
中国国内で仕事をしていたり、中国と貿易の仕事をしていたりすれば、あたりまえのことだが、中国人のオフィスワーカーに何かを依頼し、書類を提出してもらう経験があると思う。ちょっとしたやり取りを含めれば、筆者は、数百人とコミュニケーションしているかもしれない。ほとんどの中国人オフィスワーカーは、驚くほど仕事が速い、正直なところ、「遅い!」と苛立った記憶はない。
日本で依頼すると、どんなに頑張っても2、3日は掛かると言われた3D-CAD図のトレースを一晩で終わらせたオペレーターもいた。ともかく、書類作成にしても、技術文書や契約書の翻訳、インターネットで検索できるレベルのリサーチも速い。ところが、中身は?というと、概して粗いのだ。粗いとは、誤記やモレ錯誤があるのだ。もちろん、中には、速く正確な仕事をする優秀な人もいる。
筆者が接してきた中国人オフィスワーカーは、平均的な中国人ではない。国有企業や外資企業の従業員が中心なので、最低でも高校卒以上の学歴を有している人たちであるから、中の上以上の人たちが大半だ。「仕事が粗いなら、速いに決まっている」といってしまうと身も蓋もない。日本では、スピードはないが精緻な仕事をする人が一定割合いるのだから、中国にいてもおかしくないのだが、とんとお目にかかったことがない。中国人は、気が短いのかと言うと、そうとも思えない。確かに発展著しい沿海都市部は、皆が皆、せかせかとしているようにも見えるが、一旦内陸部に入ると、時がゆったりと流れている。と言いながらも、内陸部の人でも、何かを決断するときは速い、たいていのことは、即断即決である。悩みに悩みぬいたといっても、翌日には決めている。
「行列をみつけたら、まず並ぶ。並んでから、何の行列なのかを訊ねるのが中国人」といった笑い話があるが、確かに人の多い中国では、競争が激しい。全席指定の飛行機でさえ、我先にと押しあいへしあいして入口に殺到する、ほとんどDNAレベルにまで、競争心が埋め込まれているのかもしれない。そのようなことが、スピード重視に繋がっているのだろう。筆者は、彼らのスピード重視をポジィティブに捉えている。なぜなら、タイムリミットギリギリに書類を提出されたら、少々の不備、誤記があっても、許容しなくてはならなくなる。時間的な余裕がありさえすれば、間違いがあっても修正すればよいからだ。
一方、気になるのが、仕事の粗さである。以前注意した誤記やモレを性懲りもなく繰り返すことがある。さすがに二度三度とこれが重なるとストレスになる。中国のシッパー(荷送人)の作成するインボイスやパッキングリストに、毎回毎回類似のミスがあるものだから、中国からの輸入業務のアシスタント(日本人)は、皆、辟易としているといった話をよく聞く。
どうして、こうも同じミスを繰り返すのかを考えてみると、思いあたるのは、何も考えないで仕事をしている、ということではないだろうか。余計なことを考えずに、というと聞こえは良いが、目先の結果だけしか見ていない。例えば、パッキングリストに記載される重量に誤りがあり、4,764Kgは誤りで、4,674Kgが正だと指摘すると、指摘された箇所だけを修正する。そこには、「なぜ、間違えたのか?」という再発防止に繋がる学習が欠如している。同様のことは、製造現場でも感じる。サーチナ
「ここを基準にして加工しなさい」と指導すると、素直に従うが、「なぜ?」という疑問を持たない作業者が多い。「なぜ」を教えても、あまり耳を傾けてくれない。中国の暗記中心の学校教育を原因だと指摘する人がいるが、筆者も同感である。中国の携帯電話番号は11桁であるが、彼らの多くは、区切りをつけずに覚えている。あるいは、数百点にもおよぶ顧客の図面番号(筆者の会社の図面番号は、一桁目が図面のサイズを表す以外は、何の脈絡もない数字の羅列である)をスラスラと覚えている。一定のルールで配番されている部品番号ではない。部品名(日本語)で、部品が特定できない(作業者は日本語を解さない)以上、図面番号を丸暗記するしかないのかもしれないが、「中国暗記教育恐るべし」と変に感心している。
大それた理論を展開すると、彼らの「粗いが速い」仕事っぷりが、まさに中国の大発展の原動力のような気がする。今の中国は、書類作成の速さで評価され、マネージャーになったオフィスワーカーが、スピードだけでは廻せない仕事の壁にぶちあたっている、そんな風にも見える。ある段階に達したら、思慮深さが求められるのは、個人、社会、国家にも共通することのようだ。(執筆者:岩城真 編集担当:・メディア事業部)(イメージ写真提供:123RF) :サーチナ 2016-09-14 20:38
Posted at 2016/10/19 10:16:37 | |
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