「試乗最大のチャンス!」キャンペーンにあやかって,エコスポーツを2泊3日(同行号の
整備期間)・約400kmにわたってモニターさせていただく機会を得ました(試乗車はイメージカラーのマーズレッドメタリック)。
街乗りはもちろん,ワインディング,高速道路を夜間や豪雨の条件を含めて走行し,
高知遠征では助手席も体験したり同乗したみん友さんから様々なご感想をいただきました。
ここでは僭越ながら私なりのインプレッションを・・・
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初代エコスポーツ(ECOSPORT)はブラジルフォードで開発・製造され中南米各国で販売されてきました。2代目となる今回試乗したモデルはフォード本体のグローバル戦略「One Ford」の理念のもと,アジア(
中国,インド,タイなど)に市場を拡げ,さらに欧州や
ロシアなどに販売網が拡大されています。
日本では「アメリカンSUV」のブランドイメージを大切にするフォード・ジャパンが,従来のラインアップの隙間を埋める小型SUVとして,インドから輸入を開始しました。プラットフォームはフィエスタやB-MAX,現行デミオとも共通の「グローバルB carプラットフォーム」です。
エクステリアは欧州のデザインコンセプト「キネティック・デザイン」の進化形としての「ニュー・グローバル・デザイン・ランゲージ」に乗っ取ったもので,近年のフォード車に共通したイメージを保っています。一方,新興国での使い勝手や開発地におけるかつてのRVブームの頃までの日本におけるクルマの位置付けを物語っているのか,あえてリアゲートにスペアタイヤを掲げていたりとすこし懐かしさを感じさせる設定もなされています。
欧州ではSUVや4×4とは別カテゴリーの「クロスオーバー」車に分類され,本格的な悪路走行を目的としたものではない車種として認識されています(日本導入モデルはFFのTITANIUMのモノグレード)。近いところでは日産のジューク,トヨタのラッシュ,開発の経緯やコンセプトは異なりますがルノーのキャプチャー,ホンダのヴェゼル,スバルのXVなどに相当する位置付けとなります。
いかつめの顔にずんぐりむっくりした体躯がカッコカワイイです。車高の高さはSUV的ですがサイドのシルエットはなかなかスポーティ。クロームのグリルは意外とくどく感じず,ライン状のスモールランプ(LED)はシャープでアンサーランプともなっています。
リアゲートに外付けされたタイヤは純正状態ではむき出し。これは高度成長期からバブル期までのこの手のクルマの存在感を思い起こさせますが,今の日本では無駄な突き出しと感じさせたり垢抜けない印象となるかもしれません。
日本導入型は1.5LのNAエンジン(112PS)にフォード版DSG「パワーシフト」(6段)が組み合わされます。欧州では同排気量のディーゼル,現行フィエスタ(100PS)の日本導入モデルよりハイパワー型(125PS)の1.0L直噴ターボ「エコブースト」もラインアップされていますが,いずれも日本市場では鬼門かマニア向けのMTモデルしか存在しません。
パワーシフトは街中での低速域でのアクセルオン・オフ時にシフトショックが出ますが,郊外や高速道路ではトルコンATより明らかに効率的にシフトアップしていきます。同じパワーシフトを積む現行フィエスタでは,ECUの学習が進めばシフトショックはかなり収まる傾向にあるようです。高速巡航では旧来の欧州フォード車の4段または5段トルコンATに対し6速まであるのは大きな強みで,エンジンの回転が抑えられ素直な印象です。
シフトレバーはシートとの位置関係からか現行フォーカスや現行フィエスタよりも握りやすく感じられ,マニュアルモードのサムスイッチもシンプルで使いやすく感じました。
一方,現行フィエスタより大柄なボディと先代フィエスタとほぼ同じ出力の1.5Lエンジンの組み合わせは登り坂や高速域での再加速には非力感が否めません。マニュアルモードで積極的に回転を上げてもとくに速く走れるワケではありません。インパクトを得るにはやはり高出力型の1.0Lエコブーストが欲しいところ。とはいっても大人しく走る分には実用上の問題はないでしょう。
クルーズコントロールを使うと意外と苦しげになることなく登坂していくことから,ドライバーの操作時は無理な運転をさせない電子制御となっているのかもしれません。
薄味に感じる原因はエンジンの特性だけでなく,足回りにもありそうです。SUVとしてはやや固めでフラットな乗り心地です。頭があまり揺すられず,フツーのクルマのような挙動を示します。交差点やワインディングではリアのしつけが素晴らしいと感じました。高速コーナーでもフィエスタ譲りかそれ以上の剛性感を感じられます。
そのぶん,段差などではリアからやや突き上げを感じます。とはいっても衝撃に角はなく,荒れた舗装路や砂利道などでの乗り心地はフィエスタより十分にソフトです。しかし,フロントが直進試行かつグリップ感やロードインフォメーションに欠ける傾向があり,アグレッシブに走り回るには物足りないでしょう。エンジンだけでなく足回りもゆったりと走ることが目的とされているように感じられます。
ブレーキのタッチとグッドイヤーのオールシーズンタイヤは秀逸でしたが,ホイールやタイヤの変更で印象がどのくらい変わるのか興味が沸きました。
しばしば「リアゲートの開き方が実用的ではない」という批判を目にしますが,私は運転席側から横開きになるリアゲートに極めて好印象を持ちました。
上の写真のように駐車時の後方にゲートを跳ね上げる空間的な余裕がない場合でも,横開きのおかげで荷物の出し入れができます。また,雨天時に運転席から降りて急いでゲートを開閉したいときなど,運転席側からゲートを開けられるのでとても便利です。
ダンパーがタイヤを積んで重くなったゲートの開閉の補助をしてくれるのも有難く,これが跳ね上げ式だったら非常に苦労するでしょう。なお,ゲートは全開すると90度開きますので,その場合は後方にそれなりの広さを要します。
車内は日本車なみに装備が充実しており,フィエスタのような圧迫感がなく,後席もBセグカーとしては広いと感じました。エアコンの風も後席までよく廻ります。
これまたよく目にする批判に「内装がプラスチッキーが安っぽい」というものがありますが,新興国で泥やホコリをまといながら走るならこのくらいの方が相応しいと感じました。
ただし,今どきダッシュボードの樹脂から油がにじんでベタベタしてしまうの(これは先代フィエスタの前期型にも見られました)は,ボードの面積が広いだけに考え物です。この油は樹脂の保護のためとはいえ,ベタつかなくなるまでにけっこうな期間がかかります。
先代までの欧州フォード車ではありえないと感じた点は,
・センターユニットのボタンがデザイン優先で押しにくい(初期型SYNC以降では改良済み。メニューの構造やオーディオの音質は必要十分)
・エアベント周辺のシルバーの装飾がサイドミラー(の前のサイドドアガラス)に映り込む(高級車によくあるアルミの眩しさよりはマシ)
・シートベルトの軸部が堅く柔軟性がない(状況によってはバックルを挿しにくい)
・シートの背もたれ調整が欧州流のダイヤル式ではなくレバー式(運転中の微調整がしにくい。しかもレバーとシートの間にベルトが挟まってしまう)
といった扱いやすさよりも他の何かを優先してしまったあたりです。
車内へのノイズの侵入もしばしば批判されていますが,車格的にはこんなものだと思います。むしろ,先代までのフォーカスやフィエスタよりは遮音や振動の遮断は大きく進化していると感じました。気になったのは雨天時のルーフ鉄板の雨音と,高速走行時のサイドミラー周辺の風斬り音くらいでしょうか。とはいえ,ミラーは大きいだけの日本車や一部の凝った造形の欧州車より格段に見やすいと感じました。
フロント&サイドガラスへの映り込みは,先代フィエスタ乗りとしては上記の点意外は気にならないレベルでした。エコスポーツのガラスに関する情報は少ないのですが,先代フィエスタと同じUVも赤外線もカットしないタイプかもしれません。これが事実なら,国産車や高級車を好む方には理解できない仕様ということになるでしょう。
シートは前後ともに固めで私好みですが,レカロシートに慣れてしまっている身からすると残念ながら最適なフィッティングが得られるとは言い難いです。しかし,残暑の中での長時間の運転でも暑さで蒸れたり腰が痛くなることはありませんでした。ここは同クラスの国産車にはない明らかな美点です。
シートへの乗り降りは前後ともにとてもしやすく,これもシートや開口部の形状とともにチグハグな印象を覚えることが多いクルマにはない美点です。ただし,SUVのスタイルなのにアシストグリップが一箇所もないのはいかがかと思いました。
キーレスエントリー,プッシュスタート,オートヘッドランプ,オートワイパーは普通に便利でした。外国流の電装品のセッティングを理解している(つもり)の者としては違和感を覚える場面はなし。バック時のセンサーもリアの突き出たタイヤをぶつけないようにするには心強かったです。エアコンは割り切ってマニュアルでも良いかも。
これ以外では,ストリップや保護シート類の加工精度や装着の甘さが気になりました。インド産であることを思えばカワイイものですが。実際に身を任せる&実売価格を考慮するとなると,国産車では高額なオプション扱いとなりがちな7エアバックを標準装備していることの方が重要に思えます。
個人的に最も気になったのは細目のステアリングの形状と感触。一部がウレタンとなっていますが,割り切って全てウレタンでも良いのではと思いました。レザー部のステッチも粗く,長期間維持したときの荒れやほつれが心配です。
円ではなく三角形に近い断面も慣れるかと思ったら慣れませんでした。一方で,電子式のパワステは現行フォーカスや現行フィエスタよりも自然に感じました。車庫入れの際にステアリングが軽くなるのは助かります。フロントのフィードバックが物足りないのは足回りのせいなのか,ステアリング制御のせいなのかは最後まで分かりませんでした。
メーターやセンターユニットの照明はクールな水色が基調。視認性も良いのですが,SYNCの液晶のカバーが昼間は反射気味。
クルコン動作時はチェックランプのみしか点灯しませんが,設定速度の表示などは無くても気になりませんでした(スピードメーターを見ればほぼ十分)。
スマホ&スタンドの置き場所はオートエアコンのスイッチの下でドンピシャでした。
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総評として,走り好きよりはゆったり走りたい人向けの良い意味でも悪い意味でもフツーのクルマだと思います。大型で本格的なヨンクは必要ないけれど,汚しても似合うし日本車よりはしっかりしていて扱いやすいクルマを求める方にはファミリーカーにもなりえるクルマだと思いました。
実は次のクルマにはこんなクルマもいいな,と思ってキャンペーン試乗車として現行フィエスタではなくエコスポーツを選択しました。地方生活では路面の凹凸や舗装されていない駐車場は多く,もう少し背が高くてアタリがソフトなクルマが欲しくなります。また,フィエスタは運転する楽しさや,もっと走っていたくなる刺激を与えてくれますが,ときおりクルマにとらわれずにクルマに乗りたいと思うこともあるからです。でも日本車には頼りなさを覚えたり,他のクルマには過剰なものも感じてしまうので。
実際に3日間をともにしてみて,エコスポーツはまさにそんな欲求を満たしてくれるクルマだと思いました。何よりも,エコスポーツは「すこし大柄で重く,足の長い&背の高い現行フィエスタ」でした。自分でも驚くほど乗ってすぐ馴染んでしまいました。プチ遠征&複数人乗車で得られた強い印象は,初代フォーカスに近い安定性と軽快さの両立,疲れにくさと実用性の高いパッケージングでした。
試乗を終えて同行号を走らせると,そこにはエコスポーツでは得られない世界と,エコスポーツに共通する世界の両方があることをあたらめて感じました。エコスポーツより重苦しいステアリングや路面情報の豊富な足回りに戸惑いを覚えつつも,同行号の軽やかに吹け上がるエンジンと俊敏性にまた魅了されるのです。