今日はS660の最高回転数が7700rpmに設定されていることについて検討してみることにしました。
S660(エスロッピャクロクジュウ)のエンジンはN-BOXから採用されているS07Aです。
このエンジンには自然吸気(以下NA)とターボチャージャー付き(以下TC)の二種類があり、N-BOXの場合、最高回転数は、NA:7500rpm、TC:7000rpmという設定です。
S660はTC仕様ですが、最高回転数は7700rpmに変更されています。
ちなみに最高出力は軽自動車だけに当局および社会通念対応でどちらも64ps(47kW)です。
最高出力が64psのままなのに、わざわざ7000rpmから700rpmも最高回転数を上げたことに意味はあったのか?
タコメータが寂しかったから目盛りを増やしたかっただけではないのか?
など色々思うところもあるので、サーキットシミュレーションを用いて効果を計算します。
まずは、ネタ集め。
ホンダのホームページの
FACTBOOKというページからギア比とエンジン性能曲線を入手します。
ギア比
1速:3.571
2速:2.227
3速:1.529
4速:1.150
5速:0.869
ファイナル:4.875
エンジン性能曲線と速度に対するエンジン出力
このエンジン性能曲線を見ると、5000rpmからは最高出力である47kW(64ps)を発生していることがわかります。。
走行性能に大事なのは出力なので、5000rpmだろうが7700rpmだろうがどうでもよく47kWを発生している回転数で走れれば加速は同じです。
そこで、ギア比をもう一度見てみます。
シフトアップすると、次のギア比との比だけ回転数が下がるので、次のギア比との比を計算します。
1→2速:1.603(=3.571/2.227)
2→3速:1.457(=2.227/1.529)
3→4速:1.329(=1.529/1.150)
4→5速:1.323(=1.150/0.869)
最も次のギア比との比が大きいのは1速から2速で1.603なので、このときに5000rpm以下に落ちないようにすれば47kW以下にはなりません。
つまり、5000×1.603=8015rpm
最高回転数を8015rpm以上に設定すれば、シフトアップ後も47kW以上で走り続けることができます。
ということで、本来は最高回転数を8000rpmくらいに設定したかったと思われます。
次にギア比とエンジン性能曲線からシフトアップ回転数7000rpmと7700rpmでの速度毎のエンジン出力を計算します。
(注:今回の計算ではエンジン性能曲線を多項式で近似しているので、64psとなるべきところが、63~65psになっています。)
7700rpmでは1→2速へのシフトアップ時に64psより低下するところがありますが、それ以上の速度では64ps以下まで低下することはありません。
また7000rpmシフトアップでは7700rpmに比べて出力低下が大きくなっており、2→3速でも、シフトアップ後の出力低下があり、最高回転数を7700rpmにした意味があることもわかります。
次に日光サーキットでの効果を確認します。
しかしながら、純正タイヤの前後Gや横Gの最大値がいまいちわからないので、スポーツタイヤとしてはやや低めの以下の値で計算することにしました。
減速:0.7G
加速:0.6G
横:1.0G
赤:S660シミュレーション、青:ビート実測
ビートもカタログの出力は64psなので、加速はあまり差がないことがわかります。
では、肝心のラップタイムです。
7700rpmシフトアップ:45.93秒
7000rpmシフトアップ:45.93秒
まったく同じです。
なぜ同じになったか考えてみると、横Gが1.0Gの場合、日光サーキットの最低速度は46km/h前後になりますが、S660の1速は7700rpmまで回しても49km/hまでしか出ず、2→3速のシフトアップの出力低下もわずかなため、差が出なかったようです。
今回のシミュレーションでは日光サーキットでのラップタイム影響としては、7700rpmに最高回転数を上げた効果はなかったということになりました。
実際もシフトアップが超絶早い人の場合は7000rpmシフトでも7700rpmシフトでもラップタイム差はないと考えれます。
ここまで読むと、「じゃあ、意味ないじゃん!」と思われる諸兄もいらっしゃるかと思いますが、まったく意味がないこともありません。
今度きちんと取り上げますが、実際にはシフトアップには時間がかかるので、シフトアップをする速度は高ければ高いほどラップタイムは早くなります。
また、コースによってはシフトアップをする必要がなくなることもあります。
したがって、サーキット走行をするにあたってはそれなりに意味のある変更だったというのが僕の考えです。
がしかし・・・
一般公道ではどうでしょうか?
僕が昔走りに行っていた日塩もみじラインという峠道があります。
そこの制限速度は30km/hだそうです。
S660の1速で7700rpmまで回すと49km/hも出てしまうので、違法です。
制限速度が50km/hの道では7700rpmまで回すことができますが、こういう道は比較的直線に近いので、1速で走ることはほとんどありません。
というか、1速7700rpmで走っても全然気持ちよくありません。
どこを走ることを想定して7700rpmまで回るようにしたのかわかりませんが、7000rpmのままでもよかったんじゃないかなぁ~と僕は思います。
3月15日追加
今回の内容からはちょっとズレますが、S660のFACTBOOKを読んで思ったこと。
2速のギア比の設定のところを読むと、こう書いてあります。
「とりわけ2速は、BEATの1速とほぼ同等の加速性能を確保しながら、レッドゾーンの7,700rpmでは75km/hに達するギアレシオに設定。
ワインディングロードの常用域である30km/h~60km/hを2速だけでもカバーできるようにしました。」
日本の峠を走りに行ったことがある人はわかると思いますが、ほとんどの峠道の制限速度は、30Km/hか40km/hです。
ワインディングロードとは一般公道の峠道を指すと思われますが、30km/h~60km/hを常用して走行することは違法です。
2速で7700rpmも回して75km/hも出そうものなら、暴走族なみに違法です。
ホンダのような会社が違法行為を推奨するようなことを堂々と書いてはいけません。
ということで、S660で峠道を走りに行く人は峠の制限速度と当局に注意して安全第一で走りましょう!