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2018年07月01日 イイね!

White grenede 第五話

White grenede 第五話












    8


出走番号は11番だった。フル参戦している車両が先に走り、スポット参戦は後に回されるようだ。それにジムニー&軽クラスは一番の激戦区となるらしい。やはり車種はジムニーが大半で、その他にパジェロミニや軽ワゴンの改造車があり、あと、軽トラが1台。もちろんその軽トラは、下村さんのとこの『Garage SANTANA』の車両だ。

自分の出番を待っている時間が長い。胸が高鳴る。それは緊張からなのか、それとも高揚からくるものなのか。ヘルメットの顎紐を締め直し、グローブのフィット感も確かめる。




それから、何気なく外に目をやった時、Garage SANTANAのドライバーと目が合った。

「あ…キレイな娘…」








下村さんのチームは、バイク乗りが主だったメンバーだと聞いたけど、あんなキレイな娘までがバイクに乗って、レースをしたりするんだろうか?疑問が湧き起る。

「だけど、なんだろあの娘?私を睨んでいる気がするけど…」

私は思わず目を伏せてしまった。






    9




「どうしたっスか?成海ちゃん」

「いや別に…」

つい苦笑する成海。しかし彼女の心には少々面白くない思いがあった。




「あ~~、やっぱりダメ。岩野さん、なに?あの女 !?」




きょとんとする岩野。成海の視線の先にはTraffic Eagleのジムニーに乗る端野ミホの姿があった。

「なんなのアイツ。トロそうな女」

成海は吐き捨てるように言った。




「ああ彼女っスか !? 彼女はタカ社長のとこのドライバーっスよ」

「そんなのは見ればわかる!アタシが言ってるのはさ、あんな周りに流されているだけの、トロそうな奴が、下村さんに認められてるってのが…どうにも…」

成海は途中で口をつぐんだ。




「ああ、そっちっスか。面白くないんスね。まあ、自分もそう思うんスけど、なんというか、今日は見ものっスね」




どうにも釈然としない成海。それにもう一つ疑問があった。

「それにさぁ、なんで下村さんは、突然4輪のレースをやろうって言い出したんだろ?」

「そっちは簡単っスよ」

岩野がにこやかに答えた。

「下村さんと成海ちゃん、ウチの主力選手の2人が怪我してんスから。リハビリってことなんじゃないっスかね?それに、新たな分野の開拓でもあるんスよ」

「ふ~ん…。そっか。下村さんもアタシも大怪我しちゃったしね。ちょっとバイクはまだ…。まあ、その話はまた今度…」




それでも成海は、どうにも釈然としなかった。










     10


あっという間に成海の出走順番となった。ゼッケンは10番。Traffic Eagleの一つ前だ。
成海は、岩野のセットアップに絶大の信頼を寄せている。よほどの事がない限り、破綻はあり得ない。沸々と内なる闘志が湧き上がってきた。

スタートフラッグが掲げられた。『用意』である。スターターの頭頂部に掲げられたフラッグを見やり、タイミングを計る。グローブの中の手が汗ばんでいた。自分の鼓動まで聞こえ出す。なんとも心地よい緊張だ。

それから間もなく、フラッグが“さっ”と振り下ろされた。『スタート』だ。




成海は派手に泥を巻き上げながら、第1コーナーの右ヘアピンへ突入して行く。その後に待つ45Rと30Rの右コーナーを抜け、タイトなS字へ。やはり綺麗にクリアーし、裏ストレートに進入。
時折、轍で思うように滑らず、片輪が持ち上がってしまう場面もあったが、逆にそれが観客を沸きあがらせた。








その様子を見ていた岩野は一人つぶやく。

「それでいいっス成海ちゃん。もっとガンガン攻めて下さいっス。軽トラはその名前と見た目でよくバカにされるっス、だけど300㎏以上の荷物を積んで、悪路を走るように設計された車体・足回り・ステアリング性能は、頑丈そのものっス。それはスポーツカーの設計理念にも近いんス。しかも DA62T は、他の軽トラより軽く造られていて、エンジンを始めとして、あらゆる流用可能パーツが多いんス、ちょっとした工夫で軽トラは化けるんス。オフロードの戦闘機と呼ばれるジムニーにも、引けを取らないくらいになるんス。もっともっと、ガンガンいって下さいっス !! 」




高回転域で、よりカン高い音となった軽トラDA62Tは、泥濘や轍をものともせず走り抜けて行く。まさしく軽いボディーの恩恵だった。
そして裏ストレートのドン詰まりには、きつい25Rのヘアピンが待ち受ける。
目を “カッ” と見開く成海。スピードを乗せたまま、車体を綺麗にスライドさせて行く。そして最後に、緩い丘を乗り越えゴールだった。

ゴール後、電光掲示板に出てきたタイムは1分2秒35だった。現在トップタイムとなる。


     



11


「ガガーー」 「あの軽トラ、マジですごいね!大丈夫?ミホ」
 
エリが無線で話しかけてきた。






「うん。ほんとすごいね。初出場なのに、ダークホスもいいとこだね」
「そうだね。でも気持ち切り替えて、集中してね ! 」

大丈夫。まかせておいて。口には出さなかったが、心の中でそう呟いた。そのあとは、スタートフラッグしか見えなかった。




緊張の『スタート』。

アクセルを踏み込んだ瞬間、非常に心地よいヨシムラのエキゾーストノートが、車内に鳴り響いた。スピードを乗せたまま、直ドリで第1コーナーへ進入した。これが私の真骨頂だ。次々と目の前に現れるコーナーを、すべてアクセル全開で駆け抜けた。片輪が浮こうが、フロントが流れようが関係ない。全部コントロールしきってやる。




「負けたくない」 それがすべてだ。わたしは今まで、周りに流されるように生きてきた。それで酷く困ったこともなかったし、迷惑もかけてなかったと思う。それに、人に合わせていると、引っ張ってもらえるから、楽でもあった。だけど、そんな私が見つけた、唯一、誰にも負けたくない事。それがクルマだ。「世の中には、自分より速い人がいる」とか、「上手い人はゴマンといる」とか、そんな綺麗事なんか聞きたくない。ダメダメだった私が見つけた、心からハマれる最高の遊び。




「ラストォーー」

私は最後の丘で、余計なくらい派手なジャンプを敢行した。










そして電光掲示板に出たタイムは、1分2秒57。軽トラには僅かに届かず、現在2位のタイムだった。
ゴール後、私はヘルメットを脱ぎ、大きく息を吐いた。




エリが駆け寄ってくる。

「ミホッ !いきなり軽トラのタイムに並んじゃったよ。僅かに届いて無いけど、1本目でこれは上出来」






エリは妙に興奮していた。

う~ん、でも途中何箇所かミスっちゃたんだよね~。2本目はもう少しタイム削れると思うよ」

「うん。うん。このままイッちゃおう !! 」

私はにっこりと笑った。




「あとね、さっきタカ社長に聞いたんだけど、やっぱりあの軽トラのチームって、只者じゃないんだって」




だよね。そんな気はしてた。

「なんか、タカ社長がバイクのレースをやってた時は、一度も勝ったことがなかったって言ってたよ」

「へぇ~。タカ社長ってバイクに乗ってたんだ」

「そう。オフロードバイクね。足を怪我してから辞めちゃったみたいだけど」

なんだか意外だった。










その後、次々と参加車両が出走し、ベクター・グライドの3台、#13パジェロミニが、無駄の無い走りで淡々とタイムを削り、1分2秒10でゴール。続く#14も派手さは無いものの、1分2秒03でゴール。大トリ#15のジムニー(JA11)はチームリーダーのようで、彼はなんとミホと同様、派手な走りで観客を魅了する。ゴールもまた、ミホ以上に飛距離のある大ジャンプを敢行し、1分1秒33の好タイムをマークする。

結果、ジムニー&軽クラス、フラットダート一本目の順位は、ベクター・グライドの3台が1、2、3位となり、Garage SANTANA成海が4位で、Traffic Eagleミホが5位だった。




この結果は、まったくをもって、心中穏やかでは無かった。

「エリ…」

「なに?」

「2本目見ててね、全部ひっくり返すから」

「そう」




含み笑いで顔を見合わせる。

「ふふふふふ、へへへへへへへ」





そして私達は、これでもかってくらい、不気味に笑い、強がってみせた。もちろん、周囲の人たちはいぶかしげに、私達から遠ざかって行ってしまった。










    12

ジムニー&軽クラス、フラットダート二本目。

Garage SANTANA成海は、一本目よりタイムが伸びず、1分3秒03に終わり、一本目の良い方のタイムが採用される。他の連中もコンディションの良かった、一本目のタイムを上回るチームは存在しなかった。

しかし、たった一台だけタイムを縮めた者がいた。それはTraffic Eagleミホである。
一本目は、ほとんどのコーナーを、アクセル全開 “スカンジナビアスタイル” の豪快なドリフトで駆け抜けたのだが、二本目はスピードの乗るコーナーだけ、慣性ドリフトを使う。残りは轍を読み、タイヤを引っかけるように曲がったり、外に流れるタイヤのストッパーに使うなど、轍を最大限利用しコーナーリングした。それから最後の大ジャンプは、誰よりド派手に決め、ゴールしたのだ。

そして1分1秒02という、驚異のタイムをマークし、トップに踊り出た。そこには満足げな表情を浮かべる、ミホの姿があった。



次はいよいよモーグルである。








    13

モーグルコースのスタート位置では、フラットコースと同様、一台一台の出走となるため、縦一列に車両が並ぶ。







スタート直前には、いきなり傾斜角30度のヒルクライムがあり、岩だらけのガレ場が待ち受けている。
モーグルは出走順に入れ替えがあった。フラットでのタイムが遅い順での出走となったのだ。当然、スーパーラップを叩き出した、Traffic Eagleは最後の出走となる。つまり,順位争いをしている上位5台の“大トリ”となるのである。

Traffic Eagle吉野ことヨッシーは、ラリー用のジェットヘルメットを被ったまま、ジムニーJB23の車内に収まり、アナウンスされてくるタイムをジッと聞いていた。

「#13ベクターグライド3号車、タイムは2分24秒32…。#14ベクターグライド2号車、タイムは2分23秒02…」





そしてチームリーダーである#15の1号車が出走する。

「でたー-!#15ベクターグライド1号車、ぶっちぎりの2分20秒フラットォーーーー !!」




ヨッシーは大きく深呼吸をした。

「大丈夫。大丈夫。練習どおりやれば優勝だ」

一人つぶやき、スタートフラッグを睨んだ。





『スタート』。  









JB23の音が明らかに変わっていた。Traffic Eagleのメカ担当でもあるヨッシーは、この短時間で、トルク重視のセッティングを施したのだ。

ヨッシーは、あっという間にガレ場のヒルクライムを登頂した。







今度は緩やかなダウンヒルだが、そこには無数の廃タイヤがランダムに埋められている。

「おおおお!タイヤが地面から生えてやがるーー」





ボコンボコン、ベコベコ、ギュギュギュ。タイヤが潰れ擦れる音が気持ち悪い。

「おうっ、おうっ、おうっ」


飛び跳ねながら順調にクリアーして行く。次は大岩だらけのロックセクション。ヨッシーは一瞬でラインを読み、即アタックする。

「許せジムニー、このラインじゃないとトップが取れん!」





ヨッシーの言う『このライン』とは、大岩を乗り越え、車幅ぎりぎりの箇所をスリ抜けるという、かなり無茶なものだった。その大岩を乗り越える際、派手にバンパーが破損した。嫌な音が耳に残る。




「もう一丁!」

次に岩と岩の間のスリ抜けでは、フェンダーを潰した。ヨッシーは、自分に苦痛を受けているかのように顔を歪める。





「おっりゃーー!次っ!」

今度は傾斜角40度に達する、壁のようにそそり立つヒルクライムだった。JB23は、咆哮しながら、力強く丘を駆け上がる。







 それから登頂後は、お決まりのごとくダウンヒルなのだが、そこには40度の傾斜にプラスし、不均等に配置されたコブの斜面が待ち受ける。

「みんなここで大きくタイムロスしているはず。だけど俺には秘策があるんだ!」







その時、ヨッシーが思い描いていたイメージは、スキーのモーグルプレーヤーが、斜面のコブを板で叩くように滑るさまだった。







そしてそのイメージと、目の前に広がる光景をリンクさせ、アタックに入る。

「おおっりゃーーー!」




JB23が飛ぶ。コブの斜面へ着地、それから一気に向きを変え、更に飛ぶ。見たことも聞いたことも無い、とんでもないドライビングだ。それは正しく “スキーのモーグル” と同様の動きだった。
右へ左へ飛び、途中転倒しそうになりながらも、なんとか全てのコブをクリアーする。

そして最後のヘアピンを、綺麗なドリフトで駆け抜け、無事にゴールした。















    14


戦士達に安堵をもたらす、トワイライト。表彰台の前に、観客及び出場者達が集まっている。







そこへ、ドンッ!っと貼り出された順位表には 『4位Traffic Eagle』 の文字が…。
そう、結果は4位に終わった。

結局、このレースはフラットダートとモーグルの、タイム合計が勝敗を分ける。つまり、ヨッシーはやらかしてしまっていた。上位争いの中では、最後のタイムだったのである。
  


1位、#15ベクター・グライド1号車

2位、#14ベクター・グライド2号車

3位、#10 Garage SANTANA軽虎1號

4位、#11 Traffic Eagle

   以下省略




それを見たTraffic Eagleチーム員は、お笑い番組に出ているタレントのように、ズッコケていた。それにヨッシーは、肩を落とし、あからさまな落ち込みを見せている。彼の回りだけ暗雲が立ち込めているようだった。











「ヨッシー…手前ぇ…やっちまったなぁ…」

タカ社長の顔は強張り、唇がヒクヒクと動いていた。





「タカ社長、もういいじゃないですか」

ミホがなだめた。

「おう、端野ミホ、お前はよくやった。フラットダートのレコードと、個人MVPまでもぎ獲ったからな。しかし、よぉ~しぃ~のぉ~!!」




 ヨッシーの弁解。

「いや、その、タカ社長…違うんですよ、コレはソノアノ…」

「ああ~~ん !?」

「つまり…。ごめんなさぁーーーい ! 」

ヨッシーは一目散に逃げ出した。




「あっ ! 手前ぇ、待ちやがれ !! 」

タカ社長もダッシュで追いかける。が、この時、タカ社長の走り方は、少々ぎこちなく見えた。




「そういえばタカ社長、足に怪我したってエリが言ってたなぁ」

ミホはそんな事を考えていた。





ゴロゴロと遠くで雷の音が聞こえた。秋の終わりも近い。じきに嵐がきて、紅葉は全て散り、またこの地は白銀の世界に包まれる。

「以前は冬って楽しかったんだけどなぁ…今は大嫌い。ほんと嫌な季節がきちゃうなぁ…」




ミホのその言葉は、明らかにホワイト・グレネードへの嫌悪感を指していた。あの恐怖が蘇る。

また遠くで雷の音が聞こえた。







つづく
2017年02月08日 イイね!

White grenede 第四話

White grenede 第四話


      


レース当日、帯広市のオープンエリアは、とんでもない賑わいを見せた。
『 D C C (ダートチャレンジカップ) 』 は、以外にも人気種目であることを物語っている。












色とりどりにペイントされた派手な4駆のクルマが駐車場には溢れかえり、どれもコンテストさながらの完成度を誇っている。ほとんどがリフトアップされ、極太マッドタイヤでビルドアップされたクルマ達だ。更にはキャンピングカーや牽引トレーラーまで。それからテントなんかも持ち込み、バーベキューをしている家族の姿も見受けられる。まるでお祭りだ。すっごくワクワクした気持ちになる。










そんな様子に眼を輝かせていた私の頭を、タカ社長は後ろから小突いてきた。

「端野ミホ、ボケッとしてないで、よく聞いとけ」




もう~。なんでフルネームで呼ぶの?

「このレースは4月から10月にかけて4戦あるシリーズ線だ。今回は10月期の最終戦でウチはスポット参戦となる。基本的には、ナンバー付き車両のオフロードタイムアタックで、フラットコースとモーグルコースを同じ車で走るのが決まりだ。フラットは多少のアップダウンがあるダートコースで、モーグルは傾斜角が40度もある谷や丘の凹凸路を走る。両方のコースを2本ずつ走ってタイムの良い方を合計し、順位が決められる。ドライバーは2人1組のペアが決まりで、どちらかがそれぞれのコースを走る事になるぞ。フラットならフラット、モーグルならモーグル、といった具合に専従化されるんだ。つまり両方のコースを一人で走る事は出来ない」




うん。うん。ああ早く走りたいなぁ。




「今回は端野ミホがフラットで、ヨッシーがモーグルだ。いいな」

うん。だからなんでフルネームなの?




「ええ。自分もそれで問題無いです。フラットはミホちゃんの方が速いですからね」

「ああ、すまんなヨッシー。本当はエースのお前をフラットで走らせたいんだが、今年こそトップを獲りたい。万年2位はもう御免だからな」




そうなんだ。そんな大事なレースなのに私を使っちゃうの?いいの?それからつい口に出てしまった。

「あの…タカ社長…私なんかを出しても良いんですか?タカ社長が走った方が…」

「バ~カ、端野ミホ。お前それが謙遜のつもりなら俺達をバカにしてるぞ!お前はウチに入社してからこの半年で、一番のスピードを手に入れちまってんだからな。みんな納得済みなんだよ。まあ、穴掘りはド下手だがな(笑)」



みんな小さく頷きながら微笑み、私に視線を集めていた。私は思わず下を向いてしまう。





「ミホ頼んだぜ。きっとお前なら、このレースの目玉になれるぜ」

はい。無言で頷いた。ジョーさんありがとう。




「フラットは一番時計でボクに繋いでね。そうしたら、気持ちに余裕ができるからさ(笑)」

はい。またもや無言で頷いた。必ず一番でヨッシーさんに繋ぎます。



「ミホちゃん、無茶し過ぎてクルマを転倒させちゃ駄目だよ。レースは無事に帰るまでがレースなんだからさ」

はいスミさん。ちゃんと走らせます。




「いまやお前がエースだ。 穴掘りはビリッケツだがな。ははは」

はい。タカ社長。しつこいなぁ。でもどうして 『 カトウタカ 』 って言ったら怒るんですか?
聞きたいけど聞けない。




すごくすごく、みんなの気持ちが嬉しかった。




「アンタなに泣いてんのよ」

突然の、エリのセリフに顔が赤くなる。



ちょっと!なに言ってんの !?

「ちょっエリッ!私は泣いてなんか…て、あ…」




みんな私を見てニヤニヤ笑っていた。 ああ、やられた。悔しい。エリにまんまとかつがれた…。










     


 今回のレースは 『 ジムニー&軽クラス 』 にエントリーしてある。そのクラスでは総勢15台と30名の選手達が一台ずつ出走し、タイムアタックすることとなる。私はフラットダートのスタート付近で順番待ちをしていた。







今回ウチで使用する車両は、会社のデモカーでもある特別仕様・ジムニーJB23で、APIOというメーカーから出されている “ スーパーつよし君ビルシュタイン・安心サスペンションキット ” を始めとした “ TSB ” フルキット装備のカスタムマシンだ。しかもオプションのヨシムラ・チタンマフラーまで取り付けられ、豪華絢爛もいいところだ。もちろんオレンジ色にオールペンされ、ドアには鷹のマークも入っている。











ちなみの私の “ ロックさん ” も TSB のキットが入っている。
しかし、ヨシムラマフラーは高価なので着けられなかったけど…。

JB23はレカロのシートで私を迎え入れ、程よいホールドで包んでくれた。MOMOのステアリングを撫でてみる。
手に吸い付くような形状が心地良い。









「うん。今日はイケそう」

そう呟いた時、無線が鳴った。




「ガガーー」「ミホ聞こえる?」


エリだ。




「うん。聞こえるよ。どうしたの?」

「う~ん、まあ、なんていうか実況中継。他の車両の状況を、リアルタイムで伝えようと思ってさ」

「そう。ありがと。そうだ、さっき聞きそびれちゃったんだけど、このコースのレコードってどのくらいなの?」

「ああ、ちょっとまってね、今教えてあげるから…どこだったかな…ああ、あったあった」




エリは手元資料を探しているようだ。

「そうね、私らがエントリーするのは『ジムニー&軽クラス』なんだけど、フラットがだいたい全長1.7㎞位のコースで、1分5秒が一つの壁みたいね。トップタイムで1分1秒台。モーグルは1㎞位の長さなんだけどタイムは2分25秒が壁で、トップタイムは2分21秒台ってとこかな」

「そうなんだ。転がったら失格?」

「ううん。 オフィシャルがすっ飛んできて、すぐに車を起こしてくれるみたいよ。 走行可能ならそのまま続行するみたい」

「う~ん、じゃあ要注意のチームとかは?」

「ああ、なんて読むんだろコレ?ベクター…グ、グラ…」

「わかった!ベクター・グライドでしょ !? 」

「う~ん多分そう。知ってたの?」

「うん。さっきね、私のスキー板と同じ名前のチーム名があったから覚えてたの」

「そうなの?でも、そんな堂々と名前をパクッて大丈夫なのかね?」










エリと会話していると、なんだかとても気持ちが落ち着く。ずっと一緒だったからかな?
やっぱり私達は2人で1人なんだ。

「エリ、一つお願い」

「なに?」

「ここのコースは頭に入っているんだけどね、私が走っている間、ずっとナビしててくれない?」

「それは良いけど…。 うん。そっかわかった。2人で闘うんだね!」

「そう。よろしくね」

「GPSでしっかり見ていてあげる。 うん。 きょうでぇ~、しっかりアクセル踏めよぉ~(笑) 」




他愛のない会話。でもやはり、エリが近くにいると思うと、私には元気が湧いてくる。




その時、軽快な排気音と歓声が響き渡り、第一走者がスタートした。











つづく






2017年01月15日 イイね!

White grenede 第三話

White grenede 第三話 
    5


暑い暑い夏が終わった。うちの会社は、お盆も業務を休んでいなかったので、お供え物や花の集荷と配達で、てんやわんやだったが、16日を過ぎた頃には、普段どおりの業務に戻っていた。それに北海道はお盆を境に、不思議と涼しくなり、空気が一気に秋の装いとなる。大雪山は紅葉が綺麗だし、食べ物は美味しくなるし、良い季節に突入だ♪












オレンジ色にオールペンされた、会社のジムニーJB23(軽規格)は実に快調だった。10万㎞以上も走っているエンジンとは、とても思えない。3気筒で高回転を多用する、しかもターボエンジンは、どうしても寿命が短くなってしまう。にもかかわらず、以前から感じてはいたけど、K6Aってエンジンは、本当に耐久性に優れている。凄いなぁ。なんて、クルマを走らせながら考えていた。





更に今日は、とてもラッキーな日で、朝イチの荷物は一つだけ。しかも私が大好きなお店への配達だった。そこは 『 下村二輪 』 というバイク屋さんなんだけど、その社長さんが、すっごく格好良いんだよね。年齢はたしか27歳くらいで、何年か前に旭川市の 『 Garage SANTANA 』 というお店から、この帯広市に進出してきて、小さなバイク屋さんを、一人でひっそりと営業している。










ただ、その社長さんには色々な噂があって、20人からの荒くれ者を相手にして、全員をやっつけてしまったとか、プロの格闘家を再起不能にしたとか、ナイフで刺されても死ななかったとか、とても恐ろしい “ なんとか・ランナー ” というライダーに、バイク勝負を挑んだとか。そんな話を聞いたことがある。
でも、どれも眉唾な情報。本人とお話したら、そんな乱暴者的な要素は、微塵も感じないから、たぶん嘘なんじゃないかと私は思っている。









「おはようございま~す。下村さんいますぅ~」











出来るだけ可愛く声をつくってみる(笑)、すると事務所と隣接する、作業用スペースのシャッターが開けられ、作業服(ツナギ)姿の男が出てきた。

あれ?誰だろ?筋肉質で厚みのある体型。発達した前腕筋と下顎は、まるでポパイを連想させる。そして非常にクセの強い髪の毛を押さえるため、白いタオルで頭を覆っていた。










「くわぁぁぁ~~」

その男は大きく欠伸をしながら、眩しそうに朝日を拝み、胸ポケットからクシャクシャになったセブンスターを取り出し、火を点け、ゆっくりと煙を吐き出した。


「ふぅぅ、太陽が黄色く見えるッスよ…」




え?誰?ここのお客さん?私はその異様とも取れる風貌をみて、思わずフリーズしてしまった。




「あれ?宅配屋さん?」

その男は私の恰好を見て、問いかけてきたのだが。





「あああ、あの、あの、わ、わたし…」

つい、口ごもってしまった。




「下村さ~ん、なんか荷物届いたッスよ~」

ポパイが素っ頓狂な声で下村さんを呼んだ。




「おう、いま行く」

良かった。事務所の奥から、下村さんの声が聞こえてきた…、かと思いきや、今度は甘く香ばしいコーヒーの香りまでも漂ってきた。 ああ、これこれ。ここに来るもう一つの楽しみ。下村さんが淹れるコーヒーが、とっても美味しいの。









それから、作業用ツナギの上半分を腰に巻きつけ、黒いタンクトップ姿の下村さんが、コーヒーを手に現れた。

「やあミホちゃん。おはよう。時間あるなら休憩していきなよ」




嬉しい。下村さんのお誘い。もちろん喜んで♪。とても優しい眼差しで、にっこりと微笑まれ、私は “ キュン死 ” しそうだった。




「いつものモカブレンドだけどさ。朝は頭がスッキリするぜ」

コーヒーを手渡された。う~ん、もうダメ。好きにして。と言いたい(笑) 
しかし、こうしてよく見ると、下村さんの細く引き締まった、筋肉質な身体には、無数の傷跡があるのがよくわかった。でも、とても素敵な細マッチョだった♪




「俺達、昨日から徹夜でさ。レース用車両を作っていたんだ。いまミホちゃんが持ってきてくれたそのパーツを組んだら、昼からシェイクダウンだ」

そう言い。下村さんは、作業用スペースを指差した。そこにあったのは、ワインレッドにオールペンされ、さまざまなカスタマイズが施された 『 スズキ・キャリーDA62T 』 いわゆる軽トラックだった。驚いたことに、リフトアップされ、太いマッドタイヤまで履かせてあった。









「え?コレでなんのレースに出るんですか?」

思わず聞いてしまった。ちょっと失礼だったかな。




「ははは。笑えるよね。帯広のオープンエリアで開催される 『 D C C (ダートチャレンジカップ) 』 だよ。岩野がさ…、あっ、そこの彼がね、軽トラはスポーツカーに近いんだ!って言い出してさ。わざわざ旭川からここに持ってきたかと思いきや、あっという間に、こんなんにしちまったんだ」





「そうなんですか。でも軽トラって…。凄いバイタリティーですね。こんなアフターパーツのない車両を、よくここまで仕上げましたね !? 」

ほんと驚愕に値する。




「ハイッス!よくぞ聞いてくれました!」

決して聞いてはいないけど、岩野さんという人がしゃべりだした。





「流用の効くパーツを探すのって、宝探しでもしている気分だったから、楽しんでやったッスよ。兄弟車のエブリィのターボエンジンに載せ換えて、スズキ純正LSDをシム増しして前後デフに組み込んで、チャタリングが起きやすいリヤはツインショック化して。まあ、板バネベースでやって行こうと思ってんスよ。レースに出るっていっても、基本はバイク搬送用のトランポッスから。あとロールケージは自分のワンオフッス!名付けて “ 軽虎1號 ・ トランスポータースペシャル” ッス !! 」

なんだかよく分からないけど、凄いのだけはよくわかった。




「…(汗)なるほどな、まあ、そのネーミングは置いとくとして、なかなか面白そうなレースじゃねーの、その “ D C C ” ってよ。フラットダートと凹凸路のモーグルコースを走って、その合計タイムで順位を出すんだろ?しかも2人1組のペアで」

「はいっ。自分と成海ちゃんで走るッス」




下村さんと話していた、岩野さんという人は、急に私にも話しかけてきた。

「て、あっ、この軽トラね、成海ちゃんって、ウチ ( TEAM SANTANA ) のメンバーの娘のクルマでね、コレがまた、すっごいジャジャ馬娘なんスよ。でねでね…」




そんな調子でグイグイ迫られ、少々引き気味の私を見た下村さんは、助け舟を出すように、岩野さんという人の話を遮った。

「ははは(汗)。 でも10月のレースは君も出るんだろ?昨日タカ社長がここに来て、ヨッシーさんとミホちゃんのペアで出場させるって言っていたよ」

>「えっ?なんですかソレ !? 初めて聞きましたけど !! 」

「あれ?そのなの?まあ、昨日の今日だからね。まだ伝えてなかったのかな。でもミホちゃんはすごいなぁ。あのタカ社長に認められたんだね。一つお手柔らかに頼むよ。ウチは、2輪のレースはよくやっているけど、4輪はお初だからさ」




そう言い、下村さんはニッコリと微笑んだ。ああ、とろけちゃいそう。ほんとに素敵♪




でもタカ社長め~~。どうしてそんな大事なことを早く言わないかな~。心の中で悪態をつきつつも、なんだかワクワクした気持ちにもなってきていた。












つづく





2016年12月02日 イイね!

White grenede 第二話

White  grenede 第二話











      


長い長い冬が明けた。北海道の春は良い。一斉に芽吹く新緑の若芽は、山一面を美しいライムグリーンに変えるのだ。たぶん 『 新芽を楽しむ 』 というのはこういう事なんだろうな。
私は泥の上に寝そべり、どこまでも蒼い空と素敵な白樺の木を眺めながら、現実逃避をしてしまった。




「オラーーー端野ぉーー !! 休むんじゃねぇーーー !! もっと掘れぇぇぇぇぇ !!! 」

メガホンを通した電子的な響きで、社長の怒号が飛んできた。




「は、はい~…」

疲労なのか、心が折れたのか? いうことをきかなくなりつつある自分の身体に、社長の喝が重く響き渡る。
で、いま何をしているのかって? ふふ、それは穴掘り…。 スタックした自分のジムニーJA22のタイヤを掘り起こしているの。




Traffic Eagle (トラフィック・イーグル) の社員は、月に一度の総合訓練というものが義務付けられている。普段は代わり順でお休みを貰っているんだけど、月に一度だけ、会社自体に休日を設け、社員全員で…あ、全員っていっても6人だけど、みんなでオープンエリアに集まり 『 どんな状況下でもジムニーで生き残る訓練 』 なるものをやっている。

この帯広市郊外にあるオープンエリアは、オフロード走行のドラテク(ドライビングテクニック)を鍛えるのに最適な場所で、加藤社長が独自に設定した、フラットダート、クロカン、ガレ場、泥濘などのコースを走るんだ。勿論、社長のタメになる講習もセットでついてくる。たとえばウィンチやチルホールの使い方とか、滑車の使い方とか、ロープの結び方とか…えーと、えーと、その他にもいろいろ。

ちなみに、個人で貰うお休みの日も、一人でココに走りにきている。どうも私は、同世代の子たちと同じように、ショッピングをしたり、お洒落なカフェでお茶をしたりとか、そういうのを楽しめないんだよねぇ。 そんな事より今は、私の新しい相棒になったロックさん(ジムニーJA22)と走っている方がずっと楽しい。本当に充実した日々だよ。
で、今は泥濘にはまってしまい、脱出させるのに、うちの会社で積載が義務付けられている、折り畳み式のスコップ、通称・自衛隊スコップを使い、一生懸命に泥を掻き出しているの。

そうそう、ロックさんの名前は、私の好きな海外ドラマ 「ロスト」 の ジム・ロック から頂いたんだ。JA22の角ばった男らしいフォルムにぴったりの名前でしょ(笑)いかにもサバイバーって感じ。




ああ、いけない…また現実逃避しちゃった…掘らなきゃ…。

私の隣では、元自衛官だった城ケ崎(通称ジョー)さんが、凄いスピードで穴を掘り、自分の SJ413 ( 輸出モデルのジムニーSAMURAI ) を、あっという間に脱出させた。さすが穴掘りにかけては、30分で塹壕を作れる!と、豪語するだけのことはある。

でも、私はコレが一番苦手…。まいったなぁ…。 もう腕が自分のものじゃないような、そんな錯覚を覚えるくらいに…
ああ… ダルい…。













      


朝の9時から始まった訓練も、お昼休みに入った頃には、もうヘロヘロだった。泥にまみれ、チカラを使い果たし、精も根も尽きてしまいしたよ。だけど、お昼に皆でやるジンギスカンだけは別格だ。どんなに疲れていても、この独特の味と匂いは、身体の奥底から元気を湧き起こしてくれる。ああ、やっぱり私は道産子なんだなぁ、と思う瞬間でもあった。しかも、今日はとっても美味しい、生ラムが山盛りだ。




炭の火加減に注意しながら、肉の世話を焼いている専務の住谷(通称スミさん)さんがおもむろに呟いた。

「タカさん、ミホちゃんは女の子なんだから、もう少し手心というかさ」




「ちょっとスミさん、タカさんはやめてよ。俺の名前は加藤鷹一(かとうよういち)なんだから、せめてヨウさんとかにしといてよ。タカさんなんて、まるで “ カトウ タカ ” みたいじゃないか」




なんだかよく分からないが、社長は赤い顔をして 『 タカさん 』 というあだ名に反論していた。私はタカさんって、とっても良いと思うんだけど。




「まあ、いくら女だからってねぇ、訓練を甘くしたら訓練にならないんだよねぇ。ウチに入ったからには、ちゃんとこなしてもらわないとさ」




「ええ、ええ。充分わかっていますよタカ社長」

私はきちんと納得し、タカ社長の意見に頷いた。そうじゃないと 『 どんな状況下でもジムニーで生き残る訓練 』 の意味がない。そう、あの時の感動は忘れない。




「端野ぉ、てめえまで “ タカ ” と呼びやがったなぁ~」




うん?どうしたことか、タカ社長の言葉は怒気をはらんでいた。ああ、それにしても生ラムは美味しい。私は幸せいっぱいの顔で、焼けたお肉を、思いっきり頬張った。




「くっそ、てめぇ~~」




タカ社長は何を怒っているんだろう?














  
   


昼からの訓練はお手のものだ。アップダウンを含んだ、フラットダートをひたすら駆け巡るんだ。これは言ってしまえば、一人耐久レースだ。ひたすら滑る路面をコントロールしながら、ただただ走り続ける。

ジムニーのペダル配置は、前まで乗っていた、アルトワークスに似ていたことから、そんなに苦労はしなかったが、このシートの着座位置と、車高の高さは少々慣れがいる。普通に走っている分には、何の問題もないのだが、いざ、ドリフトさせるようなスポーツ走行では、途端に不安な気持ちになってしまうからだ。

大きなRの右コーナーが迫る。そしてすぐ後ろには、この会社で一番のテクニシャンと言われている、吉野(通称ヨッシー)さんのジムニーJB43(1.3L国内仕様)も迫ってきていた。
ブレーキングでしっかりフロントに荷重移動し、ステアリングを切りスライドを開始する。充分スピードがのっているから、リヤが出る前にカウンターを当てて、コーナーへの進入となる。が、Rが深い。途中、スライドを維持させるため、私はクラッチを何度か蹴った。











『ガガーー…』 突然、積載している無線機が鳴った。

「ヤッホーみんな聞こえる?」 エリの声だった。






私は会社から支給された、ラリー用ヘルメットに設置されている、10W無線機のマイクに叫んだ。

「ちょっとエリ、いきなり変なタイミングで話しかけないでよ」




コーナーリング中だったので集中が乱れた。それにヨッシーさんは、私以上に乱れたらしい。ルームミラーに映るJB43は、距離が少し離れていた。




『ガガーー』 また無線機が鳴る。

「ごめんごめん。でも皆走りながら聞いて。今日の午前中に納品になった、この新しいGPSシステムはすごいよ!」

エリは少々興奮気味だった。

「皆の位置が、かなり正確に表示されるんだよコレ!すぐに実践投入したくってさ、タカ社長に断って持ってきちゃった」




やっぱりエリは興奮していた。それも無理はない。Traffic Eagle でのエリの仕事は、全員のナビゲーションなのだ。会社内で指令台の前に座り、目的地を目指し走っている皆に、渋滞情報や、迂回ルートから割り出す到着時間まで、すべて細かい指示を出すのだ。それに集荷の受付や、各種伝票整理をはじめとした事務全般も、専務のスミさんと二人でこなしている。そんな、なんでもやってしまうエリ。彼女もまた、私と同様、O広T産大学に在学していた時は、親に獣医の道を薦められていたが、それを躊躇いもなく捨て、この会社に入ったのだ。

みんな 「 信じられない。意味がわからい 」 なんて言っていたけど、私達は微塵の躊躇いも後悔もない。それは、ココが “ 私達の目指したいゴール ” なのだから。




「いいよ~ミホ。そのままペース保ってね。次は左30Rだよ。ヨッシーさんもそのままでいい感じ。あっ、ジョーさんはもっとペース上げて。ヨッシーさんから50m離れてるよ」







エリは本当に張り切っていた。それに彼女の声を聞いたら、なんだか元気も出てきた。私も頑張らなきゃ。アクセルを踏む足に力が入る。すると…




『ガガーー』 「よ~~し、良いぞ~~お前ら。そのまま1時間走り続けろ!」

突然タカ社長から血も涙もないような、鬼の指令が飛んできた。




えっ嘘でしょ!もう30分も走り続けてんだよ !? そろそろラストじゃなかったっけ?
無線でそう伝えようとした時、タカ社長の笑い声が聞こえてきた。

「ふふふふははははは。俺の名前は加藤鷹一(かとうよういち)だぁ~~」




「あ~あ、社長怒ってるよ…」

次にはヨッシーさんの声が入ってきた。う~ん。タカ社長は何が気に入らないんだろう?やっぱり私にはわからない。
















つづく



2016年11月16日 イイね!

White grenede 第一話

White  grenede 第一話
あらすじ

真冬の北海道、道東地方を襲うホワイトグレネード、それは爆弾低気圧の一種であり、大量の降雪と、絶え間なく吹き続ける、強い風の気象現象を指す造語。
これは、そんな自然の猛威に挑み、人々に希望を与えた、一人の女性、端野ミホのクルマアクションストーリー。









この物語は、北海道の道東で、命をかけてホワイトグレネードから我が子を護り、帰らぬ人となった偉大な父親に捧げます。

                                              むらっち2











  登場人物

○端野ミホ(22歳・女)
 イメージキャラ ・ E-girls 鷲尾 伶菜
 主人公。鷹のマークの運送屋 「 Traffic Eagle 」 に入社した新社会人。





○白滝エリ(22歳・女)
 イメージキャラ ・ E-girls 楓
 ミホの友人。会社の同僚。


○加藤鷹一(32歳・男)
 イメージキャラ ・ 加藤 鷹
 Traffic Eagleの社長。


○住谷(40歳・男)
 通称スミさん。Traffic Eagleの専務。


○吉野(27歳・男)
通称ヨッシー。Traffic Eagleの同僚


○城ケ崎(26歳・男)
 通称ジョー。Traffic Eagleの同僚











         1


去年、私、端野ミホは、O広T産大学に通う4年生だった。ただ、何となく良い大学に入れたが、私は勉強するより、クルマで走っている時間の方がずっと好きだった。
そんな調子なものだから 『 自分の目指したいゴール 』 つまり、良いと思える就職先も決められず、ダラダラと学生生活を送ってしまい、最後の冬を迎えていた。

そんな就職先も決まらないまま 『 いまさら慌ててもしょうがない 』 との思いから、似たような境遇の友達と2人で、地元のS峠にクルマで走りに来ていたんだ。 これはそんな時に起きた事件…。 ううん、私達の運命を決定づけた、邂逅だった。







その時の私の愛車は、親に頼みこんで買ってもらった “アルトワークスHA -12 S”だった。

そして、その似た境遇でクルマ好きの友達とは、白滝エリだ。同級生であり、私の良き相棒。すごく美人で頭が良くて、機転が利く。 事実、成績は常にトップクラスだし、男の子達はみんな彼女の事が好きだ。それに類まれな観察眼を持ち、臨機応変の対応も得意としている。

以前、クルマ好きの先輩に着いて、ラリーの真似事をした時があった。もちろん私がアルトワークスでドライバーを務め、エリはコドライバーをかってでてくれた。その時のエリは凄かった。あっという間にレッキ帳を作ったかと思うと、いざ走りの現場では見事なナビで指示を出し、私達のコンビは、あるレースで、表彰台は逃したものの、初出場で4位という大善戦をしたのだ。
その成績は、もちろんエリの力によるところも大きいが、私のドライビングスキルだって、なかなかのものだったと思う。




今日はそんなエリに、以前から思ってた疑問をぶつけてみた。

「ねえ、エリ。エリはなんでクルマのステアリングを握らないの?絶対に凄いドライビングが出来ると思うんだけど」




「ちょ、ミホ!アンタしっかり前見て運転しなさいよね!そこ、キツイ右だよ!」




 吹雪で若干視界が悪いものの、私はコーナー手前から、車体を横にして進入し、絶妙なアクセルコントロールで、ゼロカウンターの姿勢を作り、綺麗にコーナーを立ち上がってみせた。

「ねえエリ、なんで?」




「うっさいわね… そんなの運転が下手だからに決まってるでしょ…」

「え?そうなの?」

「そうよ。全部、理詰めで運転できるほどクルマは甘くなかったのよ…、だからアンタのドライビングに惚れて、いつも隣に乗せてもらってるの」





私はハトが豆鉄砲を食らったような顔をしてしまった。

「以外…、エリにも苦手な事があるんだね…」





その瞬間だった、エリが急にヒステリックに叫んだ。

「ミホ!ダメ!次の左コーナー、サイド引いてスピンして !! 」




私は考えるより先に手足が動いた。エリの指示どおり、その場でスピンし停車しようとした。が、完全停車する寸前、自分側のドアに “ボフッ” と軽い衝撃を感じた。窓ガラスの先、なんとそこには見事なまでの、雪壁がそそり立ち、進路が完全に塞がれていたのだ。




「ふぅ~、ヤバかったねぇ…」

「えっ?コレなんなの?」

「吹き溜まりだよ、それにしてもこんなデカイやつは初めて見るねぇ…、さっきから風が急に強くなって、雪も降り続いているから警戒はしていたんだけど…」

「うん。引き返そうか?」

「いや、待って。この吹雪かたは、ちょっとヤバイねぇ…、少し待った方が良いかも…」

「えっ?えっ?まさか、コレって!?」


「うん、ちょっとヤバイよ…コレ、ホワイトグレネードじゃないかな…」

「えっ?えっ?どうしよエリ !? 調子に乗って、こんな所まで走りに来ちゃったけど、ここで立ち往生しちゃったら、2~3日は助けなんて来ないよ…」

「そうだね、引き返そ。まだ、帰り道が塞がってなきゃイイけど…」





それから私は、アクセルターンで向きを変え、さっき来た道を引き返した。今度はゆっくりとしたスピードで。
しかし、その希望も潰える。100メートルも進まないうちに、さっきまでは無かった、新たな雪壁が出来上がっていたのだ。




「エリ~…どうしよ?」

私は泣きそうな声でエリを見つめた。しかし、流石のエリも、この経験が無い事象に混乱し、黙ったままだった。今度はクルマの回りにも雪が積もりだした。







本当にマズかった。しかし、エリは考えに考えていた。正直、クルマの燃料も少なく、着の身、着のまま。どう考えても最悪の事態を想像してしまう。こんな状態で2~3日もビバーク出来るワケがない。『なんとかしなきゃ…』

「エリ~…」




「ミホ、混乱しちゃダメ、ヤバイ時ほど考えなきゃダメなの!考えるのをヤメたらその時点でアウトなんだよ !! 」

エリはそう言い、ある覚悟を決めた。

「ココから近くの民家まで約5㎞、雪の上を這っていって、助けを呼んでくる」




私は涙目になりながら驚きの表情となった。

「エリ、なに言ってるの?こんな猛吹雪なんだよ、無理に決まってるじゃない」

「バカミホ!だから考えるのをヤメちゃダメなの。助かる見込みがあるなら、全力でそれに向かって行かなきゃダメなの !! 」

「一人にしないで、怖いよぉ」


「なに言ってるの!度胸一発、あんな男顔負けのドライビングするあんたが…なに言ってんのよ…」




エリはそう言いながら、突然瞳に涙が溢れた。エリも相当無理をしている。




その時だった、絶望的に小高い雪の壁が、まるで爆ぜるように崩壊した。そしてそこから飛び出してきたのは、鮮やかなオレンジ色にオールペンされたジムニー(JA11)だった。







 目の前に踊り出て来たジムニー。そのドライバーもびっくりした様子で私とエリを見た。それからウインドーが開く。

「おい、アンタ等そこで何やってんだ」

エリは緊張の糸が切れたのか、言葉を失っていた。その男の問いかけに答えたのは私だった。

「私達、ここの峠を走ってたら…、急にこんなになっちゃって…あの、あの…、助けて下さい」




私の言葉に、その浅黒い顔をした、遊び人風の男は少々呆れた口調で言った。





「おいおい、ニュースを見てなかったのか? こんな天気に出掛けるなんて、どうかしてるぜ。 だけど…わかったよ、そのクルマじゃ、もう動けんだろうし、こっちに乗りな。後ろの席は荷物満載だから、ちと狭いがな」




それから私とエリは急いでジムニーに乗った、ドアには可愛い鷹のマークが描かれ『Traffic Eagle』 との文字も書いてあった。エリが問いかける。

「トラフィックって…、運送屋さんなんですか?」







「ああ、その通りだよ。Traffic Eagle、鷹のマークの運送屋だ(笑)。だけど、今日はな、支援隊だ」

「支援隊?」

「そう、支援物資を無償で運んでいる。後ろの荷台は、水やら非常食が満載なんだ。ウチのモットーはな “人の心と思いやり” を運ぶんだ。物流が途絶えてしまう大災害、どんな時、どんな場所にも物資を運び、災害復旧するまでの数日間、人に希望を与えたい。そんな思いで支援隊をかってでてんだ」




それは感動だった。私は心の底から感嘆の言葉が自然に溢れ出し、その濃縮された一言が、口から滑り出した。

「すごい…」




本当に、ただただすごいと思った。男は少し嬉しそうな表情をする。

「ありがとよ。まあ、なんだ。最近この道東はホワイトグレネードの被害が凄いだろ。だからよぉ、業務拡大の意味を含めて、こっちに支社を出したんだ。そんな災害に負けない腕をもった少数精鋭でな」

「Traffic Eagle…」




「おう。申し遅れちまったけど、一応この会社の代表やってる加藤だ」

加藤はそう言い、名刺を一枚渡してきた。名刺まで可愛いオレンジ色だった(笑)





「さて、お嬢さん方、しっかり掴っててくれよ。この雪山を突破するぜぇ」

そう言うや否や、オレンジ色のジムニーは非常に軽快な排気音を奏で、力強く走りだした。




そして、さっき自分達が立ち往生してしまった雪山に、加藤は躊躇いなく突撃する。目の前で雪山が派手に爆ぜた。 『 無人の野を行くが如く 』 。 このジムニーには、そんな言葉がぴったりだった。

「ジムニーってこんな凄いクルマなんだ」

「ははは。しっかり掴ってろよ」





この時、私はハッキリと確信した。これこそが 『 自分の目指すゴール 』 なんだと。










そんな出来事から一週間後、私とエリは Traffic Eagle へ訪れ、就職の面接を受ける事となり、その後、私は親に買ってもらったアルトワークスを売却し、自分のジムニーJA22を購入することとなった。










それからもう一つ…。

今年のホワイトグレネードは、この道内で6人の尊い命を奪ってしまった…。







つづく



プロフィール

「91時限目 第2弾!カントク冒険隊! 神の湯へ http://cvw.jp/b/381698/45694253/
何シテル?   12/11 14:56
☆Youtubeで動画投稿してます。  「カントクの時間」です。よろしければ寄って行って下さい。 https://www.youtube.com/chann...
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