



世界中で行われている模倣品の取引。その規模は年間5000億ドルに上るという。これは実に世界貿易額の2.5%に迫る勢いだが、調査を行った経済協力開発機構(OECD)によれば、その最大の生産国は中国である。
その中国産のコピー品が流れ込む先は、アフリカやASEANが圧倒的だ。知的財産の専門家の間でも「日本にはそれほど入ってきていない」といわれてきたが、もとより日本人はコピー品を嫌うため「日本でコピー品市場は成り立たない」という認識もあった。
ところが、その日本も例外ではいられなくなった。「模倣品・海賊版対策の相談業務に関する年次報告 2015年6月」(経済産業省)によれば、日本国内でも模倣品被害は増加傾向にあり、模倣品被害を受けた日本企業のうち6割以上がインターネット上で被害を受けているとされる。この報告書は、社会のグローバル化とネット化に伴い、日本国内でもコピー品が瞬時にしてばらまかれる実態に警鐘を鳴らしている。
コピー品業者も中古車販売会社も消費者も喜ぶ、歪んだ「三方よし」
前回、当コラムでトヨタの高級車「レクサス」の偽エンブレムがネット経由で売買される実態をお伝えしたが、今回は、ビジネスの現場に入り込むコピー品について取り上げたい。自動車部品でいえば、アフターマーケットにおいてこのような傾向が強く、中国製の偽エンブレムも単にネット通販での売買にとどまらない実態が浮かび上がる。
中国製のコピー品事情に詳しい原口正人さん(仮名)は、“偽部品”の国内の流通にもアンテナを張る。その原口さんは「一部の中古車販売会社には、中国人業者が卸した偽エンブレムを利用するところがあります」と切り出し、以下のように続けた。
「中古車販売会社には、事故などで傷だらけになった自動車が持ち込まれますが、それを買い取り再販する過程において、コピー品に需要が生まれるんです。純正部品を使えばエンブレムとフロントグリルのセットで8~9万円するところが、コピー品を利用すればその価格を半額に抑えることができるのです」
コピー品と知りつつ、偽エンブレムをつけて繰り返し販売するこのやり方は、明らかにルール違反である。とはいえ、コピー品納入業者も中古車販売会社も利益を得ることができ、結局、客もそれで喜んでいるのである。歪んだ“三方よし”であるが、この絶妙なバランス関係も見逃せない。
ところで、この原口さんがコピー品に関心を持ったのは、自らがコピー品の被害者になったことがきっかけだった。
原口さんは自社ブランドで自動車部品の開発・生産に携わってきたが、数年前、自社部品がコピーされていることを知った。他人のネットオークションの出品サイトに、なぜか自分の開発したパーツのニセモノが販売されたという。
コピーの対象となるのは、もはや世界に冠たる一流ブランドだけではない。車の部品ならば、およそ形あるものすべてが模倣の対象になるといっても過言ではない。
このコピー品のおかげで、原口さんは市場の一部を失ってしまった。朝から晩まで汗水垂らして開発し作り上げたものを横取りされた挙句に、取引先まで奪われてしまったのだ。
「これまで当社が出荷する正規パーツを使ってくれた会社が、うちとの取引を切ってコピー品に乗り換えました。その一方で、コピー品を買った客から『品質が悪い』とうちにクレームが入るのです。コピー品は当社製品の品番までパクっているのですから驚きです」(同)
自動車整備工場を経由して流通か
コピー品の流通は、上述したような業者から業者に渡る「BtoB」もあれば、一般消費者に渡る「BtoC」もある。しかも、コピー品はエンブレムだけにとどまらない。ネット通販では、実にさまざまな自動車修理用部品のコピー品が手に入る。
ネット上で、外車の部品を専門に扱う通販会社のホームページが目に留まった。この会社は自社のホームページで消費者に向け次のような警戒を呼び掛けている。
「最近、ネットオークションで落札した部品の持ち込み修理が増えています。しかし、それら部品は不良率が大変高いのです」――
業界団体には「自動車部品のコピー品は整備工場を経由して流れ込んでいる可能性が高い」と指摘するところもあり、実際、自動車整備工場に電話取材すると、「ネットで落札したコピー品を持参してくる客もいる」(同工場経営者)という。
「価格が安いから、客はそれを選ぶんだね。だが、うちはあとでトラブルが起こると嫌だし、そういうものは微妙にホンモノとは異なり自動車本体に装着しにくいので、断ることにしているよ」(同)
戦前から中野区で操業を続ける自動車整備工場、電話の奥からは経営者の「昔気質の町工場の親父」といった気質が伝わってくる。長年、この業界に携わるそのプライドからか、この整備工場は「コピー品はノー」という態度だった。
“コピー品の聖地”である中国でも、自動車のアフターサービス市場におけるコピー品の横行は深刻な社会問題となっている。現地には日本人も数多く駐在しているが、そのひとり前田浩二さん(仮名)は、中国における車の利用が「いかに危険と背中合わせか」について次のように語ってくれた。
「中国製の自動車は壊れやすく、会社で買ったワゴン車はすぐにクラッチが壊れました。ELR(緊急ロック式ベルト巻取装置)付きシートベルトもまったく機能しません。数年前、中国でコピーのフロントガラスが安く出回り、割れた破片が刺さって死亡した事故が発生しました。中国では、私たちが考えられないような部品が堂々と出回っているのです」
中国には「4S店」と呼ばれるカーディーラーが存在する。販売(セールス)、部品販売(スペアパーツ)、アフターサービス(サービス)、情報分析(サーベイ)の4つのSを謳ったワンストップサービスを手掛けるものの、すでに部品のコピー品や粗悪品流通の温床と化している。
自動車を購入した客が修理に訪れるのもこの「4S店」だが、修理の際に客が必ず聞かれる質問がある。それは「“原廠”がいいか、それとも“副廠”がいいか」というものだ。「原廠」はメーカーによる純正部品であり、「副廠」は“非純正部品”を意味する。
日本でもその区別はある。メーカーのブランドがついた純正部品と、同じスペックの部品でブランドを外して売られる「社外品」と呼ばれる部品だ。質の面では純正部品と比べても遜色がないことから、関連団体では「優良部品」とも呼んでいる。
中国では事故車の56%にコピー部品や粗悪部品が搭載
中国の場合、“非純正部品”は単にその範囲にとどまらない。これにはコピー品や粗悪品も含まれ、「“副廠”はニセモノの代名詞だ」との認識もある。
中国自動車工業協会が出した2013年の統計によれば、「車両事故の原因の7割が自動車部品の質に起因するもの」だとし、「事故車の56%にコピー部品や粗悪部品が搭載されていた」という。
中国における自動車部品は玉石混交を極めるが、その中国にも交通運輸部による「自動車修理管理規定」(2015年更新)がある。その第31条には「自動車修理の経営者は、コピー品や粗悪品を使用して修理を行ってはならない」と明確な規定がある。
中国にはこうした規定がありながらもそれは無視され、白昼堂々のコピー品や粗悪品の横行を許してしまっているのが現実だ。もっとも、今の日本にはこうした規定すらない。
経済産業省製造産業局自動車課は「日本にはそもそも、補修部品に対する規制がない。もし、コピー品を取り締まるとすれば、著作権法に基づいて行う輸入時の水際対策、あるいは国交省による車検制度、あるいは業界団体による啓蒙活動ぐらいしかない」と回答する。
日本の自動車修理部品市場に異変が起きていることは、これまで述べたとおりだ。しかも、自動車用部品は人命にかかわるだけに、コピー品の横行は看過してはならない。これを放置すれば、業界はコピー品に駆逐され仕事を失い、産業構造は歪み、ひいては世界に冠たる「日本車」の命運をも左右することになりかねないだろう。
追記前回の「中国製のレクサス偽エンブレムが蔓延る通販サイトの闇」をご覧になった読者の方から、正規品と偽エンブレムの実物写真をお送りいただいた。裏側を見ると、左の正規品にはTOYOTAの文字が刻まれているが、偽物にはそれがない。ダイヤモンド・オンライン
Posted at 2016/07/01 16:31:20 | |
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