今日はずいぶん昔からあるクランクケース内圧制御バルブについて、最近 気になったのでS2000で使った場合の効果を計算してみることにしました。
ところで、そもそもクランクケース内圧制御バルブとはなんぞや?という人もいるかと思いますが、要するにクランクケース内の圧力をやや負圧にすることができるバルブなんだそうです。
詳しくは
メーカのHPの解説をお読みください。
バルブメーカによると、このクランクケース内圧制御バルブの効果は
1、出力/燃費向上
2、始動性の向上・エンジン回転の安定
3、オーバーレブ特性の向上
4、エンジンブレーキの低減
5、エンジン振動の低減
6、オイル劣化の抑制
だそうです。
回転の安定とかオイル劣化についてはよくわからないので、今回は出力と燃費の効果を計算をしてみることにします。
しかしながら、まずは基礎データがないと計算のしようがないので、基礎データ集めです。
必要なデータ
①クランクケース内圧制御バルブによるクランクケース内圧力変化量
②クランクケース内圧変化量とエンジン出力の変化量
①については、バルブメーカのHP等を見れば各エンジン毎の測定結果が記載してあるはずと思い調べてみましたが、どこにも書いておらず困ってしまいました。
いろいろい調べてみると、
「クランクケース内圧制御バルブの性能調査」
という論文があったので、こちらの測定結果を使うことにします。
この論文によれば、圧力変化量は-400Pa(-0.4kPa)だそうです。
大気圧は101.3kPaなので、微妙に負圧になるということのようです。
この値はバイクのSRXの計測結果で、4輪の4気筒エンジンの場合はちょっと違う気もしますが、インマニから直接負圧を取っているわけでもなく、そこそこ妥当な気がするので、とりあえずこの値を使います。
つぎに②の内圧とエンジン出力の変化量です。
これも調べてもなかなか出てこなかったので、昔読んだHondaR&DテクニカルレビューF1スペシャルのRA122E/B(1992年のV12 NAエンジン)の値を使うことにします。
エンジン回転数:14000rpm
RA122E/Bでは絶対圧力30kPa(大気圧101.3kPaよりも70kPaの負圧)にすることで、クランクケース内圧が大気圧のときと比べて、約15kWエンジン出力が上がった(フリクションが低下した)と書いてあります。(内圧1kPa当たり0.22kWのフリクション低下)
RA122E/Bは12気筒の3.5Lなので4気筒 2.0Lよりも負圧による効果が大きいと思いますが、よくわからないので今回は同じだけの効果があることにします。
また、グラフを見ると内圧に対するエンジン出力変化量の違いは見られないので、大気圧に近いところでも1kPa当たり0.22kWのフリクション低下効果があるとします。
これらの値を使って計算してみましょう。
今回は具体的にわかりやすくするため、S2000が50km/h巡行しているときの計算をします。
テクニカルレビューのRA122E/Bの値は14000rpmの値で、S2000が50km/h巡行しているときのエンジン回転数は約1620rpmなので、回転数に対する補正をします。
しかし回転数とフリクション低下量の関係がよくわからないので、フリクション低下量は回転数の1乗~2乗に比例すると仮定し両方計算してみます。
回転数の1乗比例の場合:0.22×1620/14000=0.025kW/kPa
回転数の2乗比例の場合:0.22×(1620/14000)^2=0.00295kW/kPa
今回はフリクション低下量の大きく、都合の良い1乗に比例の計算結果を使いクランクケース内圧制御バルブの効果を計算します。
クランクケース内圧制御バルブをつけたときの内圧変化量は0.4kPaなので、フリクション低下量は
0.025×0.4=0.01kW(0.014ps)
フリクション低下量だけだとわかりずらいので、出力と燃費に対する割合も計算します。
S2000が50km/hを6速ギアで走行しているときのエンジン出力はよくわからないので、燃費からおおよその見当をつけます。
50km/h 6速巡行中の瞬間燃費は僕のS2000の場合、実測でおおよそ14km/Lくらいでした。
1時間あたりのガソリン消費量は
50/14=3.6L/h
これを熱量換算します。
ガソリン1L当たりの低位発熱量はネット検索したところ、32.9MJ/Lということなので、1時間あたりの発生熱量は
32.9×3.6=117.5MJ/h
1秒当たりの発生熱量に換算すると
117.5/3600=0.0326MJ/sec(=32.6kJ/sec)=32.6kW
S2000が50km/hで巡行しているときに発生している1秒間当たり発生熱量は約32.6kWということがわかりました。
実際は、ガソリンを燃やして発生した熱量の多くは冷却水や排気ガス、フリクションによってクルマの走行に使われずに熱として捨てられています。
そこで次に50km/h巡行に必要な仕事率(1秒間あたり熱量と同じ意味)を計算してみます。
S2000の走行抵抗を見ると、50km/hの走行抵抗は約30kgf(294N)です。
仕事率は、速度(m/sec)×走行抵抗(N)なので
50/3.6×294=4083W(4.08kW)
つまり、僕のS2000が50km/h巡行しているときは、4.08kW(5.55ps)の出力を必要としていて、その出力を発生させるために、エンジンはガソリンを燃やして32.6kW(44.4ps)の1秒間あたりの熱量を発生させているということがわかりました。
効率を計算すると
4.08/32.6×100=12.5%
これはもったいない。
ガソリンが発生した熱量の87.5%を大気中に熱として捨てているとは!!
50km/h走行中の発生熱量と走行に必要な仕事率がわかったので、内圧低下に伴うフリクション低下分の割合を計算します。
クルマが走行するために必要な仕事率に対するフリクション低下分の割合を計算すると
0.01/4.08×100=0.24%
これはエンジン出力が0.24%向上したのと同じ効果です。
ガソリンの発生熱量に対するフリクション低下分の割合を計算すると
0.01/32.6×100=0.03%
これは燃費が0.03%向上したのと同じ効果です。
まとめ
S2000が6速ギアで50km/h巡行しているときのクランクケース内圧制御バルブの効果は
出力効果で0.24%
燃費効果で0.03%
程度と推定される。
「クランクケース内圧制御における走行実験」という論文を見ると、高速道路のような巡行時には差が出なかったということで、そこそこ合っているように思います。
ということで、今回の計算では効果が小さいということになってますが、計算に使っている基礎データがS2000に当てはまるかどうかは不明なので、もう少し情報収集して再計算してみたいです。