
焦げ付くような8月12日日曜日、
町中が猛烈な渋滞に陥っていた中を、45分かかって飛び出した。
どこでも良いから、このくそ暑い部屋から逃げ出したかったのである。
この日どうにか五月山ドライブウエイ、摂丹街道、犬甘野を抜けて
亀岡の裏側から173に出る。
口丹波にある三宮というところで、国道を単調に走るのが嫌になったので
左に道をとる。府道26号らしく、しばらく走ると格好の休憩ポイントを発見した。
「酒治志神社」という立派な額が掛かっている。
この宮で煮えた頭と体を冷やし、門前の小川を見ると、天然のイワナか
ヤマメが気持ち良さそうに泳いでいたのに「おっ」と嬉しい発見。
私も魚に変身して泳ぎたい衝動にかられる。
このまま地図を見ながら加用、常楽寺と173の西側を迂回ルートが
綾部まで続いているのに、すっかり御機嫌になり850を持ち味十分に
走らせる。
停まってしまうと焦げ死にしそうな夏の猛暑日でも、走っていると風が
巻き込まれて、山道の移動は案外気持ちよい。
ナビではなく地図を見る風習はやめられない。なぜなら知的推理力が
働き、ぴーんと好奇心のアンテナが張るのである。
私はここで本日の行き先をどこにしようと考えた。
綾部の町に近い山中に旭町という里があり、その付近から福井県の
小浜の方へ、海沿いの国道より内陸部を走る歴史のありそうな道が
走っているではないか。
173と27のふたつの国道が合流する直前にまず173に再び戻る。
何度も知る見慣れた風景以外のコースでここまで来れたことに十分
満足だ。この清々しさはドライブ運転する者だけの誇りだと思う。
173のぶつかる終点で、細いがまっすぐ突っ切る「先の部分」があった
ので、迷わず私はそちらに進んだ。
しかし暑い。農家が動物を飼っているような台地の地形を進みながら
大きなクヌギの樹を見つけたので、すかさず樹下に入り、のぼせた
体を一休みすることにする。
暑いのだがこのあたりで猛烈に眠気がしてきたので、樹下の車中で
シエスタをとる。
窓は開けっ放しであるが通る人もないので、まあ良いだろう。
20分ほど昼寝した後、ぼんやりした頭で出発する。すぐに出発することは
勧められないが、何しろこの暑さである。正気を取り戻した頃、うまいことに
旭町の交差点に出ることが出来た。
ちょっと古いバスの廃車体も気になるが、車内からカメラを向ける程度。
この府道1号線が、とても良い好みの道で、まず混んでいないこと。
風景に適当な変化が有り、里と里の間は山間部か田園風景で
退屈しない。さらに元々人の通った道なので、古社や、昔ながらの
情緒のある宿屋がいくつか残っていた。
これまた古いが趣きのある八幡宮を綾部市の八津合という所で見つけて入ってみる。
目的は、水場での憩いだ。ここの水は冷たくて美味かった。
私のような原始的な旅をしていると、人間が本来旅をして
無事に辿り着くには、水が無ければ生きて行けなかったのだろうと
集落や村落の発生に、思いが至る。
水の湧くところに人々が住み着き、ムラができる。そしてムラと
ムラを結ぶ道(ストラーダ)が発生する。ランチアの車がアウレリアとか
アッピアという古代ローマの街道名に、名前を由来しているのは
ご存知だろうか。
私のささやかな旅も、そういった、いにしえ人への浪漫から起きている
ことは、判っていただけると思う。
ここの宮の特徴は、鳥居が木造なのである。見事な扁額も木製であるし
その周りや、鳥居の付属する部位にも木製の構造部が多く使われている。
石の鳥居が多い中、敢えて木造りなのは、発生年代が古いのか、土地
文化が木に関係しているのか、そういった疑問が歴史推理の面白さである。
さあ十分に休憩した。先を急ごう、といっても無目的な旅なのであるが。
街道風景
大凡私の推理であるが、今は綾部地区から鉄道も一旦舞鶴に出てから小浜に
至る。小浜と言うところは「海の正倉院」と言われるくらい古い都で寺院が大変多い。
古来から若狭の中心都市で非常に重要なところなのであるが、明治期から舞鶴が
軍港となり重要視された。帰りに使った高速道路も舞鶴回りである。しかし奈良から
戦国、江戸期の往還はこっちであったのだろう。府道(福井側は県道)「1号線」という
トップナンバーを充てているように、この道が大変由緒のある古道ということを発見した。
これだから、旅はやめられない。
この日の気温は、路上の温度計で、この道路沿いでも36℃を表示していた。
猛烈な暑さ、どこか海に入って体を冷やさないと、たまらない。
福井県側に入ると、途中から大飯町のインターチェンジ付近に抜ける道が
あったので、高浜に出てみる。
和田、高浜というと、夏の海水浴で大変有名な所なのだが、お盆休暇という
こともあり、海の近くは、よくもこれだけ民宿が有ると驚くくらい蝟集した安宿群と
道に溢れ出した海水浴客に、私ゃ「こりゃたまらん」と逃げ出す。
申し訳ないが、芋の子を洗う中に、今から芋になりに行く気はないのである。
しょうがないけど、こういう孤高の質にて昔からきているので、私なりの満足と
妥協を探さねばならない。
結局見つけた、空いていて綺麗なビーチがここ。大飯原電の真裏である(爆)。
到着時刻、16時30分。どうしようか迷ったが、午後6時まで駐車場監視員がいて
1時間泳げば、充分だろう。ということで池田出発10時過ぎ、6時間後の待望の日本海である。
直ぐ裏山のてっぺんには、原子力発電所から「取れ立ての」電気が運ばれて来る
高圧線が見下ろしている。うーん、なんとも濃厚なシーナリーだな。
原発の近くで泳いで来たなどと、不謹慎なユーモアを飛ばす気もないが
ここでついこの間、雨降る中、再稼働反対で多くの人が集まっていた。
その中には子連れの主婦も多く見掛けたそうである。
私は原電の正面には行かなかった。きょうはたまたま辿り着いたのが、ここで
あったので、また泳ぎに来るかもしれない。
国道まで戻り、地道で舞鶴方面に向かおうかと思ったが、コンビニで
切手一枚買い、意中のひとに残暑見舞いを出す。
コンビニは、他府県ナンバーの若者が行儀悪く溢れ、とても居たく
なかったので、すぐに出発する。よく思うのであるが、コンビニを
利用するレベルと言うのは運転が未熟で、事故の起きる確率が
高いと思う。貴方は車に乗っていてコンビニがあると普通にふいっと
入りますか? 私は蓋然性の問題で、クルマでは入らないように
基本は我慢します。その方が、用の無い接触事故などに遭う確率が
低くなる気がします。
さて夕暮れの府道1号線に再び戻り、若狭大飯インターからひたすら
高速で西宮北まで戻りました。
こんな旅もまあ良いかなの一日でしたが、よく走った(300km)850クーペを
少し労ってやることにいたしましょう。