あらすじ
真冬の北海道、道東地方を襲うホワイトグレネード、それは爆弾低気圧の一種であり、大量の降雪と、絶え間なく吹き続ける、強い風の気象現象を指す造語。
これは、そんな自然の猛威に挑み、人々に希望を与えた、一人の女性、端野ミホのクルマアクションストーリー。
この物語は、北海道の道東で、命をかけてホワイトグレネードから我が子を護り、帰らぬ人となった偉大な父親に捧げます。
むらっち2
登場人物
○端野ミホ(22歳・女)
イメージキャラ ・ E-girls 鷲尾 伶菜
主人公。鷹のマークの運送屋 「 Traffic Eagle 」 に入社した新社会人。
○白滝エリ(22歳・女)
イメージキャラ ・ E-girls 楓
ミホの友人。会社の同僚。
○加藤鷹一(32歳・男)
イメージキャラ ・ 加藤 鷹
Traffic Eagleの社長。
○住谷(40歳・男)
通称スミさん。Traffic Eagleの専務。
○吉野(27歳・男)
通称ヨッシー。Traffic Eagleの同僚
○城ケ崎(26歳・男)
通称ジョー。Traffic Eagleの同僚
1
去年、私、端野ミホは、O広T産大学に通う4年生だった。ただ、何となく良い大学に入れたが、私は勉強するより、クルマで走っている時間の方がずっと好きだった。
そんな調子なものだから 『 自分の目指したいゴール 』 つまり、良いと思える就職先も決められず、ダラダラと学生生活を送ってしまい、最後の冬を迎えていた。
そんな就職先も決まらないまま 『 いまさら慌ててもしょうがない 』 との思いから、似たような境遇の友達と2人で、地元のS峠にクルマで走りに来ていたんだ。 これはそんな時に起きた事件…。 ううん、私達の運命を決定づけた、邂逅だった。
その時の私の愛車は、親に頼みこんで買ってもらった “アルトワークスHA -12 S”だった。
そして、その似た境遇でクルマ好きの友達とは、白滝エリだ。同級生であり、私の良き相棒。すごく美人で頭が良くて、機転が利く。 事実、成績は常にトップクラスだし、男の子達はみんな彼女の事が好きだ。それに類まれな観察眼を持ち、臨機応変の対応も得意としている。
以前、クルマ好きの先輩に着いて、ラリーの真似事をした時があった。もちろん私がアルトワークスでドライバーを務め、エリはコドライバーをかってでてくれた。その時のエリは凄かった。あっという間にレッキ帳を作ったかと思うと、いざ走りの現場では見事なナビで指示を出し、私達のコンビは、あるレースで、表彰台は逃したものの、初出場で4位という大善戦をしたのだ。
その成績は、もちろんエリの力によるところも大きいが、私のドライビングスキルだって、なかなかのものだったと思う。
今日はそんなエリに、以前から思ってた疑問をぶつけてみた。
「ねえ、エリ。エリはなんでクルマのステアリングを握らないの?絶対に凄いドライビングが出来ると思うんだけど」
「ちょ、ミホ!アンタしっかり前見て運転しなさいよね!そこ、キツイ右だよ!」
吹雪で若干視界が悪いものの、私はコーナー手前から、車体を横にして進入し、絶妙なアクセルコントロールで、ゼロカウンターの姿勢を作り、綺麗にコーナーを立ち上がってみせた。
「ねえエリ、なんで?」
「うっさいわね… そんなの運転が下手だからに決まってるでしょ…」
「え?そうなの?」
「そうよ。全部、理詰めで運転できるほどクルマは甘くなかったのよ…、だからアンタのドライビングに惚れて、いつも隣に乗せてもらってるの」
私はハトが豆鉄砲を食らったような顔をしてしまった。
「以外…、エリにも苦手な事があるんだね…」
その瞬間だった、エリが急にヒステリックに叫んだ。
「ミホ!ダメ!次の左コーナー、サイド引いてスピンして !! 」
私は考えるより先に手足が動いた。エリの指示どおり、その場でスピンし停車しようとした。が、完全停車する寸前、自分側のドアに “ボフッ” と軽い衝撃を感じた。窓ガラスの先、なんとそこには見事なまでの、雪壁がそそり立ち、進路が完全に塞がれていたのだ。
「ふぅ~、ヤバかったねぇ…」
「えっ?コレなんなの?」
「吹き溜まりだよ、それにしてもこんなデカイやつは初めて見るねぇ…、さっきから風が急に強くなって、雪も降り続いているから警戒はしていたんだけど…」
「うん。引き返そうか?」
「いや、待って。この吹雪かたは、ちょっとヤバイねぇ…、少し待った方が良いかも…」
「えっ?えっ?まさか、コレって!?」
「うん、ちょっとヤバイよ…コレ、ホワイトグレネードじゃないかな…」
「えっ?えっ?どうしよエリ !? 調子に乗って、こんな所まで走りに来ちゃったけど、ここで立ち往生しちゃったら、2~3日は助けなんて来ないよ…」
「そうだね、引き返そ。まだ、帰り道が塞がってなきゃイイけど…」
それから私は、アクセルターンで向きを変え、さっき来た道を引き返した。今度はゆっくりとしたスピードで。
しかし、その希望も潰える。100メートルも進まないうちに、さっきまでは無かった、新たな雪壁が出来上がっていたのだ。
「エリ~…どうしよ?」
私は泣きそうな声でエリを見つめた。しかし、流石のエリも、この経験が無い事象に混乱し、黙ったままだった。今度はクルマの回りにも雪が積もりだした。
本当にマズかった。しかし、エリは考えに考えていた。正直、クルマの燃料も少なく、着の身、着のまま。どう考えても最悪の事態を想像してしまう。こんな状態で2~3日もビバーク出来るワケがない。『なんとかしなきゃ…』
「エリ~…」
「ミホ、混乱しちゃダメ、ヤバイ時ほど考えなきゃダメなの!考えるのをヤメたらその時点でアウトなんだよ !! 」
エリはそう言い、ある覚悟を決めた。
「ココから近くの民家まで約5㎞、雪の上を這っていって、助けを呼んでくる」
私は涙目になりながら驚きの表情となった。
「エリ、なに言ってるの?こんな猛吹雪なんだよ、無理に決まってるじゃない」
「バカミホ!だから考えるのをヤメちゃダメなの。助かる見込みがあるなら、全力でそれに向かって行かなきゃダメなの !! 」
「一人にしないで、怖いよぉ」
「なに言ってるの!度胸一発、あんな男顔負けのドライビングするあんたが…なに言ってんのよ…」
エリはそう言いながら、突然瞳に涙が溢れた。エリも相当無理をしている。
その時だった、絶望的に小高い雪の壁が、まるで爆ぜるように崩壊した。そしてそこから飛び出してきたのは、鮮やかなオレンジ色にオールペンされたジムニー(JA11)だった。
目の前に踊り出て来たジムニー。そのドライバーもびっくりした様子で私とエリを見た。それからウインドーが開く。
「おい、アンタ等そこで何やってんだ」
エリは緊張の糸が切れたのか、言葉を失っていた。その男の問いかけに答えたのは私だった。
「私達、ここの峠を走ってたら…、急にこんなになっちゃって…あの、あの…、助けて下さい」
私の言葉に、その浅黒い顔をした、遊び人風の男は少々呆れた口調で言った。
「おいおい、ニュースを見てなかったのか? こんな天気に出掛けるなんて、どうかしてるぜ。 だけど…わかったよ、そのクルマじゃ、もう動けんだろうし、こっちに乗りな。後ろの席は荷物満載だから、ちと狭いがな」
それから私とエリは急いでジムニーに乗った、ドアには可愛い鷹のマークが描かれ『Traffic Eagle』 との文字も書いてあった。エリが問いかける。
「トラフィックって…、運送屋さんなんですか?」
「ああ、その通りだよ。Traffic Eagle、鷹のマークの運送屋だ(笑)。だけど、今日はな、支援隊だ」
「支援隊?」
「そう、支援物資を無償で運んでいる。後ろの荷台は、水やら非常食が満載なんだ。ウチのモットーはな “人の心と思いやり” を運ぶんだ。物流が途絶えてしまう大災害、どんな時、どんな場所にも物資を運び、災害復旧するまでの数日間、人に希望を与えたい。そんな思いで支援隊をかってでてんだ」
それは感動だった。私は心の底から感嘆の言葉が自然に溢れ出し、その濃縮された一言が、口から滑り出した。
「すごい…」
本当に、ただただすごいと思った。男は少し嬉しそうな表情をする。
「ありがとよ。まあ、なんだ。最近この道東はホワイトグレネードの被害が凄いだろ。だからよぉ、業務拡大の意味を含めて、こっちに支社を出したんだ。そんな災害に負けない腕をもった少数精鋭でな」
「Traffic Eagle…」
「おう。申し遅れちまったけど、一応この会社の代表やってる加藤だ」
加藤はそう言い、名刺を一枚渡してきた。名刺まで可愛いオレンジ色だった(笑)
「さて、お嬢さん方、しっかり掴っててくれよ。この雪山を突破するぜぇ」
そう言うや否や、オレンジ色のジムニーは非常に軽快な排気音を奏で、力強く走りだした。
そして、さっき自分達が立ち往生してしまった雪山に、加藤は躊躇いなく突撃する。目の前で雪山が派手に爆ぜた。 『 無人の野を行くが如く 』 。 このジムニーには、そんな言葉がぴったりだった。
「ジムニーってこんな凄いクルマなんだ」
「ははは。しっかり掴ってろよ」
この時、私はハッキリと確信した。これこそが 『 自分の目指すゴール 』 なんだと。
そんな出来事から一週間後、私とエリは Traffic Eagle へ訪れ、就職の面接を受ける事となり、その後、私は親に買ってもらったアルトワークスを売却し、自分のジムニーJA22を購入することとなった。
それからもう一つ…。
今年のホワイトグレネードは、この道内で6人の尊い命を奪ってしまった…。
つづく