自分で洗車するのは苦手だが,愛車がピカピカだと惚れ惚れする。
そんな愛車にうっとりしていると,得てして細かいキズを見つけるものだ。
あ?これは!
そう言えば…コンビニの駐車場へ入るときに下を擦った気がする。
こんなキズは,自業自得で諦めるしかない。
しかし,ボンネットをえぐった飛び石の痕は,怒りの矛先を探すため,頭の中のドラレコを巻き戻したりする。
それから,助手席側ドアノブの奥にある何本もの擦りキズは?
名探偵コナンでなくても,ネイルの長い犯人なんて簡単に特定できる。
さて,ここで試されるのは,相手に対してイヤミの一つも言うか?愛情を込めて赦(ゆる)すか?
今朝,ベッドでお互いが,どっちを向いて目覚めたのか?…意外とその相関性は高いと思われる。
それはさておき,本当に妻(恋人)よりもクルマの方が大切ならば,一言断っておくべきだろう。
「大切な君がケガをしないように,ドアを開けるときは気をつけてね」
もうじき,3年待ち続けたセブンが納車される。
いずれ跳ね石などでキズだらけになるにせよ,なるべくピカピカのまま維持したい。
自分では防げない助手席側のことは,同乗者には忘れずに伝えるようにしなければと思って,はたと気づいた。
セブンにはドアがない…だからドアノブなんてない(汗)
それ以前に,私のセブンは高熱のマフラーが助手席側にあるので,乗り降りにはその注意喚起が先だ。
それから普通の乗用車と違って,シートに納まるのも一苦労,勝手に余計な所を掴まれると壊れてしまう。
そんなことより…
そもそも火傷に注意しながら,アクロバティックに乗り込んでくれる,奇特な女性がいるかが問題だ(汗)
かつて私はETCが大嫌いだった。
理由は単純,ダッシュボードやフロントガラスにETC受信アンテナを貼りつけるのが許せなかったのだ。
車内の景観を損なうくらいなら,料金所で小銭をばら撒くほうがマシだと本気で思っていた。
だが,転機は2015年にやってくる。
ポルシェに乗り出すときに,ディーラーで営業マンがニヤリと笑い「ETCは必須です♪」と強要され,抵抗する間もなく,装着せざるを得なかったのだ。
さらに「ポルシェカードも作って頂きます」と畳みかけられ,なし崩し的にクレジットカードまで増えた。
こうして私のETCライフは始まった。
そもそも私は,峠を攻めたり,ワインディングロードを流すのが好きでクルマに乗っている。
しかし,自宅から峠までは1時間以上もかかるので,ウィークデーはもっぱら首都高だ。
それでも早朝や深夜の時間帯ならば,まぁまぁ気持ちよく走れる。
(断っておくが,私はDQNなルーレット族ではない!)
しかも,ETCを使えば,新都心ICから乗って,環状線で折り返して帰って来れば料金は300円。
仮に大黒PAまで行って往復しても,無限ループで何周しても300円なのだ。
こんな格安アトラクションを知ってしまうと,もはやETCなしのカーライフには戻れない。
以来ETCのお世話になっているが,今回セブンの増車に伴い,新たなカードを追加することにした。
もはやETCカードは,これで5枚目。(ポルシェカードは1枚限定だが,ダイナースならば5枚まで発行できる)
かつては導入すら渋っていた事を思い返すと,時の流れというのは恐ろしいものである。
もう,あなたなしでは生きていけない!
いつまでも自分が若いとは思っていないが,いつの間にか,老体への階段を上り始める年齢になった。
階段の段数は数えたくないが,目,肩,膝はもとより,あちこちの関節も悲鳴を上げている。
それにも関わらず,私はピュアスポーツ,セブンに乗る。
以前は神経からくる痺(しび)れも治まらず,身体への負担を考えて二の足を踏んでいたが…
人間いつか死ぬなら,死ぬ前に好きなことを楽しんでから死のうと,歳を重ねて,ついに腹をくくったのかもしれない。
ついでに言うと,ある統計で,セブンオーナーの年齢層を目にしたことがある。
最も多かったのが50代。
これは何となく想像できるが,次に多いのが60代で,継いで40代。
驚くべきことに,その次が30代かと思いきや,70代であった。
おいおいジイさん大丈夫かよ!と思いつつも,これには驚きを通り越して感動を覚えた。
車好きの中には,セブンを棺桶に選ぶ人が,なんと多いことかと!
いや,霊柩車のほうが,エアコン完備で快適かもしれないな。
ところで,セブンには応急的なルーフやドアはオプションで用意されるものの,一般的に装着しない。
だから,夏は灼熱地獄,冬は極寒地獄。(かろうじてヒーターはあるが,用を成さない)
同じオープンカーでも,ポルシェ・ボクスターやマツダ・ロードスターのようなラグジュアリーなクルマを想像してはならない。
風の巻き込みが激しく,帽子を被るならアゴひも付き,サングラスはゴーグルのほうがよろしい。
また,高速道路では息ができなくなるので,酸欠で意識を失わないように,ヨガに通って呼吸法を会得しなければならない。
小径ステアリングにはパワステなし,スロットルは電子制御なし,もちろんブレーキもサーボなしだ。
すなわち快適装備ゼロで,コックピットも荷室も狭く,移動手段としてもお買い物車としても役立たずなのだ。
こう書くと,セブンは道具としての役目を果たさないように聞こえる。
しかし,私に取ってセブンは紛れもなく道具なのだ。
なぜ人は,登山をしたり,マラソンをするのか?
限界に挑戦する高揚感であったり,それを超えたときの達成感や,登頂や完走した後の爽快感といった非日常への憧れであろう。
すなわち私に取ってセブンは,これらを満たしてくれる究極の道具なのだ。
もちろん,そんなクルマを乗りこなすにはそれなりの準備がいる。
ステアリングをねじ伏せる腕,ブレーキを踏む足,すべてがダイレクトにクルマの挙動に影響するのだから,身体の衰えはそのまま走りの衰えに直結する。
セブンが走る限り,私も走り続けよう。
息を切らしながらも,ステアリングを握る腕に力を込め,アクセルを踏む足に確かな感触を取り戻す。そう決めたのだ。
まずはジムのマシーンを使ったトレーニングからだが…「お手伝いましょうか?」とトレーナーに言われないか心配だ。
何より大事なのは,爆走中にふくらはぎが攣ったり,シフトチェンジのたびに膝が悲鳴を上げたりしない体づくりから。
ついでに言うと,脂肪を燃焼し少しでも軽くなれば,それだけセブンの軽量化にも貢献できるはずだ。
Tシャツの似合う筋肉ムキムキになって,モテようなんて下心はちびっとしかない。
ただ,セブンを乗りこなすために必要なだけの筋力を維持するのが目的だ。
こうして私は,歳を重ねながらも身体を鍛え続けることになるだろう。
セブンに乗る限り,私は老いに抗い続ける。
駆け上る階段は,老体へのものでなく,己を高めるためのものなのだ。
先日,ある集まりがあり,料亭で季節料理を堪能させてもらった。
懐石料理ゆえ,次の料理が運ばれるまでには静かな間が生まれる。
ふと見ると,先輩が席を立ち,床の間の掛け軸を眺めていた。
そこには,つがいのオシドリが仲睦まじく描かれている。
私も先輩の隣に進み出て,つい愚問を口にしてしまった。
「このオシドリは北への帰り仕度でしょうか?」
先輩は一笑し「お前も面白いことを言うね(オシドリは渡り鳥じゃない)」と肩をすくめる。
「いえねぇ,屏風に描かれた雁が,北帰行する落語を思い出しましたもので…」
先輩は「あ!雁風呂の噺だろ」と膝を打ち,そこから落語談義へと花が咲いた。
料理の合間の静寂は,思わぬ形で賑わいへと転じたのである。
このやり取りの一節が,ふと以前書いたエッセイを思い出させた。
我社の生産拠点は群馬にあり,私が工場へ行くときは埼玉から利根川を渡って県境を越える。
利根川に架かる武蔵大橋(全長687メートル)は可動堰の管理道路で,言うなればダムの上を走る橋ゆえ,上流側の半分は風光明媚な湖のようで眺めがいい。
冬はオナガガモ,コガモ,カイツブリなどの冬鳥が数多く飛来し,見る者の心を和ませてくれるのだ。
先週に続き武蔵大橋を渡ると,水鳥たちの姿はもうなかった。
北帰行のあとだったのだ。
北帰行とは日本で越冬した渡り鳥が春になり,北の繁殖地へ帰って行くことだ。
最近空を見上げることを忘れた私は,もうどのくらい,夕日に映し出された逆V字の影を見ていないだろうか?
四季のある日本では気温や気象現象だけでなく…
草・木・花・虫・鳥などの自然環境に敏感な生き物たちを見て,季節を感じ取る感性も大切にされる。
これから春を迎え,草木が芽吹き出して生き物も活発になるが,その前に暫し冬鳥たちとはお別れだ。
落語「雁風呂」の一席の中に,こんな噺が出てくる。
秋になると,雁(かりがね)は一本の枝葉(しば)を口に咥え,蝦夷松前よりもっと北国から渡ってくる。
飛び疲れると波間に枝葉を浮かべ,それにとまって羽交(はがい)を休めるという。
そうやって函館の浜辺にある一木の松という所まで辿り着くと,要らなくなった枝葉を松から落とし,日本国中へと散ってゆく。
日本で冬を過ごした雁は早春のころ,再び函館に戻ってきて一本ずつ枝葉を拾って北国へ去っていく。
あとには命を落とし,帰れなかった雁の数だけ枝葉が残こる。
土地の人たちは,その枝葉を集めて風呂を焚き,不運な雁たちの供養をしたのだという。
秋は来て 春帰り行く 雁の 羽交休めぬ 函館の松/紀貫之(きのつらゆき)
哀しい話だが,こんな話の一つからさえ季節を愛でる気持ちを忘れたくないものである。
「やっぱり山陰に行くなら,絶対カニは外せないよね!」
二人で計画していたときは楽しかった。
どの店がいいか?タグ付の松葉ガニを奮発するか?それとも食べ放題で満足するか?
そんな話をしていたときの自分たちは,まさかこんな空気でカニを食べることになるとは思いも寄らなかった。
店に入る前に,些細なことで口論になった。
原因はもう思い出せない。
ただ,彼女が「もういい」と言ったことだけが,耳の奥に残っている。
予約していた店に着いて,無言のまま席に着く。
テーブルには立派なカニ。
注文していたのは二人のはずなのに,まるで別々の時間を生きているような気分だった。
カニを食べ始めると,人は無口になる。
そういうものだと知ってはいたが今日の沈黙は違う。
無言の理由がカニのせいだけではないことが分かる。
殻を割る音だけがやけに響く。
パキ,パキ。
まるで二人の関係が音を立てて崩れていくみたいだ。
「(このまま別れるんじゃないか?)」
ふと,悪い予感が頭をよぎる。
誰もが経験するような,他愛ない口論のはずだった。
でも,カニを食べていると,わざわざ言葉にしなくても伝わってしまうことがある気がする。
沈黙は,時に言葉より雄弁だ。
上目遣いで彼女を見ると,無表情で脚の殻を剥いていた。
そこに迷いはない。綺麗に,正確に,そして静かに。
それが,余計に怖かった。
「このカニ,美味しいね」
ようやく彼女の方から口を開いた。
その言葉に,救いを感じるべきか,絶望を感じるべきか。
このまま終わるのか。いや終わらせるのか。
答えを出せないまま,ただ無心にカニを食べ続けていた。
沈黙の先にあるものを,確かめる勇気が出るまでは…
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