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菊菱工廠のブログ一覧

2023年11月26日 イイね!

3/4プレートのエントリーグレード? レッツ商会 商館時計 明治25年頃

時計ネタが続いていますが、扇風機を忘れたわけではありませんのでご心配なく。
誰かが心配していればの話…

という今回は、ドイツ商館・レッツ商会の商館時計を入手しました。





ケースの状態が大変良く、凹みや傷がほぼありません。
前面風防はフリクション式ですが、抉った跡すら無くてスクリュー式と迷った程。
リップや切り欠きもありません。
酸化も均一で磨くのがもったいないくらい…でも銀かなぁこれ。黄色いけど。

そして特徴的なのは、タイトルの通りムーブメントの形。





グラスバックから覗くのは大きなプレートに覆われたムーブメント。
脱進機はシリンダー式。

ドイツの時計、特にグラスヒュッテに本拠を置くメーカで有名とされる「3/4プレート」と呼ばれるスタイルです。
出テンプことフルプレート式と共に、古いイギリス製やアメリカ製でもよく見られました。エルジンとかが有名でしょうか。
ですが日本向けの商館時計としては珍しいようで、一瞬リケース品かなと思ったくらいでした。

しかしケースにはマークのみ刻印の代わり、3/4プレートに「レッツ商會」の刻印があります。
紛れもないオリジナルコンディションの商館時計でしょう。
銀の純度を表す刻印がありませんので、もしかすると別の地金かも。

また、ムーブメント自体は恐らく18型と普通サイズですが、ケースが大振りで直径54mm程。
先日のオッペネメール商会 20型に迫る存在感です。

肝心の内部コンディションは、現状「巻くとちょっと動く」との事で購入しています。
到着時はゼンマイが巻ききってあり、確かに振るとテンプがちょっと回って止まる。
ダストカバーを外してテンプに触れてみましたが、変なガタは無いようなので、ひとまず天真折れではなさそうです。


ではレストアの前にレッツ商会をレッツご紹介。
何言ってんだお前。

レッツ商会(F.Retz&Co、またはFR.Retz&Co)は先に書いた通りドイツの商館で、フリードリヒ・ヴィルヘルム・レッツにより設立されました。
日本へやって来た2年後、1874年(明治7年)の事でした。
レッツ氏は実業家であると共に時計技師であり、オランダ・ノルウェー・スウェーデンの名誉領事でもあるそうです。
来歴を調べると相当凄い方でした。

レッツ商会運営の傍らで横浜外国人墓地の運営にも携わり、1923年(大正12年)に亡くなった後、同地に埋葬されたとの事。
関東大震災の年ですが、それ以前に病気を患った故だったそうです。

同社が扱った時計としては、Wiki情報ながら清水次郎長の時計がそうだったとあります。
また、オク等で「商館時計」と検索をかけると、コロン商会などと共に多く見つかるブランドの一つです。
同社は当時の商館の中でも活動期間が長かったとされます。その表れと言えるでしょうか。
とはいえ現存数や「長く活動した」と言う割に情報が少なく、ネット上で調べるには早々に限界を感じてしまいました。
書籍が欲しく目星を付けたはいいものの…いずれもプレミア価格化しています。


それではレストアに入りましょう。
無事直りますように…



まずは針を外すべく風防の取外しから…ですが、あまりにも隙間が無さ過ぎてスクリュー式かフリクション式か迷う羽目に。
結果フリクションでしたが、リップも隙間も本当に無い。
コジアケすら入らなかったので、ナイフの刃でちょっとずつ抉って成功。



裏へ回ります。
こちらの風防(ダストカバー)は、緩急針の調整で(前面に比べれば)開閉が多いためか、しっかり隙間が作ってありました。
左下のキワに被っているビスを取ればムーブメントがケースから分離します。
龍頭は既に取れていますが、珍しく…なのか、ケース側にイモネジがありました。



分離成功。
お次はダイヤルの外し方ですが、側面に極小のビスがありました。
これがダイヤルを止めているビス。
シーマ(日産に非ず)の時計でもこの方式の物を見た事があります。動画で。



取れました。
ポーセリン製のダイヤルは非常に奇麗な状態。
秒針の穴に僅かな欠けがありますが気にならないでしょう。



いよいよ本格的な分解へ入ります。
が、その前に巻ききってあるゼンマイを緩めましょう。
龍頭を一旦戻してしっかり持っておき、その状態でコハゼを浮かせると龍頭が逆転してテンションを解放できます。

龍頭を付けなくても良いですが、その場合は角穴車辺りを指で押さえるとかした方が良いかも。
いずれにせよ、ゆっくりやった方が無難かと思います。



角穴車のブリッジを外しました。
しかしこれは一種のヒヤリハット案件。
ブリッジ下にはコハゼとそのスプリングがあり、ブリッジのビスの片方がコハゼのビスを兼ねている構造。
なのでこのままコハゼが行方不明になる恐れが。
気を付けねばなりません…



続いて外したのは、多分普通なら鼓車に相当するギア達。
このムーブメントでは、キチ車へ続くのがシーソー的に動くブリッジと3個のギア。
ダボ押しの有無でシーソーの傾きが変わり、龍頭の回転を角穴車(ゼンマイ巻き上げ)へ伝えるか日の裏車(時刻合わせ)へ伝えるかが切り替わります。
なので、左側の一回り小さいギアがこの個体の丸穴車となります。
やっぱり実際に扱ってみると勉強になるなぁ。



筒かな以外が取れました。
圧入がキツいようなので、一旦ここで反対側へ行きます。



初めての3/4プレート。その下はどうなっているでしょう。
…輪列なのはわかってるんですけども。
とりあえずプレート側に石はありません。
ダボ穴だけです。



SWISS MADE。
とはいえ何という工房なのかは記載なし。
仕上げは言葉通りのコート・ド・ジュネーブ。



外れました。
フルブリッジタイプしか経験がない身としては、香箱がポンと載っているのが新鮮に思えます。



香箱と輪列も撤去。
そしてやっぱり石は無し。
本当にテンプにしかルビーは入っていないんじゃ…?
3石…ってあるのかな?



そして、ここまで来てようやくキチ車を取外し。
独立した金具で留めてありましたが、ブリッジかと思いきや貫通穴。
変な所で手が込んでいるような…



香箱です。開けてみました。
今回のはメッキ無しで真鍮無垢ですね。



ゼンマイ取出し成功…って折れてるやんけ。
運良く端の折り返し部分でしたので、香箱側の爪を少し出してやれば良いでしょう(それだけでは不十分で、組み立て後の巻き上げで飛ぶようになりました。なので更に爪を起こし、ゼンマイ側の折り返しもやや広げ気味としました。)。



おまけ。職人気取りでロディコなんて使ってみたり。

一言で言えば、これはスイス製の練り消し。
ですが字消しではなく、汚れ取りやピンセットでは飛んでいきそうな部品の拾い上げ、或いはこのように保持にも使えます。
組付けが難しい時の補助に使う方も居られるとか。
工夫次第で色々役立ちそうです。
時系列が前後しますが、組み立て後に調整しようとした際に長針を折ってしまい、その補修でもスタンドになってくれました。



で、2番車のクリアランスが大きくなったところで筒かなを取り外せました。
素人目線と技術では、この部分は無理して外さなくても良いような気がします。
という事で全バラ完了。後は洗浄と注油・組み立て。


ところで、3/4プレートについて当初無知でしたので、色々と調べました。
するとこのムーブメントの立ち位置と言いますか、正体に近づく事が出来た気がします。

3/4プレート設計の生みの親と言われるのは、グラスヒュッテの街に時計産業を興したアドルフ・ランゲ氏。
しかしランゲ氏は当初からアンクル脱進機を好んだそうですから、本家ランゲ製を含めたドイツの時計ならば、当時3/4プレートとセットになったのはアンクル脱進機かと思われます。
勿論例外もあったでしょうし、これ自体が頓珍漢な事を言っているかもです。

一方でこちらの個体。
扱いこそドイツ商館のレッツ商会ですが、ムーブメントには「SWISS MADE」の刻印があり、シリンダー脱進機が合わさっています。
上記のランゲ氏の話に関連して、シリンダー脱進機が主流だったのはスイスであるとも見ましたので、3/4プレート設計が広く知られて以降のスイス製ムーブメントなんだな…と言う予測が立ちます。
とはいえ、当時のムーブメントはスイス製が大多数と言う話もあり、単にスイスの工房へ発注されただけなのかもしれませんが…
同様の構造はイギリス製やアメリカ製にもありましたが、それらは表面仕上げが異なるのが多く、こちらがコート・ド・ジュネーブである事からもスイス製で間違いないでしょう。

また、そもそもスイス製ムーブメントが多種多様に存在するのは、冬季の内職として家内工業的にやっていた工房が多かったからとも言われています。
なので必ずしもメーカのマークやロゴの入ったものばかりではなく、シリアルさえ無いものも珍しくないのでしょう。
現にこの個体のムーブメントにも、「R」と彫ってあるだけでマークの類は皆無。
Retz向け製品のRなのかなとも思いますが、詳細不明。

軸受けもほぼ石が入っておらず、グレードは低いと思います。
レッツ商会はミドルクラス以下の時計を多く扱ったそうなので、この個体も然りなのかなと。
ですが、グレードが低いから価値が低いかと言えばそれも的外れで、ファブルブラントのフォルタイン号(蝶マーク)のように、低グレード品である方が逆に希少と言うもの。
商用車の旧車と同じです。
使い倒されたりコスト重視の構造で消耗が早かったりと、現存率低下の要因が揃ってしまうためです。
時計自体が高級品だった時代とはいえ、見た目から豪華な物とは大事にされる度合いも違ったでしょうし。

この個体も珍しい生き残りの一つ…そう思いたいですね。
後はちゃんと動くようになってくれる事を願いつつ組んでいきます。
テンプを含めた各ほぞが無事なので多分大丈夫でしょう。


組み立ては逆手順なので割愛させて頂き、結果だけ書きたいと思います。
初めは中々動き出さなかったものの、テンプを取り付けし直したりしている内に動き、向きを変えても止まらなくなりました。
組み立て中にテンプに触れて止まった際に自発的に動くようにも。油が回ったかな。
殆ど石の無い軸受けなので、気持ち多め&中粘度を主に注油しましたが…それがどう出るかは分かりません。
長ければ数年先の話ですから。

で、こうなりました。



テスト動作中。
テンプが回るのを見つつケースの清掃へ。







そして完成。
扇風機よりも工数が少なく、力の要る作業が無い分進みがとても速い。
磨く部分がサイズ的に少ないのも大きな要素かと。
細かい作業は昔に比べれば(ストレス的な意味で)苦手になりましたが、それでもモデラ―の端くれだったので苦痛にはならず。
昔取った何とやら。

で、良い感じに光りましたが、このケースは真鍮地のニッケル(多分)メッキ仕上げ。
なので銀の純度を示すホールマークが無かったんですね。

この写真は長針を折る前ですが、ほぼ変わらない見た目に修復できました。



グラスバックもシャキッと綺麗に。
「レッツ商會」と「SWISS MADE」が心なしか誇らしげ。



マークですが…これは何と呼べば良いのでしょう。
勲章? 旭日?

朝日印というのもレッツ商会にありますが、それは日が昇る意匠なので別です。
この面は流石にメッキが綺麗ですので、本来は外装もこんな色味だったのでしょう。
ですが真鍮の地金色もクラシカルでヨシ。
…酸化対策しないといけませんが。



という事で、2個目の整備も成功したようです。
ちょっと響く感じのシリンダー脱進機の音にも、勝手ながら元気さを感じます。
精度はコスト重視らしいムーブメントとは裏腹に上々。
緩急針センターで日差+1分程度(平置き)なので、調整次第で良い感じになりそう。
というかアンティーク時計なので、現時点で十分な気がする。
モノメタルの丸テンプですから温度での差も出るでしょうし。
寛容に行きましょう。

しかしムーブメントで感づきましたが、更にケースも真鍮となると本当にエントリーグレード的な個体だったのかもしれませんね。
だがそれもまた良い。
石が多かったり装飾彫りが綺麗だったりな高級機につい目が行きがちですが、こういった個体も味があって良いもんです。


さて…しばらく時計ネタが続くと思います。
次回はTwitter改めXとInstagramで先にご紹介した、ガチャ的に激安購入した2個でもご紹介しましょうか。
扇風機もありますし、車ネタも一つ用意が出来つつあります。
次回更新がどれになるかはわかりませぬ。
Posted at 2023/11/26 21:36:48 | コメント(0) | トラックバック(0) | 時計他アンティーク系 | 趣味
2023年11月23日 イイね!

商館時計再生第二段 オッペネメール商会 明治30年頃

夢中になるとついそればかり手掛けてしまうもの。
これからしばらくは、時計を中心に扇風機との二本立てになると思います。

という事で、早くも商館時計のDIY整備第二段。
今回はフランス商館、オッペネメール商会のちょっと大きめな時計です。









直径は約58㎜。よく見かける商館時計よりも一回り大きい。
現状でもムーブメントは動くものの、出品説明では「秒針は動くが長針・短針は動かない」との事。
とはいえ歯車の構成上、秒針が動くなら長針・短針も軸は動いていいはずです。
シンプルに針の穴が緩いのか、2番車の軸が緩いのでしょうか。



とりあえず観察すると、一見揃いではないような針は長針が裏向きに付いている模様。
針先は下カーブなので、上カーブになって風防に当たって動かないのかも。
試しに風防を開けて暫く見れば、一応進みはするようです。

そして妙に風防ガラスが分厚い。
よく見ると縁に削った跡があり、ベゼルとダイヤルには接着剤の跡が。
どうやら前オーナの代までで割れてしまい、大きいガラスを何とか合わせた歴があるようです。
風防ガラス自体が入手困難な中、普通より大きいサイズでちょうど良いのが見つからなかったとか…?
では分解清掃に行ってみましょう。


…とその前に商館の背景から。
オッペネメール商会(Oppenheimer Frères)は、オッペネメール兄弟商会やオペネメール商会、英語読みしてオッペンハイマー フレールとも呼ばれる商社です。
兄弟とある通りM.OppenheimerとI.Oppenheimerの兄弟が明治3年にパリで創業し、二人はパリと日本に分かれて仕事をしていたようです。

日本のオフィスは横浜に明治8年から存在し、時計の取り扱い開始は明治20年代だそうです。
明治13年には神戸にも拠点を構えたとの事。
フランスから時計を輸入する一方、日本からは日本と中国の美術品を輸出していたそうです。

マークは写真にある「二羽の鶴」の他、「三羽の鶴」や「鳳凰」、「騎乗の神功皇后」があったとの事。
こちらの二羽の鶴は1895年(明治28年)8月5日にパリで登録されたものだそうですから、この時計は明治30年前後頃のものと言えるでしょうか。

その他マークは更に前に登録されたとの事ですが、何れも日本を意識したもの。
日本の美術品も扱っていた商社だったためか、日本へ特別な思い入れがあったのかもしれません。
そうだとしたら嬉しいものです。


今度こそ分解へ入ります。



早速ですがムーブメントを取り出してダイヤルを分離。
前回と同じ手順です。





ここでシリアルのチェック。
揃いなのでオリジナルのペア確定ですね。
ナンバーズマッチと言うとアメ車っぽい。



改めてムーブメント。
直径50mmに迫る特大サイズ。

前回の経験を基に、今度はダイヤル裏(ムーブメントとしては表)からスタートします。
まずは筒車・日の裏車・筒かなを取外し。



続いてキチ車と鼓車、それに係るレバーとバネの外し。
ここから裏面へ行きます。



前回はいきなりシリンダー脱進機にチャレンジでしたが、今度は多く見られるアンクル脱進機タイプです。
2・3番車のブリッジがカーブしているのは商館時計(を含めた当時の時計)の定番スタイルのようですが、カーブの先がテンプとガンギ車のブリッジまで繋がっているデザインです。



丸穴・角穴車とコハゼ周りを外したところです。
ブリッジにある刻印は「Oppenheimer Frères」。
やはりオッペネメール商会でアタリでした。



順番にバラします。



そしてテンプ一式。
暗くて分かりにくいですが、バイメタルのチラネジ付きテンプです。
切テンプではないですが、ひげゼンマイはブルー仕上げでエンドを持ち上げたブレゲ式。それなりのクラスと見て良いのかな?
各受け石はシャトン止めだし。

テンプの様々について調べる中で知りましたが、バイメタルが今から100年以上も前に応用・実用されていたとは驚きました。
バイメタルテンプの効果は、気温差でテンプ自体が収縮・膨張して誤差を生むのを防ぐための工夫です。
膨張率の異なる2種の金属を合わせる事で、気温差による寸法差を吸収するのです。
もうこれだけで時計技術の凄さが伝わってくる。



テンプを真横から。
最後のひと巻きだけ持ち上がっているのが分かります。



テンプの去った後にはアンクルが見えます。



ガンギ車と一緒に外しました。
100年も前にどうやってこんな加工をしたのか、実に気になるところ。
で、まだ区別があまりついていないのですが、アンクル脱進機で良いんですよね…?
その中でも英式アンクルなのかな。

レバー脱進機だと爪石があるそうですけど、時代によっても変わりそうだし…
その違いがまだ見極めきれず。
ただ検索を掛けた限りでは、商館時計のこれはアンクル脱進機と呼んで良いと思います。



とか言いつつ残すは香箱のみ。
順番を覚えれば早いモノです。



香箱は既に蓋が外れた状態でした。
今回もゼンマイを外します。



取れました。
この作業はけっこう得意かも。



分解パーツは順番を工夫したところ1箱に収まりました。
またこの状態で洗浄へかけたいと思います。



そして、地板だけになった時点で刻印を見つけました。
星の周りに「Sonceboz」。
ムーブメントの供給元でしょう。

調べてみるとスイスの企業で、ソンセボと読むそう。
1849年(嘉永2年)に時計部品メーカとして創業し、現在も自動車や医療関係のメカトロ系メーカとして存続しています。

商館時計に限った事ではありませんが、ムーブメントとケースが別メーカ製というのはよくある話。
車のエンジン供給元が別メーカという感じかと。
当時も未完成ムーブメント(エボーシュと呼びます)を作る企業がいくつもあり、それらを仕入れた時計メーカがオリジナルパーツや装飾を施して自社製品に仕上げたとの事。
ムーブメントを作った会社も知られた事は嬉しい発見でした。



写真が飛びますが、ムーブメントは部品洗浄と注油・組み立てを行いました。
アンクルのブリッジ取り付けが極細のほぞのお陰でまぁ大変…
この部分はシリンダー脱進機の方がシンプルで楽かもしれません。
精工舎がタイムキーパー20型にシリンダー式を採用したのも、加工技術プラス同様の理由らしい。

次はムーブメントの動作確認をしつつケース再生へ入ります。
ここから奇麗にしていきますが…銀の酸化にしては黄色みが強い。もしかして…
仕上がりは最後に完成写真でまとめたいと思います。
まぁ撮り忘れです…



更に残念なお知らせ。
ムーブメントをケースへ組んだ後、うっかりダストカバーのガラスを割ってしまいました。
リューズの止めビスを無くさないように付けたままにしていて、且つ締め込んでいなかったために出っ張っていました。
それに気づかず押してしまい…
ガックリですが、こうして経験を積んで成長するものでしょう。今度は同じ失敗をしないように。



で、運よく当時の風防ガラスを販売している方がオクに居られ、ほぼ合いそうなものが見つかりました。
ちょうど前面風防も瓶底レベルの厚みで不格好でしたので、ついでに薄めのものを一緒に買いました。
また、接着剤跡はダイヤル共々お湯への漬け込みで無事除去できました。







一時ヒヤリとしましたが無事完成。
前面風防は接着を要したものの、ほぼドンピシャで良い感じです。
厚みも違和感無くなりました。

ケースはエッジを中心に剥げがあるものの、銀無垢ベースに金貼り仕上げでした。
勿論本物の金です。銀無垢だと思って買ったのでラッキー。

欲を言えばもう少し奇麗なら…とも思いますが、130年ほど前のモノですから、無事でいてくれただけで凄い。
縁の凹みは直したいものの、下手にいじると悪化しそうなので「これも歴史のひとつ」としましょう。

しかしよくある商館時計が18型の直径50mm前後なのに対し、これは一回り大きい20型と見え、ケースも60㎜に迫る大型です。
加えて金貼り仕上げ。
ムーブメントについても、地板とブリッジは装飾無し、角穴・丸穴車の脇にちょっとペルラージュ(同じ意味ですがデコトラ的にはウロコ)仕上げがある程度ながら、テンプはブレゲ巻きでした。
多分10石で先述の通りシャトン止め。

ド素人が言って良い物か分かりませんが、イカニモではない通な感じの高級さでしょうか(外見だけ…とかな気もしますが…敢えてそうは言わないでおきます)。
テスト動作でも勢いよくテンプが回り、日差も僅かに収まりそうです
(タイムグラファー等々は持っていませんので、適当に電気時計や携帯の時計表示との見比べです)。

最初の長針・短針が動かない問題は、やはり2番車の軸が原因だったようです。
しっかり押し込んでも時刻合わせで緩くなってしまうので、時々裏から押してやる必要がありそう。
まぁ130年モノですから、個性って事で良いでしょう。
長針自体も緩かったので少々穴を渋くしています。



ダストカバーもこの通り。
こちらは1㎜弱ながら大きめでしたので、若干削ったところ上手くはめ込みできました。



という事で、第二弾も無事完了できました。
この調子で色々やっていきたいものです。

そして前回のJ.ウルマン商会の時計ですが、後から気づいた点がありました。
いずれもテンプの改造歴に関する事で…

1.
緩急針にひげゼンマイを掛けられない(位置が合っておらず、ゼンマイが偏って振りが止まる)

2.
テンプ受け石止め(緩急針付け根)のビスが1本折れており、緩急針を動かすと受け石止めも動く

といったところで、つまりは調速が出来ません。
かといってひげ持ちで長短を調整しようとしても、そちらもまた位置が合っていないため、ある程度まで行くと振りが止まります。
困った奴め…職人レベルなら何とかなるのかもですけれど。

2については、ビスがテンプ受けの裏から締められているので、頭が取れていても気づかなかったんですね…
最初から難物を相手にしてしまったようです。
しかしビギナーズラックとでも言いましょうか、なんやかんやしている内に、平置き限定ならそれなりの正確さで動くようになってくれました。
記念すべき自力整備第一号なので、デスクウォッチでも良いかなぁ…
毎日巻き上げするものでもないし。
Posted at 2023/11/23 22:46:57 | コメント(0) | トラックバック(0) | 時計他アンティーク系 | 趣味
2023年11月12日 イイね!

商館時計の再生に挑戦 J.ウルマン商会、シリンダー脱進機・18型 明治32年頃

車と扇風機しか無いような当ブログに新しいネタが入りました。
というか始めました。


今回の記事は「とりあえずやってみた」な内容なので、敢えて詳細な手法は書かない事にします。
詳しい方からするとツッコミどころが多いかと思いますが、これから色々と経験して知って行ければ…と思います。
各部品の名称も調べて覚えながらなので、間違いもあるかもしれません。


さて、タイトル通り話題は古い時計な訳ですが、中でも「商館時計」と呼ばれる懐中時計の一種です。
まぁまずは見て頂きましょう。





こういうのです。
明治時代の時計なので、今から凡そ130年程前の物となります。
この個体は不動品として入手したので、銀製のケースに入った歴史的一品としては格安でした。
商館時計自体がまだあまりメジャーというか評価対象のアンティーク・ビンテージになっていないようです(との友人の話)。

扇風機一辺倒だったところに何故いきなり時計なのかと言えば…
上にカッコ書きした通り友人との話でした。

「古い時計の中に商館時計ってのがあって、見栄えも背景も良いんだけど、昔からずっと安いんだよね」というもの。
で、ちょうど自分が精工舎エンパイヤを2個ほど買っていた所でしたので、「そんなのもあるのかぁ」と聞いていました。

そんな折、後から買った方のエンパイヤが早々にゼンマイ切れしてしまい不動品に。
また同じのを買うのもなァという事で商館時計を調べてみれば…確かに安い。
そして大きくて見栄えもするし、エンパイヤが明治末~大正なのに対して、明治中頃とより古い。
時計の国産化が始まる以前の輸入品達という事で、歴史的な背景も濃い。

という事で、目出度く(?)商館時計集めが新たな趣味となりました。
もう趣味は増やさぬと思っておったのに。

そして、まずはと少々値が張りつつもメンテ済みの個体を入手。
続いて動くけど現状というのも。
同時に「これはどの商館のだろう、そもそも商館の詳細も知りたいなぁ」なんて調べるのがスタート。



こうなると沼な訳で、「ジャンクを自分で再生したい」となるのにも時間はかかりませんでした。
何とか中華製メインで工具を揃え、ノウハウは国内外のサイトや動画から学んでチャレンジと相成りました。
…オイルとドライバーだけは大事なので国産です。
激安オイラーはスイス製と書いてあるけど…本当かしらねぇ?



さて、折角なので商館時計について少々触れておきましょう。

そもそもの興りは、明治の文明開化に伴って太陰暦から太陽暦へと暦が変わり、洋式の時計が必要となった事でした。
洋式の会社や働き方も導入されましたので、個人レベルでの時計の需要も生まれた訳です。
ところがどっこい、まだ携帯時計(当時懐中時計はこう呼ばれたそう)の製造技術は日本には無く、輸入に頼らざるを得ませんでした。

そこで登場したのがスイス系を中心とした商社…通称「商館」でした。
商館は主に横浜と神戸(どちらも有名な外国人居留地です)に拠点を置き、地元国から時計や染料を輸入していたという事です。
当時数十あったとの事で、各商館が輸入した時計が今日まで残っており、それらを総じて「商館時計」と呼ぶのです。

そして商館時計と呼ぶにあたっては、いくつかの特徴を備えているのが条件となります(勉強中なので確定的な事は言えませんが…)。


・18型や20型などのサイズ(大体直径50~60mm)

・ボウ(チェーンや紐を通す輪)に鍔がある(例外あり)

・前面に蓋の無いオープンフェイスケース(例外あり)

・ムーブメントのダストカバーがガラス仕様(グラスバック)

・背面が鱗模様(ななこ模様)に彫ってある

・龍頭が大きく玉ねぎ型

・ダイヤル(文字盤)は無銘の場合が多い

・ケースは銀無垢で、多くはコインシルバー(0.800)、たまにスターリングシルバー(0.925)、特注品は金(K18)

・時刻合わせは「ダボ押し」(鍵巻きもあり)


こんな感じでしょうか。
これらの特徴は当時の現地仕様の時計に倣った物ですが、グラスバックやボウの鍔などは日本向け仕様の特徴らしいです。

当時は家が建つレベルの高級品だった為、「見せる物」としての見栄えも重視されました。
そのため敢えて大型なモデルが人気で、更にグラスバックとしてムーブメントを鑑賞できるようにしたそうです。
ボウの鍔は着物と合わせる際の紐が龍頭に絡まないようにだとか。
特にこの部分は海外の時計では見られない特徴ですので、商館時計ならではのスタイルと言えましょう。

また、商館時計は基本的にオーダーないしセミオーダーだったようで、同じ商館が取り扱った物でもケースやムーブメントに様々な個性があります。
時計工房自体が商館を兼ねていた例もあったようです(R.シュミットの末期など)。
これもまた面白い点の一つと思います。



さて、今回ジャンク入手して再生にチャレンジするこの個体は「J.ウルマン商会(J.Ullmann&Co)」というスイスの商館が輸入したものです。



麒麟のマークが背面裏に彫ってあります。
これがJ.ウルマン商会のマーク。
他にも右向きの麒麟や障害馬術競技の様子を描いたマークもありました。

同社は日本よりも先に香港で活動していた商社らしく、香港で社名が確認されているのが1879年(明治12年)、スイスで登記されたのが1892年(明治25年)、時計製造が登記事業に加わったのが1905年(明治38年)で、1934年(昭和9年)まで活動していたそうです。

また、1918~1932年の間はボヴェ(Bovet)社を所有していた事もあったそうです。
家より高い機種のある超高級ブランドですね…

それでは中身を覗いてみましょう。



…ガラスがカビているのか、ちょっと汚い。
ですが振るとテンプが回り、ネジも巻けるし数秒は動く。
これは分解清掃で行けそうです。

なお、この個体はシリンダー脱進機と呼ばれる機構を採用しており、商館時計としては早い時期のもののようです。
多く見られるのはアンクル脱進機という方式で、一言で言えばシリンダーが摩耗しやすい欠点を改善した機構となります。
レバー脱進機やロスコフ脱進機など、似た形も多いようですが…こと商館時計に関してはアンクル脱進機と呼んでで良いのかしら。
この辺は詳しい方々が多くおられますので、気になる方は各自お調べ下され。
左向き麒麟の商標が登録されたのが明治32年の事だそうで、脱進機の事も合わせるとそのあたりの製品なのでしょうか。

では分解していきましょう。
しっかり写真を撮らないと戻せなくなりますので注意しつつ…



ダストカバーを外しました。
汚れてはいますが、変な錆は見当たらないようです。



ケースとムーブメントをロックしているビスです(ケースのキワに奥まってる奴)。
龍頭を外してこれを解除すればケースと分離できます。
緩かったのか、フェルトのようなものが詰めてあります。



いきなりですがダイヤルが外れました。
針を引き抜いて裏面2箇所のビスを緩めるとダイヤルが取れます。
この個体は固定ビスが片方失われていました。



ムーブメントのシリアル。
ケースが5395でしたので、1番違いです。
オリジナルの組み合わせと思われますが、揃いではなく1番違いというのは珍しいらしい。



ムーブメントホルダは買っておいて正解。
激安中華ですが、そもそも18型などの大きいムーブメントを保持できる物はあまり多くないようです。



まずは2・3番車のブリッジを外しました。
ここからは各ムーブメントにより多少前後するかもしれません。



丸穴・角穴車を外して2・3番車も外すと、ようやくテンプを外せました。
いきなりテンプから取れる機種もあるようです。
なお2番車にはダイヤル側に「筒かな」が圧入されているため、それを取らなければ抜けてくれません。

テンプの軸(天真)下側にはくりぬかれた部分があり、これがシリンダー。
横に見えるギザギザしたギア(ガンギ車)とシリンダーが直接かみ合う機構です。
アンクル脱進機やレバー脱進機の場合、両者の間にアンクル(Y字型のアーム)が介在します。
いずれの方式にせよ、この部分でゼンマイの動力を一定のパルス状に変換するのです。
「チクタク」と称される時計の動作音は、機械時計の場合はここから聞こえてくるものです。



大分すっきりしてきました。
ここまで来て気づきましたが、テンプ下側に当たるガンギ車のブリッジが後から削られています。ここだけメッキがありません。
思うに、シリンダー脱進機はアンクル脱進機より摩耗しやすいとの事ですから、テンプごと天真を交換したのでしょう。
或いは、ケースに落とした跡がありましたので、天真折れか何かで交換せざるを得なかったとか。
ムーブメントの種類はかなり多かったようですから、何とか合う形のシリンダー式のテンプ一式を見つけてきたのかも。

そんな荒療治をしてでも生かされたという点から、当時の時計に対する思いが伝わってくるようですね。
これは素人仕事でもちゃんと動くようにしてあげたいものです。

ここで写真が抜けますが、この後は上側に見えるブリッジを外して香箱を取り出しました。



裏返してダイヤル側に行きます。
後から気づけば、こっちからやった方がスマートでした。
主に時刻合わせの機構が組まれている面です。

既に筒車と日の裏車が外れていますが、これらはただ引き抜くだけ。



先の写真で左側にあった、巻き上げのラチェット機構用スプリングを外しました。
ツヅミ車梃子と同バネと言うらしい。
この機構の造りはシフティング式だそうです。覚えるべき単語が沢山あります。



巻き上げラチェット機構です。
左からシム、キチ車、ツヅミ車。
シムは後から足されたもののようで、手入れを重ねて使われてきたのが窺えますね。



最後にテンプの石を持つ金具を外せば全バラ完了。
シリンダー脱進機の解説を読めば、チャリオットまたはダルマと呼ぶそうです。
シリンダーとガンギ車の噛み具合をここで調整できるとか。



地板だけになりました。
次は迷いましたが、折角なので香箱をバラしてみます。



もう蓋が取れていますが、これが香箱。
ゼンマイが内蔵されているギアです。
この中もグリスを入れる必要があるため、劣化しているであろうそれを洗いたいと思った次第。



無事にゼンマイを取り出せました。
この時代は炭素鋼製との事で、現在の白色合金(ニバフレックスと言うらしい)と比べて切れやすかったそう。
確かにウチのエンパイヤは切れたもんなぁ…
洗浄したらグリスをちょびっと入れて戻しましょう。





地板です。
古くなったグリスの匂いがします。
細かい部品とは別に、こちらは筆と溶剤で洗います。



部品の洗浄中。
プロ用の道具としては、超音波洗浄・仕上げ洗い・乾燥と容器を切り替えできる洗浄機があるそうです。
当然そんなものは無いので、パーツケースに溶剤を入れてそのまま超音波洗浄。
あるもので間に合わせます。
…超音波洗浄機が「あるもの」の範疇なのは特殊かもしれませんが…

一見無関係そうな蝦蛄万は重しです。




さてさて、まずは気になっていたゼンマイ戻しから。
割とあっさり戻ってくれましたが、これもまたプロの道具では巻き上げ機があるそうで。
今後欲しくなったら中古で見つけるとしましょうか…
専用グリスの他、モリブデングリスでも良いらしいので今回はそちらで。



注油しつつ逆手順で組み立て。
油はスイス製と人気を二分するシチズンのAOオイルを使用しました。
シチズンの赤尾さんが5年がかりで開発したという逸品で、Akao OilでAOだそうです。

2mlで3000円級という、車やラジコンに慣れた身としてはビックリするほど割高なオイルです。
詳細は各自調べて頂くとして、広い温度帯で粘度を保つ優秀な特性に素材を選ばない万能さ、10年クラスで変質しない安定性など、凄く凄いオイル。
なので値段相応の性能はあるという事…

そもそも一度の使用量が針の先程度なので、その点からしても決して高価ではないのでしょう。
低粘度のAO-2と中粘度のAO-3を今回は購入したので、部位によるトルクの強弱や動作速度などで使い分けます。
その辺のノウハウはネット及び海外の動画を参考とさせて頂きました。
同封されている説明書にも、大体どの位置にどれを使ってね、という事は書いてました。

テンプが再び写っていますが、こちらの写真ならシリンダーの構造が良く見えると思います。
流石にテンプ一式はバラしませんでした。



ダイヤルと針を清掃して戻せば完成。
針は一見揃いのようでしたが、長針はブレゲタイプ、短針は飾り石付きとニアピンでした。
なのでブレゲさんには悪いですが、裏からアルミ板の欠片を貼って飾り石付きに近づけてみました。

また、短針と秒針は緩んでいたため少々加締めています。





お次はケース。
古い銀特有の黒ずみはパティナと言うそうで、これはこれでヨシとする見方もあるとか。
私は輝いている方が好みなので再生してしまいます。
工程は扇風機と似たようなものなので割愛…
といっても、面積は小さいし簡単に酸化膜が落ちてくれるので楽しい仕事でした。











磨いたケースにムーブ一式を収めれば完成。
テンプの振りはチラネジの無い天輪(無賠補テンプ)なので見えにくいですが、スポークが消えているので回っているのが分かるかと。
平置きで結構進むようで、その辺は追々緩急針で調整すればよろしい。
しかし動いてくれて何よりです。
そう言えば石の数を数えるのを忘れたなぁ…


という事で、初挑戦の時計整備はとりあえず成功と言って良いのではないでしょうか。
本当はここはこうすべきとか、色々あるとは思います。
とはいえ趣味でこの位できれば十分かなと。
後は場数を踏んで色々勉強して行けたら、より楽しいのでしょう。

…そうすると良い工具も欲しくなるんだろうなぁ。
Posted at 2023/11/12 22:33:43 | コメント(0) | トラックバック(0) | 時計他アンティーク系 | 趣味
2023年11月05日 イイね!

雷光ガードの小っちゃい奴 芝浦製作所6吋電気扇 2120形 大正13年頃

前回最後の予告に反して、更に時代を遡ってみます。
というのも少々事情がございまして…

10月は職場で年に一度の某イベントがあり、その主催側である私は特に忙しいのです。
加えて家族が急遽入院する事となり、これがまたお互い人生初だったために扇風機その他に触れる暇がなかなか取れませんでした。

そしてこのエントリの内容をスタートした時点でも日常には戻っておらず。
なのでまとまった作業時間が取りずらい状況でございます。

で、ふと…手軽に済ませられる奴だったらできるかなぁ、という発想に。
ならば相応しい奴が居ます。
もう何年も、買ったままディスプレイしていた放置個体が。



こちら。
前回が16吋だったのに、いきなり10吋マイナスの6吋型です。
カタログナンバーは2120。
最大から最小へ。

三菱の小型は時々見かけますが、芝浦は滅多に出ないのではないかと。
実際、これを買った当時から現在まで3年が経過していますが、その間の出品はほぼ記憶にございません。
三菱は9吋ですが更に小さい6吋なので本当に小っちゃい。

で、モートルは三菱同様に交直両用型。
100V商用電源の他、DC100Vでも動きます。
DC100Vというと一般には馴染みのない電源ですが、現在では下記の用途があるようです。

・発・変電所用電源
・非常用照明電源
・計装機器用電源
・防災・防犯システム用電源
・上下水道設備用電源

身近なDC扇風機ならば、鉄道の非冷房車の天井扇でしょうか(現代では希少かもしれませんが…)。
また、トラック・バスにもDC24Vのコンセントが付いています。

そして古くからDC100Vが使われていたのが船舶。
現在もどうやらあるようですが、ちょいと調べたところDC100Vが主流の時代は大体昭和10年以前らしい。
それ以降は船内でも電化が進み、発電機容量の大型化も相まってDC225Vになったそうです。
同じワッテージの負荷で比べても、電源を高圧化して電流値を下げれば損失が少なく電線を細くできます。
線路長を長く取るため、これまた大型車と同じ理由かと思われます。


さて、この機種の年代推測をしたいところですが、まず資料は無し。
なのでヒントから探ってみましょう。
外見上からは下記が読み取れます。

・ガードが雷光型デザイン
・羽根が真鍮無垢仕上げ
・銘板表記が「Fan Motor」
・型式名が2000番台
・逓信省型式認定番号無し

これらの特徴は芝浦電氣扇なら大正期を代表するものですが、手元にある大正8年のカタログにはこの機種は登場していません。
なので少なくとも大正8年より後の製品と予測が立ちます。
それで上記の船の電源事情と認定番号が無い事を考えると、昭和10年以前であろうとも思われます。

そしてこれは芝浦の製品なので、元ネタはGEにある筈…そう思いGEの6吋ファンを調べたところ、大正13年に登場しているようです。
細かい差異はあれど似た特徴がありまして、この2120型はそれを基に開発されたのではと考えられます。

よって、早くとも大正13年頃かなと予想してみました。
しっかりした資料が見つかると嬉しいですが…これが中々難しい。


それではレストアに入りましょうか。
今回は部品点数自体が少ないので分解の手間はかかりませんが、ネックになろうかと思われるのはカーボンブラシでしょう。
当然純正品などとうに絶滅しているでしょうから。
まぁ何かしら、電動工具用でも削って作ればよろしいであろうが。



何をするにも分解から。
現状不動なので、その原因を探りつつバラします。
いきなり裏面ですが…蓋すらありません。

当時の電気スタンドもそうですが、鉄鋳物で内部がスカスカです。
この機種は電源コードの中間スイッチでON/OFFするだけで碍盤がありません。なので当然ですね。



ファンが固着していたので、油の浸透を待ちつつエンドベルから着手します。
ビス2本を外すだけの簡単なお仕事。



取れました。
ブラシ式なのでロータに巻き線があります。
この時点で良い感じにファンが取れてくれました。



ロータ。結構汚れてます。
カーボンブラシを削ってたんだから当然か。
導通は問題無さそうなのでクリーニングしましょう。



こちらはモートルケースのフロント側。
両側へ出ている筒にカーボンブラシが入りますが、ハウジングを止めるイモネジはあったものの蓋は無し。
片方だけ木片を削ったものを詰めてありました。
本来の形状はやや鍔の付いた蓋らしく、ハウジング側にある穴と一緒に割ピンを通していたようです。
蓋は適当に木の丸棒辺りで作りましょうか。



で、件のブラシがこれ。
片方が無事だったのは何よりで、この寸法を基に何とかしたいと思います。
もう片方は折れていたため、不動の直接の原因はこれかもしれません。
ブラシホルダと電源線のそれぞれ片方ずつは導通が取れましたので、コイル断線は無いようです。
一安心。



銘板です。
しっかり酸化していて読みにくいですね。
ここも後で磨きます。



まずはエンドベルから行きましょう。



やはりと言うか何と言うか、漆の上に一層あるようで、それを剥ぐと輝きます。
何だろう…塗装なのかコーティング的なものなのか分かりませんが、大正終わり~戦前の黒い芝浦はこうなんです。



ロータも綺麗になりました。



お次はモートルケース。
入隅が多く磨くのには結構厭らしい造り。



面積の少なさに助けられてこの通り。



ついでに銘板も綺麗になりました。



どんどん行きましょう。
小さな基台です。



こんな感じでしょう。
ゴムブッシュは電線の引き込み部分にしかありませんでしたが、オリジナルでは上側の穴にもあったようです。
ただ穴が小さく、その一方で電源線がそのまま通りますので、今では適合するブッシュは無いかもしれません。
少なくともウチには無い。

お次はいよいよモートル(というよりブラシ)の再生と行きますが…



これを使います。建築用のΦ2シャープペンの芯。
カーボンブラシは要はグラファイトの棒な訳ですから、鉛筆の芯でいいんです。
しかも最近は便利な事に、1㎜を超える太い芯のシャープが出ています。
鉛筆をカチ割る必要はありません。

で、今回の純正ブラシは4mm角くらいの細長い形状でして、そんな形の既製品は多分ありません。
電動工具用を加工するにしても、長さ方向が意外とネックになります。
なのでこれを2本まとめて入れ込んで、スプリングで押してしまえばOKでしょう。
接触して通電すればOKなのですから、過程や方法などどうでも良いのです。



という事で引き出し線を交換します。
過去に補修か交換歴があるようで、絶縁テープがしっかり巻かれていて少々不格好。
ちゃんとテープの見えないようやり直します。
まずは既存テープの剥がし方から。



何とハンダ無し。
捩っただけ。



こんなもんでしょうか。



で、こうなります。
後はちょっとコードを折り返して引き出せば大丈夫なはず。



無事にエンドベルが閉まったのでシャー芯ブラシの取り付け。
スプリングは純正を外してやや延ばしました。



蓋はこんな感じに。
Φ8丸棒をやや細めてピン穴を開け、色合わせと時代感の演出に炙ってみました。



それを銅線でロックして完了。
良い感じじゃないでしょうか。



中間スイッチはボタンが両側とも失われ、内部も錆が来ていたので交換します。



そしてファンです。
当時塗られた油の濃淡で酸化の度合いが異なり、模様が付いています。
構造は川崎オルビットの初期型と同じ、一対の羽根を十字に重ねたタイプです。



酸化膜落とし完了。
ここからの磨きが大正期の機種で一番面倒&仕上がると嬉しい作業です。



とか言っていたらものの45分で完了。
状態の良さも然ることながら、面積の少なさが一番効きました。



本体組み立て。
ブラシホルダがちょっと厳つい。



本体の最後はガードのエンブレム。
SEWマークも小っちゃい。



元の塗装が厚く残っており、磨くだけで綺麗になりました。
スポークと外周は鉄製でしたので、その点から見ても大正後半の機種なのは間違いなさそうです。



プラグは恒例のナショナルWH4000になっていましたので、トキワの縞模様に交換。
そのままでも良かったのですが、何となく芝浦製の機種に松下プラグというのが違和感ありまして。



そして完成。
可愛いサイズです。



シャー芯ブラシの実力。
何事も無かったかのように動作します。
風量は穏やかで、サイズ的にも現代のUSB扇風機的な感じ。
ハンダ作業の際に煙を流すのにちょうど良いかもしれません。
ブラシの当たりが出れば、動作はもう少し変わって来るかも。



三菱の9吋と並べて。
芝浦の方は本当に手の平サイズです。



そして同社卓上用最大の16吋、2025型(大正8年製)と共に。
10吋も違うと本体サイズもこんなに差が出ます。
親子みたいですね。



なので、12吋の2020型も加えれば家族写真になります。
三菱MKW~初号扇しかり、この並びも今では貴重だと思います。



さて…ここ一か月、家族の2回に渡る入院やら職場のイベントやらで色々ありました。
そして極めつけは長年お付き合いのあったディーラの倒産。
パジェロとエクリプスクロスを見てもらっていた正規ディーラさんでしたが、いきなり倒産してしまいました。

それを知ったのが退院する家族を迎えに行った帰りという衝撃よ。
別店舗に通っていた上司ofエボⅣ乗りから電話があり、何かと思えば緊急で知らせてくれたのです。

というのもその前日、つまり倒産の翌日に点検入庫を予約していて、行ってみたら「定休日」だったので「変だなァ」と思っていたところでした。
仕事の合間に点検の話をしていたので知らせてくださったのでした。

…道理でいつも社用車やら点検待ちやらが停めてある場所も、ガランとしていたわけだ。

しかしこれからどこへ通えば良いのやら。
これまでの店舗よりやや近い場所にも三菱ディーラはありますが、別の会社なんです。
まぁ自工からするとそちらが本流らしいのですが(この辺は内々で聞いていた会社ごとの事情なので詳しくは伏せておきます)…

一応、方針が決まり次第個別に連絡となっているので、自分で別店舗へ飛び込む前に連絡を待つべきかなぁ。
如何したものか…

パジェロは年明け早々に車検なので、それまでには諸々の方針が決まらないと困ります。
Posted at 2023/11/05 19:46:45 | コメント(0) | トラックバック(0) | アンティーク家電 | 趣味

プロフィール

「仕上げ進行中 http://cvw.jp/b/2115746/48580997/
何シテル?   08/03 23:12
菊菱工廠と申します。 「工廠」なんて言いましても、車いじりは飽くまで素人。 電装系なら結構自前でこなします。 ちょっとした金具作りなんかも。 ナ...
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