先日、とあるサイトで「ブレーキを離すと、すぐに荷重が抜けるのか?」というお題について書かれていました。
ブレーキを離した直後は、スプリング反力で前輪の荷重は大きい状態になっていて、かつ制動にグリップを使っていないため、摩擦円のすべてを横方向に使えるので、この瞬間のグリップを有効に使おうという趣旨で書かれていることに対し、ブレーキを離した瞬間に前輪の荷重は元の状態に戻るという意見にに対する反論のようです。
第一回目は、考え方が書かれており、スプリングが縮んでいる間はその反力分は前輪の荷重は増大しているのである。という内容でした。
スプリング反力が発生している時間については次回算出されるらしいので、その前に僕も計算してみました。
計算をするにあたり、クルマの固有振動数を知らなくてはなりません。
なぜなら、縮んだスプリングはそのクルマの固有振動数で元に戻ろうとするからです。減衰の影響も考えられますが、今回は無視します。
クルマの固有振動数についてネット検索をすると、チームルマンの方が書かれているHPに記載がありました。
こちら
スポーツカーは2Hz、F1は5~7Hzだそうです。
そこで、2Hzと6Hzで計算してみました。
2Hzというのは1秒間に伸びて縮んでを2回繰り返すという意味です。
6Hzは1秒間に6回
実際のスプリングの伸び縮み時間がどのくらいなのかは、僕のS2000で実際に測定した結果があるので、
こちらを参照ください。
ここで、ブレーキ(減速)によって縮んだスプリングが荷重を増大させている時間を計算するわけですが、今回は最も縮んだ状態から半分だけ伸びたところまでの時間(グラフの赤丸で囲った部分)を計算します。
スプリングが半分伸びるまでの時間
2Hz:0.08秒
6Hz:0.03秒
次に、この時間は運転操作(転舵時間)に対してどのくらいなのか?というのが知りたくなりました。
こういうときは、世界一のクルマを世界一のドライバーが運転していたときのデータで確認するのがわかりやすいと考え
、2017年のメルセデスF1をハミルトン選手が鈴鹿サーキットを運転したときのオンボード映像から速度データと転舵角度を取得して確認することにしました。
では見てみましょう。
まずは全体
青:速度(km/h)
緑:前後角速度(m/sec2)
ピンク:転舵角度(deg) ※S字とスプーンは割愛しました
次にデグナーとヘアピン
図中の赤と青の縦線の意味は、赤が転舵始め(と思われるところ)、青が一度転舵を止めるところです。
前後加速度は速度から計算して0.36秒間を移動平均しています。
転舵角度は画面のステアリングホイール角度から僕がおおよその角度を目で見て書き写しました。なので、誤差は±5°くらいはあります。
このグラフを見ると、どこのコーナでも40~60°の転舵後に一度転舵を止めているということに気が付きます。
本当の理由はわかりませんが、恐らく一気にある程度のところまで転舵したあとに、クルマの向きが変わり始める感覚を確認してからさらに切り増しているということだと思います。
したがって、この一度転舵を止めるまでの時間とスプリング反力により前輪荷重が増加している時間を比較すると、転舵時間が十分早いかどうかがわかると考えました。
メルセデスF1の固有振動数を6Hzと仮定すれば、ブレーキを離してから、前輪荷重が半減するまでの時間は0.03秒です。
一方のステアリングホイールを回している時間はヘアピンの場合、切り始めの60°くらいまでで約0.5秒で、デグナーでは45°までに0.2秒くらい。
サーキットで最も転舵の速いところはシケインの場合が多いので、シケインを確認すると、転舵速度は308°/secで、45°回すためには0.15秒必要です。
ブレーキを離した後のスプリング反力を有効に使うにはスプリングが伸びる前に横Gを最大に立ち上げなければならないわけですが、スプリングが伸びる時間は転舵時間に対して短すぎてF1の場合、有効に使うのは困難なようです。
ということで、「ブレーキを離すと、すぐに荷重は抜けるのか?」という質問に対しては、「F1の場合、転舵時間に対しては、すぐに抜ける」というのが答えになろうかと思います。
さらに、クルマの速度変化を見ると、切り始めから最大舵角以降も徐々に速度が低下しており、転舵している間はずっと前後方向にタイヤのグリップが使われており、ブレーキをパっと離して、その直後に横Gを最大にするという走り方にはなっていません。
今回のデータからはブレーキを徐々に緩めて、減少した前後のグリップの分だけ、ステアリングを切って横方向のグリップを使っているようにしか見えないので、普通に摩擦円の縁に沿った走らせ方をしているというのが僕の見解です。
ちなみに今回はF1で確認しましたが、僕の知るかぎりF1とサーキットを走るF1以外のクルマの走らせ方に大きな違いは見られないので、恐らくサーキットを走るクルマの場合は、ブレーキをパっと離した瞬間に曲がるような走り方をするクルマはないと思います。
ところで、この速度変化を見ると、以前書いた
最低速度をコーナの奥にした方が速いという走り方になっていることがわかります。
プロドライバーや速いドライバーはみんなこういう走り方なのですが、真似しようとしてもなかなかできないというのが僕の悩みでもあります。
もともとは「ブレーキを離すと、すぐに荷重は抜けるのか?」について調べる目的でF1のオンボード映像を分析してみましたが、今回初めてわかったことなどもあり、勉強になりました。
190603追記
昔のブログを読み返していたら同じようなことを書いていたので、参考にごらんください。→
131004茂原走行会分析その3
今日の所感:クルマは急に曲がらない
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サーキット走行理論 | 日記
Posted at
2019/06/02 23:38:25