2012年07月29日
果樹ネタ
・部室生産理論による落葉果樹の高生産技術・・・という本を買おうと思ったのだけれど、値段が高くブドウに特化してなかったので、つい根域制限のブドウ栽培の本に浮気してしまいました。ま、それでも立ち読みで大体の部分は把握してきたので、果樹についての理解がまた進んだ気がします。
・最近の果樹の生産技術の大きなトレンドの一つに矮化があります(ATOKの野郎、どんどん馬鹿になって、矮星だとワイで変換するのにわいだと漢字が出て来ないとか)。例えばリンゴの木は普通に成長させると亜高木になっちゃって収穫どころの騒ぎではありません。昔は仕立て方を工夫してお盆のように枝を広げる仕立てもありましたが、木が5m程度にしか生長しない旧式わい化、そして最近では2m以下の新型ワイ化が普及してきています。これ、一見すると、クリスマスツリーにリンゴがなっているみたいで、明らかに樹体と果実のバランスが常識とかけ離れているのでびっくりします。この方法の一つのメリット、というか最大の目的は作業負担の軽減であり、歩いて全部の作業が出来る事にあります。しかし果樹の生産理論から見ても正しいのです。
・果樹に限らず実物植物は炭酸同化して出来た物質を自身の成長と果実の肥大に使います。自身の成長を栄養成長、果実の生長を繁殖成長と読んだりします。これは同じ木の中での割り振りなので、片方が強くなれば片方が弱くなる関係になります。一般常識として、樹体が大きければ炭酸同化が増えるから果実も大きくなるだろうというのがあるのですが、実は樹体が大きくなると果実は小さくなるというのが本当なのです。確かに樹体がもの凄く大きくなれば、そこからは安定したバランスになるはずですが、樹体が大きくなると今度それの維持にもエネルギーが使われ出すので、やっぱり効率は落ちます。
・これはマクロで見れば枝でもそうで、普通結果枝は大きい方が果実の出来は良くありません。先端部分で伸ばした枝など下手すれば果実が付きませんでした。逆に生育初期になんらかの原因で先端が折れてしまったような枝に立派な果実がつきます。と言っても、これは他の枝からエネルギーをもらって生長しているので、あまり良い例ではありませんが、それほど栄養成長は無駄なのです。葡萄の場合、従来は枝の先端を切る事で成長点をなくして栄養を果実に振り向ける方法が採られていましたが、これはかなり手間です。確かに成長点を取った瞬間は特に活性が高くなるので、そういうホルモンコントロールとしてのメリットもあるのですが、後期になると成長点は脇目から出る副梢でもあるので、仮に3000房作って4000本枝があると、10000を越える芽を取らなければなりません。で、良い園のデーターを見ると房数は倍でその分副梢などは徒長せず、枝の長さも非常に短いんですね(自然と)。
・そういう樹勢に持っていく事が一つの目的なのですが、ただ房数を増やして摘心をしてもそういう形にはなかなかなりません。ただ単純に小さい房が沢山ついて摘心した後から枝が伸びる木になる可能性もあります。その枝の細胞の活性自体が栄養成長に向いているとか、根の部分からのエネルギー供給が多すぎるとか、原因は様々ですが、対策が出来るのもあれば出来ないのもあります。大まかに言うと、今の高生産技術は地下部分へのエネルギー供給(あるいは地下からのエネルギー供給)を制限する事で、地上部とのバランスを取ろうという所に落ち着きつつあります。昔は成長抑制剤(B9やフラスター剤、BA剤もそうかな?)で地上部分だけ強制的にホルモン剤で生育を抑制させていたのですが、B9は禁止、フラスターは高杉、BAはブドウだと結実処理に使うぐらいです。
・まず、一番簡単なバランスの取り方として「環状剥皮」があります。今年はうちもやってますし、ある枝は自然枯死でそうなってしまいましたが、着色はすんばらしく早いです。多分1週間以上早い。専用のハサミなりを開発して毎年バランスを取ってやれば良い方法だろうと思いますが、根本的には樹勢が強すぎるからやっている技術という面もあります。下手すると来年の生育に悪影響が出ます。最初に書いた本だと、とあるワインブドウ産地では枝を長くしつつ環状剥皮を組み合わせているとありました。筆者は効率が悪いだろうと言っています。まあ手間でなければ別にやってもいいんだろうとも言えます。
・次は断根なんですが、これは昔の施肥技術が結果としてそうなっていたという物で、たこつぼ施肥を毎年やって幹の周囲を少しづつ掘り返していくと、太い根を切って細くて新しい根が増えるという技術です。これとは少し違いますが、苗木を露地に植えるのとポットに植えるのだと、ポット苗の方が移植後の生育は良好でした。というのは露地の場合、太い根が伸びてその先に細い根が出るのですが、移植時にそういう苗は死亡率が高いのです。ポットだと根の長さに限界があるので、細い根が狭い中に大量に生えていて、移植後も下手すると2年ぐらい活性が高くて一度地上部がなくなっても生えて来るぐらいです。ま、現実には露地のブドウの周囲を毎年掘り返せる人は少ないでしょう。ユンボでやっとですが、老化した木の再生に使って使えない事はなさそうな技術です(実際部分的にはやったら、果実の肥大はすごく良くなったです)。
・ブドウではありませんが、リンゴの新ワイ化の場合は中間台と言って、接ぎ木の間に非常に樹勢が弱い木を挟みます。そいつが一種の環状剥皮のような養分流動の制限を行うので木が大きくならないと聞いています。あるいは台木も弱くするのかな?ただ、この方法だと台木が挿し木で上手く育たないので、生産が難しいとも聞きます。実際にはリンゴ農家は自分で苗は生産しないようなので、安定供給されてれば関係ない話しではありますが(安定生産は色々頑張っているようです)。ブドウの場合、中間台はほぼ使いません。結果的にやってる場合もありますが、品種による格差はほぼ無いというのがプロの意見でした。ただ某品種の台に弱い2倍体(デラとか)を使って高継ぎすると、良い物が取れるという話しはありますから、特に弱い物を使うメリットはあるかも知れません。リンゴだとマルバカイドウを使うので、ブドウも近隣種(エビヅルとかヤマブドウとか)を使えば良くなるかも。
・最後に今回買った根域制限の技術があります。大体ですが、60リッターポットで反あたり900本植え、一本で10房とかそういうのはワイン用葡萄の垣根仕立てと同じ感じですね。土の量は60リッター程度だそうです。あるいは、拡大根域制限と言う方法だともう少し大きくして植えます。これ、根域を制限しているのは土とポットに思えますが、実際は水です。テシオメーター(潅水指標が分かる)を使って人工潅水する事で根域を無駄に広げないようにしている訳で、天然でそうなるヨーロッパーの環境の再現とも居ます。もちろん根域が広がらないように物理的に制限しているのも重要なんですけど。原理はとても面白いのですが、設置コストが私には高すぎますし、潅水条件も厳しいです。つまり人工潅水でそれを確保するのは電源と水がほぼ無制限で得られる事が必要なのです。いやー、ヨーロッパのブドウがいかに厳しい環境で生きてるのかとも思いますけど。上の断根と根域制限はちょっと重なる部分があります。ワインブドウのような列栽培になっている場合、冬に地上部を施肥を兼ねて通路側を耕してしまい、断根をするやり方もあります。結果的に根が張れる範囲が限られれば根域制限にもなる訳です(この方法は土ごと発酵技術でやられるので、相乗効果で良い結果が出ているのではないかと思われます)。
・根域制限の方法ですが、一番シビアにやるのはポットですが、60リットルポットを900鉢ってのは施設園芸の世界ですね。ハウス栽培ですぐにでも高生産ってなら分かりますけど。ベット栽培はそれよりは楽そうですが、やはりかなり設置が手間そうに思えます。さらに楽な方法として盛り土ベットがあり、梨などでは使われているようです。あとは効果が疑問にはなりますが、畝栽培はワイン用ブドウだと良くある方法です(というか、暗渠も入れずに畝も作らないワインブドウは繁茂して大変になるらしい)。新しい方法としては、防根マットを植える場所に敷いておいて植えるやり方も開発されています。ただ、露地で成木に適量の土の量で最初からやると、おそらく太い根も出てしまうでしょう。鉢植えの根回しのような方法を組み合わせる必要があるかと思いますし、やはり長年使うと太い根がマットを貫通する恐れはあります。それでも、灌水を100%人工に頼らないでも出来そうという部分は魅力です。逆に超シビアコンディション(礫地の傾斜地とか)で根域制限人工潅水にしておけば、安定生産も出来るかな?
・ところでワインブドウの生産規模はどのぐらいから可能なのでしょうか?ラフな話しですが、AOCだと1ヘクタールで90ヘクトリットル(1反で900リットル)を上限にしています。余市市のデーターだとケルナーで1反600kg、ミュラートゥルガウで405kg程度です。もっともシャルドネが1反100kgとか言うヘンなデーターも混じっているので成園かどうか分けてないのでしょうけど。AOCのは上限であり、もっと収量を減らす(一般の1/5とか)言う所もあるので。200kg程度の所もあるのかも知れませんが、かなり特殊(例えば貴腐化させて最初から濃縮状態とか)じゃないかな?まあ余裕を見て500kgぐらいに見積もります。これでも生食用の1/3ぐらいなので、少ないナーと言う印象ですね。ワイン仕込みのタンクは地元ワイナリーの最低ロットが700リットルだそうなので、茎とか皮とかを抜かすと(赤だと皮も仕込みますが)、もっと少ない量でやる必要があるでしょう。あ、でも500ぐらいで仕込むって話しもあるかな。そうすると最低1反ぐらいから出来る計算にはなります。世界で見れば多分こんな小ロット生産は実験研究レベルでしょうが、有名シャトーのグランクリュなんかは数ヘクタール単位なので「世界で名を売るのには10ヘクタール以下でもいい」とは言えると思います(そのグランクリュも一つの農家が所有している訳ではなく、複数経営だそうです。例えばドイツのゴールドプレヒェンはたった9ヘクタール。でも、地元のブドウを全部会わせても70ヘクタールですから、日本の生産量は少ないとは言えます。むしろ、その単位でワイナリー作っちゃった事が驚きか。
・日本の三セクワイナリーはそもそもがハネだし物の加工施設という位置づけだったので、規模を大きくしようとは思ってなかったでしょうし、生食の付け足しだったろうと思いますが、これは大きな間違いでした。ワインそのものの品質や種類もさる事ながら、ハネだしの加工としてワインというのは向いてないのです。例えばリンゴジュースの場合、農家が加工施設を予約して自分ちのを持っていってその場で作って持ってくるというスタイルでした。高度な発酵技術はいりませんし、最低ロットも無いので、瓶詰めしたいだけすりゃいいのですし、収穫時期は冬場なので平気で2月ぐらいは収穫後保存出来ます。ところがブドウの場合は棚上で置いておけるのは最も棚上保存性が良いスチューベンとかでも1月でしょうし、それやると木が弱りますし味も劣ります。デラだと2週間、巨峰でも3週間はムリかなぁ。収穫したら冷蔵しなければ3日が限度です。また、長くぶら下げておけば病気のリスクが増えます。また袋かけ栽培の場合、収穫して袋あけるまでハネだしかどうか分かりません。一つの農家が収穫にかけるのはガラモギ出来たとしても1反で一週間ぐらいかかる訳で、その間に毎日少しづつハネだしを出荷し続ける必要がありますし、量も知れています。唯一可能としたら、そのブドウ園が全部生食出荷をあきらめて加工に回すような事態ですが、生食出来ないそういう種類の致命的なミスというと裂果ぐらいですし、それをアテにワイナリーを作るって話しでもないです。また裂果しやすい皮が弱いブドウはあんまりワイン醸造には向いてません(糖度や酸が低いのが多い)。超大型農家が安定して供給するならともかく・・・って話しですね。実際私も巨峰の加工用出荷に出してもいいよーと言われましたが、袋の中の生食基準以下のブドウをどう見分けて、収穫が終わるまで棚にぶら下げておくのか分かりませんがな(それでもブドウを出荷して仕込んでいた事がむしろ奇蹟です)。
解決方法としては、ハネだし品を随時受け付けて、それを仕込むまでの間冷蔵保存しておく事です。0度前後なら葡萄は1月程度平気で持つ事が分かっているので、その電力と施設があるなら、それがベストでしょうが、ワイナリーにはそういう設備はありません。出荷側からすると、加工用にそんな投資は出来ません。ワイナリーにしても荷受けを随時するのは負担でしょう。
そうすると、生食用葡萄なのに加工用として契約栽培するというヘンな事でしか生産を安定して行えない事になります。実際そうやっている部分もあるそうですが、いくら生食用の栽培が大変だからって加工用として作るのはペイしません。単年度だと収支は合うでしょうが、設備や苗の育成などからするとムリ。つまり廃園にする繋ぎとして加工葡萄として出荷は可能でしょうが、新規でそれは無いので、いずれ無くなると思った方が早い。
それにいつ気がついたか分かりませんが、地元ワイナリーは10周年ですが、今ほとんどが醸造用葡萄になっていると思います。ビンテージは古くて2007とかなので、2002年に作った時から2年か3年で醸造専用種の栽培をはじめており、収量が増えてきたのはここ2,3年じゃないかなー。一方で、醸造専用種で仕込量をまかなおうとすると、今度加工ハネだし品が天候不順で増えたりすると、受け入れ体勢が取れないという困った問題にも繋がります。当然ながら販売力も関係してきますしね。
そう考えると、ハネだし加工品はワインではなくジュースやジャムにすべきで、それはワイナリーとは別の組織がやった方がいいんじゃないかなーと思ったりします。まあ、破砕機とかはワイナリーのを使った方がいいのでしょうけど。ワインは高付加価値ではありますが、加工用品種で見れば1本1000円ぐらいですから、ジュースで500円ぐらいなのと利益率はそれほど違わないんじゃないかな。
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2012/07/29 10:53:19
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