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2018年08月23日 イイね!

Def busta 第三章 ~legacy~ 第9話

Def busta 第三章 ~legacy~ 第9話









          27



8月19日。道央サーキット。この日は“SRB(スティール・ランナー・バトル)”のスペシャルステージだった。

AM 11:00、天気は快晴、気温26 ℃、絶好のレース日和である。下村を始めとするTEAM SANTANAの面々がピット内に勢ぞろいし、レースのサポートについていた。

先程 AM 10:00 に行われた出走順位決めのタイムアタックにおいて、下村は “ 1分29秒202 ” という、とんでもない数字を叩き出していた。それは、ここ道央サーキットと酷似のサーキットであるTSW(十勝スピードウェイ)で保有する自己記録を、3秒以上も更新していたのだ。










 元々、道央サーキットは、TSWとコースこそは酷似しているが、各コーナーには様々なバンクが設けられ、約2秒程度のタイム差があると言われている。だが、それを差し引いても1秒以上タイムを削ったのは、新しいMk2の潜在能力の高さを物語っているとしか言い様がなかった。
それにこの時、一番時計だった修二とのタイム差は、僅か0.5秒にまで迫っていたのだから驚きである。
下村の順位は2位。スターティンググリッドはフロントローになる。つまり、1位のポールポジションをとった修二に肩を並べたのだ。











          28


本戦のスタートを待つTEAM SANTANAの面々。そんな大一番を前に彼らは賑やかだった。
メカニックにしてオフロードマニアの岩野(スズキDR-Z400改450SMヨシムラ仕様)、トライアルの進藤(ホンダTLM220R)、ドラッグの坂本(カワサキ750ターボ)、新・サードアイ輪道こと成海(カワサキKX500改)。彼等はアウェイに居ながらも、お祭り騒ぎとなっているレースの雰囲気を楽しんでいた。






 下村はカドヤ製セパレートタイプのレーシングスーツのジャケット脱ぎ、サロペットのパンツ姿で大きめのアウトドアチェアーに深々と腰掛け、皆の様子を眺めていた。












「いや~、このスティール・ランナー・バトルってすごいね ! まるでMotoGP並みの盛り上がりだよ。人も出店もいっぱいで、賑やかだし、何より、このバイクとクルマの数に圧倒されちゃうよ♪」

成海は誰ともなく話しかけ、妙にウキウキしていた。















「そうッスね。この工業の街に育まれた、モータースポーツへの意識の高さの表れってとこッスかね」

岩野もなんだか楽しそうだった。




「ああ、益々この街が好きになってきたよ。それに修二はこんなヤツ等のテッペンなんだぜ ! ほんとスゲーよアイツ(笑)」

 まるで他人事のように下村が言った。そんな彼に気負いは一切なく、実に落ち着いていた。
本来、レース前の緊張感漂うピット内にあって、仲間達の他愛のない会話やその仕草が下村は好きだった。そんな様子を見ていると、とてもリラックスした気分になれるし、同時に仲間の大切さも再認識できるからである。










進藤と坂本は、この街の近くで開催されているエンデューロレースの話題で盛り上がり、岩野は「レース場に来たら、バイクはいつも以上に、綺麗にしなくちゃダメッスよ」と言い、Z1000Mk2にワックスを掛けた後、マシンチェックを一通り行い、タイム表を見ながら一人頷いている。

『いい感じだ』 下村は心の中でそう呟いた。

ナンだカンだと言っても、岩野は一流のメカニックにして名マネージャーだ。マシンチェックの後に黙ってタイム表を見ているということは、特に問題が無いということを物語っているのだ。










          29


PM 12:30。スタート30分前だった。下村達が、そろそろ出走準備に取り掛かっていた時に、オフィシャルの一人が冴えない顔をしてピットへやってきた。オフィシャルの年齢は若そうだった。白い帽子を被り、薄手の青いナイロンジャンパーを着ている。

なんだか悪い予感がした。オフィシャルが冴えない顔をしている時は、大抵良くないことばかりが起こるものである。そして、そういった厄介ごとは、たいがい若い奴がやらせられるのである。




「あの…大変申し上げにくいのですが…」




応対したのは岩野だった。

「なんスか?」

「実は午前中のタイムアタックにおいて、ペナルティーが発生しました…」

「はっ?なんスかソレ?」

「走行妨害にあったとの報告を受けました。よって10秒のペナルティーを与える事になりました…」

「はぁ~~?走行妨害?誰ッスかそんな事言ってる奴は !? 」

「それは… お伝えすることは出来ないのですが… ゴニョゴニョ… 」




若いオフィシャルは言葉を濁した。やはり厄介ごとだった。岩野は更に吠える。

「多少強引な追い抜きがあったにせよ、それをレースの場で走行妨害なんておかしいッスよ ! どこのどいつッスかそんな事言ってるのは !? 直接ハナシつけてくるッスよ !! 」













オフィシャルは困惑の表情を浮かべ、岩野の激しい追及に次第に泣き顔になってくるのがわかった。
そのとき下村は、何となく見かねてしまい口をはさんだ。

「岩野、そんなに吠えんな。もういいよ。おいアンタ、スマンな。なんだか嫌な役回りをさせちまったみたいだな」

「いえ…自分は…」

若いオフィシャルは白い帽子を目深に被り直し、足早にその場を立ち去った。




「っちょ、下村さん ! なんでッスか !? 」

岩野は行き場のない怒りを発散しかねていた。




「はっは。確かにタイムを出そうとして少々強引なライン取りしたのも事実だしな。しょうがねぇさ…。そんな事よりよぉ、俺は早く走り出したくてウズウズしてきちまってんだ。このMk2、最っ高でよォ♪走れば走るほど軽く動き出すんだぜ。もう楽しくて楽しくて仕方ねぇんだ。ペナルティーなんざ、もうどうだっていいさ(笑)」





そこにいた一同、皆呆気にとられてしまった。そして最初に口を開いたのは、進藤だった。

「なんじゃそりゃ !? ほんと、どうなってんだお前は?まったくよぉ、アハハハハハハハァーー(大笑)」




下村は、敵の策略とも思えるペナルティーを与えられ、順位を大きく落としてしまったにも関わらず、そんな事よりも、新しくなった自分のバイクの事を考え、早く走り出したいと無邪気に笑ってみせた。それでピリピリムードになっていたピット内は、一気に和んでいった。

 だがその罠は、下村を潰すために仕掛けられた悪意の塊であった。蛇のように絡み付く粘着質な捕食者の毒牙が、涎を垂らしながら獲物を待ち構えていたのだ。











                 








つづく





Posted at 2018/08/23 20:40:32 | コメント(2) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2018年07月23日 イイね!

Def busta 第三章 ~legacy~ 第8話

Def busta 第三章 ~legacy~ 第8話




   22 OFFERINGS TO THE GOD OF SPEED

  







 

俺はロブの前で、KAMUI零の事件をポツリポツリと話し出した。












正直、自分で何をどういう風に語ったのかは、よく覚えていない。ただ何となく、支離滅裂にならないよう、言葉は選んでいた気がする。









そして、悔しくて悔しくて、時折込み上げてくる感情が、激しく溢れ出す。



「貴、わかった。わかったよ。お前は何も悪くない。むしろ正しい行いをしたんだ」

ロブは瞳に涙を浮かべながら、何度も俺の肩を叩きそう言った。

「お前は、レイさんを始め KAMUI を助けたんだ。確かに時雄の件は残念だった。だが、奴だって、きっとお前の事を、誇りに思っている」




ダメだ…。ロブを直視できない…。

「きっと時雄は、自慢の息子だって、誇りに思っているさ。きっとそうだ」




くそっくそっくそっ!自分の無力さに、無性に腹が立つ。




「貴、よく聞いてくれ」

ロブが俺の顔を覗き込んできた。

「いまあの街は、府月に牛耳られようとしている。実質、あの街、すべての工場の期間社員達を、意のままに操れるようになると、どうなると思う?産業の動脈を握られるとどうなる !? きっとまた、第二第三の時雄が生まれることになるんだ !! 」




ロブの声が、深く、鋭く突き刺さってくる。

「そうなんだ。スティール・ランナーを自分の配下に治めてしまえば、あの街のバイク好きやクルマ好き、すべてのチームの人間が、府月の手に落ちることになる」




俺もロブの目を見返した。

「そんな事をさせる訳にはいかない。そのためには、府月の思いのままにならない人間が、スティール・ランナーを倒し、その野望を打ち砕かなきゃならんのだ」




そうだ。そうだ ! 修二 !!

「いまソレが出来る可能性があるのは、貴、お前だけなんだよ。修二を、いや、あの街の仲間を護ってくれ!たのむ貴 !! 」




チカラの籠った、ロブの言霊を受け取った。『仲間を護る』 そう、それがSANTANAの誓い。
そうだ。悲しみに暮れている暇なんかない。そうだよなオヤジ !?



俺は俺の、正しいと思う道を突き進むぜ ! どうか見守っていてくれ。










          23


次の日、俺達は再びT峠に戻ってきていた。
話しを少し巻き戻すと、前日、ロブはZ1000Mk2に “ ある魔法 ” を施した。それはデチューンという魔法だ。




一通りMk2を走らせ、現状を把握したロブはこう言った。

「やっぱり、こんなセッティングをしてやがったのか。ある程度馬力を上げれば、あとは人間の方で乗りこなすってか?離れて暮らしていたとはいえ、やっぱりお前たちは親子だな。時雄もこんなセッティングを、よく好んだんだ」





「どういう事だよ。もっと詳しく説明してくれよ」

「ああ、つまり、これじゃあサーキットでタイムは出せねぇんだよ。中間を犠牲にして、ピークパワーを狙うセッティングじゃあな。それに、2バルブエンジンの良さが、全然生かせていない」

「でもオヤジは、コレでタイムを出してたんだろ?」

「そうなんだ…だから、よく意見が衝突した。これで調子の良い時は、スーパーラップまで叩き出しやがってよぉ…。常識外れもいいとこだ…。ブツブツ…」

「ロブさん、ブツブツ言ってねーで、どうすれば良いのか言ってくれ」

「ああ、そうか、すまん」




ロブは一つ咳払いをした。

「おほん。つまりな、このKAMUIのフレームの件も相まって、完全にバランスを崩しているようだが、ちょっと見方を変えれば良いだけなんだ」

「つまり?」

「つまり、あと10馬力くらいデチューンして中低速重視のセッティングに変える」

「ああん !! 何だって !? ここに来てデチューンだと?本当に大丈夫なのか?それで、タイヤが滑らなくなるのか?1分28秒台が狙っていけるのか?」

「まかせろ。それで、A3の持てるチカラを、存分に発揮できるようにしてやる」

「で、具体的には?」

「まず現状のKERKER KR管のエキパイを42.7φから40φにまで絞り、4 in 1構造の集合部に仕切り板を入れ4 in 2 in 1構造にする。そして、FCR41φも35φにまで落として、セッティングを出すぞ。それで、よりドッグファイト向きにもなる」








マジか !? 本当にそれであのFと互角に闘えるようになるのか?不安が募る。





「ところで、あのFの仕様はどうなってんだよ?」

「ああ、アレか…アレはな…」

「なんだよ、はっきり言ってくれよ」

「1123ccで150psきっちり出している。4バルブエンジンらしく、上までカーンと回るエンジンだ。今のこのA3みたいに、中間を犠牲にしてな」




ロブがニヤリと笑った。

おいおい。本当に大丈夫なんだろうな…。









          24





それは、本当に魔法と呼ぶに相応しかった。あんなに苦労したコーナーリングが、今度は驚くほど、よく決まるようになっていた。
ロブのいうデチューン。吸・排気を絞り、ピークパワーを殺し、2バルブエンジンらしい、中低速重視のセッティング。そう、恐ろしいほどに乗りやすい。

しかも、こうすることにより、コーナーでタイヤが滑ることもなくなり、ましてや、どんなところからも、自在にラインを変えていけるだけの、軽さと扱いやすさ、つまり、真ん中にぶっ太いトルクが備わっていた。馬力を落としているなんて、言われなきゃ気付かないレベルだ。



「チクショウ。なんてオヤジ共だ!クソッタレめ !! 」

思わず顔がニヤけてくる。









           25



午後9時。苫小牧市のとあるショットバー「Memphis(メンフィス)」。そこには、数多くのバイク乗り達が訪れる。




元々は店名と名を同じくする、アメリカン系バイカーチームの溜まり場であったが、修二の介入により、彼が作ったSANTANとも友好関係が結ばれ、様々なタイプの者達が出入りするようになった。
店内はそここそ広く、そのほとんどが立ち飲み席で、テーブルが置かれているだけだが、メタル調のカウンターは、10席スツールが設けられている。その他にも、バンドが演奏するための簡易ステージや、ビリヤード台、ピンボール台にダーツマシンまで設置され、仲間と夜通し、ALLで遊ぶには最適な場所だ。









実はこの店の元オーナーは、初代スティール・ランナーの “ フレデリック平(フレディー) ” であったのだが、今は、その実子であるエミーとマリーが跡を継ぎ、いつもカウンターの内でバーテンをやりながら、店を切り盛りしている。










「おかわりをくれ…」

カウンター右端の奥から、ベイツの革ジャンを着た修二が、マリーに声をかけた。





「修二…。あんまり飲めないんだから、無理しないほうがいいよ」

「…。頼むよ。僕だって飲みたい時くらいあるさ」

マリーは少し困った表情をしながら、ワイルド・ターキーのオンザロックを手早く作り、修二の前にグラスを“スッ”と置いた。







修二は、そのグラスの中で、ゆっくり溶け出す氷の様子を、暫く眺めていたのだが、次には、ワイルド・ターキーを一気に口の中に放り込み、喉が焼ける感覚に、苦い表情を見せていた。

俯く修二。その様子に、マリーは黙って、彼の手を握った。







同じく、カウンターの反対側に座っていたスキンヘッドがエミーに呟く。

「おい、どうしたんだ修二のヤツ。随分と荒れてるじゃねーか。お前も行って慰めてやれよ」

「ふん。グリム・リーパーと呼ばれている男が、ずいぶんお優しいこったね。アタシが他の客と口きくのでさえ、ひどく嫌がるクセにねぇ」

「…。ああ、確かに。正直、俺はお前に惚れてる。だから、他の男と話しているところを見るだけで、激しく嫉妬しちまう」









修二といつも行動を共にし、ボディーガードの役を買って出ている、スキンヘッドの大男は “ グリム・リーパー(死神) ” と呼ばれていた。





「だけど修二は別だ。アイツは特別なんだ。荒れている原因は、あの下村ってヤツの事なんだろ?」




下村と聞き、エミーの片眉がピクリと反応する。

「全く、修二の話どおり、マジで化物じみたヤツだったな…。憧れの先輩か…。それをこんな形で再会しちまったんだから、裏切ったような気持ちになってんだろ…」




グリム・リーパーは手に持っていたコロナビールを一口呷った。

「今日はよぉ、2人で慰めてやれよ」




「ふふん」

エミーは鼻で笑ってみせる。

「修二は大丈夫さ、強い男だよ。なんせアタシ等が、本気で惚れた男だからねぇ」

真っ赤なルージュが、勝ち誇った微笑みを見せる。




「確かに修二は特別。いいかい、よく聞いておきな。アタシ等2人はねぇ、その修二の子を産むんだよ。3代目スティール・ランナーをね ! 」




一瞬目を見開くグリム・リーパー。

「おいおい、マジかよ…」


エミーはまた、鼻で笑ってみせた。




そんな様子を尻目に、その横では、バンドマンのような風体の、初老の男が、ハイネケンのビールを片手に、酷く酔った様子で、ジュークボックスへコインを落とし込み、レニー・クラビィッツ 『自由への疾走』 を選曲した。やがてスピーカーから、エッジの効いた、ギターサウンドのオープニングが流れ出る。ニヤリと薄笑いを浮かべるバンドマン。












実はこの男、バイカーチームMemphis(メンフィス)をまとめあげている人物で、通り名を “ ギブソン ” と言い、フレディーの盟友でもあった男なのだが…。









その瞬間だった。それは突然やってきた。そこに大嵐が発生したのだ。入口ドアが勢いよく開け放たれる。店内の客が全員、その方向へ向いたとき、戦慄が走った。なんと、そこに現れたのは、デスペラードジャケットを着た下村だった。

「はっはっは。修二め~っけ♪」





肩の毛皮がなびく下村の傍には、岩野と成海の姿があり、ついでに、オドオドした様子で、ガソリンスタンドの “ 田代 ” が立っていた。





それを見たエミーとマリーの2人が、バーカウンターを飛び越えたのと同時だった。店内全てのバイカーが、一斉に下村の前に立ち塞がる。

だが、それは無駄な行為だった。えも言われぬ下村の無言の迫力は、そこに居る全員を圧倒していた。皆、彼の強さを知っているが故、恐怖からくる萎縮でもあった。そして彼が、歩を進めるたび、立ち塞がった者達は、後ずさりを始める。その様子はまるで “ モーゼの十戒 ”の様だった。














エミーとマリー、グリム・リーパーでさえも、冷汗が流れた。だがしかし、そんな中にあって、たった一人だけ、下村に臆することなく、彼の正面に立ったのは修二だった。
自信に満ちた落ち着きのある表情に、凛としたその立ち姿。そこには、先程までの焦燥感や、アルコールに酔った雰囲気は、微塵も感じられなかった。これこそ、修二がいつの間にか身に着けた、2代目スティール・ランナー、王者の風格である。









「修二…」

「Def busta…」

2人は睨みあった。











「修二、待たせたな。こっちの準備はOKだ。いつでもヤ(走)れるぜ」

「そうですか…。では良いステージを用意しましょう。来週の日曜、SRB(スティール・ランナー・バトル)の最終戦、サーキットバトルが開催されます。そこで決着を付けましょう。貴方が出場できるように、僕の方からオフィシャルに、掛け合っておきますよ」




下村は力強く頷いた。

「ああ、楽しみだ。ケリを付けよう」





そう言い、獰猛な肉食獣のような迫力を持つ彼は、踵を返し、その場を立ち去ろうとした。が、その前に、度胸のあるハンターが、もう2人出現したのである。

「Def busta … か…。俺は ガープ(Goap) ってチームを纏めている、フロストってモンだ」

「俺はノーマン。ウチのチーム(Bael) のモンがずいぶん世話になったなぁ」



フロスト(霜男)と名乗る大男は、その名のとおり、氷の様に冷たい眼光が特徴的で、対するノーマンという男は、ギラギラと野望に満ちた眼をしていた。





『Goap に Bael 。 西と東の悪魔王か。全く面白い連中だ』 下村は心の内でそう呟いた。








「俺の弟のハックは、先日テメェが暴れた喧嘩で、怪我ぁしちまってな…。可哀想に、テメェの強烈な左ミドル(キック)を右肘に喰らったあいつは、その勢いで右肩を脱臼しちまったんだ」

下村は “ ふんっ ” と一つ鼻を鳴らした。




「俺はアイツを、バエルの実力者である、ノーマンの元に、修行に出していたんだ」

フロストは、更に静かに語りかける。

「そう、バエルはノーマンズランド。代々統治する者が居ない、実力がモノをいうチーム。そのチームで頭角を現し始め、遂にはエースライダーにまで、上り詰めたのによう…」









フロストの凍てつく視線が痛い。

「Def busta、テメェのせいでなぁ、ハックはSRB(スティールランナーバトル)に、出られなくなっちまったんだよ」





下村は、黙ってフロストの眼を見つめていた。そしてノーマンが吠える。

「このクソヤローが ! 今度は俺が相手になってやる !! 」








だがフロストは、今にも飛び掛かりそうなノーマンの肩を抑え、静かに言った。

「やめとけよノーマン」


次には、下村を睨み付ける。

「今度はサーキットで勝負だ。テメェ逃げんじゃねぇぞ。いいか、ステゴロの時のようにいくと思うな。レースじゃあ、再起不能になるまで、徹底的に叩きのめしてやる」

さっきまでの冷たい瞳が、今度は鋭い眼光で、ギラギラと燃え出していた。








下村は思わず嬉しくなる。 『 ここは本当に面白い街だ 』 心からそう思った。

「はっは。いいぜ。ケリを付けよう」






彼は“ニヤリ”と不敵に微笑み、2人を押し除け、バーの外に出ていった。
そしてギブソンがリクエストした、レニー・クラビィッツのクールな名曲は、嵐と共にその役目を終えた。











          26



バーの外に出た下村は “ ふぅ ” と一息つく。この緊張感がとても心地よかった。それから、ヘルメットを被ろうとした時、後から着いてきた成海が、青い顔をして言ってきた。


「ちょっと何なの下村さん !? こんな夜中にツーリング行こう、なんて言い出したかと思えば、いきなり宣戦布告って、どういうこと !? 冷汗かいたじゃない! 生きて帰れないかと思ったわよ !! 」

「成海ちゃん…」

岩野は言葉を失っていた。




「はっは、ワリィワリィ。でもよう、一つ良いこと思いついたぜ」

岩野と成海は、顔をしかめながら首を傾げる。




「せっかくココまで来たんだから、このまま函館まで行って、イカ飯でも食おうぜ ! 奢るからよぉ♪」

「はぁ~?函館ぇ~!?ここから何Kmあると思ってんのよぉ~」

「成海ちゃん…」

「はっは。早く用意しろよ ! 置いていくぜぇ~(笑)」

「ちょ ! マジで言ってんの !? 」





そう言いかけた成海の声は、Z1000Mk2が奏でる、猛獣のようなエキゾーストノートに掻き消された。そして下村は、フロントホイールを天高く突き上げ、荒々しく走り出す。








「成海ちゃん、もう行くしかないッスよ」

岩野もDR-Z400改450SMヨシムラ仕様を、素早く発進させる。








「もぉ~マジなのかよ !? ちょっと待ってよぉ !! 」

それから、3眼ライトのKX500は、闇をつんざく2ストの炸裂音を残し、離陸しそうな勢いで、ストリートを走り去る。











それは、あっという間の出来事であった。時間にしてみたら、一つのロックなサウンドが終わる、5分程度であったが、その場に残された、ポカーンと呆けた表情の “ 田代 ” にしてみたら、永遠に終わらない、遥かなる5分間に感じていたことだろう。

田代は途中、拉致されるように、この場にまで案内をさせられ、おおよそ経験したことのない、一触即発、極度のプレッシャーに晒され続けたのだ。
解放された途端、緊張の糸がブッツリと音を立て切れた。夢か幻か。田代は、ただただ、その3人を、ポカーンと見送るしか出来なかったのである。










つづく






Posted at 2018/07/23 21:27:42 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2018年07月12日 イイね!

Def busta 第三章 ~legacy~ 第7話

Def busta 第三章 ~legacy~ 第7話














          18

「岩野ぉ、全然ダメだ、コーナーでアクセルを開けると、リヤタイヤが簡単に滑っちまう !! 」

俺と岩野はT峠で新Mk2のシェイクダウンを行っていた。ひと通り走ってきた俺は、ヘルメットのバイザーを上げて、岩野に叫んだ。




「まいったッスね~。まさかこんな弊害が…」

「もう少し、リヤのプリロードを緩めて、柔らかくするか !? 」

「いや、おそらくプリロードも減衰力もこれが限界ッス。これ以上柔らかくしたら、パワーを掛けたとき、滑らなくなるかもしれねーッスけど、逆に踏ん張れなくなっちまうッスよ」

「くそっ ! !… まいった」




確かに新しいMk2は、依然とは比べ物にならないくらい軽くなった。それに、しなやかにして強靭なフレームは、強力なトラクションと動力性能を生み、あの 『 KAMUI零 』 のように、点から点へ移動するかのような動きを、このバイクで実現できるはずだった。が、違った。最大のメリットとなるはずの軽さが、現状のサスセッティングには釣り合わず、文字通り足枷となっていた。そう、車体が軽くなり過ぎたため、コーナーでアクセルを開けると、いとも容易くリヤタイヤが滑ってしまい、まともに走れない事態に陥ってしまったのだ。




「こうなると、この車重や走らせ方に合わせたサスを、ワンオフで作って貰うしかないッスね。減衰力も伸び側縮み側、もっと細かく調整できるように…」




イライラが募る。今すぐにだって修二と ヤ(走)りたいのに。アイツはあの F で待っているんだ。まいった…。

「くそったれ、それじゃ時間が無い。ダメだ。それじゃ遅せぇんだよ ! どうしたらいいんだ !? 」

誰にではなく、自分に問いただした。











          19


その後、一端 『 Garage SANTANA 』 に戻ることにした俺達だったが、帰り道においても、あらゆる交差点で、いろいろな走り方を試してみたが、全くをもって、焼け石に水といったところだった。







「くそぉーーー !! 」

ダメだ気持ちがザラつく。いや、焦る気持ちで心がザラつく。せっかくの珠玉といえる、このフレームを活かしきれていない。


「1135 cc でツインプラグ化して 150 ps 。トルクに至っては 12.0kg/m。 元々がもともとだけに、ギリギリのところで、セットアップしてたっスからねぇ…」




『どうすればいいんだ。どうすれば…オヤジ…』 オヤジ… “ オヤジ !? ”

自分でも驚いた。突然オヤジの事が頭をよぎった。まったく。どうしちまったんだ俺は…。確かにこのエンジンを最後に組んだのはオヤジだ。だけど、弱気にも程があるよな。普段思い出しもしないようなオヤジの事を思い浮かべるなんて。くそったれめ。




しかしそんな時だった。一台のトヨタ・サクシードバンが、Garage SANTANA の駐車場に入ってきた。そしてそのバンからは、見たことのある風貌の男が現れた。そう、それは苫小牧市で会った、あのセイコーマートの、小太りの店長だった。








店長は周囲を一望し、なんとも懐かしそうな雰囲気で、静かに語りかけてきた。

「そうか…まさかとは思ったが、お前が下村のセガレだったのか…。俺がそのA3を見間違うなんてな。スカチューンまでされて、すっかり様変わりしたなぁ」

「いきなりなんだアンタ !? 」

やはり気持ちがザラつく。









「そう睨むな。少し落ち着いて、俺の話しを聞いてくれないか?」

その店長は、あくまでも穏やかに、俺に語りかけてきたんだ。














          20


「俺の名前は “ 六部本気 ( ろくべもとき ) ” 。 あの街じゃ 『 ロブ ・ マジー 』 なんて呼ばれている。ああ、冷やかしなんかじゃないぞ、尊敬だ。尊敬を込めてだぞ」

ニヤリと笑う六部。とりあえず敵意は無いようだ。

「貴は俺の事を覚えていないだろうな…最後に会ったのはかなり前だから。お前のお袋さんの葬式の時だ。小学生の頃か…」





そんな事はどうでもいい。一体何をしに来たんだこの男は?どうにも怪しい。

「そう睨むな。それにしてもお前さん、あの街じゃ、かなり有名人になっちまってるぞ。 “ デフバスタ と名乗る男が スティール・ランナー に宣戦布告してきた ! ” ってな。 近所のガキ共が騒いでいた。そしてその噂の発端となる “ バエル ” との大乱闘だ。 しかも、たった一人で暴れまわったんだって !? まったく、とんでもない奴だなお前は」




俺は更に睨んでやった。










「はっは。まあ、順を追って話すから、よく聞いてくれ」

ようやく本題に入りそうだ。

「俺はな、お前の親父、下村時雄 ( しもむら ときお ) とは盟友でな。その A3 (Z1000Mk2 ) で一緒にレースをやっていたんだ。俺が主にメカ担当で、時雄は乗り手だった。だが時雄は、メカとしても優れていたからなぁ。 “ メカを知る者は走りを知る ” ってよ、知ってるか? ヤツは、必然的に速く走れる資質を、備えていたんだな」









どういうつもりだ?なぜ突然オヤジの話しになるんだ?

「いまから十数年…、いや、正確には20年くらい前だな、当時俺達には凄いライバルが居たんだ。そいつの名前は 『 フレデリック ・平(たいら )』。 ハーフでな、皆 “ フレディー ” って呼んでいた。かなりハンサムな奴だったよ。ああ、そうだ。そいつが初代スティール・ランナーだったんだ」













俺はようやく、黙って話を聞く気になっていた。さっきまでは、ケツでも蹴り上げてやろうかとも、本気で思っていたんだがな。

「フレディーは、あの街に駐在していた米軍パイロットの息子でな。あの、お前が暴れたイベント会場、あれは米軍のために建設された、飛行場跡地なんだよ。だけど、わずか数年で撤退し、より条件の良い千歳基地と統合したりでな…。まあ、そんなのはどうでもいいな。でもあの頃はそんな軍の連中(米兵)が多くてな、あの使われなくなった飛行場で、ドラッグレースなんかが、よく催されるようになった。それがアイアン・バウンド。スティールランナーバトルの始まりだったんだ」



まったく…。 どいつもコイツも、なんだっていうんだ。










          21


俺とロブ(六部)はMk2を挟むように向かい合い、話を続けた。






「当然、俺達もそのレースに参加した。当時はドラッグとオーバル、あとストリート(峠)がアイアン・バウンドの、レースウィークに実施された。で、その時すでに、ストリートレースを一つ獲っていたフレディーと、初めて対決したんだ。もちろん俺達の圧勝だったよ。だけどフレディーは俺達を敵視するどころか、その速さをえらく称えてくれた。まあ、なんというのかな?風土の違いとでもいうのか、素直に速い奴を認め称え合い、レースが終わったら、ビールで乾杯して即ダチになる。そんな、本当に気持ちの良い奴だったよ」










俺は黙って聞いていた。

「そのうちフレディーに、マシンのチューニングを頼まれるようになった。俺も時雄も喜んで受けたよ。でもあの F をバラした時は、本当に驚いた。あのフレームはクロモリ鋼管で作り直された代物だったんだからな。フレディーは腕の良い板金工でもあったんだ。あの街の、いろんな連中の手を借りて完成させた、自慢のマシンだ!なんてよく言ってたっけ」













その当時、プライベーターとして、あの硬いクロモリ鋼を加工していたんだな。本当に凄い連中だ。

「そして俺達は、一番過激な純正カムシャフトを持つ、CB900F のエンジンをベースに、1123 cc までチューニングし、あのバイクに載せ、無敵のスティール・ランナーを生み出したんだ」










ロブはまたニカッと笑ってみせた。それからロブは、ポケットからセブンスターを取り出し、旨そうにゆっくりと煙草を吸い出した。だがそれは、これから話そうとする、内容の重さに耐えるための、準備だったのだろう。煙草の火をもみ消した頃には、表情がかなり険しく一変していた。






「それからの5年間は、俺達の一番輝いていた時期だった。だけど、そんな黄金期は、永遠ではなかった。フレディーは事故で命を落とし、時雄は嫁さんを亡くしたショックから酒に溺れ、俺はバイク屋としての商売が上手くいかず、ついには店を畳んだ…」

ロブは俯き加減に話し出す。





「それから10数年…。あの、エミーとマリーはもう知っているだろ?」

「ああ、あの XLCH と XR750 だろ」

「そうだ。あの2人だ。あの娘達はな、フレディーの娘なんだ。そしてフレディーは3台のバイクを、この世に残した。それがあの娘達が乗っている2台のハーレーと、CB750F だ」









俺は思わず目を丸くしてしまった。

「去年、どういう経緯かは知らんが、エミーとマリーが修二を連れて、俺を訪ねて来たんだ。F を蘇らせてくれって言ってな」

ロブの眼をみつめ、ゆっくりと頷いた。




「バイク屋は商売として成り立たず、見事に潰しちまった今の俺はよぉ、ただのコンビニの雇われ店長だ。だけど、バイクの事は簡単には諦められなかった。ずっとバックヤードビルダーとして続けていた。わかるヤツのマシンだけ、俺のチューニングをわかってくれるヤツだけのをな。あの2台のハーレーも、俺が手を入れたんだ…」

ロブの表情がどんどん険しくなる。




「あの男勝りで、誰のジャジャ馬馴らしも受け付けなかった、あの2人の娘がよぉ、自分たちが惚れた男だって言って、修二を俺の元に連れてきたんだ。父親の F を復活させたいって言ってなぁ…。俺は感動で震えが止まらなかったよ」






ロブは、またセブンスターに火を点け、少し間を取りながら、話しを続ける。

「修二の最初の印象は、ただの優男だった。正直、なんでこんな奴に、あの2人が惚れたのか、少々不思議だった。だけどその理由はすぐにわかった。修二はな、ケンカなんてからっきし弱いくせに、あの二人を護るため、フレディーの F を護るために、拳を振り上げて闘ったんだ。アイツは本当に良い奴だった。だからこそ俺は、あの F を本気で組み上げ、魂を吹き込んだんだ…だけど…だけど…」




それから、何度もタバコの煙を吐きながら、絞り出すように言葉を発した。

「不思議だった。まだ20やそこらのガキが、豊富な資金を持ってくるんだよ。最初は、貯めていた金を、持ってきているんだとばかり思っていたが、そうじゃなかった。俺はバカだ…。そんな事にも気付かず、フレディーの F を蘇らせられる喜びで、気付かなかったんだ…」










ロブはそこで黙ってしまった。堪らず俺は聞いてしまう。

「どうしたんだよ?その金が何だっていうんだよ !? 」





それからロブは何度も頷き、意を決したように口を開いた。

「その金はな… ある奴から資金提供をうけていたんだ。そいつの名前は “ 府月 ” 。 “ 府月周遠 (ふづきしゅうえん)” … 」





府月?どこかで聞いた名だ。しかし思い出せない…。なんだこれは?凄く嫌な胸騒ぎがする…。





「いいか貴、心して、よく聞いてくれ、府月は俺達の敵でもあるんだ」

ロブの眼に強い光が宿っていた。さっきから嫌な胸騒ぎが止まらない。





「府月はHN社の重役なんだ。それに、北海道、あの工業都市に強い影響力を持つ大物だ。そして2年前のある日、お前のオヤジ、時雄は、まさしくこの場所で死を迎えた。それにも大きく関係している」






まさか…


「時雄はなぁ、お前が帯広市のバイク屋に就職したって喜んでいた。本当に喜んでいたんだ。アイツの夢はな、お前と一緒にここで働くことだったんだ。お前が施設に預けられてからは、ずっと断酒していたんだ。それは、またお前と一緒に暮らしたいと、心から願っていたからなんだ。だからここの業務を拡大して、岩野を雇い、クルマの整備を手掛けるようになった。お前がいつ帰ってきても、一緒にやっていけるだけの、ベースを作るためにな。そしてある時、大口の仕事を取って来たんだ。それは自動車学校の、教習用バイクの整備だった。時雄は本当に嬉しそうだった。 『 倅も頑張っているんだから、俺はもっと頑張るぜ!』 ってな。でも…、でも…、それは…、序章だった…」



まさか…



「最初は上手く行っていた。だけどある時、教習車に使っている、HN系のバイクの部品が、一切手に入らなくなったんだ。何故だと思う?あの府月だ ! なんの恨みがあったのか知らんが、こんな小さなバイク屋に対し、あらゆる方面からの、部品供給を止めてしまったんだ !! 」




ロブは一度大きく深呼吸をした。

「時雄は必至であちこち駆け回った。だけど、どこも部品を卸してはくれなかった…。あっけない幕切れだ。それで終わり。時雄は、仕事と信用を一気に失った…。失っちまったんだよ…」



まさか…まさか…



「そんな時に、大量の酒瓶が入ったダンボールが、店の前に置かれていたんだ。おかしいだろそんなの !? だけど、もうまともな判断なんか出来なかったんだろう…。十数年続けていた断酒を破り、一気に飲んでしまったんだ。で、次の日の朝、新聞配達員が、大量の空の酒瓶と共に、時雄の冷たくなった亡骸を発見した」



まさか…まさか…まさか…




「貴、たしかに証拠は何もない。だけど、俺にだってまだ、多少なりともツテがある。間違いなく “ 府月 ” のヤローの仕業ってのは分かっているんだ !! 俺は本当にバカだった。そんな奴の金を使い、喜んでバイクを弄っていたのだから…。なんだか、悔しくて、悔しくてよぉ…」



まさか…まさか…まさか…



「だけど分からないのは、なぜ時雄が狙われたのかなんだ。ん?おい、貴、どうした?大丈夫か?」



そんな… まさか…






「貴 !? 」

「ロブさん…」

「どうした?」

「俺なんだ…俺なんだよ…」

「どうしたんだ !? 」






2年前の KAMUI 零 の事件、HN社の重役・府月。そしてオヤジの死。そうだったのか…。
自分の中で全てが繋がった。




「俺なんだ…オヤジが死んだ原因を作ったのは俺なんだよ…」




そう言った瞬間、突然、目の前のロブの姿がボヤけ出した。そんな俺の目からは、止めどもなく、熱いものが溢れてきていた。





すまん…



すまん… オヤジ…。








つづく




Posted at 2018/07/12 19:49:24 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2018年07月01日 イイね!

Def busta 第三章 ~legacy~ 第6話

Def busta 第三章 ~legacy~ 第6話
始めたからには、きっちりケリをつけろってね

再開します。

コメ等は不要です。。 お好きな方だけ楽しんでいって下さい。。。










          12


俺は事のあらましを岩野に話した。最初は “やいのやいの” 喚いていたが、やはりコイツもSANTANA だ。スティール・ランナーやレースの事になると、とたんに目の色が変わった。




「さて、どうしたもんスかね?あのCB750Fのタイム」








そうなのだ。今しがた調べた、道央サーキットのホームページに載っていた、修二(スティール・ランナー)のベストタイムは、1分28秒台 という驚異的なものだった。
ちなみに類似コースである、TSWクラブマンコースでの、俺のベストタイムは、それから4秒も遅い 1分32秒台 だ。 道央サーキットは、各コーナーに様々なバンクが設けられ、TSWより 2秒 ほど速いタイム差があると言われているが、それを差し引いても、更に2秒も差があるなんてな…。まいったね…。




「なんでっスかね?同じ年代のバイクだし、プロの職業ライダーでもないから、乗り手の差もそんなに違わないと思うんスけど…」

「いや、そんだけ修二がとんでもねぇーって事じゃねーの」











自分でそう言いつつ、溜息が漏れる。
それに岩野も唸ったまま、何も言わなくなってしまった。
肝心な時に黙る、使えない奴だな。まったく。





そんな時だった。

「ふぉーふぉっふぉっふぉ。困っておるようじゃな下村くん」




聞き覚えのある、独特な笑い声が、入口の方から聞こえてきた。
その瞬間、あの姿が脳裏に蘇る。サンタクロースの様なその風貌。




「じっちゃん !? 堀井のじっちゃんじゃねーか !!」




KAMUI社 の妖怪ジジイ、堀井士郎だ。

「なんだよじっちゃん、突然だなぁ。こっち来てたんなら、連絡くらいくれよ」




それは本当に嬉しい再開だった。あの『KAMUI零』の事件以来だ。俺達は大切なものを護るため、文字通り共闘し、命懸けで戦ったんだ。戦友に再開する気持ちって、ちょうどこんなのかもしれないな。腹の底から嬉しさが込み上げてきて、いてもたってもいられなくなる。




「ふぉふぉふぉ。相変わらず、絆創膏だらけの顔をしておるのう」




それから俺達は、ハグで喜びを分かち合った。本当に嬉しい気持ちの表れだ。




「どうしたんだよ急に?」

白銀の髭に覆われた顔の堀井は、目元に皺を寄せ、嬉しそうな表情で、何度も黙って頷き、俺をショップの外へ促した。

「なんだよ?じっちゃん。なんか言えよ…って、あ…」




最盛期を過ぎた灼熱の太陽は、まだ厳しい西日を、地上に落とし込んでいた。が、俺の視線の先、その一角だけは明らかに雰囲気が違っていた。そこには、穏やかで清浄な空気感があったんだ。
その中に静かに佇む、一人の女性の姿。涼やかな白いパンツスーツに、風になびく栗色の髪、優しい眼差しと、透けるように白い肌。そう、そこに居たのはレイだった。2年前とは比べものにならないくらいに洗練された、美しいレイの姿がそこにあった。俺は声を失いレイに見とれてしまった。












相変わらず “はにかんだ” 仕草を見せるレイ。小さな手が伸びてくる。その細くて長い華奢な指先は、俺の顔の傷跡を、絆創膏の上から、優しくそっと撫でてきた。




「レイ…」

言葉が詰まる。もう何を言っていいのか分からない。




「聞いたよ。スティール・ランナー」

「ああ…」

俺は自分の頬の位置にあったレイの手を、優しく包み込むように握りしめた。




「あの修二くんだよね…。彼とレースをするの?」

「ああ…ケリをな…つけなきゃな…」

優しい眼差しのレイ。本当に綺麗になった。




「私…私…」

「し~…」俺は言葉を遮った。




見つめ返してくるレイの瞳は、ゆるやかに潤み柔らかい光を帯びていた。それに白い頬には薄い桜色が射し、上気しているのがよく分かる。俺は自分の節くれた武骨な手が、彼女を傷つけてしまわぬよう、細心の注意を払いながら、絹のような光沢の髪と頬を、そっとひと撫でして、細いウェストをゆっくりと引き寄せた。レイの唇は、まるで熟れた苺の様に、冴えた赤い色で、艶かしく誘惑の世界に誘う。






「もうダメだ…」

俺は、レイの瞳に吸い込まれた。レイの引力に逆らえなくなっていた。
顔を近付け、ふっくらと柔らかなその唇に、俺の唇が触れそうになった瞬間だった。

突然何かが弾ける、耳触りな音と共に、目の前に火花が散り、視界が黒っぽくぼやけた。
くそったれめ…。誰か俺の後頭部を固いもので殴りやがった…。









          13


「喝ぁぁぁーーーつ !! 」

激しく口角泡を飛ばす堀井に、厳しく叱咤された。

「全くお前という奴は(怒) ! 久々の再開と思い黙って見ておれば、いきなりレイ様に何をしてけつかるんじゃぁぁぁーーー !? 」





まいったね。酷く怒ってやがる。だけど、まだ塗料の入っている一斗缶で、人の頭を殴るのはやり過ぎだろ !? しかも角だぞ !!
そんな堀井と俺の様子を見ていたレイは、なんとも楽しそうに笑っていた。はは。ま、いっか。




「とんでもない奴じゃ…ブツブツ…」

「堀井さん。もういいから。それよりアレを早く」

レイの声の音質がとても優しい。荒ぶる堀井は、手懐けられた猛獣のようだ。主人の命に従い、渋々どこかに消えて行った。




「下村くん、頭大丈夫だった?ふふふ。また下村くんの唇を奪えそうだったのになぁ。ざんねんね」

またもや、ふっくらと柔らかなレイの唇が揺れる。ああ、もういいや。誰に見られていても構わねぇ、
今度こそ吸い付いてやる !? などと考えていた時、またジジイが凄い勢いで戻ってきた。




「なんだとーーー貴様ぁーーー !! レイ様の唇を奪っただとぉぉぉーーー !! 」






次には襟首を掴まれ、近付いてきた堀井の口からは、生臭い唾が、俺の顔に大量散布される。
しかし、どんだけ地獄耳なんだ。もうカンベンしてくれ…。




「堀井さん。もういいから、きちんと説明して下さい」

レイの声の音質は優しいが、凛とした響きに変わっていた。




「うう~~む…」

堀井は一つ唸り、説明を始める。

「ふん。まあ、今日のところはこのくらいにしてやるわい」




何が『今日のところは』 だ、このジジイめ。

「儂等はのう、あの事件以来、君を追っておった。どうも、おかしな動きをする連中がおったからのう。大きなお世話だったかもしれんが、そうさせて貰った。あんな事に巻き込んでしまった、責任もあるしのう」




『あんな事』とは、“KAMUI零”の一件だ。権力や利権争い、略奪に暴力etc。まさしく命懸けの戦いだった。

「別に構わねえよ」

『問題無い』 そんな感じでニヒルに答えてやったが、内心は少々嬉しくもある。
レイは見ていてくれたんだろうか?ずいぶんと活躍しただろ俺。
そんなレイは、相変わらず優しく微笑んでいる。





「色々大変じゃったのう。全てわかっておったよ。そして問題の今回の件じゃ」

「修二のことか?」

「そう。スティール・ランナー。やはり彼奴のバックで、おかしな動きをする者がいる。しかも、そやつが資金提供までして、あのFを仕上げさせたという情報も掴んでおる」

「なに ! ?そうなのか?誰なんだそいつ」

「いや、これ以上は知らない方が良い。だけどな、レイ様を始め儂等は、君に多大なる感謝をしておるのも事実じゃ。だからこそ、君のZ1000Mk2に、少し手を入れさせて貰いたいんじゃ」

「どういう事だ?」

「なに、ただちょっと、KAMUI の技術でそのバイクのフレームを作り直させて貰いたいんじゃ。パイプフレームワークは『零』で散々やってきたからのう、悪いようにはせんよ」

「もう少し詳しく聞かせてくれよ」


俺は堀井の話に食いついた。











          14


「スティール・ランナーのフレームはのう、10数年前、既にクロモリ鋼管で作り直されておったんじゃ。1/100mm 単位で作成されたものでのう。つまり、精巧で強靭かつしなやか。そして非常に軽量に作られておる」




クロモリ鋼管だと !? 耳を疑う。そんなバイクで走っていたのか。なんてことだ。まったく驚く事実だ。

「その当時の情報はの、わかっておるんじゃ。しかし、最近組み直されたというエンジンについては謎なんじゃよ」

「いや、それだけ分かれば充分だ。道理で750のFベースなのに、ダウンチューブのフレームが、取り外し式から一体物に代わってたワケだ」

俺はFの全体像を思い浮かべた。







「それに、この絶望的とも思えるタイム差に納得ができた」

俺の隣で、目を輝かせた岩野が、堀井の話を食い入るように聞いていた。
まったく、借りてきたネコのように大人しくて、気持ちが悪い。




「下村君、こっちも本気で作るぞ。1/100mm 単位なんてもんじゃない。1/1000mm 単位で精度を出す。それに重量も半分以下にする」




本当に驚く事をサラリと言ってくれる。ついつい顔がニヤけちまうぜ。望むところだ。
それから、堀井が通りに向かい、何か合図した時、MBM社のスーパーグレートが一台、Garage SANTANAの駐車場に入ってきた。








「コイツの荷室にはのう、『零』の時に使用しておった、フレーム修正用の機材が積んであるんじゃ。しかもその定盤(台)につかう床は、さっき言ったように、1/1000mm 単位で水平が出せる代物なんじゃよ」

スーパーグレートに乗っていたのは、あの時、一緒に闘った戦友、稲葉、中田、大谷の3人だった。3人は、クルマの荷室を安定させるための作業に取り掛かる。荷室内の操作盤で、アウトリガーを自動で動かし、フレーム修正用の床と定盤を調整して、他の機材のチェックを始めた。
俺は息を飲んだ。あの時、何気なく見ていたコイツには、KAMUIの技術の粋が詰まっていたんだ。その他にも、旋盤にフライス、溶接用の酸素に炭酸ガス。全て必要な物が揃っている。




「まさか、こんななぁ…」

「さあ、下村君、ぼやぼやしとらんで、バイクをバラすぞ!それから一気に冶具を作成し、フレームを作るぞい」




ああ。気合いが入った。

おう。じっちゃん頼むよ。それにレイ。ありがとう。本当に心から礼を言うよ」

「ううん。お礼を言うのは私達の方だよ。あの時、下村君に出会わなかったら、きっと今の私達はない。コレはKAMUI全員からの贈り物なんだよ」




レイは優しい眼差しで見つめ返してくる。

「ありがとうレイ。本当にありがとう」

俺はレイの両手を取って、心からお礼を言った。そしてこの、言葉になんか言い表せないほどの、感謝と感激の気持ちが、レイに100%伝わってくれることを切に願った。




「ん、ん、ん、うん !! いつまで手を握っておるんじゃ下村くん」


全く、うるせえジジイだ。でも今は言う事を聞いておこう。それにしても、さっきから岩野が、大人しすぎるな。いつもは、グダグダとやかましいくらい、理由を問いただしてくるのに、今回は、すっかりとKAMUIの雰囲気に圧倒されちまったようだ。いつもこうだったら良いのだが。まあ、それは無理な相談ってもんだな。教育ママってのは、煩いと相場が決まっているもんなんだよな(笑)

そのとき堀井が、俺とレイの間に割って入ってきて、握り合っていた手を、無理やり引き離しやがった。それから凄い顔で睨んでくる。
いや、だから…。頼むからもうカンベンしてくれ。







          15


夢のフレームワーク。怒涛の3日間の始まりだった。その作業は、ほぼ不眠不休で実施された。
その様子は、まるでレースウィークに突入した、ワークスチームの動きそのものだった。一人ひとりが無駄なく動き、全ての作業が流れる水のごとく、次々と進んでいく。Mk2をあっという間にバラしたかと思うと、フレームはステム付近の車体番号が刻まれた部分を残し、治具の上で全て新設された。
そして3日目。仕上がったそのフレームを、思わず手に取り持ち上げると、それは拍子抜けするほどに軽く、その見た目とは裏腹に、片手で簡単に持ち上がってしまうその事実に、ただただ言葉を失ってしまった。






しかもだ、形は似て非なる物。元のフレームをそのままコピーしたわけじゃなく、Z系と呼ばれるバイクのウィークポイント、つまり、強化すべきところはキッチリ強化し、広げるべきところ、狭めるべきところ等々、全て見直され、理詰めによる計算のもと、ほぼ新設計といってもいいくらいの、素晴らしい完成度を誇っていた。











          16


本当に夢のような日々だった。全ての作業が終わった、3日目の夜。完成したMk2を目の前に、KAMUI社の稲葉、中田、大谷。そんな懐かしい顔ぶれ達と、プロの仕事が出来たことに、大きな満足感を得ていた。
それに飯休憩の時には、『零』 の思い出話しなんかをして盛り上がり、レイや堀井とも心の底から笑い合えた。いや、違うな。俺は、またレイと一緒に居られた事に、心から感謝していたんだ。








          17


「レイありがとな」

撤収にかかっていたレイとKAMUIの面々に、俺は本当に心の底から、その言葉を贈った。そして見送ろうとした時だった。なんだかレイに元気が無いと思っていたが、凄く寂しそうな表情を残し、何も言わず、その場から去ってしまった。何だろう?ついさっきまであんなに笑っていたのに。妙に心に引っ掛かる、後味の悪さがある。




『何だろう?』もう一度そう思った時、堀井に後ろから声をかけられた。


「下村くん。すまんが、ここまでじゃ。それにレイ様の事は、今日限りで忘れてくれ」

「はあ?急に何言いだすんだよ、じっちゃん !? 」

「すまん下村君。後生じゃ。これ以上、レイ様を追わんでくれ。頼む。レイ様だって…」


そう言い残しKAMUI は去って行った。




ああ、そうだ。この時は深く考えていなかったんだ。レイがどういう思いで、この3日間を過ごしていたのかなんてな。俺は、せいぜい当分の間、会えなくなるのが辛い。そんな程度にしか考えていなかったんだ。

ほんと大バカな俺…。









つづく
Posted at 2018/07/01 19:06:03 | コメント(3) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2017年02月17日 イイね!

Def busta 第三章 ~legacy~ 第5話

Def busta 第三章 ~legacy~ 第5話

  11 Counter Rockets




「ほんっと、いい加減にして欲しいっす」


岩野にそんな小言を言われた俺は 「 ふんっ 」 と鼻を鳴らして無視してやった。 まったく、うるさい奴だ。









「あ、あ、なんスかその態度は !? 」



岩野は興奮気味だった。



「いきなり出て行ったかと思ったら、今度は怪我して帰ってきて何の説明も無しっスか?まったく、いい大人が何やってんスか !? ほんっと勘弁して欲しいっスよ」






確かに…。 喧嘩して顔に痣をつくってくるなんて、いい大人がやることじゃないよな。それにしても修二…。 お前はどうしちまったんだ !? 
スツールに腰掛け窓に目をやると、絆創膏だらけの自分の顔がガラスに映り、その姿を見て思わず笑ってしまう。












   12


今日の太陽は、灼熱の業火だ。空の一番高い位置から、ジリジリと地表を焼き、アスファルトの照り返しと、蓄熱させたコンクリートの壁で、周囲をオーブンレンジへと変化させる。まあ、本州にくらべ湿度が低いのは唯一の救いだが。









道民は長い冬を耐え忍び、あらゆる生命が活性化する真夏の躍動を待ち望む。 しかし、たとえ北海道といえども、今日の晴天は誰もが物陰に隠れ涼を取りたくなる。そんなひと時。更に熱を発する一団が現れた。表に数台のバイクの排気音が響き渡った。しかも聞き覚えのある爆音だ。

『 まさか !? 』 心の中で警鐘が鳴り、考えるより先に外へ飛び出した。

先頭にCB750F、続いてハーレーXLCHとXR750、更にはシボレーのV8エンジンを積んだバイクBOSSHOSSや、Z650ザッパーがそこに佇んでいた。
修二だった。わざわざ仲間を連れここまで来たのだ。




「修二…」

全員がヘルメットを脱いだ。修二、エミー、マリー、スキンヘッド、涙目のガキ。全員が知った顔だ。それから修二がゆっくり歩み寄ってきた。




「はは。さすがですね。あんな大立ち回りをして、ピンピンしているなんて」

修二は冷たい表情でそう言ってきた。










「20人、いや正確には23人ものバエルを、残らずノシてしまって」

「修二…あのな…」


それを横で聞いていた岩野は『はあ?』という表情をした。




「一体アナタは何がしたいんですか?人のシマを散々荒せば満足なんですか?」





「いや、違う…俺はただ」

言葉に詰まってしまった。何て言えば良いのか分からない。ジリジリと照りつける白い日差しのなか、修二の凍てつく視線が、鋭く突き刺さってくる。




「いや違わない。アンタは俺を潰しに来たんだ。昔からそうだった。好き勝手暴れて、飽きればポイだ。なんにも変わっちゃいない」

「お前まさか…俺を恨んでいるのか?」

「恨み?ああ、そうだね。そうかもしれない」

「SANTANAの解散がそんなに気に入らなかったのか?」

「そうだ。アンタは立石さんの死から逃げたんだ」




立石…。やはりそうだったか。今でも胸の奥につかえている、当時の俺の相棒だったZ400GPの立石。俺達はコンビだったんだ。そして修二の兄貴分だった男…。







「 SANTANA は少数精鋭で走りのチームだった。それに皆腕っぷしも強くて、アンタ達に助けられた奴等はたくさんいた。皆が憧れた SANTANA 。 そして Def busta 下村 。 僕はそのチームに入れて本当に嬉しかった。それにどれだけ誇らしかったことか」




修二の顔が一変した。凍てつく表情は見る間に赤みが差し、憤怒へと変わっていった。

「だけど、立石さんが事故で死んだ後、アンタは全てを捨てて逃げた ! 荒れていたあの時代、あの街を護ってくれるのはアンタだと、僕達は心の底から信じていた。なのにアンタは全てを捨て去ったんだ ! そうだろ !? デフバスタァーー !! 」









修二の叫びは、俺の心に深く、悲しく、そして重々しく響いてきた。確かにそうだった。あまりにも悲しいその出来事から、俺はバイクを降りようとも考えたほどだった。




「ふんっ。でも僕だって馬鹿じゃない。人それぞれ、事情があることくらいは理解できる。だけど2年くらい前から、アンタ達の噂が耳に入り出した」




こんどは俺を憎らしげに睨みだした。

「アンタは無責任に投げ出したSANTANAの名を使い、TSW(十勝スピードウェイ)で走り出した。無敵の速さを誇る、TEAM SANTANA としてね」




修二はまた憤怒の表情となった。

「この肩のバンダナ覚えていますか?アンタが作ったSANTANA章。車輪デザインに、闘う者の勲章・鉄十字…。そして聖なる SANTANA の名前」




修二は肩のバンダナを解き、俺の足元に投げ付けてきた。

「これはお返ししますよ。永遠に仲間を護るために闘い続ける?笑っちゃいますね。それにSANTANAとして走り続けていたのは僕だ。アンタじゃない。それを今更…ショップの名前にまでして」




俺はゆっくりとした仕草でバンダナを拾った。それは長年の風雨で劣化が見られるものの、しっかりと補修しながら使われていた形跡がたくさんあった。それから、バンダナをじっと見つめながら静かに言葉を発した。

「修二、ありがとな。今まで頑張ってきたんだな」




憎しみの炎を帯びた、修二の紅蓮の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

「そう、ケリをつけよう」








修二は怒りの表情で小さく頷き、踵を返して自分のバイクに跨った。











つづく


Posted at 2017/02/17 15:48:14 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用

プロフィール

「91時限目 第2弾!カントク冒険隊! 神の湯へ http://cvw.jp/b/381698/45694253/
何シテル?   12/11 14:56
☆Youtubeで動画投稿してます。  「カントクの時間」です。よろしければ寄って行って下さい。 https://www.youtube.com/chann...
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カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2020/05/23 23:46:46
インチアップ話の続き 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2020/05/17 15:25:11
チョットここで、アーカイブ~♪ 10  もう二度と見られない此の光景・・・ 2 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2019/03/05 19:01:18

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