左ハンドル・マニュアル車

私がＭＴにこだわる理由は，あちこちで放言しているので割愛するが，それ以外にももう一つこだわりがある。
それはＭＴ車ならば，左ハンドルに尽きるということだ。
焼き鳥ならば，やっぱタレより塩だ！と好みの話をしてるんじゃない！れっきとした理由があるのだ。

誰しもクルマに乗り込むと，まず最初にシートの位置を合わせる。
なぜならば最適なドライビングポジションが，最適な操作性を生むからだ。
たとえチルト＆テレスコピック機構がなくても，バケットシートでリクライニングできなくても…
座る深さとシートの前後だけで，格好だけでも風吹裕矢になれる。
しかし，シフトパターンや，ペダル類の取付位置は依然としてそのままだ。

まず，一般的なＨパターンならば，１速←→２速，３速←→４速，５速←→６速は，左右どちらの手でシフトチェンジしようが造作ない。
２速→３速のシフトアップ，５速→４速のシフトダウンにしても，一度センター（３速と４速の間）に戻るので，何ら問題なし。
あらゆるシフトチェンジの中で最も神経を尖らせるのは，３速→２速のシフトダウンだ。
このときにシフトレバーを左手で払い退けるより，右手で引き寄せる方がしっくり入る。
また４速→５速は左手で引き上げるより，右手で押し上げる方が楽だ。
人間工学に基けば，払い退けたり引き上げるより，引き寄せたり押し上げる方が，自然な動作なのだ。
したがって，右手でシフトレバーを扱う左ハンドルの方が，操作性は高いと言える。

次に問題になる要因が，ＡＢＣペダルの配置だ。
足元の広いクルマや，ＡＴ車の２ペダルならば，レイアウトに無理はない。
しかしスポーティーな小型ＭＴ車ともなると，悪条件が重なってくる。
タイトな例として，フットレストがある場合で考えてみよう。
単に左足の休憩場所だと思われているフットレストは，実は世を忍ぶ仮の姿で…
本来は強いＧに備え，踏ん張って全身をホールドした左足を助ける，常勝チームに必ずいる名捕手のような役割なのだ。
そんな重要なフットレストをチームに加えると，ペダルは４つとなる。
そしてそれらを納める足元には，タイヤハウスという厄介なボスキャラが立ち塞がっている。
右ハンドルだと左にオフセットし，左ハンドルなら右にオフセットするといった具合だ。
アクセルは可動するスペースが必要なため，右のタイヤハウスからは逃がさざるを得ないが，フットレストは無理やり左端に納めることができる。
すなわち左ハンドルの方が，ステアリングを正対して握る上半身に対し，下半身の捻じれが少なくて済む。
女性の前では少々憚（はばか）りがあるが…
パンツの中の収まりが悪いだけで，すべてが無力化してしまうぐらい，ポジショニングは重要なのだ。

また本来左ハンドルで設計された輸入車の右ハンドルは，ブレーキマスターシリンダーをリンケージで遠隔操作する車種が多い。
そうなると，ダイレクトで剛性感のある踏みごたえは期待するべくもない。

これらが，ＭＴ車における左ハンドル優位論だ。

ところが，熱弁をふるったペダルレイアウトに関して，まったく空気を読まず，意に介さぬマシンがある。
そのＫＹの名は，スーパーセブン。
元々オープンホイールで，タイヤハウスなど存在しない。
狭小なペダルボックスにはＡＢＣペダルを配置するのがやっとで，オフセットなど不可能。フットレストなど問題外だ。
したがって，ペダルレイアウトだけに限って言えば，スーパーセブンには右も左もない。
そのブラックホールに足を突っ込めば，上半身も下半身もお行儀よく正面を向くしか許されないのだ。