
今回の投稿は、国内外のオートバイ用ヘルメットに関するメモの番外編として、マルシン工業株式会社に関する記事を投稿。
念のためのおことわりさせていただくと、投稿されている記事の内容に関して、メーカーや販売店へのお問い合わせは、ご遠慮いただきたく。閲覧者の皆様方には、ご理解とご協力を、よろしくお願いする所存。
■マルシン工業が吸収合併される件について
まず、今回の投稿の発端となった公式発表について。
2026年5月13日(水)、マルシン工業より「運営会社の変更」および「会社の吸収合併」に関する案内が発表されている。
・運営会社変更および吸収合併のお知らせ - マルシン工業
(マルシン工業の公式ホームページ内にリンク)
予備知識をお持ちでない無い場合、突然「運営会社変更および吸収合併」「親会社である株式会社山城と吸収合併」などと言われてもピンと来ないかも知れないが、誤解を恐れずハッキリ言ってしまうと、実は、東京都の葛飾区に存在したヘルメット販売会社の『マルシン工業株式会社』は今から約10年ほど前の時点で一度 ”別会社” となっている。この点について、以下にまとめる。
■マルシン工業の歩み
マルシン工業というヘルメット会社は、その経営者の違いにより三つの世代に大別される。以下、一部で敬称略。
【第一世代:創業者時代】
・創業者:渡辺信が二輪用品の製造・販売を開始(1948年~)
・渡辺シート工業株式会社設立(1958年~)、乗車用ヘルメット製造販売開始(1962年~)
・社名変更:マルシン工業株式会社設立(1967年)
言わば、初代マルシン工業と言える世代が、こちら。
実際に自社工場にて自社ブランドのヘルメットを製造販売していたのが、この時期。
真の意味で『ヘルメットのマルシン工業』と呼べるのは、この頃。
【第二世代:文字通り二代目の時代】
・渡辺信氏の死去後、二代目としてご子息・渡辺猛彦が代表取締役へ。
・1991年をもって、マルシン工業はヘルメット本体の自社製造を終了。
・令和の時代まで語り草となっている「ドイツの実業家に海外での商品販売権とヘルメット製造用設備および機材を一式丸ごと売却」したのが、この時。
・台湾、中国企業を介したOEM商品生産を開始。製品の企画・開発は日本。
いくつかの同業他社が市場から消えていく(※)なか、国内ヘルメット会社として事業を継続していった時代が、この頃。二輪用品店のみならずデパート・ホームセンターなど数多くの供給先へ確かな商品を納め、高品質で低価格な乗用ヘルメットの代名詞的なブランドとなっていった。
この時期には「ヘルメットの本体(いわゆる帽体/シェル/Shell)は海外製ながらシールドベースなどが自社設計」、といった品物が存在している。特許庁には、猛彦氏の名義での申請記録が、いくつか残されている。
ここで、当時の
カタログ公式ウェブサイトに掲載されていた「ごあいさつ」の一部を引用。
氏の誠実な人柄と事業への情熱を感じさせる文章が、印象的。
今後も社会的使命と責任を強く自覚し、より一層社会に寄与できるよう心がけてまいります。
皆様方におかれましては倍旧のご厚情とご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。
代表取締役 渡辺 猛彦
※同業他社が市場から消えていく…
・大日本インキ化学工業(DICヘルメット) → 撤退
・クノー工業(SETAヘルメット) → 自己破産
昭栄化工(SHOEIヘルメット)も経営破綻、会社更生法の適用申請という状況に陥った。その他の競合他社(リード工業、コミネ、他)も自社製造から海外OEM/ODMに切り替えるなどし、純粋な国産ブランドであるアライ(Araiヘルメット)と上述のショウエイを除く国内ヘルメット・ブランドは海外生産主流へと移行していく。
【第三世代:二輪用品の大手卸売問屋・山城の時代】
・2015年頃、創業者一族が会社の清算を選択。
・主要取引先であった卸売り問屋の株式会社山城が、事業を引き継ぎ。
・山城がマルシン工業の法人番号を取得。本社の所在地を葛飾区から足立区へと変更※。
・代表者を、小川喜康へ変更※。
山城体制下にて再始動、公式に「2018年にリブランド」と報じているのが、この頃のこと。2026年現在、山城の公式ウェブサイト上でも「2018年(平成30年)3月 ヘルメットメーカー「マルシン工業株式会社」完全子会社化」と明記されている(※以前は公開されていなかった)。
・雑学ひとくちメモ
※転居先のマルシン工業の所在地が山城本社の敷地内であった理由は、このため。もちろん、事情の説明などは伏せられていた。
※「小川喜康」氏という人物は、2018年当時の山城の代表取締役社長を務めておられた方。後の会長。この時期は、山城とマルシン工業の代表を兼任。
※2026年現在、既に喜康氏は山城の会長職を退任済みだが、マルシン工業の代表は継続している(※元々、山城の社長職・会長職の退任は体力面・体調面への配慮という経緯があるため、恐らくは間もなくマルシン工業の代表の座も後任に引き継ぐものと推測)。
10年もの間、しっかりとした引き継ぎと共に製品購入者へのアフターケアやアフターサービスに尽力してくださった方々には、感謝しかない。ちなみに一度、山城運営になる真っ最中の時期のマルシン工業様に電話で商品の問い合わせをさせていただいたことがあったが、それはもう本当に親切丁寧な年輩の男性のご対応で、こちらが恐縮してしまうほどだった。閑話休題。
まとめると、次のような流れ。
(1)国内ヘルメット・メーカーであったマルシン工業という会社は、1991年からOEM体制へ移行
(2)2017年に創業者一族の手を離れ、事実上の別会社に(山城の子会社化)
(3)約10年間にわたり山城にて運営されてきたマルシン工業も、2026年に吸収合併を迎える
会社こそ失くなってしまうが、現行マルシン工業のODMヘルメット群は、おおよそ10年前の時点で既に卸売問屋の大手・山城の管理下で商品展開されていたものなので、今回の報道を受けて過度な心配や不安を抱く必要は、どこにも無い。どうかご安心あれ、というお話。
余談。
そもそも山城は国内大手の問屋としてプレミアム・ブランドの別注品やプライベート・ブランドのヘルメットを多数、世に送り出してきた実績がある。ODMヘルメットという制約こそあれ、これからの新たな商品展開に期待(※)。
※…4月に新商品が出ているので、興味ご関心をお持ちの方は、この機会にマルシン工業のwebサイトをチェック。
■日本とドイツに枝分かれしたマルシン・ヘルメット(Marushin Helmets)
せっかくの機会なので、マルシン工業に関する予備知識について簡単に触れておく。
・大前提
かつて日本でヘルメットを製造していたマルシン工業の創設者は、日本人の渡辺信(ワタナベ-シン/Shin Watanabe)氏。
ブランド名『マルシン』は、ヘルメットの帽体形状を示す『丸(マル)』と、創設者の名前である『信(シン)』に由来する。
・おさらい
1980年代後半、創業者であるShin Watanabe氏が死去。
一族のご子息がドイツの実業家・ウルリッヒ・ホルツハウゼン(Ullrich Holzhausen)氏にヘルメットの生産・製造用の設備&機材一式と、『マルシンヘルメット(Marushin Helmets)』の海外販売権を、売却。
日本国内のマルシン工業は、一部を除く自社製品の製造を海外OEM/ODM企業に委託。
自社ブランド商品を二輪用品の卸売問屋などへ納める販売業へと業態を変え、営業を続ける。
海外での販売権を取得したホルツハウゼン氏は、ヨーロッパ方面のマーケットに向けて商品を企画、新ブランド『Marushin Helmets』を旗揚げ。
現地および販路に対するプレミア感の演出のために日本出自である旨が常々強調され、オリジンたる日本人男性・Shin Watanabe(ワタナベ・シン)氏の写真を添える他、明らかに度を越した誇張など、様々な販促が展開された。
・参考動画:Marushin Helme, Roloff Film, TV-Spot
Youtubeチャンネル:Roloff Film
※音量注意
※「Helme」は、tが抜けた誤字でなく「Helme」で正しい(ドイツ語)
"Marushin Helmets"の商品はドイツにて企画され、委託先の中国ODM企業・ロディア(現:北京神州ロディア産業貿易有限公司/Beijing Shenzhou Rodia Industry & Trade Co., Ltd)にて様々な製品の設計・生産・製造が行われた。委託先中国工場は優秀な技術を保有しており、ヨーロッパ市場においてはSHARPテストへの合格など、数々の好成績を残す。
かの有名な海外発のヘルメット破壊動画に登場するMarushin Helmetsの製品は、ズバリ、この当時に製造された「優秀なロディア製」のヘルメット。海外でも日本でも誤解をされ続けているが、あの動画内のヘルメット2種のうち、やたら褒められている頑丈なヘルメットは、紛れもなく中国製である。
・参考動画:HELMET CRASH TEST /MARUSHIN V|S RZO
Youtubeチャンネル:Motorcycle Videos(※元動画は転載元不明)
※音量注意
そんなわけで、日本国内の『マルシン工業』のヘルメットと、海外における『Marshin Helmets』のヘルメットは、会社もブランドも商品も全くの別物。
その後、紆余曲折あり海外Marshin Helmetsの販売権はドイツのホルツハウゼン氏の手を離れ、持ち主を転々とする。これが、あっちに行ってはこっちに行って、といった酷い有様で、うんざりして追跡を止めてしまったほど。権利先が移る度に各種ヘルメットのODM元も移り変わり、2026年現在は中国ODM企業であるH&HやDafeimaなどを主軸に据えたアイテムの供給が行われている。
海外Wikiによると、どうもホルツハウゼン氏はドイツ以外の諸国におけるMarushinブランドの権利は未だに保有し続けているらしく、今も利益を得ている可能性があるのだが、海外Wikiも更新があてにならない(※ぶっちゃけ信ぴょう性自体も低い)ので、話半分に見ておいた方が良いように思う。
■ドイツから枝分かれした?中国MARUSHINヘルメット
話は変わって、アジア地域におけるマルシン・ヘルメットについてのメモ。
恐らくはホルツハウゼン氏がドイツ法人から退いた頃と推測するが、その時期を前後して、欧州を除くアジア・インド・オセアニア圏などの販売権は中国企業の手に渡り、新たなブランド『马鲁申/MARUSHIN(マルシン)』として独自の発展を遂げることとなった。
Marshin Helmets自体は古くから広い地域で流通しており、鎧武者のトレードマークや漢字による当て字『马鲁申』などは当時から認知されている訳だが、法人が変わる前後で商品のラインナップが明らかに変わっているため、おおよそ見分けることが出来るようになっている。
法人の変更に関しては前述の海外Wikiの記事の内容との間に明らかな矛盾が生じるのだが、中国MARUSHINの情報の方が確実に新しい&ある意味で信ぴょう性が高いので、こちらを尊重してメモに残す。
中国ODM企業であるH&HやDafeimaなどに完全に依存している欧州方面のMarushinと比較し、ヘルメットの品質や独自性・独創性に関しては、中国MARUSHINの方が遥かに先を進んでいる印象が強い。その根拠は、やはり、ヘルメットの見た目によるところが大きい。
・参考画像:中国MARUSHINヘルメットの様子(马鲁申)

引用:马鲁申(MARUSHIN)
さすがに、これを見せられてしまうと、ぐうの根も出ない。
マウスガードに、自社の武者ロゴをでかでかと造形するセンスよ。
肝心の製造元については、元々のMarshin Helmetsが中国ロディア製であったことに対し、現行中国MARUSHINの製造元は未だに確定することが出来ていない(※)。カーボン帽体を余裕で流通させている手腕からして背後に存在するのは大手企業と考えるが、どうにもこうにも商品の流通地域が限られており、未だ手掛かりが掴めていない。この類の情報は、ふとしたところから出てくることが、ままあるため、半ば諦めつつもライフワークとして調べ続けていく所存。
■おまけ:马鲁申(MARUSHIN)ヘルメットの製造元について
舌の根も乾かぬうちに、おまけを追記。
中国MARUSHINの供給元は恐らく、中国のメルメット・サプライヤーである『广州市晋颢体育用品有限公司/Guangzhou Jinhao Sporting Goods Co., Ltd』。上述の通り「ふとしたところ」から情報が出てきた。現在は、確証を得るための検索を続けているところ。
”ジンハオ体育用品”というのは、中国は広州にあるヘルメット・メーカー。ABS系の樹脂帽体からFRPやCFRPといった繊維樹脂系帽体、および関連部品に至るまで、幅広い生産・製造を行っている企業。2010年代~2020年代に急成長した中国OEM/ODM元のひとつで、自社ブランド『GSB Helmets』は中国系ECサイトにおいては高価格帯で取り扱われている良品のひとつ。中小企業向けだけに留まらず昨今は、世界的に有名なブランドに対してもODMヘルメットを供給している。
■参考画像:ジンハオが供給している(可能性が高い?)MARTIAN HELMETSの一例

引用:MARTIAN HELMETS
もう少し書いておくと、ジンハオ/GSBは、台湾系ECサイトを閲覧していれば確実に目に入ってくるであろう人気ブランドのひとつ『Lubro HELMET(ルブロ・ヘルメット)』の供給元としても知られる。
日本ではマイナーな地位にあるLubroは、台湾本土においては、なかなか知名度を持つブランド。売れに売れたAraiのSZ-Ram3の模倣品”RACE TECH(レース・テック)”、およびSHOEIのJ-FORCE IIIの模倣品”AIR TECH VENTO(エアー・テック・ベント)”は、知る人ぞ知る人気アイテムとなっている。
■参考画像:やりたい放題のLubroヘルメットの様子(1)

引用:Arai、Lubro
■参考画像:やりたい放題のLubroヘルメットの様子(2)

引用:SHOEI、Lubro
RACE TECHはバイク好きの若者の一部で大人気となり、後続の模倣品(MONZA MAX-R)と共に『R帽』という若者言葉を生むことになるのだが――、それはまた別の機会に。
■2026年2月3日:一部改訂・表現の修正
■2026年2月3日:一部改訂・追記(北京ロディアなど)
■2026年2月:いったん記事取り下げ(下書き扱いで非公開)
■2026年6月8日:全文改訂・編集・再投稿
■2026年6月10日:一部改訂
■2026年6月13日:一部改訂、二代目代表取締役を明記
■2026年6月14日:一部改訂
■2026年6月20日:一部改訂・ジンハオ/GSBとLubroについて追記