秋の夜遊び

　久しぶりに友人の喫茶店でくつろいだ。閉店時間を１時間超え、マスターの
「帰って飯くうべ」の一言で勘定を払い、帰路に着く。
　いや、帰路に着くというのは嘘である。レバンテの荷室にはちゃっかりとお茶道具が載せてあるのだ。僕的に「お楽しみはまだこれから」なのである。

　帰路の途中にある小貝川のとある堰に車を止めた。外灯はひとつもなく、
駐車している車は自分の視界の範疇には一台もいない。川も地面も雲ひとつない星空も全て自分のものである。
　と、言えば格好は良いが正直怖さも寂しさもある。
　着いて早速、リヤドアを開いて自作の木箱から灯油ランプを取り出した。ちょっこと顔を出した芯に火を点けるだけで暖かい灯りが得られた。
　ガソリンランタンとはとても勝負にならない明るさ、しかしポンピングがいらないし、何よりオレンジ色の灯りがとても可愛いのだ。
　そしてシングルバーナーの上にＷＩＬＤ１で貰ったシェラカップを置いて水を注ぎ点火した。この一連の作業は全て愛車の荷室をテーブル代わりに行った。椅子もリヤバンパーだ。
　シェラカップに注がれた約２００ｃｃの水はとても早く沸騰する。火を消してインスタントコーヒーを入れてしばらく放って置く。
　シェラカップは熱しやすく覚めやすい。そんな事は使わなくても知っていた。だから僕は今まで不要と考え、シェラカップに手を出さなかった。
　しかし使ってみるとこれが実にいい。沸騰した直後は熱くてたまらないが１,２分も放っておけばコーヒーは飲み頃、カップも充分に冷めているのだ。冷めすぎてしまったらまたそのまま火にかければいい。このコーヒーを飲むまでの一連の動作に慣れてしまえば、とても愛せる道具となった。
　コーヒーを飲んで星空を見上げる。もう暗闇の孤独感からは開放されていた。あとは三脚とカメラを組んで撮影を楽しむ。シャッターボタンを押して１５秒間。三脚とこのカメラさえあれば、ランプの明かりでも写真が撮れるのだと知り、とても嬉しくなった。
　ランプ、シングルバーナー、シェラカップ、三脚とカメラ。そして愛車。そこに無駄なものはなかった。道具を使いこなす喜びを知った秋の夜遊びである。