• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+
イイね!
2010年08月04日

[MOVIE] 東京物語

[MOVIE] 東京物語 暑い夏にいろんなことが面倒になって引き籠もりがちになると,部屋の中にある古い本やビデオを仕方なく見返したりする。すると,普段は気がつかない呼び戻すべき昔の記憶や感覚が蘇ってきたりして,それはそれで自分に必要な時間なのかもしれないと思ったりする。そういえば長い周期で定期的にそう感じることを思いだしてもみたり。


東京物語」は今から15年くらい前の夏の日に初めて観た。カトーデンキ(現ケーズデンキ)で当時(いまも?)最も安い韓国製のビデオデッキを手に入れて間もなかった頃だったと思う。デッキを手に入れたことで堰を切ったように観たかった映画をレンタルして観まくっていた。自分にとって邦画への関心が最も強かった時代で,「男はつらいよ」の楽しみ方が分かるようになった年頃でもあった。

たぶんその日は最も近いツタヤでサービスデーだったのだろう。評価が固まっている古い邦画をいつもより安いレンタル料で2本まとめて借りてきて(当時の自分にはまとめ借りはそれなりの贅沢だったような気がする。そのかわり,そのときは当日返却か一泊で借りたんだったかな),エアコンのないアパートの小部屋に引き籠もり昼間からカーテンを閉め切って真夏の日差しを遮りながら立て続けに観た。どちらもモノクロだった。

1本は「泥の河」で,わざとカラーではなくモノクロで仕上げた比較的新しい映画であった。確かにいい映画なのだが,残念ながらその印象は2本目を観ることによっておよそかき消されてしまうことになる。その2本目が「東京物語」だ。

「東京物語」は初めて観る小津作品でもあった。じつは,そのほんの少し前まで自分は小津安二郎を知らなかった。しかし,その時点では,小津とこの作品が映画史上どれほど重要かについての予備知識は得ていた。自分はその準備からは予想できなかった衝撃をこの作品から受けることになる。



古き良き映画を観ることによって生じる不幸は,それ以外(とくにそれ以降)の大半の作品が霞んでしまうことである(「泥の河」はその点で最も損をしたかもしれない)。自分は「東京物語」の映像(とくに構図やカメラワーク),音楽,俳優の演技,そして何よりも脚本と演出に映画の導入部のまもなくからぐいぐいと引き込まれた。


とくに,有名すぎるほどに有名なこのシーンにはまさに目からウロコが落ちた。それもバラバラと。


この作品を家族映画として観てしまうと(それが真っ当なのだが),この映画の受け止め方や感想は,観た人がおかれている(おかれてきた)家庭環境や家族の人間関係に左右されてしまうだろう。自分は,この作品における「家族」は,「人間の傲慢さ・残酷さ」「世の中の理不尽さ・不条理さ」」のようなものをできるだけ抽象的に表すための設定として選ばれただけなのではないかとも感じている。人間の傲慢さやこの世の理不尽さに触れた映画は「東京物語」以降にも数多いが,教訓めいたお説教が加味されていたり,ただの嘆きや後悔になっていたり,代わりに用意される希望や未来はときに甘すぎたり白々しかったりする。

しかし,「東京物語」は「ありのままの現実を笑って受け入れ,淡々と許してしまう」のである(目からウロコが落ちたのは「こんな認め方や肯定的な描き方があったのか!」という驚きからであった)。そして,誰もがそうできる境地にたどり着き得るとともに,そこに芽生える淋しい幸福を味わう日が来ることを覚悟させる。「東京物語」を観て,それまで自分の中にあった様々なモヤモヤが一気に吹き飛んでしまったし,この表現を越える表現について考える楽しみが増えた。


一昔前と違って,今は「名作」がインターネットを通じて容易に購入したり,視聴できるようになった。自分のブログに「東京物語」の動画のリンクを貼ることなど当時は想像もつかなかった。あのとき「東京物語」を観た厚い箱形のテレビとビデオデッキは,そのあとも何回か別の形でアナログな「東京物語」を映し出しながら日本のあちこちを廻り,四国に来てからもしばらくのあいだ現役で活躍した。かつては「東京物語」の舞台である瀬戸内の風景や方言などは遠い世界のことのように思えたのだが,いまは劇中の方言の「薄さ」みたいなものまで分かるようになってしまった。変わらないのは,この作品の自分の中での位置づけである。今回のデジタルな再会でも,何枚目か分からないウロコがバラバラと落ちた。


※ 画像は「東京物語」の全シーンの画像と脚本を収めた「リブロ・シネマテーク 小津安二郎 東京物語(リブロポート,1984年刊)」。「東京物語」を初めて観て数年後,第二刷(1993年版)を購入。
ブログ一覧 | MOVIE | クルマ
Posted at 2010/08/04 22:10:24

イイね!0件



タグ

この記事へのトラックバック

[MOVIE] 東京家族 From [ 空と海 - beneath the s ... ] 2013年2月17日 21:35
先日,「東京家族」を観た。「東京家族」は「東京物語」のリメイク。山田洋次が小津安二郎から影響を受けている(あるいは小津作品を強く意識していたり松竹の映画人として強い思い入れがある)ことは以前から感じ ...
ブログ人気記事

「ジュラシック・ワールド復活の大地 ...
トホホのおじさん

【その他】眼科 定期受診
おじゃぶさん

夏旅 ①白川郷にGo!
物欲大王さん

一撃
バーバンさん

新しいコを迎える気持ちになりました ...
mimori431さん

朝の一杯 8/15
とも ucf31さん

この記事へのコメント

コメントはありません。

プロフィール

「同行号のエンジンオイルDIY交換(11ヶ月・4.9千km走行)。車両46.1万km・ドナ子エンジン5.7万km。

ロイヤルパープル5W-30→汎用VHVI油5W-30を20W-50で粘度調整、丸山モリブデン追加。」
何シテル?   08/15 15:39
クルマも好きですが運転が好きです。渋滞と加速してからの黄信号は苦手ですが… 生活や仕事のために毎日走りまわっていて,ロングドライブすることも多いです。そん...

ハイタッチ!drive

みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2025/8 >>

     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      

リンク・クリップ

PIONEER / carrozzeria TS-C1730Ⅱ 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2024/10/16 00:12:26
エアランバーサポート装着 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2024/08/29 16:46:02
与島ヨーロッパ車MTに参加 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2024/04/20 10:05:56

愛車一覧

フォード フィエスタ 同行号 (フォード フィエスタ)
■ このクルマのここが○ ・ガイシャっぽくない。でしゃばった雰囲気がなく,保守的な場面 ...
ホンダ フィットハイブリッド モデュ郎 (ホンダ フィットハイブリッド)
・2024年7月 ドナ子に代わる同行号のサポーターとして導入(中古車 12987km)。
フォード フィエスタ ドナ子 (フォード フィエスタ)
・2024年1月(48704km)  同行号の近い将来のエンジンドナーであり、同行号との ...
日産 マーチ 日産 マーチ
海外出張や病気のため放置されていた同僚のクルマ。 エンジン内部は真っ黒でボディにはサビ ...
ヘルプ利用規約サイトマップ

あなたの愛車、今いくら?

複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!

あなたの愛車、今いくら?
メーカー
モデル
年式
走行距離(km)
© LY Corporation