており、かつての
    ような西上州らしい低山独特の渋い味わいは薄れてしまった。そのほかにも、西上州の県境
    付近には、牧歌的な雰囲気を持ち軍艦のような山容をした「荒船山」ギザギザした不気味な
    山容の「妙義山」など、個性的な岩山が散在している。



    武藤記者は、ここ数日、事故現場の上野村、宿泊地の万場町、現地対策本部が置かれた藤岡市
    などを何度となく社用車で往復していた。午後の西空を区切る山なみに高々と架かる送電線の
    あたり、何かの鳥の群れが横切っている。日没前の帰巣だろうか。

    その日は朝から どんよりとしていた空だったが、いつのまにかドス黒い暗雲におおわれて
    今にも夕立がきそうな気配の空模様である。


      ピカッ ・・・・・ゴロゴロゴロゴロゴロ・・・


    案の定、雷が鳴り出していた。武藤記者は、いったん宿の旅館に戻ることにした。
    一帯は、夕方から激しい夕立となった。天はまるで怒り狂ったかのように雨を降らせている。


      武藤 記者  「うわ~ すげぇドシャ降りだ・・・」


      ピカピカッ カラカラカラ ズドドドド~~~~~ン! ゴロゴロゴロ・・・


    宿に着くなり、クルマを急いで降りて、旅館の玄関に飛び込む。
    受付横のコイン電話の受話器を取り、ポケットの10円硬貨、100円硬貨の枚数を確認した。
    さっそく本社の編集局に連絡を入れる。



     ・武藤 記者
    「・・・そんなわけで、もうちょっと時間かかりますんで。」

     ●間山 編集局チーフ
    「わかった。何なら航空に詳しい記者連中の応援出すぞ。」

     『ビー ビー ビー』(電話硬貨切れの音)

     ・武藤 記者 
    「イヤ、俺一人のほうが動きやすいんでね。」

     ●間山 編集局チーフ
    「そうか・・・こっちも紙面変えはいつでもできる体制はとってある。」

     ・武藤 記者
    「じゃ、また・・・」(プツンと電話が切れる)

    「ったく(硬貨が)落ちるのがはやいなぁ(苦笑)」



      ピカピカッ バリバリド~~~~~ン!!!


    閃光と同時に、床が持ち上がるような振動と音がして、館内は停電で真っ暗になった。
    そうやら、近くに落雷したらしい。

    旅館の おかみ「お客さ~ん 停電 じきに直るから。この辺はカミナリ多いんでね。」


      ピカピカッ カラカラカラ ズドドドド~~~~~ン! ゴロゴロゴロ・・・


    武藤 記者  「ええ・・・上州名物 カミナリさまに、かかあ天下とカラっ風(苦笑)」



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 23:18:50









        ~ 新聞記者 ~



    停電はすぐに復旧した。彼は再びクルマに乗り込み、事故調査団が宿泊する対策本部近くの
    旅館に向かった。フロントガラスを激しくたたく雨。ときおり稲妻が走り、雷鳴が遠く近く
    響いてくる。街灯の少ない山間の道路。しかも夜の雷雨で視界は非常に悪い。

      キュッ キュッ キュッ キュッ キュッ キュッ キュッ キュッ

    左右 小刻みに動くフロントワイパーの音。そしてバケツをひっくり返したような豪雨。
    こうなると、ヘッドライトが照らす前方もよく見えず、なすすべもない。


     『・・・こりゃ、まともに走れねえな・・・』


    路肩が広くなっているところを見つた。クルマを寄せハザードをたいて停車する。
    雨が小降りになるのを待つしかないようだ。そんなとき、彼はふと思った・・・


     『123便の困難から比べたら、こんな雨なんて・・・』


    パイロットの顔、スチュワーデスの顔、乗客の顔が目に浮かんでくる・・・


     『クルマなら止まればすむ。空の上の飛行機の場合そうはいかないよなぁ。』

     『これは何としても事故原因を突き止めねば・・・』


      雨は30分ほどで止んだ。さっきまでの豪雨がウソのようである。
      西の山は、うっすらと薄暮の暗い空が見え晴れてきているようだが
      下手関東平野の方角では、遠い稲妻が しきりに光っていた。


     『運命の時計の針は、いったい どこで狂ってしまったんだろうか・・・』



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 23:21:06











        ~ 事故原因 しりもち事故 ~



    翌朝、毎朝新聞の一面トップは、日航機の隔壁破壊の記事で埋まった。

    一方、事故調査委員会でも、事故機の残骸やブラックボックスの回収と分析をすすめ
    なるべく早い時期に中間報告をまとめる方針であった。

    また、事故調査委員会では、東京立川にある 航空自衛隊 航空医学実験隊 で試験を行い
    事故機の気圧高度でハイポキシア(低酸素症)の影響が、実際に運航乗員にあったのか
    どうかの実験や音声分析をその後に行った。


    ブラックボックスに収められたFDR(デジタル・フライト・レコーダー)や
    CVR(コックピット・ボイス・レコーダー)のデータは破壊されていなかった。
    ブラックボックスは、1000Gの衝撃に0.011秒間耐えられ、1100℃
    の高温に30分間さらされてもデーターが破壊されないように設計されている。
    また、機体が海や湖に沈んだ場合でも、その位置を知らせる信号を約一ヶ月間
    発信する機能がある。





    このJA8119号機は、さかのぼること7年前 ―――――
    1978年6月2日、大阪国際空港に着陸する際に機体後部胴体を滑走路に
    接触させる‘しりもち事故’を起こしていた。その後、JA8119号機は
    伊丹で応急修理が行われた。

    その後、日航は、ボーイング社に事故機の修理を委託した。ボーイング社の
    修理チームは、羽田空港において胴体後部の本格的な修理を行った。



    自動車製造ラインの品質管理と同様、航空機製造ラインでも、人的ミスや不良品は
    限りなく排除されたシステムで造られている。均一かつ高い品質管理が当たり前に
    なっているが、さまざまな事故形態をもった航空機の修理となると、マニュアルが
    あるわけではない。

    事故車の復元修理と同様、製造ラインに比べて、はるかにむずかしい作業工程の
    分析が必要となる。だから、ボーイング社の修理専門チームは、高いプライドと
    誇りを持つ技術屋集団であった。

    しかし、事故機の修理という作業に‘人的ミス’が入り込む余地があった。
    また、その‘人的ミス’をフォローするチェック機能が働かなかった。

    そもそも、修理をすることで‘ヒューマンエラー’が入り込むという概念が
    不足していたのは否めない。



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 23:25:05











        ~ 事故原因 圧力隔壁修理 ~



    日航からJA8119号機の修理を委託されたボーイング社の修理チームは
    しりもち事故による損傷がある胴体圧力隔壁については下半分を新規部材と
    交換することとした。しかし、当初の‘修理計画’とは違った‘修理内容’
    が紛れ込んでいた。


    元の隔壁(上半分)と新規隔壁(下半分)とをつなぐためリベットを打っていくが
    ある場所でリベットを打つスペースに余裕がなくなっていた。このため、上下隔壁
    の間にスプライスプレート(四角い継ぎ板のようなもの)を挟んで接合することに
    した。この修理計画のまま行われていれば、構造的にみてフェイルセーフ機能(※)
    が働き、問題はなかったと考えられている。


    (※)フェイルセーフ機能を分かり易く例えると、日本家屋の‘障子’があげられる。
      障子紙に亀裂が発生しても、縦横の骨組みである‘桟’が亀裂のストッパー役
      になっている。ただし‘すべての桟と障子紙が接着されていないといけない’

      圧力隔壁の場合、中心から放射状に伸びる「スティッフナー」が障子の縦桟に
      あたり、同心円状の「ストラップ」が、障子の横桟にあたる構造をしている。
      仮に機体のどこかで亀裂が発生しても、ストッパー役の構造部がそれ以上の
      損傷を防止し、点検時発見された疲労損傷は部材を交換することでフェイル
      セーフ機能を確保するという考え方である。



    0

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