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イイね!
2011年10月04日

生きること、生きていること。

生きること、生きていること。 9月30日に帰らぬ人となった彼に別れを告げるため、翌日彼の元に向った。

この日は時々雨が降ったりしたものの、空は青く、空気は澄んでいた。
彼の家は広大な牧場の中にあった。
イタリア車仲間のみんなは、そのほとんどが訪れたことがあるようだが、どうしてか私だけはタイミングが悪く、今まで一度も訪ねたことがなかった。

「いいところだなぁ・・・・」

こんなありきたりな言葉しか出てこないほど、実に素晴らしいところだった。

青空と緑、それだけでこんなにも素敵な場所になるということを思い知らされた。
お通夜まで少し時間があったので、牧場の中を歩いた。
きゅう舎には馬が6~7頭ほどいただろうか。
中に足を踏み入れると馬たちがみんな顔を出してこっちを見ている。
「ひょっとして分かっているのだろうか」
彼が、今まで世話をしてくれた彼がこの世を去ったことを
この馬たちは知ってるのだろうか。
何も根拠はないのだが、そんな「気配」を感じた。

秋は既に深く、陽が短い。
彼の亡骸が家を出る頃には陽は傾き、お通夜が行われるお寺に着くころには既に薄暗かった。

彼の顔は安らかに見えた。
確かに壮絶な闘病生活を如実に物語る影もあったが
私には彼の表情がそれも含めて全力を尽くした後のような
何かをやり尽くしたような感じにも見えた。
ただ、ひとつだけ言えることは、もう病気と闘うことはないということ。
その必要はないということ。

お通夜が滞りなく終わり、クルマを置いている彼の家に戻った。
Guccy Corseの面々が使っている部屋(というより一軒家)でみんなが集まった。
私はもう一度、あの馬たちが見たくなってきゅう舎へ向った。
見ると明かりが付いている。

しかし中に入って言葉を失った。

彼のご両親が既に着替え、馬たちの世話をしていた。
近親者だけ残るお寺にいるはずのご両親が、
まるで何事もなかったかのように仕事をしている。
私は「あの・・・馬が見たくなって・・・」と言うのが精一杯。
するとお父さんが穏やかな表情で「どうぞ」と。

正直、混乱した。

一般的に考えれば、「自分の息子が亡くなった日に仕事をするなんて」ということになる。
また一方で「悲しみを少しでも紛らわすために仕事を」という見方もある。

しかしどちらも違う。
違うと思う。
彼も含め、あそこにいる人達にとって馬の世話をするということは
すなわち「生きること」に直結しているのではないか。
少なくとも我々の感覚で言う「仕事」ではない。

「生きること」と「仕事」では重みが違う。

生きること、それは呼吸をするのと同じ意味を持っているのだと思う。
我が子に先立たれるという、これ以上ない深い悲しみに襲われても
生きていかなければならない。
呼吸を止めるわけにはいかない。

そしてもうひつ。
「覚悟」の違いではないか。
自然の中に身を置いている人達は、自然の中で起こりうることに対する覚悟が違う。
我々のように便利さの中で生きている脆弱な人間とは根本が違う。
人の生き死にも自然の中で起こりうることだ。
そこには理屈も説明も通用しない。
受け入れるしかないのだ。
便利さの中で生きている人間は受け入れるしかないものを受け入れられないから
もがき苦しみ、醜態を晒すハメになる。

あの日、彼のご両親は生きるためにすべてを受け入れているように見えた。

お父さんと少し言葉を交わした。
いちばん手前にいたやや小柄な馬はやたらと人懐っこく可愛い。
「この馬は何歳くらいなんですか?」
「それは去年生まれたので、まだ1歳ですよ」
「何歳くらいから競走馬としてのトレーニングをするものなんですか?」
「だいたい2歳くらいから始めますから、もうその馬もそろそろですね」

「ありがとうございます。お邪魔しました」
と私がきゅう舎を出ようとすると、お父さんから声をかけられた。

「春から夏にかけてはイイですよ・・・子馬もいっぱいいますから」

また来よう。
そう思った。
ここに来れば彼に会えるような気もする。

そして確かなのは彼は多くの人の心にずっといるということだ。
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Posted at 2011/10/04 20:28:35

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この記事へのコメント

2011年10月5日 0:31
御久しぶりです。
ブログ拝見させて頂いて、なんとなくですが、コメント入れさせて頂きました。

以前、こんなお説教を説いていただいてもらったことあります、

目に見える肉体は滅びても、魂は生き続ける、また来世に人として生まれ出られるよう、現世に今
生かされてる人は亡くなられた人、自分の周りにいる人に感謝して徳を積む、
それが、「お蔭様」ですよ、って。

それと、私の姉が亡くなった時、住職に「忘れることは出来ないけど、何時までも執着して悲しんでいては
ダメですよ、亡くなることは、来世への旅立ちなんだから、いつまでも浄土にお姉さん行けないよ」と。


難しいんですけど、最近なんとなく理解しかけてきています。
かくいう、我が家のオヤジも、子供二人亡くしたんですが、皆の前ではいつもと変わらずふるまっていました。

産まれながらの業をなし、皆さんに慕われて旅立たれた様なので、きっと、ご家族、皆さんに悲しませたり、さびしくさせない様に見守ってるでしょうね。

特に、様々な形で「農」を営む方達は、毎日「生」と向き合っているので、故人のためにも、いつもと変わらぬ姿勢を貫いていらっしゃるんだと思われます。

私共が御世話になってる農家の皆さんも、同じく畑で防除をされています、時には葬儀の合間であろうとも。

すいません、訳わからんこと書いちゃって・・・・・・・。

失礼しました。
コメントへの返答
2011年10月5日 6:42
お久しぶりです(^^)
ありがとうございます。肉親を亡くされたkurochanのコメントには重みがありますね。

宗教によって色々考え方はあるのでしょうが、どちらも根本は「人の心」であり、私利私欲を戒めるもののように思います。
「お蔭様」というのがそういう考えに基づいているとは知りませんでした。

私も小学生のときに爺ちゃんが死んで、そのときの姿がまるでこれからどこかへ行くみたいに見えた記憶があります。
来世への旅立ちというなら、少しは気持ちがラクになりますが、肉親となるとそう簡単には割り切れないですね。
それにはちょっと時間がかかるような気もします。
ただ、日記にも書きましたように「受け入れるしかない」ということになるのだと思います。

なんとも抽象的な言い方しかできないのですが、あの牧場の風を感じていると、やっぱり彼の魂はここにずっとあるように思えてなりません。
そして彼がここにいた事実、私が電話したときに「Hataさんと同じでリハビリに歩いてるんですよ」と言ったときに、彼はここを歩いていたんだろうなと思えることが嬉しいです。

自然と向き合うことは実に厳しいものだと感じました。一方で都心に住む我々はなんともつまらんことで右往左往していることも・・・・。
ずいぶんといろんなことを考えさせられた一日でした。

でも最後に残ったのはご両親の後姿と馬たちの顔と美しい景色でした。

2011年10月5日 16:01
僕の歳になると、同ゼミだった友人の1割がもういない。最近って40代でとか、若いのに言うのが多いみたいですね。
1年で3人に逝かれた時には我が身、身辺を見回しましたよ。
なんせ同じ歳ですから、イロイロと想ってしまいます。
先日、結婚記念日にカミさんに安い花束をあげたら、それなりに喜んでいたみたいでして。
傍らで見ていた中学3年の娘もニヤニヤしてました。
『そんな2人の顔を見るため生きている』
って言うのも、ありかな?っと。
陳腐ですけれど『ささやかな幸せ』
皆んながそうなら、世の中が殺伐としたりしないのになぁ…なんて。
コメントへの返答
2011年10月5日 18:17
やはりそういうものですか・・・70代になると同年齢の半数はいないというのもまんざらウソではないのですね。
1年で3人も逝かれたらけっこう厳しいですね。先日の入院で「明日は我が身」といやが上にも実感させられましたからね。年齢的には明らかに「油断できない」時期になったと思っています。
なんと!娘さん、もう中3ですか!でもニヤニヤしててもそういうご夫婦の姿が最高の「教育」です。

>『そんな2人の顔を見るため生きている』
いち国家の大統領でもない限り、
これ以外に生きる意味はないですよね。
『ささやかな幸せ』ってもっとも大切にすべき幸せであって、それ以上は『欲』とか『オマケ』みたいなものだと思うんですよね。
私も夫婦二人、毎日笑って過ごせたら充分です。

プロフィール

「@ぼうんのう さん、バッテリーとエアコンまでやれば、走り出してすぐに効果を体感できますよ(^^)」
何シテル?   06/04 11:05
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