
2013年2月のオートスポーツ1349号の記事から始まったこのコーナーも昨年ようやく自分の納得できる結論を導くことができました。
その後すぐにコーナ走行ラインの最適化に関する新知識を得たことで、まとめを放置しておりましたが、走行ライン最適化に戻る前に欧州式コーナリングのまとめをすることにします。
オートスポーツの記事を読んだ当時は、オートスポーツに記載されているような欧州式でサーキットを走るプロドライバーは僕の知る限りどこにもいないため、「オートスポーツはいったい何が言いたいんだろう???」と疑問だらけでイラっとしてましたが今にして思えば、このオートスポーツの記事をきっかけとしてサーキット走行理論の理解が大きく進んだのでオートスポーツに感謝です。
まず今回は僕が過去に書いた内容を振り返り、次回まとめをしたいと思います。
【2013年6月】(
ドライビングスタイル)
ここでは最初にオートスポーツ1349号に記載されていたことを以下のようにまとめました。
日本式・・・加減速を重視し、ブレーキはクリッピングまで残す走り方
欧州式・・・コーナリング速度を重視し、減速は直線で終わらせて、コーナは一定速度で走る走り方
この内容に対する僕の考え
1、日本も欧州も大きな違いはなく、そもそもサーキット走行にはいわゆる日本式しかない
2、比較的コーナリング速度重視なのが欧州式で、比較的加減速重視なのが日本式
このときは本当にオートスポーツが何が言いたかったのかさっぱりわからなかったので、日本式と欧州式という違いがあるとするならば、その差は非常に小さいのではないか?という考えを書きました。
ちなみにグランツーリスモのHPでは欧州式という言葉は出てきませんが、コーナの絵と加減速についてオートスポーツ1349号と同様のことが記載してあります。
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コーナリングの考え方
【2014年6月28日】
ドライビングスタイル2
【2014年6月30日】
ドライビングスタイル2の続き
このときは最適な走り方に違いはないが、最適な走り方への合わせ込み方法に違いがあるのではないか?と考えて、日本式と欧州式の違いを以下のように推定しました。
日本式・・・最適な走り方に直接合わせ込もうとし、加減速を重視する
欧州式・・・最適な走り方に速度が高い側から合わせ込もうとし、コーナリング速度を重視する
さらにコーナ最小半径違いでの区間タイムをサーキットシミュレーションで計算し、以下の結果を得ました。
1、最適な最小旋回半径からの差が大きくなるほどラップタイムは遅くなる。
2、最適な最小旋回半径よりも小さい半径を当初目標とすると、減速の途中で修正できない。
3、最適な最小旋回半径よりも大きい半径を当初目標とすると、ラップタイムの落ち幅が小さく、減速途中でも最適な走行ラインに修正できる。
【2014年7月12日】
ドライビングスタイル2の続きの続き
ここでは少し考え方を変えて、
日本式と欧州式の違いは、コーナ中の最低速度位置の違いであるという説に基づいた計算をしました。
このときの計算結果では、
コーナ中の最低速度位置を奥にした方速いという結果とともに、
最低速度位置を奥にするためにはブレーキを残さないような走り方にする必要があるということがわかり、これが欧州式を指していると推定しました。
【2019年7月21日】
ドライビングスタイル3
このときはジェンソン・バトン選手が市販車のシビックタイプRをハンガロリンクを走行したときのデータから以下の推測をしました。
欧州式コーナリングとはコーナ中の減速Gが急に低下するような走らせ方のことを指していて、実際にはブレーキを踏んでいるもののコーナ中に急激にブレーキを緩めるためブレーキを踏んでいないと思い込んでいる可能性がある。
【2021年12月15日】
S2000エンジンブレーキ減速G
ブレーキを踏んでいるかどうかを速度変化から読み取ることができるように、S2000のエンジンブレーキの減速時速度変化を確認しました。
【2024年3月20日】
最低速度位置とラップタイムの関係(HGR CIVIC TYPE-R再計算)
【2024年3月28日】
最低速度位置の向きとラップタイムの関係(SF19 FSW再計算)
ドライビングスタイル3で欧州式コーナリングについて一応の結論を得たものの、「コーナ中の最低速度位置を奥にした方速い」という理論の根拠が乏しかったため、再計算をした結果、以下のことがわかりました。
1、最低速度位置はコーナ中央の方が速い
また、以前の計算でコーナの奥側とした地点は実際はコーナ中央付近だった。
2、減速Gが急に低下するような走り方をしなくても最低速度位置を奥(実際はコーナ中央)にすることは可能。
ここでは
減速Gが急に低下するような(=減速時の速度変化に折れ点があるような)走り方は理論上最適な走り方ではないということがわかりました。
【2024年4月3日】
レーシングドライバーの減速区間走り方分析(シビックタイプR)
理論上の最適な走り方ではないにも関わらず、多くのレーシングドライバーが減速Gが急に低下するような(減速時の速度変化に折れ点がある)走らせ方をしている理由を最速ラインとの速度、半径変化の比較を行い以下の推測をしました。
①最低速度直前の減速Gはエンジンブレーキの減速Gよりも低く走れない。
↓
②最低速度直前の半径が最速ラインよりも大きくなる。
↓
③最低速度直前の向き変化が少なくなるため、コーナ入り口の半径を小さくする必要がある。
↓
④フルブレーキ区間の後に急に半径を小さくする必要があるので、速度変化に折れ点ができる。
つまり、
エンジンブレーキより低い減速Gで走行することが困難なために、レーシングドライバーは減速時に折れ点があるような走り方をすると推定しました。
【2024年4月11日】
レーシングドライバーの減速区間走り方分析(SF19 TRM)
そしてついに”欧州式コーナリングとは何を指しているのか”がわかりました。
日本式:最低速度までブレーキで減速する走り方
欧州式:コーナの途中から最低速度までをエンジンブレーキのみで減速する走り方
なぜこんな簡単なことが10年以上わからなかったのか考えてみました。
その理由は
オートスポーツには欧州式ではコーナ入口か中央までを一定速で走ると記載されており、かつF1やスーパーフォーミュラのエンジンブレーキのみの減速Gが予想以上に大きく、エンジンブレーキ区間もブレーキを踏んでいると思っていたからです。
しかし、最近時はF1もスーパーフォーミュラもテレメトリーデータが公開されていて、速度変化、アクセル開度、ブレーキのon、offがわかるようになり、どこでブレーキを踏んでいて、どこがエンジンブレーキのみの減速で、どこでアクセルを踏み始めているか が具体的にわかるようになりました。
その結果、エンジンブレーキ区間の長短、減速Gのアクセルコントロール有無などがドライバーによって少し異なるということがわかり、ここの違いのことを日本式とか欧州式とか言っているのだろうと推定できるようになりました。
ということで、次回は実際のデータを比較しながら日本式と欧州式コーナリングの違いを説明したいと思います。