• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+

むらっち2のブログ一覧

2018年07月23日 イイね!

Def busta 第三章 ~legacy~ 第8話

Def busta 第三章 ~legacy~ 第8話




   22 OFFERINGS TO THE GOD OF SPEED

  







 

俺はロブの前で、KAMUI零の事件をポツリポツリと話し出した。












正直、自分で何をどういう風に語ったのかは、よく覚えていない。ただ何となく、支離滅裂にならないよう、言葉は選んでいた気がする。









そして、悔しくて悔しくて、時折込み上げてくる感情が、激しく溢れ出す。



「貴、わかった。わかったよ。お前は何も悪くない。むしろ正しい行いをしたんだ」

ロブは瞳に涙を浮かべながら、何度も俺の肩を叩きそう言った。

「お前は、レイさんを始め KAMUI を助けたんだ。確かに時雄の件は残念だった。だが、奴だって、きっとお前の事を、誇りに思っている」




ダメだ…。ロブを直視できない…。

「きっと時雄は、自慢の息子だって、誇りに思っているさ。きっとそうだ」




くそっくそっくそっ!自分の無力さに、無性に腹が立つ。




「貴、よく聞いてくれ」

ロブが俺の顔を覗き込んできた。

「いまあの街は、府月に牛耳られようとしている。実質、あの街、すべての工場の期間社員達を、意のままに操れるようになると、どうなると思う?産業の動脈を握られるとどうなる !? きっとまた、第二第三の時雄が生まれることになるんだ !! 」




ロブの声が、深く、鋭く突き刺さってくる。

「そうなんだ。スティール・ランナーを自分の配下に治めてしまえば、あの街のバイク好きやクルマ好き、すべてのチームの人間が、府月の手に落ちることになる」




俺もロブの目を見返した。

「そんな事をさせる訳にはいかない。そのためには、府月の思いのままにならない人間が、スティール・ランナーを倒し、その野望を打ち砕かなきゃならんのだ」




そうだ。そうだ ! 修二 !!

「いまソレが出来る可能性があるのは、貴、お前だけなんだよ。修二を、いや、あの街の仲間を護ってくれ!たのむ貴 !! 」




チカラの籠った、ロブの言霊を受け取った。『仲間を護る』 そう、それがSANTANAの誓い。
そうだ。悲しみに暮れている暇なんかない。そうだよなオヤジ !?



俺は俺の、正しいと思う道を突き進むぜ ! どうか見守っていてくれ。










          23


次の日、俺達は再びT峠に戻ってきていた。
話しを少し巻き戻すと、前日、ロブはZ1000Mk2に “ ある魔法 ” を施した。それはデチューンという魔法だ。




一通りMk2を走らせ、現状を把握したロブはこう言った。

「やっぱり、こんなセッティングをしてやがったのか。ある程度馬力を上げれば、あとは人間の方で乗りこなすってか?離れて暮らしていたとはいえ、やっぱりお前たちは親子だな。時雄もこんなセッティングを、よく好んだんだ」





「どういう事だよ。もっと詳しく説明してくれよ」

「ああ、つまり、これじゃあサーキットでタイムは出せねぇんだよ。中間を犠牲にして、ピークパワーを狙うセッティングじゃあな。それに、2バルブエンジンの良さが、全然生かせていない」

「でもオヤジは、コレでタイムを出してたんだろ?」

「そうなんだ…だから、よく意見が衝突した。これで調子の良い時は、スーパーラップまで叩き出しやがってよぉ…。常識外れもいいとこだ…。ブツブツ…」

「ロブさん、ブツブツ言ってねーで、どうすれば良いのか言ってくれ」

「ああ、そうか、すまん」




ロブは一つ咳払いをした。

「おほん。つまりな、このKAMUIのフレームの件も相まって、完全にバランスを崩しているようだが、ちょっと見方を変えれば良いだけなんだ」

「つまり?」

「つまり、あと10馬力くらいデチューンして中低速重視のセッティングに変える」

「ああん !! 何だって !? ここに来てデチューンだと?本当に大丈夫なのか?それで、タイヤが滑らなくなるのか?1分28秒台が狙っていけるのか?」

「まかせろ。それで、A3の持てるチカラを、存分に発揮できるようにしてやる」

「で、具体的には?」

「まず現状のKERKER KR管のエキパイを42.7φから40φにまで絞り、4 in 1構造の集合部に仕切り板を入れ4 in 2 in 1構造にする。そして、FCR41φも35φにまで落として、セッティングを出すぞ。それで、よりドッグファイト向きにもなる」








マジか !? 本当にそれであのFと互角に闘えるようになるのか?不安が募る。





「ところで、あのFの仕様はどうなってんだよ?」

「ああ、アレか…アレはな…」

「なんだよ、はっきり言ってくれよ」

「1123ccで150psきっちり出している。4バルブエンジンらしく、上までカーンと回るエンジンだ。今のこのA3みたいに、中間を犠牲にしてな」




ロブがニヤリと笑った。

おいおい。本当に大丈夫なんだろうな…。









          24





それは、本当に魔法と呼ぶに相応しかった。あんなに苦労したコーナーリングが、今度は驚くほど、よく決まるようになっていた。
ロブのいうデチューン。吸・排気を絞り、ピークパワーを殺し、2バルブエンジンらしい、中低速重視のセッティング。そう、恐ろしいほどに乗りやすい。

しかも、こうすることにより、コーナーでタイヤが滑ることもなくなり、ましてや、どんなところからも、自在にラインを変えていけるだけの、軽さと扱いやすさ、つまり、真ん中にぶっ太いトルクが備わっていた。馬力を落としているなんて、言われなきゃ気付かないレベルだ。



「チクショウ。なんてオヤジ共だ!クソッタレめ !! 」

思わず顔がニヤけてくる。









           25



午後9時。苫小牧市のとあるショットバー「Memphis(メンフィス)」。そこには、数多くのバイク乗り達が訪れる。




元々は店名と名を同じくする、アメリカン系バイカーチームの溜まり場であったが、修二の介入により、彼が作ったSANTANとも友好関係が結ばれ、様々なタイプの者達が出入りするようになった。
店内はそここそ広く、そのほとんどが立ち飲み席で、テーブルが置かれているだけだが、メタル調のカウンターは、10席スツールが設けられている。その他にも、バンドが演奏するための簡易ステージや、ビリヤード台、ピンボール台にダーツマシンまで設置され、仲間と夜通し、ALLで遊ぶには最適な場所だ。









実はこの店の元オーナーは、初代スティール・ランナーの “ フレデリック平(フレディー) ” であったのだが、今は、その実子であるエミーとマリーが跡を継ぎ、いつもカウンターの内でバーテンをやりながら、店を切り盛りしている。










「おかわりをくれ…」

カウンター右端の奥から、ベイツの革ジャンを着た修二が、マリーに声をかけた。





「修二…。あんまり飲めないんだから、無理しないほうがいいよ」

「…。頼むよ。僕だって飲みたい時くらいあるさ」

マリーは少し困った表情をしながら、ワイルド・ターキーのオンザロックを手早く作り、修二の前にグラスを“スッ”と置いた。







修二は、そのグラスの中で、ゆっくり溶け出す氷の様子を、暫く眺めていたのだが、次には、ワイルド・ターキーを一気に口の中に放り込み、喉が焼ける感覚に、苦い表情を見せていた。

俯く修二。その様子に、マリーは黙って、彼の手を握った。







同じく、カウンターの反対側に座っていたスキンヘッドがエミーに呟く。

「おい、どうしたんだ修二のヤツ。随分と荒れてるじゃねーか。お前も行って慰めてやれよ」

「ふん。グリム・リーパーと呼ばれている男が、ずいぶんお優しいこったね。アタシが他の客と口きくのでさえ、ひどく嫌がるクセにねぇ」

「…。ああ、確かに。正直、俺はお前に惚れてる。だから、他の男と話しているところを見るだけで、激しく嫉妬しちまう」









修二といつも行動を共にし、ボディーガードの役を買って出ている、スキンヘッドの大男は “ グリム・リーパー(死神) ” と呼ばれていた。





「だけど修二は別だ。アイツは特別なんだ。荒れている原因は、あの下村ってヤツの事なんだろ?」




下村と聞き、エミーの片眉がピクリと反応する。

「全く、修二の話どおり、マジで化物じみたヤツだったな…。憧れの先輩か…。それをこんな形で再会しちまったんだから、裏切ったような気持ちになってんだろ…」




グリム・リーパーは手に持っていたコロナビールを一口呷った。

「今日はよぉ、2人で慰めてやれよ」




「ふふん」

エミーは鼻で笑ってみせる。

「修二は大丈夫さ、強い男だよ。なんせアタシ等が、本気で惚れた男だからねぇ」

真っ赤なルージュが、勝ち誇った微笑みを見せる。




「確かに修二は特別。いいかい、よく聞いておきな。アタシ等2人はねぇ、その修二の子を産むんだよ。3代目スティール・ランナーをね ! 」




一瞬目を見開くグリム・リーパー。

「おいおい、マジかよ…」


エミーはまた、鼻で笑ってみせた。




そんな様子を尻目に、その横では、バンドマンのような風体の、初老の男が、ハイネケンのビールを片手に、酷く酔った様子で、ジュークボックスへコインを落とし込み、レニー・クラビィッツ 『自由への疾走』 を選曲した。やがてスピーカーから、エッジの効いた、ギターサウンドのオープニングが流れ出る。ニヤリと薄笑いを浮かべるバンドマン。












実はこの男、バイカーチームMemphis(メンフィス)をまとめあげている人物で、通り名を “ ギブソン ” と言い、フレディーの盟友でもあった男なのだが…。









その瞬間だった。それは突然やってきた。そこに大嵐が発生したのだ。入口ドアが勢いよく開け放たれる。店内の客が全員、その方向へ向いたとき、戦慄が走った。なんと、そこに現れたのは、デスペラードジャケットを着た下村だった。

「はっはっは。修二め~っけ♪」





肩の毛皮がなびく下村の傍には、岩野と成海の姿があり、ついでに、オドオドした様子で、ガソリンスタンドの “ 田代 ” が立っていた。





それを見たエミーとマリーの2人が、バーカウンターを飛び越えたのと同時だった。店内全てのバイカーが、一斉に下村の前に立ち塞がる。

だが、それは無駄な行為だった。えも言われぬ下村の無言の迫力は、そこに居る全員を圧倒していた。皆、彼の強さを知っているが故、恐怖からくる萎縮でもあった。そして彼が、歩を進めるたび、立ち塞がった者達は、後ずさりを始める。その様子はまるで “ モーゼの十戒 ”の様だった。














エミーとマリー、グリム・リーパーでさえも、冷汗が流れた。だがしかし、そんな中にあって、たった一人だけ、下村に臆することなく、彼の正面に立ったのは修二だった。
自信に満ちた落ち着きのある表情に、凛としたその立ち姿。そこには、先程までの焦燥感や、アルコールに酔った雰囲気は、微塵も感じられなかった。これこそ、修二がいつの間にか身に着けた、2代目スティール・ランナー、王者の風格である。









「修二…」

「Def busta…」

2人は睨みあった。











「修二、待たせたな。こっちの準備はOKだ。いつでもヤ(走)れるぜ」

「そうですか…。では良いステージを用意しましょう。来週の日曜、SRB(スティール・ランナー・バトル)の最終戦、サーキットバトルが開催されます。そこで決着を付けましょう。貴方が出場できるように、僕の方からオフィシャルに、掛け合っておきますよ」




下村は力強く頷いた。

「ああ、楽しみだ。ケリを付けよう」





そう言い、獰猛な肉食獣のような迫力を持つ彼は、踵を返し、その場を立ち去ろうとした。が、その前に、度胸のあるハンターが、もう2人出現したのである。

「Def busta … か…。俺は ガープ(Goap) ってチームを纏めている、フロストってモンだ」

「俺はノーマン。ウチのチーム(Bael) のモンがずいぶん世話になったなぁ」



フロスト(霜男)と名乗る大男は、その名のとおり、氷の様に冷たい眼光が特徴的で、対するノーマンという男は、ギラギラと野望に満ちた眼をしていた。





『Goap に Bael 。 西と東の悪魔王か。全く面白い連中だ』 下村は心の内でそう呟いた。








「俺の弟のハックは、先日テメェが暴れた喧嘩で、怪我ぁしちまってな…。可哀想に、テメェの強烈な左ミドル(キック)を右肘に喰らったあいつは、その勢いで右肩を脱臼しちまったんだ」

下村は “ ふんっ ” と一つ鼻を鳴らした。




「俺はアイツを、バエルの実力者である、ノーマンの元に、修行に出していたんだ」

フロストは、更に静かに語りかける。

「そう、バエルはノーマンズランド。代々統治する者が居ない、実力がモノをいうチーム。そのチームで頭角を現し始め、遂にはエースライダーにまで、上り詰めたのによう…」









フロストの凍てつく視線が痛い。

「Def busta、テメェのせいでなぁ、ハックはSRB(スティールランナーバトル)に、出られなくなっちまったんだよ」





下村は、黙ってフロストの眼を見つめていた。そしてノーマンが吠える。

「このクソヤローが ! 今度は俺が相手になってやる !! 」








だがフロストは、今にも飛び掛かりそうなノーマンの肩を抑え、静かに言った。

「やめとけよノーマン」


次には、下村を睨み付ける。

「今度はサーキットで勝負だ。テメェ逃げんじゃねぇぞ。いいか、ステゴロの時のようにいくと思うな。レースじゃあ、再起不能になるまで、徹底的に叩きのめしてやる」

さっきまでの冷たい瞳が、今度は鋭い眼光で、ギラギラと燃え出していた。








下村は思わず嬉しくなる。 『 ここは本当に面白い街だ 』 心からそう思った。

「はっは。いいぜ。ケリを付けよう」






彼は“ニヤリ”と不敵に微笑み、2人を押し除け、バーの外に出ていった。
そしてギブソンがリクエストした、レニー・クラビィッツのクールな名曲は、嵐と共にその役目を終えた。











          26



バーの外に出た下村は “ ふぅ ” と一息つく。この緊張感がとても心地よかった。それから、ヘルメットを被ろうとした時、後から着いてきた成海が、青い顔をして言ってきた。


「ちょっと何なの下村さん !? こんな夜中にツーリング行こう、なんて言い出したかと思えば、いきなり宣戦布告って、どういうこと !? 冷汗かいたじゃない! 生きて帰れないかと思ったわよ !! 」

「成海ちゃん…」

岩野は言葉を失っていた。




「はっは、ワリィワリィ。でもよう、一つ良いこと思いついたぜ」

岩野と成海は、顔をしかめながら首を傾げる。




「せっかくココまで来たんだから、このまま函館まで行って、イカ飯でも食おうぜ ! 奢るからよぉ♪」

「はぁ~?函館ぇ~!?ここから何Kmあると思ってんのよぉ~」

「成海ちゃん…」

「はっは。早く用意しろよ ! 置いていくぜぇ~(笑)」

「ちょ ! マジで言ってんの !? 」





そう言いかけた成海の声は、Z1000Mk2が奏でる、猛獣のようなエキゾーストノートに掻き消された。そして下村は、フロントホイールを天高く突き上げ、荒々しく走り出す。








「成海ちゃん、もう行くしかないッスよ」

岩野もDR-Z400改450SMヨシムラ仕様を、素早く発進させる。








「もぉ~マジなのかよ !? ちょっと待ってよぉ !! 」

それから、3眼ライトのKX500は、闇をつんざく2ストの炸裂音を残し、離陸しそうな勢いで、ストリートを走り去る。











それは、あっという間の出来事であった。時間にしてみたら、一つのロックなサウンドが終わる、5分程度であったが、その場に残された、ポカーンと呆けた表情の “ 田代 ” にしてみたら、永遠に終わらない、遥かなる5分間に感じていたことだろう。

田代は途中、拉致されるように、この場にまで案内をさせられ、おおよそ経験したことのない、一触即発、極度のプレッシャーに晒され続けたのだ。
解放された途端、緊張の糸がブッツリと音を立て切れた。夢か幻か。田代は、ただただ、その3人を、ポカーンと見送るしか出来なかったのである。










つづく






Posted at 2018/07/23 21:27:42 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用

プロフィール

「91時限目 第2弾!カントク冒険隊! 神の湯へ http://cvw.jp/b/381698/45694253/
何シテル?   12/11 14:56
☆Youtubeで動画投稿してます。  「カントクの時間」です。よろしければ寄って行って下さい。 https://www.youtube.com/chann...
みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2018/7 >>

123456 7
891011 121314
15161718192021
22 232425262728
293031    

リンク・クリップ

Z乗りさんのホンダ CRM80 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2020/05/23 23:46:46
インチアップ話の続き 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2020/05/17 15:25:11
チョットここで、アーカイブ~♪ 10  もう二度と見られない此の光景・・・ 2 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2019/03/05 19:01:18

愛車一覧

ヤマハ セロー225W MOTARO 241K レプリカ (ヤマハ セロー225W)
二代目の 93年式 ヤマハ・セロー225W 2020.6 .6 納車。 ただいま 「 ...
マツダ ボンゴフレンディ タートル號二世 (マツダ ボンゴフレンディ)
2019年7月納車 命名: ドン亀 ” タートル號二世 ” キャンプに車中泊、さら ...
トヨタ ラッシュ トヨタ ラッシュ
2021年6月、実父他界により遺品として当方が引き取る。 親父のメインカーはZEROクラ ...
スズキ ジムニー 神威號 (スズキ ジムニー)
当方の狩猟道! あらゆる願いを込め 「神威號」 と命名する! こだわりの4型ワイルド ...
ヘルプ利用規約サイトマップ
© LY Corporation