2021年12月31日
ネアンデルタール人から学ぶ
・ネアンデルタール人と現代人という新書を読んでいるが、詳しすぎてやや混乱するが大筋はとても刺激的だ。二本立てになっていて、一つはネアンデルタール人とクロマニヨン人(ホモサピエンス)の競合の部分と、さらに前の猿人からの分岐の部分になる。華奢型猿人の中の一部がホモハリビスとか大きなネアンデルタール人やクロマニヨン人の祖先にあたるそうだが、他の系統はすべて絶えていて、現生種で分岐が近いのはご存じのようにチンパンジー・オラウータン・ゴリラだけになる。
ネアンデルタール人とクロマニヨン人の分岐が特に一つの章(というか大半)を占めるのは、結局最後かつ直近のヒト科の選別が行われたのがそこである点、ヨーロッパで最初に見つかって人類種の進化の大きな注目的(特に人種との関連)が集まっていた点、単純に比較すれば近い年代なので物証が豊富だった点がある。そもそもネアンデルタール人とクロマニヨン人が違う種であるという部分から以前は分からなかった訳だが、簡単に言えばアフリカのホモハリビスの中の一群が各地に進出して地域で適応しており、その中のヨーロッパ周辺の第一次出アフリカがネアンデルタール人(あるいはそれ以外があったのかも知れないが)、第二次出アフリカがクロマニヨン人だそうだ。
ここで以前から話題になるのは「ネアンデルタール人は何故滅んだのか」であろう。良く「クロマニヨン人によって滅ぼされた」説があったのだが、両者は耐寒性の差から実はニッチ(生物的生存空間)が違って、同じ洞窟から両者の遺跡が時代違いで出土してたりもする。しかし、ネアンデルタール人の文化文明は石器の質や製法、それによって二次的に加工される骨加工品(釣り針や縫い針)、あるいは素材の収拾範囲から予想される文化圏の交易流通などが劣った。クロマニヨン人はまだ南方系の遺伝子が強く寒冷対応は種としては弱かったが、漁猟による寒冷地での食物獲得や衣服と言った寒冷地対策によって、生物的にはネアンデルタール人より弱かったにも関わらず次第に交代していったようだ。
中で面白い解説だったのは、このように文化文明面での差での生存率の差がほんのわずか2%あっただけでも1000年とか考古学年代の中ではわずかな時間で片方が勝手に滅んでしまうのだそうだ。まあそれは資源競争と言えなくも無いのだが。両者の間での交流というか通婚に関しては筆者は懐疑的で、交雑があったかも知れない痕跡はあるが、その子が集団に受け入れられなかったのではないかと述べている。ただ、それはネアンデルタール的な外観を残した発現型の場合であり、クロマニヨン型の見た目の子もいたんじゃないかなとも思う。
他には芸術面、クロマニヨン人は芸術が明確にあり、洞窟画は遊びではなく情報伝達であり、つまり認知能力の高さでもあると述べている。ネアンデルタール人はそういう痕跡は薄い(埋葬文化があったともされているが、宗教的な物は無かったのではないかとも)。現在、文化芸術面でセンシティブな人達が人類種の中で保存的な立場かは大いに疑いはあるし、じゃあ数学者と絵師のどちらが認知機能が高いのかトータルでは分からないと思うが、短期的な経済メリットだけでどちらかを優先するのは間違いかも知れないとは教えてくれる。
交易の広さの間接的要因として言語説も出ていた。ネアンデルタール人がどの程度の言語コミュニケーションが出来たか不明だが、クロマニヨン人より劣ったと言う見解の方が多数だ。言語は他地域間交流面でも世代間伝達でも大きな役割を果たしたと思われている。つまり、ネアンデルタール人はあちこちに小さい集団が沢山いたけど、それらは細かい集団でしかなかった。クロマニヨン人は小さい集団が蓄積して大きなクロマニヨンのグループと捉えられる。逆に言うとクロマニヨン人は均質化していくとも言える。そもそも他の動物であれば分布は環境要因と移動能力で狭められるのだが、ヒト科は広域に移動して定住している点が特殊だ。
これでちょっと思い出したのだが最近はまってるアニメで「異世界転生」というのがあって、転生ファンタジー物なのだが、中にミグルディア族というのが出てくる。コミニケーションをテレパシーで行えるようになった設定で、一応言語も使えるがより深く簡易に情報が伝達出来る。普通、そのような優秀な種が出来れば生存競争において有利に働き、結果的に生態系で有意な立場になって独占的になっていく物である。多様性が消えてしまうとも言える。劇中そういう事はなく、いろんな知性生命体が出てくるのだが(ファンタジーってそういう物だが)、この種族は非常に長命のようで、同時に繁殖力も低いようだった(意図的なのが結果的なのか不明。)。
これは「死の獲得」という点でも重要なのだが、死なないで長命化するのは短期的に見れば不利になる。つうか簡単に繁殖して若い世代がどんどん生まれた方が良いという事だ。現代の日本とかまあそこらへん死が遠くなった事の弊害出てるかもな。一方で長命化する事で知識の伝達や環境変化で個体数が派手に増減する事も避けられる。若年期が相対的に長くなることで得られる知識も多くなる。私は人間が成人するまで軽く15年以上かかる事は生物としてかなり欠点だと思っていたが、15年かけないと文化文明を受け入れられないというか、生物的に柔軟性があって吸収できる期間の延長であると考える事も出来るのだ。なんなら現在のモラトリアムの延長とかニートとか言われるのも幼児状態を長く長く必要とするようになったとも捉えられる。
話戻すと、ファンタジー小説で高性能な人類種が仮にいたとして、それが生態系の独占をしないためには「そいつらは繁殖力が低い」という設定が生物学的には整合性があるという事である。
書きたい事は書いたので、あとはファンタジー関係の考察の駄文。よくトールキンファンタジーと呼ばれるような系統(ドラクエとかも実はその文脈にある)の場合、複数の知性体が登場する。たとえばゴブリン・オーク・トロール・エルフ・人類・ホビットなどなどだ。これがスターウォーズみたいなSFなら惑星間での違いと片付けられる(問題は後述)。一方一つの生態系で同じニッチに複数の種が存在したり、またその種が後から競合絶滅させた場所に再び戻る進化は起きづらい(つまりイルカは中間的なトドみたいな形があったとしても、今のイルカが再び競合して滅ぼした兄弟種の位置には戻らない、という意味)(まあ環境要因とかで先祖返りしない事もないと思うけど)。
そうすると、それらの知性体はつい最近分岐して生存競争中の存在という事になる。つまりエルフも人間もドワーフもゴブリンもオークも、遺伝的にはほっとんど同じだったという可能性だ。実際、交雑種もそれらでは存在するという設定だからほぼ間違いないだろう。どの種も実は数万年オーダー程度の近隣種に過ぎない。それらが個別的に進化してきたが、自然環境の変化、まあ人類で言えば氷河期と間氷期なんかで同じ地域に進出して軋轢をおこしてるとかそんなんじゃないかと。
一方でこれらのニッチ説は農業による自らの家畜化が行われるようになると当てはまりづらくなる。言ってみれば農業は自然の摂理からの大いなる逸脱を意味する。もし農業技術獲得段階まで進んだ時に種が分化したとしたらそれらが独自にそれぞれの地域で進化する事は可能とも言える。と同時にこれは再びであったとき(人類の移動能力からするとありうる事だ)悲劇になる。その例が大航海時代の植民地での現地民狩りだ。たとえばオーストラリア大陸にはアボリジニーがいた訳だが、植民したイギリス人などは家畜を襲うとしてアボリジニーを退治駆除していた。同様な事が北米でもあった。
そう考えるとファンタジー世界の闘争はいきなりきな臭い物になってくる。魔物とか言ってるがありゃ相互に近縁の地域集団が争ってるだけとなる。現実世界で言えば人種闘争に近い。たまたま片方から見ればもう片方は魔族サイドになる訳だが、別に全く違う存在ではないのである。
・SFのスペースオペラ的なのも考えて見よう。よく犬っぽい宇宙人とかトカゲっぽいのとか出てくるが、まあ最初の時点で「他地域同時進化説」的な発生から何からオリジナルの場合に同時代に狭い範囲で発生程度が同じような宇宙人が複数いるってのは確率論として無い、とされている。もし可能なら地球にも異星人が来ていないとおかしい。とすると、パンスペルミア説的な生命の由来の星がどこかにあって、いろんな所にそれが飛来して生命になっているという事になる。この説は人類史で言ってみれば「ホモサピエンスがアフリカから各地に散らばりました」ってのと同じである。いや、人類史の場合はその前に他地域同時進化説というのもあって第一次出アフリカのホモハリビスが各地にいってそこで現地人の祖先になったという物である。たとえばソロ原人とかジャワ原人が中国人になって、ネアンデルタール人がヨーロッパ人になって、みたいな説だ。
大きく異なるのは惑星が違う場合は相互に行き交うために最低「惑星間航行技術」、スペースオペラなら恒星間航行」まで文明科学が進んでいる必要があるため、当然農業なんかの段階はとっくに過ぎているのだから、ニッチによる自然絶滅は考えないでいいのである。逆に言うと恐らくどの惑星も知的生命体の多様性は少なく、○○星人と言った場合は一つになるのだと思う。よほど隔絶した大陸とかあれば複数の種がいるかも知れないけどね。
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2021/12/31 04:17:55
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