低反発スプリング4回目です。
前回、バネ単独で伸び縮みすることはない!!。ときっぱり書きましたが実はバネ単独で伸び縮みすることがあり、それをバネのサージングと言います。
バネのサージングについては、バルブスプリングの話として聞いたことがある人が多いと思います。
聞いたことはあるけど、実際に見たことや計算をしたことがある人は少ないと思うので、実際に見て、計算してみます。
まずは見てみましょう。
世の中のあらゆる現象が紹介されているYOUTUBEから動画をどうぞ
バルブスプリングの8500rpmの挙動を撮影したものだそうです。
※注意!:音が出ます
めちゃくちゃバネ単独で伸び縮みしていてびっくりしますねぇ。
次はコイルばねのサージング周波数を求める式を見てみます。
加振周波数とコイルバネのサージング周波数が一致したときサージングが発生するので、バネのサージング周波数を計算することで、加振周波数がいくつのときにサージングが発生するのか知るとこができます。
サージング周波数 fs(Hz)は次式で求めます。
fs=1/2・(k/ms)^0.5 (Hz) ・・・②
k:バネ定数(N/m),ms:バネ有効巻き部質量(kg)
または
fs=d/(2・π・n・D^2)×(G/(2・ρ))^0.5 ・・・③
D:コイル巻き中心径(m),d:コイル線径(m),G:材料横弾性係数(Pa),ρ:材料密度(kg/m3)
式②と式③は違う内容を表しているように見えますが、バネの寸法からバネ定数とバネ質量を計算できるので、その値を使って式②で計算すると式③と同じ値になります。
式②を見ると、バネ質量msが大きい場合、つまり重いバネはサージング周波数が低くなるということがわかります。
サージング周波数が低いということは、サージングが起きやすいということを意味します。
例えば、時速100km/hで合法的に道を走行していたとします。
このとき道路上に0.5mおきに凹凸があったとします。
時速100km/hは秒速28m/secなので1秒間に28m進みます。
道路には0.5mおきに凹凸があるので、1秒間に56回振動がバネに伝わります。
周波数では56Hzの振動です。
次に時速200km/hに速度を上げて走行します。
違法な速度なので、一般公道で試さないようにしてください。
この場合、秒速56m/secなので、1秒間に112回振動がバネに伝わります。
周波数では112Hzの振動です。
仮にバネのサージング周波数が100Hzの場合、時速100km/hではサージングが発生しなくても、時速200km/hではサージングが発生することになります。
そういう意味で、バネのサージング周波数が低いとサージングが発生しやすくなるということなのですが、実際の自動車のサスペンション用コイルバネのサージング周波数がどのくらいなのか計算してみます。
僕が以前使っていたHKSの直巻きスプリング16kgf/mmで計算します。
バネ定数(呼称値):160(N/mm)
線径 d:Φ13.4(mm)
コイル巻き中心径 D:Φ78.4(mm)
コイル有効巻き数 n:3.5巻き
横弾性係数 G:78500(MPa)
材料密度 ρ:7850(kg/m3)
この諸元でバネ定数を計算すると190N/mmになって、呼称バネ定数とちょっと差ありますが、ここではバネ定数は呼称バネ定数の160N/mmを使い、バネ質量のみ諸元から算出します。
バネ(有効巻き部の)質量の計算
本来、バネは斜めに巻かれていますが、ここでは傾き0として計算します。
(単位はmメートルに換算してください)
バネ質量
ms=n・π・d^2/4×π・D・ρ
=3.5×π^2×0.0134^2/4×0.0784×7850
=0.95(kg)
バネのサージング周波数
fs=1/2・(k/ms)^0.5
=1/2×(160×1000/0.95)^0.5
=205(Hz)
となって、0.5mおきに凹凸があるような路面を200km/hで走行してもバネにサージングは発生しなさそうなことがわかりました。
しなさそうだと書いたのは、路面の凹凸から受ける振動はきれいなサイン波ではなく、0.5mおきの荷重だからです。
こういう振動を周波数分析すると、基本周波数(100km/hのときは56Hz)の2倍、3倍の周波数成分があるので、仮に4倍の周波数成分がそれなりに大きいとサージングが発生する可能性があります。
例えば、路面の凹凸によりタイヤがこんな感じで振動したとします。
これは1秒間に4回振動しているので、基本周波数としては4Hzの振動です。
この振動を周波数分析すると下のグラフのようになります。
基本周波数の4Hzが最大で、8Hz、12Hz、20Hzの振動成分があることがわかります。
この4Hz、8Hz、12Hz、20Hzのサイン波を組み合わせて合成すると下のグラフのようになり、ほぼ元の波形と同じ波形が得られます。
冒頭のYOUTUBE動画で、バネのサージング周波数よりもバルブスプリングを押す周波数(カムシャフト1回転で1度押す)の方が低いにも関わらずサージングが発生している理由も、バルブスプリングを押す周波数分析をすると、実際はカムが1回転に1度押す周波数の2倍、3倍の周波数成分があることが原因です。
また、この例のように周期的な振動でなくても、大きな段差を乗り越えたときのように衝撃荷重が加わるときも同様に高周波の振動成分で加振されることになるので、その場合もサージングが発生しやすくなります。
しかしながら、いろいろネット検索しても自動車整備士の試験問題にしか自動車サスペンション用バネのサージングについての記載が見つからなかったので、実際はサージングが発生することはなく心配はいらないようです。
→
自動車整備士の試験問題
ブーンという異音の原因になるそうです。
一方、鉄道のサスペンションでは昭和20年代にコイルバネのサージングでバネが折損するという記述もありました。→
車両用コイルバネの強度
自動車ではサージングの事例が見つからず、鉄道で出てきた理由ですが、僕の推測では鉄道は車輪が鉄でレールも鉄なので、継ぎ目の乗り越え時にそこそこ大きな衝撃荷重が加わることが原因だと思ってます。
自動車は空気入りゴムタイヤを使ってるので、タイヤが衝撃を吸収してサスペンションバネにはあまり大きな衝撃荷重がかからないということなのかもしれません。
ということで最後にまとめです。
1、低反発スプリングは縮み始めのバネ定数が呼称値に対して低い区間が長い
2、低反発スプリングは巻き数が多く、重い
3、コイルバネはバネ定数が同じであれば、巻き数や質量によってバネ反力も反発力も縮んだときのエネルギーにも違いはない。
4、低反発スプリングの”反発”は軟質ウレタンフォームなどで使われる”反発弾性率”とは意味が異なる。(何を意味しているかは不明)
5、重いコイルバネは、より低い周波数の加振でサージングが発生しやすい。
(ただし、自動車のサスペンション用バネでは気にしなくてもよい)
低反発スプリングとはナニか?ということで、いろいろ調べてとても勉強になりました。
でも、低反発スプリングは何がよいのか?についてはなにもわからなかったというのが今回の結論です。