車でパトロールと言えば、かつて生産していた日産の四駆、あるいはその後継のサファリの輸出名ですね。
日本でサファリが消えて10年以上経つ現在でも新型が出て今も販売されています。

とは言え、新型のY62型はかつてのサファリらしい武骨さは無くなり、中東のセレブ向けの高級SUVになってしまっています…
しかし、ランクル200とプラド、70が併売されているのと同様、オフロード向けに今までのY61も並行して販売され続けています。さらに日本には無かったピックアップもあります。

日本でも是非、サファリの名で導入して帰ってきてもらいたいものですね…
さてここからが本題、タイトル見て「そんなサファリあったか?」「160の次はY60じゃないの?」と思った方もいるかもしれません。確かに日本を含めた大半の地域ではそれで正解です。
事実、日産はC31ローレル登場以降、80年代中頃までに新型車の型式の方式をそれまでの3桁の数字の1桁目が変わる型式(例・330セドグロ→430)から、現在の2桁の数字の2桁目が変わる型式(例・Y30→Y31)に変更しています。サファリもそれに則った形です。
しかし、ヨーロッパだけは違いました。
何と、初代と2代目のサファリを併売していました。
そして、ヨーロッパ独自の初代160型サファリのマイナーチェンジバージョンが、この260型なのです。
当時、日産はスペインの商用車メーカー、モトール・イベリカ社を買収して現地工場の日産・モトール・イベリカを発足させました。そこで生産された最初の日産車が160サファリでした。
買収の経緯などについては日産・トレードの記事の方に書いています。

当時のサファリラインオフ式の画像です。160サファリは西部警察の劇中車でもお馴染みですね。
しかしこの日産・モトール・イベリカ、元々日産と全く別のメーカーだったこともあり独自の開発拠点が残されました。これは未だに残っており最近では中型トラックのNT400を独自開発しました。
合併後もしばらく残されていた旧プリンスの開発拠点である荻窪事業所や、古くは軽自動車コニーを開発し、日産に買収された後はバネット・ラルゴ・セレナを開発していた愛知機械工業の開発部門に似ていますね…
そして、この開発部門が日産買収後初めて開発したのがこの260パトロールだったのです。先述したようにY60も併売されており、Y60を高級版として「パトロールGR」の名称で販売し、この260を廉価版・業務用として「パトロール」の名称で販売して差別化を図っていました。

欧州向けパトロールGR

260型はY60に先駆けること1年、1986年に登場しました。変更点はオリジナルデザインのフロントグリルぐらいであまり変更点は多くないです。あとは後述するエンジンぐらいですね…

インパネだって160と全く同じです。
Y60も160のマイナーチェンジのようなものでしたが、フロントパネルごと一新された上にオーバーフェンダーが付き、シャシーも一新され、内装もより高級感のあるものにガラリと変わりましたからね…
ただ、Y60は何故か角目から丸目に逆戻りしたのに対し、この260だと角型ライトのままでオリジナルデザインのグリルも相まってもっと近代的な顔つきになっているので、個人的にはこっちの方が好みですねw
さて、エンジンですが、当時160サファリ/パトロールに搭載されていた直6ディーゼルエンジンのSD33型は基本的には60年代の設計であり、既に旧態化していました。
そこで日本ではY60で商用車向けに新設計したTD42型エンジンを搭載しました。
しかし、欧州では260にC32以降のローレルやY30以降のセドグロなどのディーゼル車に搭載された名機、RD28型を搭載しました。
RD28型は先述した車種から分かるように本来乗用車向けのディーゼルエンジンなのですが、欧州では乗り心地や走行安定性が重要視されるからなのでしょうか…
なお、旧型のSD33型もしばらくは設定された他、ガソリンエンジンとしてRB30型も設定されました。また地域によってはガソリンエンジンで旧型のL28型も設定されたようです。
さて、この260パトロールは外観など見た目の大掛かりな変更などは全く受けずにエンジンなどの細かい改良を受けながら
2002年まで生産されました。
まあY60だって南アフリカで2001年まで生産していましたから、あまり変わらないのかもしれませんが…
生産終了までの歴史をここで紹介します。スペイン語・フランス語・ドイツ語のwikiやググって調べた結果などを参考に調べてみましたが、不明な点も多いです。
1990年、SD33エンジン設定車が生産終了し、ディーゼル車はRD28に一本化された上にターボ付きのRD28Tへと変更されます。

1992年、スペインなど一部の地域で乗用向けの「トップラインⅡ」と呼ばれる上級グレードが追加されました。メタリックカラーの設定や15インチホイール、ワイドタイヤ、ベロア調のシートやドアパネル、高度計などが装備されました。
1994年、この年をもってフランス・ドイツなどでの販売は終了したようです。これ以降スペイン国外の市場から次々と撤退していくことになります。
この年には日産・モトール・イベリカにおいて独自開発したSUVのミストラルの生産が始まっており、欧州ではテラノⅡの名称で販売されました。これを後継とする形で販売終了していった模様です。また上級グレードの「トップラインⅡ」はわずか2年で生産終了となり、再び業務用に特化することになります。この年には仕様変更などの小改良が行われたようです。
1997年に日本でY61サファリが登場し、欧州向けのパトロールGRも翌1998年にはY61に切り替わりました。

しかし、260パトロールの生産は続けられました。この頃になるとスペイン国外での販売は完全に終了しておりスペインでの国内専売車となっていました。
この頃のバリエーション一覧のデータがあるので紹介します。スペイン日産の当時の公式サイトのアーカイブにあったものです。エンジンはRD28Tだと思われます。
ユーロ導入前なので価格がペセタ(ペソの補助単位)になっていたりと時代を感じさせます。
・標準ルーフ・ショート/6気筒・125馬力/税抜2.366.000ペセタ/税込3.084.173ペセタ
・ハイルーフ・ショート(日本でのハイルーフハードトップに相当)/6気筒・125馬力/税抜3.060.000ペセタ/税込3.972.493ペセタ
・ハイルーフ・ロング/6気筒・125馬力/税抜3.319.000ペセタ/税込4.304.013ペセタ
・標準ルーフ・ロング/6気筒・125馬力/税抜2.806.000ペセタ/税込3.647.373ペセタ
・3人乗りピックアップトラック/6気筒・125馬力/税抜2.715.000ペセタ/税込3.199.872ペセタ
*オプション
・デフロック(ハイルーフのみ装着可能) 72.960ペセタ

左・ハイルーフショート/右・ハイルーフロング
1998年には最後のマイナーチェンジが行われ、ディーゼルエンジンがようやく商用車向けのTD27ETi型に変更されました。日本においてもE24キャラバン・ホーミーなどに搭載されたエンジンで、4気筒となってしまいましたがRD28Tと比べてパワーアップしています。またボディーカラーにシルバーメタリックが設定されたようです。
2002年、既存のパトロールGRやテラノⅡ、ピックアップは日産・ピックアップシリーズ(D21ダットラの現地名)に統合される形で生産終了しました。
260となってからは16年、160登場時から数えると22年に及ぶ長寿車となりました。Y31セドの27年や、サニトラの38年(国内向けは24年)には及びませんがそれでも十分長寿な車種だったのです。
なお欧州におけるパトロール自体、日本のサファリ生産終了に遅れること2年、2009年までにY61の販売を終了しています。テラノⅡも後継が無いまま2006年までに販売終了しており、日本と同様欧州においても日産のオフロードSUVは新車で販売されていないのが現状です…

ただ欧州ではダットラの末裔にあたるNP300ナバラを販売しているだけまだ日本よりマシなのかもしれません…