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2016年10月24日 イイね!

Def busta 第一章・第三話

Def busta 第一章・第三話








      K A M U I


次の日、十勝管内OT町に位置する MBM十勝研究所。そのテストコースが広がる広大な敷地内に、レイは下村を招待した。

北海道は、まさしくテストコース王国である。日本車はもちろん外国車、その他、世界各国のタイヤメーカーまで。先進国のあらゆるメーカーが、この地でテストを行うのだ。
そんな MBM社 K A M U I 第三格納庫内で、下村、レイ、堀井が、白いツナギを着た作業員達に整備されている 《 K A M U I 零 》 を見ながら話をしていた。
堀井は深く刻まれた顔の皺と、長い眉毛に年輪を感じる老人であるが、その瞳の奥底には、只ならぬ雰囲気も兼ね備えている人物であった。


 
「下村くん。キミも 《 零 》 に惹き付けられてしまったようじゃな」




若干白みを帯びた堀井の眼は、何とも用心深い様子で、下村を見つめていた。しかし下村は何も臆することなく、自分の本心を真っ直ぐに伝えた。




「ああ。それもある。でもそれ以上に、二宮が困ってたから助けたいんだよ」




実に下村らしい、実直で痛快な答えだった。それを愉快そうに笑う堀井。




「ふぉっふぉっふぉっ。僥倖(ぎょうこう)じゃのう。君のことはレイお嬢様から聞いておるわい。仲間思いで、バイクが大好きなガキ大将 《Def busta下村 》 。そんな風に呼ばれておったんだってだってのう。ふぉっふぉっふぉっ」




どうやらこの老人に気に入られた様だが、思わず苦笑いの下村。

「そんな事は別にどうでもいい。それより二宮がお嬢様って、一体どういう事なんだよ?」




堀井はちょっと不気味とも思える “ニッタリ” とした妖しい含み笑いを浮かべ、下村の肩にぽんと手を置いた。

「なんじゃ知らんかったのか?レイお嬢様はのう、過去にワシと零戦開発に携わった、MBM社4代目社長・南條輝彦の落とし種。つまり、我社の跡取りとなる方なんじゃよ」





【回想始まり】

そして、格納庫の大きな扉の外に見える青空を見つめながら、堀井は若き頃の自分と、南條輝彦が、大空で編隊飛行する零戦を、満足げに眺めていた事を思い出していた。

【回想終わり】






その時レイが、堀井の横で慌てて両手をバタつかせながら言った。

「ちょ、ちょっと待ってよぉ。確かに子供がいなかった本家は、うちのお母さんが亡くなったあと、私を温かく迎え入れてくれて、今は南條姓になったけど…」

 それからレイは、俯き加減で下村を“チラリ”と見たあと、小声で続けた。

「うちのお母さんは…いわゆるお妾で…その子供の私が跡取りなんて…いくらなんでも荷が重すぎるよぉ…」




それを聞き、大声でレイに喝を入れる堀井。

「んなぁ~にを言っとるんじゃあー- ! ワシは現当主代理の洋子様から、レイ様を頼むと言われとるんじゃあ ! いま南條家の血筋は、レイ様唯一人! これからはレイ様が MBM社を背負って立つんじゃあーーー !! 」




そんな大声に気押され、困った表情で下村を見つめるレイ。しかし下村はそんなレイを見て、心底安心した様子で言った。

「そっか…、なんか事情は色々あったんだろうけどよ、良い人達に巡り合ったんだな、二宮」




屈託なく微笑む下村に見つめられ、頬を赤く染めるレイ。




堀井もその様子を見つめ、何か納得したように何度か頷いた。

「下村くん、キミはレイお嬢様の恩人じゃ。ゆっくりして行きなさい。なんなら暫く滞在していっても構わんぞ」




それを聞き、急に子供のように瞳を輝かせる下村。

「マジでかジっちゃん !? なんだったらよぉ、俺もその 《 零 》 に乗ってもいいか !? 」




そんな下村の勢いに、少々引き気味の堀井は、額に一筋の汗を流していた。

「うう~む…お前さん…、少々厚かましいのう…」


本音がポロリと出た。しかしそんな事は関係なく、下村は更に瞳を輝かせていた。













      C r i s i s


翌日のS峠。そこで深夜の公道テストが行われようとしていた。2台の K A M U I 零 に跨る下村とレイ。
なんと下村の希望が、そのまま通り、《零》 に乗る事が許されたのだ。
K A M U I 零 に跨った下村は、昨日、堀井に聞いた、このバイクのスペックを回想していた。






【回想始まり】


堀井は非常に興奮した様子で下村に語った。

「このバイクに名付けられた 《 零 》 とは、我社の 《 零式艦上戦闘機 》 を指し、軽量コンパクトでハイパワー、旋回性と航続距離に特化した、新たなるバイク。始まりの 《 零 》 でもあるんじゃ!!」




《 零 》 を見つめる下村と堀井。

「零の心臓は 902cc、水冷2バルブ2気筒、ツインプラグエンジンと、強烈な電気モーターが内蔵されておる。それに、新開発のバッテリーパックとダイナモは、超短時間で充電を完了させる。モーターに切り替えた時の凄まじさは、もう見ておろうに」





黙って頷く下村。堀井は真面目な顔つきで話を続ける。

「その強烈なパワーを受け止めるシャシは、クロモリ鋼で形成された、強靭かつしなやかなトラスフレームじゃ!!このデザインはのう、レイお嬢様の提案なんじゃ。ギミックの効いた未来的デザインも良いが、バイクがもっともバイクらしく、美しいデザインを採用したんじゃよ」




少々いぶかしげな表情の下村。

「ふ~ん。しっかし 902cc ってよう、まさか KW社 の “マジックナイン” の真似かよ?それに今の時代2バルブって、どうなのよ?」




そんな質問を見透かしたように、妖しく “ ニッタリ ” と笑う堀井。

「単に他社を真似したんじゃないぞ。何十年も世界中の技術者達が、ガソリンエンジンを研究した結果、1気筒あたり450ccくらいが、綺麗に上まで回って、下でもパンチの効く最適値だと分かってきたんじゃ。もちろん我が社でものう。そこでスリムかつトルクの出しやすい、直列2気筒エンジンを採用し、×2 で 902cc としたんじゃよ。それにのう。時として2バルブエンジンは、4バルブエンジンを凌駕することがあるんじゃよ」


堀井の眼光に、更に妖しさが増す。

「その秘密はツインプラグじゃ。知っての通りツインプラグエンジンは、多少の粗悪ガソリンを入れても、ノッキング等の異常燃焼を起こさないよう、セッティングすることが可能じゃからのう。言い換えればのう、セットアップをちょいと変えるだけで、世界中の道のどこででも、容易に走ることができるんじゃよ」




苦笑いの下村。今度は一言皮肉を言ってみた。

「アンタ等の親会社は、最近ずいぶんと萎れているように見えたけど、なかなか面白れぇことやってんじゃねーのよ」


それから堀井は、また妖しく“ニッタリ”と笑って見せた。


【回想終わり】







そんな昨日の事を思い浮かべながら、下村はKAMUI零のタンクの辺りを撫でていた。
その時だった。何者かが靴で小砂利を弾いた音が右後方で聞えた。ほぼ本能的にその音に反応した瞬間、そこで何かの影が宙に跳び上がった。

反射的に右腕のガードを上げる下村。しかし、そのガードは完全には間に合わず、何者かの跳び蹴りを、首筋に受けてしまった。その蹴りで体勢を崩した下村は、K A M U I 零 と共にけたたましい音をたてながら、路面に転がった。




「っだらぁーーー !! 」

下村の戦闘スイッチが入る。転がりながら体勢を整え、片膝をつき相手を見据えると、そこには小柄なアラブ系外国人・ブリッドが立っていた。







「っんだらテメェーーー !! 」




吼える下村。が、次の危機が迫る。視界の端に巨大な左拳のアッパーカットが、迫り来るのを見た。
間一髪、辛うじてその拳を両腕でガードしたのだが、その怪力の持ち主、大男のアラブ系外国人・ハンマーは、パンチの力だけで下村の身体を軽々と空中に舞い上がらせた。








「ぬぁっ」

思わず叫ぶ下村。それと同調するように、小男のブリッドが、見事なまでの跳躍力で空中に跳び上がるのと同時に、鋭く回転し強烈なローリングソバットを、下村の腹部に深々とめり込ませる。

「がぁはっ!」

息を激しく吐き出す下村。地面に叩きつけられ、転がりながらも、必死に体勢を立て直そうと、再度立て膝になった時だった、間髪を入れず、大男の右フックが下村の顔面を捉えた。
その威力、それはまるでスレッジハンマー(大型のハンマー) にでも殴られたような衝撃だった。その破壊的な一撃は、脳髄にまで突き抜け、痺れる身体ごと、派手に吹っ飛ばされてしまった。 
しかも、それでハンマーとブリッドのコンビネーションは終わらない。追い討ちは、下村が吹っ飛ばされた先に待ち構えていた。まず、ブリッドの左ハイキックが、強烈な炸裂音と共に右の首筋を捕える。
そこで遂に下村は、意識が飛びかかった。目からは光が失われ、酔っぱらいのように、足元がふらつき千鳥足となる。それから数歩進んだ後、急に膝が “ ガクン ” と折れ、崩れかかった時だった。非情なまでのハンマーのパンチが強襲する。
それは打ちおろしの右ブーメランフック。止めとばかりに、下村目掛けて放たれた。巨大な右拳が弧を描き襲いかかる。








「いやぁぁぁぁーーーー !! 」


その時、遠のきそうになる意識のなか、レイの声だけがはっきりと聞こえてきた。


「二…宮…」


下村の身体はその声に呼応した。切れかかった意識が再び戻ったのだ。眼に光が宿る。瞬時にいま置かれている状況を理解した。
歯を食いしばり、一歩前に出た足に踏ん張りを利かせる。それから近寄って来たハンマーの顎にめがけて、渾身の力を振り絞り、右脚を鋭く跳ね上げた。

「っだらあーーーー!!」




が、惜しかった。決まればカウンターとなる必殺の一撃だったのだが、その爪先は相手の顎をかすめただけで、虚しく空を切ってしまった。




そして一瞬止まった時間のなか、ハンマーと眼が合う。

「くそったれ…」




“ ボゴッッ ” 巨大な右拳が、下村の顔面に直撃し、そのまま身体ごと路上に激しく叩き付けられる。 それで終わりだった。




ハンマーとブリッドが、倒れている下村を見下ろしていた。もう完全に体がいう事をきかない。下村は薄れゆく意識の中、ブリッドが片言の日本語で、自分への警告を発しているのが聞き取れた。

「シロウトガコレイジョウカカワルナ。ツギハコロス」




周囲はKAMUIの作業員と、数名のアラブ系外国人達が入り乱れ、乱闘模様になっていった。












「はっ…」


目を覚ました下村。視界が狭い。左目は瞼が腫れあがり開かず、固まりかけている大量の鼻血は、顔面を赤く染めていた。

「イテテ…クソッ…」


後頭部を押さえながら、バキバキと音を立てるように痛む体に鞭を打ち、やっとの思いで起き上りながら周囲を見渡した時、驚愕の事実を目の当たりにして、思考が固まってしまった。

そこには、KAMUI社の全員が顔に痣を作り、道路上に座り込む姿と、バラバラに破壊され、屑鉄と変わり果てた、無残なKAMUI零の姿があったのだから。




「いやぁぁぁーーー」


レイは口元から一筋の血を流しながら、破壊されたKAMUI零のパーツを手に、悲痛な慟哭をあげ続けていた。

「どうして…どうしてなの…こんなのいやだよぉ…」


流れる涙から、痛々しいほどの想いが伝わってくる。




「くそったれが…」


激しく歯軋りをした下村は、やりきれない想いで一言吐き捨てた。










つづく

Posted at 2016/10/24 20:41:45 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用

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