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レース当日、帯広市のオープンエリアは、とんでもない賑わいを見せた。
『 D C C (ダートチャレンジカップ) 』 は、以外にも人気種目であることを物語っている。
色とりどりにペイントされた派手な4駆のクルマが駐車場には溢れかえり、どれもコンテストさながらの完成度を誇っている。ほとんどがリフトアップされ、極太マッドタイヤでビルドアップされたクルマ達だ。更にはキャンピングカーや牽引トレーラーまで。それからテントなんかも持ち込み、バーベキューをしている家族の姿も見受けられる。まるでお祭りだ。すっごくワクワクした気持ちになる。
そんな様子に眼を輝かせていた私の頭を、タカ社長は後ろから小突いてきた。
「端野ミホ、ボケッとしてないで、よく聞いとけ」
もう~。なんでフルネームで呼ぶの?
「このレースは4月から10月にかけて4戦あるシリーズ線だ。今回は10月期の最終戦でウチはスポット参戦となる。基本的には、ナンバー付き車両のオフロードタイムアタックで、フラットコースとモーグルコースを同じ車で走るのが決まりだ。フラットは多少のアップダウンがあるダートコースで、モーグルは傾斜角が40度もある谷や丘の凹凸路を走る。両方のコースを2本ずつ走ってタイムの良い方を合計し、順位が決められる。ドライバーは2人1組のペアが決まりで、どちらかがそれぞれのコースを走る事になるぞ。フラットならフラット、モーグルならモーグル、といった具合に専従化されるんだ。つまり両方のコースを一人で走る事は出来ない」
うん。うん。ああ早く走りたいなぁ。
「今回は端野ミホがフラットで、ヨッシーがモーグルだ。いいな」
うん。だからなんでフルネームなの?
「ええ。自分もそれで問題無いです。フラットはミホちゃんの方が速いですからね」
「ああ、すまんなヨッシー。本当はエースのお前をフラットで走らせたいんだが、今年こそトップを獲りたい。万年2位はもう御免だからな」
そうなんだ。そんな大事なレースなのに私を使っちゃうの?いいの?それからつい口に出てしまった。
「あの…タカ社長…私なんかを出しても良いんですか?タカ社長が走った方が…」
「バ~カ、端野ミホ。お前それが謙遜のつもりなら俺達をバカにしてるぞ!お前はウチに入社してからこの半年で、一番のスピードを手に入れちまってんだからな。みんな納得済みなんだよ。まあ、穴掘りはド下手だがな(笑)」
みんな小さく頷きながら微笑み、私に視線を集めていた。私は思わず下を向いてしまう。
「ミホ頼んだぜ。きっとお前なら、このレースの目玉になれるぜ」
はい。無言で頷いた。ジョーさんありがとう。
「フラットは一番時計でボクに繋いでね。そうしたら、気持ちに余裕ができるからさ(笑)」
はい。またもや無言で頷いた。必ず一番でヨッシーさんに繋ぎます。
「ミホちゃん、無茶し過ぎてクルマを転倒させちゃ駄目だよ。レースは無事に帰るまでがレースなんだからさ」
はいスミさん。ちゃんと走らせます。
「いまやお前がエースだ。 穴掘りはビリッケツだがな。ははは」
はい。タカ社長。しつこいなぁ。でもどうして 『 カトウタカ 』 って言ったら怒るんですか?
聞きたいけど聞けない。
すごくすごく、みんなの気持ちが嬉しかった。
「アンタなに泣いてんのよ」
突然の、エリのセリフに顔が赤くなる。
ちょっと!なに言ってんの !?
「ちょっエリッ!私は泣いてなんか…て、あ…」
みんな私を見てニヤニヤ笑っていた。 ああ、やられた。悔しい。エリにまんまとかつがれた…。
7
今回のレースは 『 ジムニー&軽クラス 』 にエントリーしてある。そのクラスでは総勢15台と30名の選手達が一台ずつ出走し、タイムアタックすることとなる。私はフラットダートのスタート付近で順番待ちをしていた。
今回ウチで使用する車両は、会社のデモカーでもある特別仕様・ジムニーJB23で、APIOというメーカーから出されている “ スーパーつよし君ビルシュタイン・安心サスペンションキット ” を始めとした “ TSB ” フルキット装備のカスタムマシンだ。しかもオプションのヨシムラ・チタンマフラーまで取り付けられ、豪華絢爛もいいところだ。もちろんオレンジ色にオールペンされ、ドアには鷹のマークも入っている。
ちなみの私の “ ロックさん ” も TSB のキットが入っている。
しかし、ヨシムラマフラーは高価なので着けられなかったけど…。
JB23はレカロのシートで私を迎え入れ、程よいホールドで包んでくれた。MOMOのステアリングを撫でてみる。
手に吸い付くような形状が心地良い。
「うん。今日はイケそう」
そう呟いた時、無線が鳴った。
「ガガーー」「ミホ聞こえる?」
エリだ。
「うん。聞こえるよ。どうしたの?」
「う~ん、まあ、なんていうか実況中継。他の車両の状況を、リアルタイムで伝えようと思ってさ」
「そう。ありがと。そうだ、さっき聞きそびれちゃったんだけど、このコースのレコードってどのくらいなの?」
「ああ、ちょっとまってね、今教えてあげるから…どこだったかな…ああ、あったあった」
エリは手元資料を探しているようだ。
「そうね、私らがエントリーするのは『ジムニー&軽クラス』なんだけど、フラットがだいたい全長1.7㎞位のコースで、1分5秒が一つの壁みたいね。トップタイムで1分1秒台。モーグルは1㎞位の長さなんだけどタイムは2分25秒が壁で、トップタイムは2分21秒台ってとこかな」
「そうなんだ。転がったら失格?」
「ううん。 オフィシャルがすっ飛んできて、すぐに車を起こしてくれるみたいよ。 走行可能ならそのまま続行するみたい」
「う~ん、じゃあ要注意のチームとかは?」
「ああ、なんて読むんだろコレ?ベクター…グ、グラ…」
「わかった!ベクター・グライドでしょ !? 」
「う~ん多分そう。知ってたの?」
「うん。さっきね、私のスキー板と同じ名前のチーム名があったから覚えてたの」
「そうなの?でも、そんな堂々と名前をパクッて大丈夫なのかね?」
エリと会話していると、なんだかとても気持ちが落ち着く。ずっと一緒だったからかな?
やっぱり私達は2人で1人なんだ。
「エリ、一つお願い」
「なに?」
「ここのコースは頭に入っているんだけどね、私が走っている間、ずっとナビしててくれない?」
「それは良いけど…。 うん。そっかわかった。2人で闘うんだね!」
「そう。よろしくね」
「GPSでしっかり見ていてあげる。 うん。 きょうでぇ~、しっかりアクセル踏めよぉ~(笑) 」
他愛のない会話。でもやはり、エリが近くにいると思うと、私には元気が湧いてくる。
その時、軽快な排気音と歓声が響き渡り、第一走者がスタートした。
つづく
Posted at 2017/02/08 14:15:25 | |
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