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2012年09月13日 イイね!

軸力計算

軸力の大事さは十分理解していただいたと思うので、今日は軸力の計算をしてみます。

計算する軸力は次の二つです。
1、初期締付け軸力(以下締付け軸力)
2、降伏締付け軸力

1の締付け軸力は、ボルトをある締め付けトルクで締め付けたときに発生する軸力の大きさです。
2の降伏締付け軸力は、ボルトを締め付けたときにボルトに発生する応力(ググってください)がボルト材料の降伏点(ググってください)以上になるような軸力の大きさです。

摩擦接合、引張り接合のどちらも、ボルトの座面が陥没しない限り、より大きな軸力で締め付けた方がより強い接合ができるので、普通は2の降伏締付け軸力を超えないように極力大きな軸力で締め付けできるような締め付けトルクの設定をします。

では早速、1の締付け軸力を計算してみましょう。
計算式には難しいのと簡単なのがあるのですが、実用的な簡単な計算式を使います。
(詳しくは、先日紹介した本か東日のホームページ、JIS B1083などを参照ください。)
ボルトの発生軸力をF(N)、締め付けトルクをT(Nm)、ボルト呼び径をd(m)とすれば、

T=F×d×K (Nm)

今回は締結トルクから軸力を求めたいので

F=T/d/K

ここで、Kはトルク係数と言いねじ部や座面の摩擦係数と座面の有効摩擦半径で決まります。
また摩擦係数は潤滑状態によって変化します。
実際には軸力を実測しトルク係数の値を求めるのですが、まずは一般的な次の値で計算します。
各潤滑状態におけるトルク係数Kの値

1)無潤滑:0.3~0.4
2)オイル;0.15~0.25
3)ワックス:0.1~0.2

これらはあくまでも一般的な値なので、実測することが必要です。

具体的事例がないとわかりずらいので、S2000のリアサブフレームボルトで計算してみます。
ボルトサイズはM14でピッチは1.5です。
サービスマニュアルの指定トルクは、103Nm
従って、d=0.014、T=103
潤滑状態はよくわからないので、それぞれの場合で計算してみます。
K=0.4のとき
F=103/0.014/0.4=18393N → 18.4kN(1876kgf)
K=0.1のとき
F=103/0.014/0.1=73571N → 73.6kN(7503kgf)

なんと、潤滑状態の違いで軸力は4倍の差が発生してしまいました。
つまり、軸力の狙い値は潤滑状態の狙い値がわからないとまったく見当がつかないというとになります。

とりあえず締付け軸力は置いておいて、次は降伏締付け軸力を算出します。
降伏締め付け軸力は次の式で計算します。(JIS B1083参照)
降伏締め付け軸力をFyとすると

Fy=σy・As/(1+3{3/dAS×(P/2/π+0.577×μth×d2)}^2)

ここで、σyはボルト材の降伏応力(Pa)、Asはねじ部有効断面積(m2)、dASはねじ部有効断面積相当径(m)、Pはねじピッチ(m)、μthはねじ部摩擦係数、d2はねじ有効径(m)です。

この式の意味するところは、この軸力以上の軸力になると、ボルト全体が降伏するということです。
ここで大事なのは、この降伏締付け軸力の軸力以下でも、ボルトの表面はすでに降伏しているというところです。

降伏締付け軸力の計算にはねじ部摩擦係数が必要なのですが、これもトルク係数と同様に潤滑状態がわからないと決められないので、次の一般的な値で計算します。
ねじ部摩擦係数μthの値
1)無潤滑:0.21~0.28
2)オイル;0.1~0.18
3)ワックス:0.06~0.14

さらにボルト材の降伏応力σyもわからないと計算ができません。
サブフレームボルトをじ~っと見てみるとボルト頭に”10”と刻印してあります。
一般的には、これはボルト強度区分が10.9級であることを示します。
ボルト強度区分はJIS B1051で規定されていて、10は引張り強さが1000MPa以上で1200MPa以下という意味で、10.9の9は降伏点が引張り強度の90%以上であることを示しています。
つまり、S2000のフレームボルトは10.9級で降伏応力σyは、1000×0.9=900MPa以上であると推定されます。

降伏締付け軸力は計算式が複雑で計算がカッタるいので、別途エクセルで計算しました。
μth=0.28のとき (トルク係数は0.4相当)
Fy=78.6kN
μth=0.06のとき (トルク係数は0.1相当)
Fy=105.6kN

降伏締め付け軸力も摩擦係数の影響を受けますが、軸力ほど大きな差は発生しません。

さらにおまけでボルト材が8.8級の降伏締付け軸力も算出してみます。
μth=0.28のとき (トルク係数は0.4相当)
Fy=55.9kN
μth=0.06のとき (トルク係数は0.1相当)
Fy=75.1kN

ここまでで計算した締付け軸力と降伏締付け軸力をグラフにまとめると下図のようになります。


これを見ると、もし潤滑状態が無潤滑だとしたら、締付け軸力に対して10.9級の降伏締付け軸力が大きすぎるということに気がつきます。安全余裕を考えても8.8級ボルトで十分と思われます。
ということは、このボルトはオイルを塗布するかワックスを塗布することを前提にしていると考えられますが、サービスマニュアルには"分解時交換”としか書いてありません。
例えばエンジンのヘッドボルトなどには、”組み付け時オイル塗布のこと”と書いてあります。
オイル塗布を指示しておらず、かつ無潤滑だと10.9級ボルトを使う理由がないので、必然的にワックス塗布状態で軸力設定していると推測できます。
さらに、分解時に交換を指定している理由も新品状態ではワックスが塗ってあり1度分解するとワックスが取れてしまうのでワックス塗布済みの新品に交換するためだと考えれば納得できます。

そこで、ホンダのパーツセンターから新品購入したフレームボルトをじ~っと見てみました。
すると、ねじ部にロウのようなものが塗ってあることが確認できました。
ボルト座面側は、どうも塗っていないようでした。
本当に塗布してあるかどうかは、実際に締付けてみれば締め付けトルクと発生軸力の関係で確認することができるので、近日中にテストしてみたいと思います。

今回わざわざ軸力計算をした理由は、
1、設定軸力を大よそ知ることができる
2、設定軸力を発生させるために必要な潤滑状態を知ることができる
この二つです。

ここで話はリジ○ラに飛びますが、サブフレームがズレるという事象はレースをするときっと起きるんだろうと思います。
しかし、その原因は分解時にボルトを交換せずにそのまま使い、ワックスも何も塗布せずに締付けるので軸力が設定値よりも大幅(半分以下)に小さくなり、接合面の摩擦力が低下したためと推定されます。
にも関わらずその対策としてカラーを挟むとは・・・。
新車から一度も分解したことないにも関わらずサブフレームがズレる人もいると思うのですが、そんなときでもエイって増し締めして軸力アップすればズレなくなると思います。

今日のまとめ
設定軸力を発生させるためには、設定潤滑状態を知ることが大事。

軸力ネタは好評なので、次回も続きます。
Posted at 2012/09/13 00:21:42 | コメント(9) | トラックバック(0) | いろいろ計算 | 日記
2012年09月06日 イイね!

ボルトは軸力が大事

今日は軸力計算しようと思いましたが、まず軸力の重要さを理解してもらわなければならないので、今日は軸力について語ることにしました。

軸力という言葉はあまり聞き慣れない言葉と思いますが、ボルト締結において最も重要な言葉です。
軸力さえ知っていれば、あとはどうでもいいくらい重要です。

軸力の定義を調べてみると、JIS B1186にはこう書いてあります。
「ボルト、ナットで品物を締め付けて使用するとき、ボルトの軸方向に作用する引張力」

ボルトは締め付けると微妙に伸びます。
伸びた状態を維持するためには、何かがず~っと引張り続けていなければなりません。
何が引っ張っているかと言うと、ナット(めねじ)とボルトの頭に挟まれている被締結物です。
逆に被締結物はボルトから圧縮の力を受けて微妙に縮んでいます。
ボルトの引張力=被締結物の圧縮力という関係になるので、被締結物はボルトの引張力、つまりボルトの軸力によって押さえつけられています。

ボルトの役割は、二つ以上のものをくっつける(接合する)ことにあるわけですが、そこで必要になるのがこの軸力です。被締結物がくっついている(接合している)のは、ボルトが両側から押さえつけているからです。
つまり、そのボルトが発生可能な軸力の大きさが、被締結物をくっつける能力の大きさを決めることになります。

わかりにくい例で言うと
エンジンは出力を発生することが目的。
なので、排気量とかバルブ駆動方式とかは出力を得るための手段であって、それ自体が目的なわけではありません。大事なのは出力です。
同様にボルトは軸力を発生することが目的であって、ボルトの太さとか材料は軸力を得るための手段であり、大事なのは軸力です。。
どんなに強い材料を使っても、発生している軸力が低ければ、存在価値がありません。
ということで、「ボルトは軸力が大事」と3回唱えてから計算に移りましょう。

今日のまとめ
 ボルトは軸力が大事、ボルトは軸力が大事、ボルトは軸力が大事

次回は軸力計算です。
Posted at 2012/09/06 23:52:18 | コメント(6) | トラックバック(0) | いろいろ計算 | 日記
2012年09月05日 イイね!

高力ボルト摩擦接合

9月になり、だんだん夜は涼しくなってきました。
涼しくなると、車の整備をしたくなります。
車の整備と言えば必ずボルト締結をします。
ところが、ボルトの締結理論は一般的には正しく理解されていないように思えてなりません。
そこで、ネタもなくなってきたのでボルトについて書くことにしました。
今日は第一回です。

まず、お題の高力ボルト摩擦接合とはなんぞや?という人が多いと思います。
高力ボルト摩擦接合とは、
高回転でボルト回しながら強い力で被締結物にボルトを押し付けることにより、その摩擦熱で被締結物を接合する手法
ではありません。
本当の意味はググってもらうとして、簡単に説明すると
高力ボルトを強い軸力で締め付けて、被締結物の接合面に生じる摩擦力で接合面にすべりが生じないように接合する手法
のことを言います。
全然わからないと思うのですが、これは建築業界の用語で、ボルト10本くらいで鉄骨同士を締結している手法のことです。
橋とか階段とか鉄骨でできたものに多用されている一般的な接合手法なので、そこら中で見ることができます。とにかくたくさんのボルトとナットで鉄骨が締結されていたら、それは間違いなく高力ボルト摩擦接合です。

次に高力ボルトとはなんぞや?って思うと思うですが、
高力ボルトは普通のボルトよりも引張強さの高い材料で作ったボルトのことです。
JIS B0101には、「摩擦接合用高力六角ボルト」の一般名が高力ボルトであると書かれています。
材料の機械的性質はJIS B1186に記載されています。

その次は、なんで高力ボルト使うのか?って思うと思うのですが、
それは、アモントン・クーロンの摩擦の法則(←知らない人はググってください)により、高い摩擦で接合面をくっつけるためには、より強い力で接合面を押し付けることが必要で、必要な押し付け力をより細い(軽い)ボルトで発生させるためには、引張り強度の高いボルト使うことが必要になるからです。

さらにその次は、なんで突然高力ボルト摩擦接合の話題なんだ?って思うと思うのですが、
自動車部品に限らず、世の中のボルト締結部品には、主に摩擦接合と引張り接合しか存在しないにもかかわらず、一般的には知られていないようなので、身近にあるボルト締結物の話題から入ってみることにしました。(ちなみに支圧接合という方法もありますが、一般的でないので割愛します)
主にボルトの軸直角方向に接合することが目的な場合は摩擦接合と言い、主にボルトの軸方向に接合することが目的な場合を引張り接合と言います。
実際には、どちらかだけに使われることはほとんどないので、主に接合されている方向で考えます。
例えば、エンジンのコンロッドは、ボルトの軸方向にコンロッドのロッド部分とキャップ部分が開かないように締結しているので、引張り接合です。
ただし、接合面が摩擦力ですべらないようにしないと、接合面にフレッティング摩耗(←ググってください)が発生してしまうので、同時に摩擦接合の役割も果たしています。
摩擦接合の例としては、サブフレーム(サスペンションメンバー)とボディの接合部があります。
この部分は、高力ボルトを使ってサブフレームとボディがボルトの軸直角方向にすべらないように接合しているので、摩擦接合です。
もちろんボルトがないとサブフレームは下に落っこちてしまうので、引張り接合としての役割も重要な役割です。ただ、下に落っこちないようにするだけなら、高力ボルトを使う必要はないはずで、摩擦接合に必要な軸力(締め付けて引っ張られたボルトが縮もうとする力)を確保するために高力ボルトを使っているという観点で、この部分は摩擦接合として考えます。

今日のまとめ
ボルト締結による接合手法には、摩擦接合と引張り接合の二つがある。

次回は、ボルト軸力計算です。

なお、偉そうに書いているものの、僕はボルトの専門家ではないので、詳しく知りたい方は、
ねじ締結の原理と設計 山本 晃著 株式会社 養賢堂発行 を読まれることを強く推奨します。
Posted at 2012/09/05 22:53:33 | コメント(0) | トラックバック(0) | いろいろ計算 | 日記

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サーキットで車を速く走らせるために必要なこととはなにか?を研究するのが趣味です。 日光、TC1000、茂原、を毎年走行してます。 2010年まではもてぎで開...
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