2016年01月16日
・畑村 洋太郎著「技術大国幻想の終わり これが日本の生きる道」
失敗学のすすめで工業系の面白さを一段を深く教えてくれた人の最新の本で、フランスのテロの話まで出ている。途中まで読んでいる所だが、自分におきかえて痛い所が多数だし、ちょっとこの人も年食い過ぎたかな?って所もちょこちょこ。個人的には原発問題の対応の委員会の委員長にすげられてしまったが、政治的な要素で結局何の成果も出さずに終わった事に失望もし、また本人もストレスが溜まっていたのだろうと思う。前段をかなり日本への痛烈な批判や政治的な発言に割いており、「そんな事ココで言うぐらいなら、委員会で成果出せよ、出来ないんなら潔く委員を辞退しろよ」と言いたくなる。「専門家のムラが出来ると客視点じゃなく役所とか研究所の内部や業界内評価だけ気にしていればいいので、付加価値が全くない仕事が増える」という批判を、そのまま貴方に返してあげたい。いや、本人もそれは分かって書いていると思うんだけどね。そういう意味でこの本は「委員会で出来なかった日本への為を思っての遺書」って感じを受ける。いや、ほんと、別にこの本の出来が悪いとか言う積もりはないんだ・・・サムソンの人と組んでやたら韓国の小手先商売を褒めてるのが鼻につくとかじゃないんだ・・・ともかく、技術方面から見た日本経済の将来像はかなり面白いし。
本題に入る前に「やっぱりな」と思った事を一つ。この本では具体的な幻想として「日本の技術が優れていて他には真似出来ないという幻想」「職人技への幻想」「良い物は売れるという幻想」があると指摘している。ここらへんはもう私もさんざ見聞きしてきた事だが、職人技幻想はまだ日本が没落しきる前に「日本は捨てた物じゃない」的な本で良く取り上げられていた。その中で三条・燕でアップルが新型iPhoneだか携帯プレーヤー(名前忘れた)のマグネシウム外装の磨き仕事で潤ったという話を読んだ。マグネシウムは他の素材に比べて傷が入りやすく、かと言って弱く磨いても削れないだかで、「軽量で高剛性で質感が独特」なのだけれど鏡面仕上げしづらい素材だった。そこを職人が様々な技術を工夫して鏡面仕上げして「日本の技術はすごいだろ!」と書いていた訳だ。
だが、あれから数年、畑村さんの本によると「ある日、アップルが派遣した男が工場の作業をカメラで撮影していった。そしてアップルからの仕事はなくなった」とある。技術は盗まれ、より安く大量に作れる海外のどこかの工場に生産が移されたのだろう、と言う(アップルの正体とか言う本からの引用なので、どこまで正しいのか分からない。個人的に別に短期消耗品のデジタル家電の外装なんざマグ使わないでも良いって判断じゃないの?って思う)。畑村さんの言葉を借りれば過剰品質で、品質がいいから売れるって判断はあのアップルにもあった訳で、ブランド力の構築と過剰品質という背反する要素をどう捉えるか答えは出てないように思う。
さて、本題は農業である。工業系の人の考え方は本質的に農業の一面だけ見ているのでそのまま当てはめられないし、この人も農業に関して具体的な提言はまだしてない(前半)。でも、やっぱり、「技術への過信」は日本の農業戦略にも色濃く反映されているように思うのだ。一つ一つ見ていこう。
「日本の技術が優れていて他には真似出来ないという幻想」
よく日本の農産物は日本人のきめ細かい神経で作られているので、他の国では作れないというような論調を見かける。主に言ってるのは政府中枢と滑稽なスピーカーの首相とか。でも、極論すれば、農産物ほど技術移転しやすい産業はない。何しろ人間が作ってるのではなくて、植物なり動物なりが育つのを人間が助けているので、別に日本人を食ってる訳じゃないんだから。むしろ誇るとしたらそういう農産物が育つ日本の気候風土だろう。その上で農業者の技術の蓄積はあるけれど、今の日本の農業者の減少と若手の大規模化という流れを見れば、職人仕事で手をかけて作ったような農産物というのはむしろ減っている。今月の業界誌「地上(家の光の若向け別冊、正直今月もイマイチで400円ぐらいが適正)でも、メロンの価格がどんどん下がっている話をしていた。かつてのような「高級品」というメロンはもうほっとんど無い。実際問題、熊本の直送のとかは食べた事ないほど美味しかったですけどね。他にも和牛の霜降りとかの美味しさを表現した有名なコピペ(我々が食べていたのはゴムソールだった~)ってのも、あれは創作らしいですからね。
とくにうちの地区の果樹は技術の優秀さを誇る面が強かったし、実際こんな技術力が必要な品種をよくまあ作ってたもんだと思うけれど、「効率化」「新品種への対応力(これも日本企業は無いそうだ)」などは大きく遅れているという認識がない。特に「対応力」ってのはそれ自体が売り物ではないので軽視されがちだが、明らかにこの地区は劣っている。
「職人技への幻想」
これはカンとか明文化出来ない物が「ある」と信じ込みすぎているという戒めであろう。「3年程度で誰でも習得出来る技術なんて職人技とは呼ばない、現象を正確に捉えて科学的に話せる理解があってはじめて職人と呼べる」というのは、まさに農業やっていて感じる話だ。私のように口先八丁なのも良く無いが、ベテラン農家の大半が言葉で理由を説明出来ないので、後継者にお手伝いしかさせられない。それは職人技な訳ではなくて、自分でもなんとなくしか把握してないからだ。確かに一つ二つの秘訣みたいなのはみんなあるんだろうけど、先日も会議で出た「それ違法です」ってのもあったりする(あんま詳しく書けないが)。まあ、これは改めて否定しないでもいい内容なので本でも私もあんまり書かない。
「良い物は売れるという幻想」
これが「うーん」と思った所。この幻想が通用する分野・市場もあるのは事実だ。過剰品質でも「医療」「軍事」「航空機」など「安全や生命」に関わる分野は今度も安泰というか、新興国も市場が成熟して人間の価値があがれば重視せざるを得ないだろう。またブランド品などステータスホルダーとしてのグッズも過剰品質は普通は喜ばれる。しかし、日本が先進国に上り詰めた結果、その先にある物、目標も自分達でさがさなければならなくなり、自分達が最先端市場になった時、なお良い物方向で進めていく事には無理があった。畑村さんは消費者を重視しすぎて、商品の本質を消費者に啓蒙して引っ張っていくタイプの市場開拓までは頭が回ってない印象を持ったが、そうは言っても日本の家電の末期的過剰付加価値と高コストは言い訳が出来ない。
さて、地元の農産物はどうか?確かに先人達はブランドを築いてくれたので、高品質方向でも今後一定の市場は見込める。そういう意味だと「良い物は売れる」のだが、農産物は気象変動などの影響も受けるので、今年は売りませんって事は出来ない。実は昨年は物が悪いのに、それ以上に物がなくて市価は高かった。それを喜ぶ声も聞こえたけれど、私が消費者だったらこう思うだろう、「この果物は高い割りに美味しくない、来年は別の物を買おう」ってね。選択肢が一つしかないのならまだしも、今は他の産地も他の農産物もある。まあ、この品種に限れば日本一かも知れないけどね・・・
日本も賃金の二極分化が進み、市場の大半は低所得者になってきている。果物はその中では比較的高所得な人が買ってくれているが、食料品だから給料5倍でも5倍は食べられない。今後、そういう人達にどう売っていくかと言えば、工業製品で言えば「シンプルで壊れづらい物を安く」という方向になっている。その中に多少は文化を背景としたくすぐりは入るとしてもだ。ちょっと言葉は悪いが「客を愚民化した方が売りやすい」って事も考えられる。というか、最近のヒット商品って客がバカになる商品多いよね・・・実は前の会議で担当理事が「今のトレンド品種は親の教育がなってないから」という話をしたけど、ほんとそういう面もある。客にすりよって高く売れるんなら、それが正しいのならそういう事になるわ。
そうそう、これと関連して、日本マクドナルドの低迷について一言言いたい。よく「日本マクドナルドは高価格路線に失敗し、再び低価格にしたけれど、品質問題がおきて低迷している」とか「現場の人間がトップに立ちすぎて、かつての成功体験が邪魔して同じ事しか出来ない(これは畑村さんも指摘している)」とか書かれている。でも、そもそもマック「が」低迷していると言うなら「トータルでの外食ファーストフード産業の中でのシェアはどうなのよ?」と考えなければいけない。全体のパイが減ってる中でマックだけ落ちてるとか言えないだろうに、「JKのオシャレがマックからスタバにかわった」とか言われても、JKなんてもう絶滅しただろここ数年見てないわ・・・嘘ですすみません。でも群れは見なくなって久しい。マックが「少子化で顧客数が減るから高齢者に高価格で売ろう」って思ったのは企業戦略としてはおかしくもなんともない。ただ、マックでブランドがあまりに低所得者と若者向けすぎたってだけだ。で、私は思うのだが、「かつては不味くても安いマックを食べていた客層」が「少し高くてもマシなお店に行った」風には考えられない。そういう層がまるごとコンビニに流れたからコンビニの業績があがったのではないだろうか?もっとハッキリ言うと、「マクドさえ食えない貧困層が増えた」のが原因じゃないだろうか?貧困と言うと言葉悪いけど、「高級路線の健康マックは買えないけれど、不健康安物マック買うぐらいならコンビニ飯」という質実剛健(?)な成熟市場と言うべきか。そこに品質問題とか、経営戦略の失敗とか、現場主義の暴走とか言うのはあんまり関係ないと思うな。
・もう一つは普通の技術本「工作機械が分かる」
私は工業高校ってうらやましいなーと思っているのだが、その中でも特別憧れるほど謎が多い物に「旋盤」がある。工業高校出た人はかならず「旋盤で先輩が腕巻き込まれて複雑骨折した」とか言うアレだが、人の腕を折る道具ではもちろんなくて、金属を削り出す道具だという事「ぐらい」は知っている。逆に言うと、様々な複雑な機械がある中で、どーして旋盤ごときがそこまで特殊な工具の面をしてられるのかが不思議だった。棒を削るしか能がない機械に比べったら、ボール盤の方がよっぽど使用頻度高いだろうに、家庭用ボール盤はあっても家庭用旋盤は無い。いや、「家庭用としか言いようが無い低能力の小型の安物はあるが、それでもホビーで買うには高すぎる」って所か。
しかし、工作機械という定義から言うと、旋盤というのはやはり大きな勢力というか、外せない物のようだった。工作機械の定義は「不要な部分を取り去って金属やなんかの素材を機械部品にする物」らしいのだが、削り取り方として「ワークを回して刃は固定」「刃を回してワークを固定」という分類があり、後者がフライス盤なりボール盤だとすると、前者が旋盤って事になる。つまり概念として旋盤という製作方法があるのね。実際同じ原理の物は大昔からあり、ろくろだの、木工旋盤だのにされてきた。
ただ、現在はNC切削器のような3次元的な掘削もあるし、ワークの固定か刃物の固定かという単純な物ではなくなっているような。刃先にしても何十種類の物を自動的に交換してやるみたいだ。そうそう、私はマザーマシンを工作機械と直訳して考えた事が無かったのだけれど、原理的にはそうなのだそうな。以前読んだとおり「マザーマシンが直で自分より優れた部品を作る事は出来ない」のだが、「マザーマシンが作った部品でより良い部品を作りマザーマシンを強化する」というサイクルがあるんだという話が出てきていた。特に熱変形の話が多かったかな。静的剛性が高いために、いかに機械が狂わない構造になっているのかとか。物を作る訳ではないので工作機ではないが、機械というジャンルで見ると「天体望遠鏡」なんかが非常に高度な精度を得るための技術を必要とするのと似ている。
木工で以前から疑問だった「ボール盤は大きな物体を咥えられない問題については、ラジアルボール盤というのがあるのだそうだ。これはヘッド部分だけ横にスライドするようなボール盤で、その横の桁をささえるために巨大に成らざるを得ないので一般的ではないそうな。こんな形の三次元加工機は大型の物が船のスクリューの切削に使われているそうで、案の定資料提供は東芝だった。
・先日「プレスによる曲げ加工が正義なのに、あんまり普及してない、自作出来ないのか?」と書いたのだが、早速見つけてしまった。発想があまりに素晴らしかったので備忘録。プレスの動力源は門柱油圧プレスなのだけれど、油圧プレスは基本的にはベアリングを押して抜くとかの為であって、曲げ用ではない。ただ、パイプベンダーだけは需要があるからか、アタッチメントで曲げられる。しかし、直線の板用のベンダーアタッチメントは見た事なかった。まあ、実際問題、板曲げろって言われたら金床ハンマーとかありますから、油圧使って綺麗にって需要は少ないのかも知れませんが。
その動画では門柱ジャッキにスライドガイドを付けて、幅広鉄板が落ちるようになっていて、下の部分は溝というか分割になっていて鉄板が床面より下に行くようになっています。一番分かりやすいのはギロチンですね。これに力をかけていくとあら不思議、鉄板が綺麗に曲がってました。鉄板の幅が広いので、曲げ剛性が非常に高くなっているので、力が均等にかかるようです。もちろんガイドがあり、溝の部分を中心に直角に曲げられます。今度何か必要があったら自作してみたいですね。6㎜のSS400とかって普通は曲がらないですから。
さて、プレスの重要性を指摘した薪ストーブの話ですが、昨日も運転していて「時計型が大正義なのは分かるが、これで進化が止まって良いのだろうか?改良点はないのだろうか?」と色々考えてました。熱効率に関しては板が薄いのでいいし、二次燃焼に関しては薪乾いていればあんまり関係なさそうです。しかし、吸気は火力を上げようと開くほど捨てられてしまう運命にあります。じゃあ排気からの熱回収は出来ないのか?とも考えましたが、熱交換器はどこにつけても排気抵抗になり煙突効果を下げます。うーん、なんとかして空気を入れなければ・・・と思っていて気がつきました。送風ファンを放熱用に使ってますが、これって当然吸気にも使えますよね?実際私は最初の頃はもやすのがヘタだったので、サーキュレーターで空気押し込んでましたし。
発想としては車のターボと一緒です。排気ガスにはまだ未利用エネルギーがあります。それを取り出すために新規でエネルギーを投入する必要がありますが、投入エネルギーより得られるエネルギーが大きければいいわけです。こうすれば高価な二重煙突などに頼らなくても空気を吸わせる事が出来ますし、吸い込み口も外に置く事も可能です(室内の暖かい空気を無駄に捨てない。あるいは煙突から回収した熱を吸気に回せば高温燃焼になる)。
ただ、これで煙突が要らなくなるのかとか考えるとまだまだ未完成な発想なんですよね。煙突は単に煙突効果で吸い出しているだけではなく、未燃焼ガス(煙)を高い場所から捨てて地表に漂わせないとかの役割がありますから、煙突途中で温度下げるとタールなどがそこについて煙突がつまる恐れがある。ただ、熱交換器をそういう「ガス回収機」と捉えて木酢酢を落とす構造にし、また熱交換効率のため排気と逆に下向きに送風すれば、そのまま熱回収出来て仕舞うような気もします。
・仕事はバーベルのシャフトを探し出したら錆びが酷かったので、グラインダーなどで錆びを落としてからクリーナーで洗って、シャーシブラックを吹いて防錆した。シャフト径だが27.7㎜だった。あと、少し曲がっていた、問題があるようならそこらへんで修正しないといけない。
・あとは溝切りのガイドのパーツ揃え、12㎜のパイプは縫い鋼管や無垢鉄棒もあったのだが、どちらも微妙に12㎜より太くて入らず、それじゃあと思ってホームセンターを探ったらM12の全ネジ棒ぐらいしか良いのが無かった。しかし、これを使うとガイドプレートをネジ止めで作れるので、非常に便利だと思い購入。これだとガイドの移動もネジで出来るので、両側で押さえるタイプの物も調整出来るタイプが出来る。
・午後からは組織の新年会とか懇親会で9時までボーリングしたり食事したり。ボーリング会場で久々に声を出して応援したので喉が痛い。明日はワイン会が昼からあるので楽しみだ。
Posted at 2016/01/16 22:24:42 | |
トラックバック(0) | 日記