2025年4月21日,東京地裁は,67年前に都立病院で発生した新生児の取り違えに関する訴訟で,東京都に対して,生みの親を特定するための調査を命じる判決を下した。
病院で,赤ちゃんが取り違えられるなんて,ドラマや小説の中の話だと思っていた。
しかしそれが,まさか自分の身に降り掛かるなんて―――
いや,正確には「自分のクルマに」だけど。
我が家にやって来るはずだったのは,ケータハム・セブン480。ナロー(細身)ボディのS3仕様。
見た目は小柄だが,(鉄パイプの)芯がある,(アライメントが整った)鼻筋の通っている子だ。
そう思って,名前まで考えていたのに…
納車を控えたある日,ディーラーから電話が入った。
「すみません,ちょっと問題が発生しまして…」
聞けば,ナンバープレート封印の儀式で,その子の車台番号と,車検証に記載されている車台番号が,違っていたとのこと。
―――まさかの他人の子?
真っ先にそれが頭に浮かんだ。
そういえば,初めて面会に行ったとき,隣で眠ていた子もセブン480だった。
セブンは,他の子たちより泣き声が大きく,検査も多岐にわたる。
もしやどこかの過程で,書類が入れ替わってしまったのでは?
隣の子はワイドボディのS5仕様。
顔は似ているが,少しぽっちゃりしている。
どうりで車検証の値が,カタログ値よりも育ち過ぎていたわけだ。
…とはいえ,クルマの「取り違え」くらいでは大事には至らない。
ナンバーはまだ封印前だったし,車検証は陸運局で訂正してもらえば済む話だ。
何よりも,肝心の本人は,ディーラーでお利口さんにして待っていた。
間違って引き取られたわけではないし,それが,せめてもの救いだったのかもしれない。
けれど,ふと…思う。
もしも,他の人のワイドボディのセブンが,そのまま私の元に来ていたら―――
「みにくいアヒルの子」のように,想像していた色と全然違う,なんかデカいと感じながらも,愛せたのだろうか?
おそらく,それでも愛情を注ぎ,手塩にかけて育てるだろう。
のちのち出生の秘密を知っても,それを記した「戸籍」だけは,そっと胸にしまったままで…
駅のベンチで,隣の女性二人が何やら楽しそうに話していた。
「やっぱM3が効いたのよ〜」
「でしょ! 私なんて財布に入れてるもん」
「私は,絵馬も書いたわよ!」
M3ってあのMパフォーマンスの?
M3で絵馬?
マジか!新型?神社で先行展示とかしてんのか?
「御守りもちゃんと身につけてる。パワー倍増って聞いたし」
御守り?
…なるほど。BMW純正のキーホルダーか?
それとも,ECUチューンで,ターボのブースト圧を上げているのか?
あれは,もうすでに御利益の域だな。さすがドイツの縁起物。
「なんか,出会いの運まで変わった気がするわ」
「うんうん,わかる!流れ来るよねぇ〜!」
わかる!
M3に乗っていると,確かに信号も青続きだし,道も空いている気がする。
あれは,気のせいじゃない。たぶんクルマが運を引き寄せているんだ。
間もなく電車が到着し,二人は笑顔で消えていった。
家でスマホをいじりながら,今日のことを思い出し,何となく「M3 絵馬 御守」でググってみた。
う!何だこれは!
「●●天満宮>学業成就・交通安全祈願・縁結び…」
縁結び… え・むすび… エムスリー…
空耳アワー?
完全に,私だけ3シリーズだった(汗)
クルマのエンジンを掛けると,ほんの数秒,インパネが銀座のネオンのように光り輝く。
赤,橙,黄,はては青までも。
注意喚起のためとはいえ,あまりのバリエーションに「お前は占星術のカードか!」とツッコミたくなる。
数えてみれば,そのかず十数種類。
消えればホッと安堵するが,点いたままだと固まる。
それが,現代のクルマだ。
ところが,セブンはそんな常識を易々(やすやす)と裏切ってくれた。
「えっ!これだけ?」
点灯する警告灯は,たったの3つ。
これはもう,場末の酒場横丁レベルで,信号機と一緒だ。
戦に万全の備えをもってした,かの諸葛孔明も驚愕する少なさである。
まずは,その3つの紹介をしていこう。
最初は,エンジン警告灯。セブンにおいて一番恐れられているボスキャラで,最も大忙しのランプだ。
二つ目,バッテリー警告灯。これだけが油臭くなく,なんとなくテクノロジーの香りがする。
三つ目,ブレーキ警告灯。異常を知らせる黄色はないが,故障の際の赤色はある。すなわち異常はないが,故障はあるということだ。
そして,特別出演でメーターの外に,シートベルト非装着警告灯があるが,なぜマークが3点式シートベルトなのか?謎である。
それ以外はというと…
半ドア警告灯?いや,そもそもドアがない。
燃料残量警告灯?燃料計すら当てにならないから,クルマを揺すって確かめる。
ウォッシャー液警告灯?それがなくても,手を伸ばして濡れ雑巾で拭けば済む。
水温?油圧警告灯?男なら,片時も計器から目を離すな。
エアバッグ警告灯?セブンには,風船が膨らむ余地すらない。
ABS?パワステ?AT?ハイブリッド警告灯?SFに出てくるドリームカーのこと?(笑)
もはや「搭載していないものは,点灯のしようがない」という潔さが,逆に痛快である。
この潔さに感心しつつ… ふと気づく。
「あれ?排気温警告灯は…?」そう,あの赤い湯気の立った温泉マークのようなやつだ。
私の知る限り,セブンにこそ必要な警告灯のはずだ。
調べてみると,90年代後半から表示義務がなくなった。
理由は,それ以降のクルマは排気温が異常高温にならないから,とのことだが,「嘘つけ!」と叫びたくなる。
セブンのマフラーは,冬なら薪ストーブで,夏ならBBQの鉄板。
排気温の異常など日常茶飯事。
むしろ「正常な排気温とは何か?」を問い直したい。
まぁ警告灯がなくとも,熱で焦げたズボンの裾が何よりの警告灯となるのだが。
こうして見てみると,セブンの警告灯の少なさは,機能の欠如ではなく,「察する力」の要求なのだ。
ランプの海に頼らず,異音に耳を澄まし,振動を感じ取り,匂いを嗅ぎ分ける。
そう… それはもはや,森の妖精に会いに行く気分。
「考えずに,感じろ」である。
少しばかり簡素すぎて,ちょっと不安。
でも,それが逆に楽しい。
それこそが,セブン。
警告灯三銃士が今日もまた,静かに,だが,確実にセブンを見守っている。
休日の朝,突然「今日はクルマの整備でもしちゃうか」と謎のやる気が降ってきた。
普段はクルマに乗るときですら「エンジン?掛けるだけっしょ?」というレベルの私が,何を血迷ったのか「タイヤの空気圧,測っちゃうぞ!」と張り切り出したのだ。
先日購入した赤いエアゲージを手に取って,ぐるりと見回す。
うぅ…カッチョいい…
これでオレもメカニックの仲間入りだ。
心なしか胸を張って駐車場に向かうと,愛車がこちらを見てる(ような気がする)。
「ほんとにやるのかよ…」という目だ。
うるさい!やると言ったらやるんだ!…
最初の難関はタイヤのバルブキャップ。
回すだけのはずが,なかなか取れない。
え?こんなに固かったっけ?手汗が凄くて滑る。
格闘すること5分,ようやく勝利。
次に登場するのがエアゲージ。
こいつをバルブに押し当てれば…って,シューーーって音がしてる!空気抜けてる?
「いやいやいや,測りたいだけなんですけど!減ってるってどういうこと?」とタイヤに文句を言う。
タイヤにゲージ当てる→ズレる→空気漏れる→焦る。
一発で決まった試しがない。
しかも数値,単位「kPa」って誰が読めんねん。
結局,4本中3本は「まあまあ」。
下手にいじった1本が「おい,お前…ペチャンコじゃねえか…」という結果に。
渋々,近所のガソリンスタンドで空気を入れ直した。
しかし!やり切った感はある。
帰り道すがら,ちょっとだけクルマに乗るのが楽しくなった。
心做しか,タイヤが普段よりスムーズに回ってる(ような気がする)。
たぶん,気のせいだけど…
最近のクルマは,例外なく外気温が表示される。
いったい外の気温を知って何の意味があるのか?
高温だろうが低温だろうが,どうせ車内はエアコンで快適なはず。
ならば,外の気温を知っても「へぇ~」で終わるだけだ。
あれは,本当に必要な情報なのか?
恐らく快適な車内とのギャップを見て,ニヤけるための優越感アゲアゲ装置なのだろう。
「外は猛暑でも,車内は設定温度20℃だぜ。ふふん」みたいな。
しかし!うちのセブンにはエアコンがない。
そればかりか,ドアも屋根もなく,あるのは暴風と太陽と忍耐と根性だけ。
夏はローストチキン地獄,冬は冷凍マグロの刑。
セブンの辞書には「快適」の二文字はなく,「心頭滅却すれば火もまた涼し」の禅の境地だ。
そこで,もうセミの声や霜ばしらから車内温度を推定するのはやめて,小さな文明を導入することにした。
シガーソケットに挿すだけの「温度計&電圧計」だ。
赤と緑のLEDが怪しく光り,ちょっとだけ近未来。
ちょっとサイバーで,ちょっとウサン臭い。なかなかイイじゃないか。
装着してみると,「12.8℃」と表示された。
「おお,そりゃ肌寒いわけだ」
これまでは「なんか寒い」だったのが,これからは「12.8℃,確かに寒い」と…
今まで以上に,震える体にも実感を込められる。
夏には40℃越えのチキンモードが表示され,冬には氷点下でマグロ認定される日も近いだろう。
数字で絶望できるって,意外と嬉しい。
でも…よくよく考えたら…
セブンの車内温度って―――つまり,外気温そのものなんだよな。
やっぱり外の気温って大切だ(汗)
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