痺れた指

1978（昭和５３）年の歌謡曲「たそがれマイラブ」

阿久悠作詞＋筒美京平作曲＋大橋純子歌の素晴らしい歌です！

この曲は文豪森鴎外を描いた同年のテレビドラマ「獅子のごとく」

主題歌として作られました。

つまりここで歌い上げられる悲恋は鴎外が「舞姫」で描く

若き日の自分（同作中では太田豊太郎）と舞姫（エリス）の恋を

「彼女の視点で」描いたものといえます。

夏に始まる恋は最初から破綻を予感させる展開ですが，

「しびれた指すべり落ちた珈琲カップ砕け散って」のくだり

どのような体勢を続けたら指が痺れるに至ったのか？

想像力を掻き立てられませんか。

これと対句を成すように２番では

「凍える手でひろげて読む手紙の文字が赤く燃えて」で再び

彼女の「手」に注目させ彼女の悲しみを語らせるところが憎いです。

歌詞の中で彼女の涙が描かれることはありません。

シャウトすることなく抑え気味に歌う大橋純子の歌唱も見事です。

ツーファイブという下手をすると通俗歌謡に堕しかねない

ポピュラーな和声進行に依りながら

導入部ではセカンダリードミナント（減七）→ドミナント→トニックという

意表を突く進行を交え，

流れるようなシンコペーションで旋律を回す筒美京平の

素晴らしい音楽はまさに涙モノ！

歌詞＋音楽＋歌唱のいずれもが非常に高い次元で調和し

聴く者の魂を揺さぶります。

当時大学生だった私は曲の背景を一切知りませんでしたが，

なぜか強い感銘を受けた記憶があります。

感動体験というのは思春期に不可欠なもの

というのが爺の持論です。

「たそがれマイラブ」
https://youtu.be/42qbdaMULwo