キャリパー来ました。ちっちゃくてかわいいね。
スーパーFJ等のフォーミュラでもおなじみPOWERLITEちゃんです。
現物を手に取ってみたことで当初用意してたブラケットのCADでは干渉箇所かあることが分かったので、そこら辺を手直しして3Dプリントで出力、実際に車体に当てて確認を進めていきます。
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キャリパーの現物が届いたことでブラケットの設計に必要な寸法情報が一応揃ったので、ブラケットを真面目に検討していきます。
まずは先行事例の調査から。
まずは我らがBremboのGTキット、86用。
のTRD版
ENDLESSのシステムインチアップキット。
プロμの86用
(ネッツトヨタ石川のブログより拝借しました)
Winmax。
アクレ。
う~~~~~~~ん安易。ボルトが入るボスとボスを普通につなぎましたみたいな形状。L字型の押し出し材に穴開けて干渉部分をフライスで削って逃がして終了なら生産性良くていいだろうけど、そういうコストカットを大切にするようなユーザーはキャリパー交換なんかしねーぞ???
とくにENDLESS。これだけ気合入れてキャリパー設計してるんだから取り付けもベスト尽くせよな~~~~~
そういえば純正キャリパーのブラケットをわざわざ交換する社外品が出てたよね。GRヤリス用のやつ。
そういうブラケット自体がメインになってる商品なら気合入れて設計してるかもしれない。
は???ブレーキってそっち向きに力入るんか????
回転方向に引っ張られるんだから厚くする向きそっちじゃないだろ???
もし仮に中央部分がないブラケットを作ったとすると、ローターの回転に引っ張られて両側が倒れようとするよね?
じゃあその動きを効率よく止めようとしたら?
当然こうなるわけです。引張りで受ければ最小限の断面積で強度を稼げます。
キャリパーが異径ピストンだったりピストンのオフセットだったりで回転方向があるんだから、当然ブラケットだって進行方向が決まってて当然でしょう。
そこまでしないにしても、GRヤリス純正の平べったいブラケットの方がかかる力に対しては効率よく受け止められるでしょう。社外、一体何やってるの?素人??
じゃあ自動車メーカーはどうしてんのよと。
ここで86の純正キャリパーの裏側を見てみましょう。
パッドに干渉しないギリギリの位置取りで斜めにリブ入れてる!
片押しのくせに回転方向決まってるキャリパーじゃんコイツ!!!
これがコスト(材料削減)と性能(燃費や運動性能=軽さ)を求めるための技術レベル・・・というか検討の差です。
やはり参考にすべきはトヨタやスバルの純正です。戦ってる次元が違う。86開発チームを信じろ。
既存の規格を使わざるを得なかった部分についてはこの限りじゃないです。エンジンとミッションのわるくちです。
アルミだから軽くてすごい!って延々書くのはRSワタナベのホームページだけでいいんです。それをよりによってブレーキでやるんじゃない。
アルミが凄いのは分かったけどお前の凄さがまるで伝わってこないからVOLKRacing買うね。
それじゃサクッと簡単なモデルを作ってFEMで解析かけていきましょう。
キャリパーそのものはWilwoodさんが鍛造で作ってくれているので、キャリパー骨格そのものな86純正キャリパーの単純模倣ではなくあくまで最低限の斜め1本棒で行きます。
試しにキャリパー側を固定してナックル側を引っ張ってみました。ラジアルマウントのキャリパーとアキシャルマウントのナックルの組み合わせなので、現実の変形もこんな感じなんじゃないかなと思ったからです。
このカラーマップは変位を示したものです。ビームがいると倒れを止めてくれるのが目に見える形で示されて面白いですね。
ここから検討がスタートします。
タイヤ外径とローター径、車重なんかから、フルブレーキ時にキャリパーがどれだけの力を受けるかが計算できます。車重が1.1倍以上増えてしまった車は車検時にブレーキ性能が問題ないことを示す必要がありますが、そこで使う計算式を変形してやれば求められますね。
最低でも計算結果の入力を材料の弾性域の範囲内に収め切らないといけないわけです。塑性域に入っちゃうと一撃で変形します。なので一般的な"強度"ではなく降伏点の数字で考える必要があります。
もちろんある程度余裕を持たせる必要があります。
表面がツルツルの物と傷がある物でも現実の強度は変わってきます。そもそもFEMは現実の事象をある程度単純化して計算してやるものなので、解像度が低いなどの理由で問題が見えない場合もあります。だからギリギリに作るのではなく、下振れ要素をカバーできる余力が重要です。実際には実現しないほどのフルブレーキに耐える設計のブラケットを作ることで、使う上で壊れることはないって言えますね。
これを安全率って言います。公認車検の記事で出てきたねじり強度1.6倍以上とかの数字がこれに該当します
アクシオの車重にガソリン満タンと自分の体重を足して、フロントブレーキだけで1Gかかるフルブレーキをしたら?計算式は割愛しますが、14150Nくらいらしいです。
計算間違ってなければ、だけど。
減速Gで1Gかけるって、スポーツカーがかなり気合入れてフルブレーキやってできるかどうかの領域です。こんなお買い物車がフロントブレーキだけで実現できる領域じゃありません。
・・・って考えながら計算するの面倒なので、倍を超える30000Nを叩き込んで一撃でちぎれなければとりあえずオッケ!っていう計算をしていきました。
純粋な引っ張り応力だけを受けられるなら、使う予定の素材の強度だとビーム部分の最小断面積はBB弾程度があれば耐えちゃうことが分かりました。これは手計算。流石にそこまで絞ると取り付ける前に変形させそうなので、もうちょっとゴツくしておきます。
複雑な断面形状にしておけば曲げやねじりに対して丸棒より剛性を稼げます。とくにこっち方向に強い力が入るよね、って分かったら、とくにそっち向きに強い断面形状にしたくなるものです。
自動車だとコンロッドが代表例ですね。
素人設計なので気休めにしかならないかもしれませんが、そうしたほうがビジュアル的にもかっこいい。そんなことを考えながらモデルいじって計算回して・・・を繰り返してました。
実際にはビーム部分はめっちゃ絞って軽量化しているように見えて全く絞り足りないので計算上は大して負荷かかっておらず、最大応力部分にはなってないので気楽です。最大応力部分にならないように削り込むって言った方が正しいんだろうけど。
あとボルトを受ける部分ですね。取り付けの座面を確保することとねじの強度を出すことは最低限必要ですが、そもそもネジ部の強度ってナットの2面幅と同等あれば大丈夫なんじゃね?そうじゃなきゃネジの強度の話が成立しないでしょ
って言いながらM12のナットの2面幅より気持ち大きいくらいの径まで絞り込んでみたらずいぶん細くなった。
ぶっちゃけた話ボルトの負担が大きいのは最初の3山程度なので、ネジ山に負荷をかけられない裏面側はもっと絞って大丈夫です。大丈夫なのは分かっているけど、ビジュアル的に不安なのでこの辺にしておきます。
ちなみに”最初の3山"論は母材とボルトが同等の強度だった場合の話なので、鋳鉄にハイテンボルトを入れたりアルミのブラケットを作ったりする場合は通用しませんよ
キャリパー側に向かってリブ状に残したのは、回転方向以外の向きの入力を耐えさせるリブです。キャリパー側の座面までそのままつながります。
実際のところボルトの強度よりこっちの方が心配。現実の現象をFEMに落とし込む難しさは仕事で身に染みてるので、検討しきれてない要素に対しては余裕を持たせたい。
トポロジー最適化ブラケットとかつくったら面白そうだなーと思いつつ、PCのスペック的にメッシュ切るだけでしんどいし今回は削り出しのつもりなので、人力で生成できる形状の範囲にします。
Ti-6Al-4V材の3DPとかで作るなら、トポロジー最適化でゴリゴリに削り込んで生物の骨みたいな形にしたいですね。
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ブラケット(上のスクショの時点の物)を3DPで出力しました。これで仮合わせをしていきます。
普通のナットはブラケットとローターの間の隙間に入らなそうなので、M12の3種ナットを用意しました。このサイズの3種って珍しいよね
おっいい感じでは?!
じゃあローターを入れてみましょう。
干渉したやんけ
削り込む羽目になりました。よくある1種ナットで良かったじゃねーか
出も削る量少なかったからこっちの方が良かった?
とりあえずアクシオローターでオフセット確認。
コンマ6mmのずれで済んでました。その程度なのでキャリパーはついちゃいます。
もしかしてこのブレーキってかっこいいのでは?!
じゃあNBローターをつけてみましょう。
うっわ
中途半端なハマり方した・・・
そう、PCD100-4Hでもハブフランジの外径が違うんです。マツダよりトヨタの方が大きい。
ハット部の内径でトヨタの方が5mm大きいです。ここは逃げていればいい部分だけど、流石に5mmも違うとこういうことが起こります。
社外で内径大きめローターを探すしかないか?
気を取り直してキャリパーを載せてみると、ブラケットにつく前にキャリパーとローターがぶつかりました。採寸をミリ単位でミスってたみたいね。
ラジアルマウントなので、てきとーなスペーサーを間に入れれば調整できます。
これはレカロのシートレールについてくる5mmスペーサー。
写真の撮り方のせいでわかりにくいけど、こんなもん?
パッドの方がやや外(1mm未満くらい)に出てるくらいなので、この状態からあと1~1.5mm内側くらいがちょうど良さそう。ブラケットで言うと3.5~4mm外ですね。
モデル直します。
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モデル修正。重ねてみるとずいぶん寸法ズレていたことが分かります。
本番材で失敗すると高くつきますが、樹脂3DPなら1桁安い価格でトライできます。良い時代だね
ズレ修正が最弱部位に体積がつく方向になったので、信頼性が向上方向になったのは良かった。結果オーライ。
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ローターどうするの問題。
ロードスターはPCD100/ハブ径54ってわかってるので、ハブボルト穴とハットの内外の距離を見比べれば内径をおおよそ推測できる・・・と思われます。
みんカラ見てたら、交換前後で同じアングルで写真を撮ってる方を発見。
https://minkara.carview.co.jp/userid/661484/car/564304/5899014/note.aspx
プロμのSCR-PRO、ハットでかくね?
2ピースでベルハットに比重の軽い素材を使うので、できるだけハットとローターの締結部の径を大きくして軽量化したい。それに締結部のPCDが大きくなればなるほどのボルトの負荷も減るので強度的にも有利です。
となれば、単純コピーの"同等品"に比べて内径も大きくなる可能性がある!
なんかいける気がしたので買ってみました。
ついた。
とりあえずはこれでローター問題は解決しました。
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さて、CADでこね回したブラケットデータを現実世界に引っ張りう出す必要があります。
3DPが手軽な手段になりましたが、金属を前提にして設計しているので安価な樹脂では使えないし、かといって金属は高価すぎます。
というわけで、製造はJISで言うところのSCM材が使えるPCBwayに外注。
ブロック物はPCBway、板金物はJLCPCBがコスパいい感じなのでおすすめです。
このめんどくさい形状をフル削り出し、良いですね~
このままだと錆びてしまうので、いろいろ表面処理をします。
まずは下地。近所のブラスト屋さんでショットブラストを施工しました。
梨地にすることで塗料の乗りを良くしつつ、圧縮の残留応力を付加することでクラックの発生を抑制する効果も狙っています。ピーニングってやつ。
純正のコンロッドとかこういう見た目してますよね。純正の足回り部品の黒い塗装の下もこんな感じになってたりします。
塗装。最初はローバルでいいだろとか思ってたけど、スプレーのは耐熱100℃なんですね。ブレーキローターが近すぎるので持つとは思えない。
じゃあもうちょっと高温まで耐えられて、耐食性も確保できる物・・・というわけでカチオン電着塗装をチョイス。ブラスト屋さんの3軒隣にある塗装屋さんで施工してもらいました。何でも揃って便利。
これなら200℃くらいまで行けます。キャリパーのシールの方が先に死ぬ程度にはなったはず。
物としては、純正の足回り部品の黒い塗装そのものです。10年10万キロシバけます。最強じゃん。
せっかくなのでこだわりポイントを紹介します。
できるだけキャリパーからデザインがつながるようにしてみました。
純正みたい?Wilwood純正こんなですからね
純正より見た目は合ってるはず?
それとここ
キャリパーがつくボルト穴。
形状を検討していた時に、ここに応力集中が起きたり起きなかったりしていたのでちょっと心配でした。ナックルのキャリパー座のピッチがもっと広いか狭いかしていてくれれば普通に貫通穴にした方が安全なんですが、それができない寸法なので悩みました。
悩んだ結果、普通のドリルで一発穴をあけるのではなく底の部分を球状に仕上げてもらいました。これで応力集中が少し緩和できます。
無駄に金かかってますね。
発注時に「これ作りにくいよ~3DPにしない?金属使えるよ??」って言われたので「クロモリしか勝たん(意訳)」って返したら、割増料金発生しましたが無事にクロモリで削りだしてもらえました。ありがたい。