まず言っておきます、色々言っても世界初の自動巻きクロノグラフは画像のSEIKO スピードタイマーで正しいと思います。
ですが世間的には“世界初自動巻きクロノグラフ”というのは3つほど候補があり、
○ZENITH(MOVADO)社 EL PRIMERO (Cal.3019PHC)
○HEUER/BREITLING/HAMILTON連合のCal.11
○SEIKO社 スピードタイマー (Cal.6139)
がその候補たちです。それぞれに言い分があるのですが、実際の流れは大まか後述になります。これらが起きたのは今から55年前の1969年であり、この年は腕時計にとってまさにイベント満載な一年だったのだろうと今になれば感じずに居れません。
1969年1月
ZENITH/MOVADOが突然EL PRIMEROの開発(試作)に成功と発表し、自動巻きクロノグラフ一番乗りを宣言
同年3月
HEUER/BREITLING/HAMILTON連合が自動巻きクロノグラフ開発成功と発表
同年4月
HEUER/BREITLING/HAMILTON連合の3社がバーゼル見本市にて自動巻きクロノグラフの展示
同年5月
SEIKOがひっそりとスピードタイマー発売!
同年夏あたり
HEUER/BREITLING/HAMILTONの3社、自動巻きクロノグラフ発売!
同年10月
ZENITH/MOVADOからEL PRIMERO搭載の自動巻きクロノグラフ発売!
こうして見ると・・・・
・世界初自動巻きクロノグラフ開発成功(公表)はZENITH/MOVADOである
・世界初自動巻きクロノグラフ発売はSEIKOである
この2点は間違いない事実と思います。
ここになぜHEUER/BREITLING/HAMILTON連合が世界初の候補に入ってくるのか?がここがちょっとややこしいところです。自分なりに考察を加えますと・・・
HEUER/BREITLING/HAMILTON連合は実は前年の1968年終盤には開発に成功していて、毎年4月に行われるバーゼル見本市に照準を合わせていたため、発表が3月に組まれていたのをZENITH/MOVADOに出し抜かれた(だから発表しなかっただけの3社連合が事実上世界初だ!)
またZENITH/MOVADOの発売に先んじて発売できたのだからこっちが先、だから事実上世界初は3社連合の方だ・・・・・
みたいなノリかなと。
なんかおかしくないですか?
そう、ここは敢えてSEIKOを無視しない限り3社連合は世界初を名乗る資格がないはずなんですね。
ここで当時の時代背景が大きく影響していると思います。
1969年ってSEIKOが大躍進した年なんですね。
これに先立つ1968年には当時時計業界では絶大な権威を誇る天文台コンクールにおいてSEIKOは上位に数多く入賞を果たし、多くのスイス陣営がプライドを大きく傷つけられたわけです。
しかもここで天文台コンクールはこのままじゃヤバい、と思ったからか何と事もあろうに競技そのものをやめちゃいました(おいおい)(注:厳密には1967年がニューシャテルコンクール最終年で、1968年はジュネーブ天文台コンクールと称しました。たしかこの時から順位付けはやめて入賞を横並びで提示した)。
これは東洋の2等国(と認識していた)日本製の時計から自分たちの権威を守るためなりふり構わず仕掛けたってわけですね。なんか欧州連中ってこんなんばっかり(勝てなくなったからってスキー板のルール変えてきたジャンプ競技みたい)。
そんなことがあった1968年の翌年である1969年は年初めから上記のような自動巻きクロノグラフ一番乗り競争が繰り広げられたわけです。
この中で3社連合にしたらZENITH/MOVADOに破れたのみならず、東洋の2等国である日本のSEIKOにも破れたとあっちゃプライドもクソもありません。なので何とか世界初の称号に引っ掛かるように前述のような論理を汲み上げ、SEIKO無視の姿勢を決め込んだ、としか思えません・・・・(実際SEIKOは自身が世界初って意識がなく、廉価な時計として発売していたから本気でスイス勢は発売を知らなかったのかもしれません)。
と色々な思惑の結果、まぁSEIKOが一番乗り、となった世界初自動巻きクロノグラフ競争で腕時計業界は安定、にはなりませんでした。
そう、1969年12月にスイス陣営を地獄に叩き落とす大事件、クォーツショックがまたもSEIKOから投げつけられるわけです・・・・
話を自動巻きクロノグラフに戻します。
最初に述べた世界初の3つの候補ですが、それぞれで結構開発経緯に違いがあるし、機能にも違いがあります。
ここで自分が重視するのは発売された時の状態(ほぼ試作時の機能と変わらずと思っていい)です。
3社連合のCal.11は永久秒針なしのセンタークロノ秒針、2眼クロノ(30分、12時間積算計付き)
SEIKOのスポーツタイマーは永久秒針なしの1眼(センターがクロノ秒針、6時位置に30分積算計)
EL PRIMEROは永久秒針付きセンタークロノ秒針、30分計、12時間計の3眼
なんですね。
そう、ZENITH/MOVADOのEL PRIMEROは現代のものとほぼ同じなんです。
これはすごいことじゃないですか!
これらの世界初♪な自動巻きクロノグラフたちですが、その後の顛末もまさに三者三様です。
SEIKOはせっかくの世界初の栄冠を得たものの、その後1969年末に発売したクォーツ時計を主軸にした戦略でスイス勢を駆逐した一方で自身の機械式時計もどんどん切り捨て、機械式クロノグラフ(Cal.6139)は事実上廃嫡処分でその後歴史は途絶えます。
3社連合のCal.11はそのままの進歩はなされず、一部の機構を他機種に流用することで生き残り、のちに名機バルジュー7750に繋がり、ある意味世界を制することになります。
最後のEL PRIMEROは世界初の栄冠を提げその後も成熟を進め、いまだに多くのファンを取り込み名機の名前を欲しいままにしています。
自分自身はその後の発展も含めて考えれば、世界初の栄冠はZENITH/MOVADOのEL PRIMEROであろうと考えています・・・・
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2024/03/20 10:52:23